蓮の呼び声

こま

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【本編後】蓮が咲いたら

世間は狭く縁は深い

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 白緑龍道場に手紙が届いた。差出人が青藍龍道場の場合、最近は飛竜便でなく門下生が歩いて届けに来ていたのだが。時間が掛かってもそうしていたのは、両道場が関係を良くしたいと主張するためであった。そろそろ情報交換の速度を重視したいということだろうか。
「おやまあ。あの子は人を驚かせないと気が済まないのでしょうか」
 手紙を読んだ大師範は、ちょうど近くにいた師範にも内容を話す。近く、添花が白緑龍を訪れる予定だったが、最近の案件で怪我をしたため、大事をとって延期したいそうだ。
「退魔士と組んで怪異退治とは……青藍龍も随分と変わりましたな」
「霊感持ちが生きにくい場所でしたものね。昔から蓮橋出身のそういう者が、稀にここへ転がり込んで来ていた。あるがまま故郷で生きられるならば、きっと良いことです」
 魂の研究が少し止まるが、もとより長期的に見るつもりでいる。交換勉強会を青と緑で行うなら、はじめは必ず添花が来る。特に慌てる必要はない。
「惜しいとすれば、赤と青の交換勉強会が先ということですな。発案者が赤の青年、それも出身が蓮橋となれば仕方ないですが」
「我々が機を見てばかりだった所、若者に先を越されただけのことです。しかし青から緑への提案も悪くなさそうですよ。霊能者が多いこの道場と、土器地区の町を結びつけてくれるそうです」
 心霊現象や怪異の対処依頼は、白緑龍にも入る。ただ立地の面で他所との行き来がしづらいため、連絡は飛竜便を頼る。例えば他の地区に数名を常駐できるようになれば、岩龍地区の収入源にもなるのだ。頭数があるし、添花が行動できる範囲とずらせばいい。
「時代が動くときを生きるのは、楽しいものですねぇ」
 大師範は若い頃、うわべだけの和解で三大龍派などと大層な名乗りをあげる道場に疑問を抱いていた。初心にかえって凝り固まった関係をぶち壊す機会、はかどる研究、楽しいことずくめだ。
 一方で、話を聞いた師範はある門下生を気の毒に思う。彼はこの前まで「添花が早く来ないかな」とぼやいていた。交換勉強会についてはここの門下生にも周知しているし、新たに退魔士と共闘する検討にも入る。多少は情報を耳に入れてやっても良さそうだ。
「宍戸、交換勉強会の参加はどうする? 添花は怪我したとかで、その時までこっちに来られないらしいぞ」
「春先まで? すげえ大怪我じゃないですか」
「いや、赤と青の勉強会もあるからな。それが終わってから来るとなると、そこまでずらしたほうが効率がいいだろう」
「師範、人が悪いですよ。わざと脅かしたでしょ……あいつが元気ならいいですけど」
 案外あっさりしているので、師範もこれ以上は添花のことでからかわない。どうやら宍戸は吹っ切れたようだ。土器地区との連携に話が及ぶと、自分の他にも興味を持つ者がいそうだと頷く。
「これも勉強会も、大所帯でやりとりするのは難しいから人数が限られる。皆で遠出の取り合いだな」
 岩龍地区と他地区を足で出入りすることはあまりなく、飛竜便が主なつながりだ。ゆくゆくその拠点もここに出来れば、もっと他所との連絡が早くなる。古参の師範や研究者が渋い顔をしても、今の大師範は勝手にシワを増やしていろと笑うだろう。
 地区の外に興味はあるので、宍戸はどの遠出に参加しようか考える。添花の故郷に行ってみて、例えば男の影でも見えたら嫉妬してしまうだろうか。せっかく気持ちにケリがついたのに、変に揺らぐのは格好が悪い。小型の飛竜が飛び交う山も面白そうだし、討伐された杼竜とやらのことも詳しく聞きたい。いやいや、それより。
 結果として宍戸が参加を勝ち取ったのは、土器地区の代赭で退魔士と交流する旅だ。岩龍地区から最も遠いし、参加できる者が霊感持ちに限られたので立候補も少なかった。
「へえ、白緑龍の武器は針なのか。でも岩龍地区ってかなり大きい龍がいるんだろ? 針で何とかなるのか」
「ああ、調査研究のためには傷付けたくないからさ。針に気功を纏わせて動きを止めるって使い方をする」
「気功。青藍龍のやつと組んだことあるけど、結構な破壊力だったな」
 代赭に、他の町からも数名の退魔士が集まっている。宍戸と話しているのは橙狐だ。彼が添花と共に怪異退治をしたと察したが、今はそこに言及しない。
「目的を離れて人に針気功を向けるのは御法度なんだ。巨竜の動きを止めるようなもん、人には致死の毒だからな。青藍龍もそれは同じなんじゃないか」
「害獣なんかから人の暮らしを守るための力だから、人に向けるなら加減するのが鉄則って言ってたよ。あの怪異に傷はつかないみたいだったけど、見事に吹っ飛ばした……針も、やつらの動き止められるのかな」
 橙狐が自分の耳の近くに手をやる動作を見て、宍戸は変わった癖だと思う。そこにあるテンの尻尾が見えないのだ。集中すれば虚空に何かの気配を感じる。なるほど、ふたりの力はかなり違う。
「気功が有効なのか、霊感が強いやつがやるから有効なのか。やっぱ添花の霊感って強いの?」
 気になってきて聞いてしまった。たぶん、彼女の怪我は怪異退治が原因。しばらく会っていない友人の近況が知りたいくらい、当たり前だ。
「添花の友達だったのか! 悪い、組んだ時あいつ怪我しちまったんだ。野生の霊能者にしちゃ整った強い力があるけど、初めて怪異退治するにはでかすぎる相手で……命に別状なくて本当に良かったよ」
「やるって決めたら曲げねぇから。謝っても、自己責任だ~とか言いそう。あと、何? 霊能者に野生とかあるのか」
「他所って土器地区みたいに学べる環境が少ないだろ。独学でやってる人を呼ぶ時の通称みたいな感じ。でも添花がする除霊は霊能力じゃねえな」
 橙狐はその場を見たわけではないが、本人や翔雲から話を聞いている。霊を見る、触れることには力が必要だが、未練を何とかして自然な成仏を促す。土器地区の者に言わせれば、あれは除霊ではないのだ。
 目の前の渋い顔を、岩龍地区の墓地での光景に重ねる。松成はあそこに来るまでにどんな道を通り、何を見たのだろう。添花と宍戸との会話が最後のわだかまりを溶かした。いつもの添花は、もっと霊を助けて成仏までを見守るのだと想像がつく。
「くそ真面目ってか、お人好しってか……知人を見送るなら、そういう風にしたいのは分かるよ。他人にもそうなんだな。今のあいつらしい」
 橙狐が見た添花は宍戸が知らない顔。宍戸が知る魂割れの過去を、添花は橙狐には伏せたようだ。ただ、なんとなく自分達と彼女の距離感は似ているように感じる。
「何だよ皮肉そうに笑って。もしや、添花の元恋人だったり?」
「しねえよ、一歩手前だった。今はほとんど……男友達だな」
「あ、それわかる。強えし男の影が見えないし」
 思わぬところで意気投合。せっかく出来た繋がりだから、宍戸はこれからも交流に参加して学ぼうと思う。霊に関わるのも退魔を手伝うのもやる気がある。少し見えるだけで足りないなら、力を伸ばす方法も教わりたい。やれるだけをやってみたら、松成の思い出も昇華する日が来るだろう。
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