蓮の呼び声

こま

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【本編後】蓮が咲いたら

生きとし生けるものどもよ 1

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 土器地区、代赭の町。奇しくもそこでこの地の巫女、澄詞の集まりがあるという。添花は道場からの手紙を持って、彼女らの話し合いが終わるのを待った。
 竜は棲息していないのだが、太古の昔にいたと思しき巨竜の骨が発掘された。以来、ここは竜を神として祀り、神の声を聴く巫女の占いを政に取り入れる。といっても最近は、都合よく解釈されたり名前の権威だけ使われたりと、形骸化した澄詞もいるらしい。前に見送った魂に聞いた事だ。
 じっとしているのも暇なので、添花は少し散策する。己の無力に絶望した澄詞が、自ら命を絶った町。彼女は未練も含めて記憶をなくし、隣町に魂だけで漂っていた。添花が生家を探し、神に捧げた幼名を思い出させた。肩書きに縛られた人生だったけれど、最後に己を取り戻して成仏したのだ。そう、あの霊廟の中で。
 一般人が立ち入れる場所ではない。添花は誰でも行ける霊廟前の広場まで行って、手を合わせた。今は髪が伸びたけれど、纏めているので日差しは結局うなじにしみる。
 あのときから代赭の澄詞を務める人と、再び顔を合わせるのだけは気まずい。ちょっと強引に事情を押し通して、霊がいる廟に入らせてもらったのだ。
「まあ、今回は仕事だからね」
 ため息混じりにこぼしつつ、墓守の墓はどこにあるのかと考える。他の地区と同じく共同墓地だろうか。仕事のついでに誰かに聞こう。
 澄詞達が話し合っているのは、地区全体の政についてだ。占いの結果をもとに、農作の見込みを共有することもある。どこかの町が凶作なら、余裕のある町が支援する。通年暑い土地だが緩やかな四季はあるので、四半期ごとの集まりだそうだ。
 幽霊騒ぎや怪異についての相談は、霊的な力の高い者が多いこの地区に集まる。特に後者は白緑龍道場も扱いきれない案件だ。
「しかし、蓮橋からその手のご相談とは珍しい。帯章をお持ちなら、かなり腕が立つのでしょう。我が地区でお役に立てますかな」
 澄詞の解散待ちをする人は決まった建物で待機する。そこを見張る墓守のひとりが添花に話しかけてきた。うろ覚えだが、件の澄詞の霊に関わった時に顔を合わせたかもしれない。だとしたら、見えることは隠さなくていいか。
「生身の人間や猛獣なら太刀打ちできますが、相手が悪いとね。目だけあっても勝てませんので」
「そう、目。その目に覚えがあったんだ。ここの先代を……見送った時。あなたは彼女のために走りまわっていましたね」
「あ、覚えてましたか。これはちょっと気まずい」
 添花が苦笑いするのも当然だ。澄詞の霊を成仏させる過程でちょっと強引に胸ぐらを掴むなどして、上司にあれこれ掛け合ってもらった墓守ではないか。顔をうろ覚えなのが申し訳ない程度には迷惑をかけた。
「今更ですが、すみませんでした。心残りがあるままで、強引に逝ってしまおうとしているかと思うと焦って」
「いいえ。あのような魂の見送り方は初めて見ました。生者に取り憑くことのないよう、無理にでも送り出すのが正しいと思っていましたが……あれから土器地区の考え方が変わってきた」
「地区全体で?」
 各地で問題ばかり起こしている気がする。険しい顔をする添花に、墓守は微笑む。
「澄詞は竜神の声を聞き、語るための口とされてきました。それが名誉なことだと。しかし、彼女らも役目を担った人なんですよね。喜怒哀楽の心を持って生きるひとりとして、墓守や町人と関われる形を模索し始めました。あなたと先代、彩明様がきっかけです」
 霊廟を中心とした町の警備や治安を担う墓守は、澄詞との関わりが深い。澄詞が人と同列に見なされないもどかしさを共有してきた。役目の孤独が癒やされていくなら、墓守の葛藤も楽になるかもしれない。先代の件では少し怖い思いもしたが、この墓守は添花に礼を言いたい。
「感謝しています。実は、澄詞に寄り添って心を痛める墓守は珍しくない。先代にもそういう人がいたから、きっと浮かばれるでしょう」
 そうだ。代赭の墓守はつまり、彩明を看取った墓守の同僚だ。偶然というより必然なので、添花は簡潔に聞いてしまうことにする。
「その人、規白って名前ですよね。お墓はどこにあります?」
「そうか、彼の噂を聞いてこの町にたどり着いたんでしたね。位の高い墓守は、霊廟まわりの墓に入ります。宝物横流しは濡れ衣と調べがついたので、規白はそこにいる。良ければ、あとで案内しますが……意外と律儀な方なんですね」
「手を合わせたい事情があるだけです。私もいつも破落戸みたいな人間ってわけじゃないですし」
 先代澄詞が霊として漂ったことを墓守が伏せたように、添花が今言う事情も伏せた方が良さそうなことだ。墓守は詳細が気になったが、規白を参る時に聞ければよしと頷く。そろそろ、澄詞達の話し合いが終わる。
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