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【本編後】蓮が咲いたら
勉強会の食卓で 1
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年が明けて、空気が乾燥する冬のうちに道場の交換勉強会が開かれる。ふたり乗れる大きめの飛竜から、同乗してきた看人や門下生が降りた。ひとり乗りの飛竜と彼らが蓮橋に残り、あとは空いた背に青藍龍の門下生を乗せて竜鱗に戻る。試験的に開催する三泊四日、移動は手早く済ませたい。これが上手くいけば、二道場を人が行き来する定番のやり方になりそうだ。
「ようこそ、蓮橋へ」
両道場に繋がりのある紅龍や、顔の知れている添花が皆を迎えて道案内する。前に立って歩くだけなので、雄人は早速ちょっかいを出しに行く。
「どうだよ紅龍、こっちではモテてるのかよ~」
「紅蓮の方がモテてるよ、この辺は地走り竜しかいないから……あ、見えてきた。竜舎あそこな」
木製の竜舎は道場のそばに作ってある。池のほとりにあって地面が広いし、竜使いが泊まるのも道場だからだ。
看人達は道場と隣接する病院で情報交換をするので、荷物を置いたら案内は一旦分かれる。
「怪我をしたって聞いたわ、もうすっかり良いの?」
引っ込み思案な深好でも、こういうことになると積極的に話しかける。添花は少し左のあばらをさすってから頷いた。
「うん。もう大声出しても響かないし、何よりしっかり食べられるから快適。ちょっと体は鈍っちゃったけどね」
勉強会に参加するのも、近場の小さな依頼を受け持つのも勘を戻すためのことだ。春頃には遠い白緑龍道場に門下生を連れて行く役割がある。
添花は忙しそうだし、病院にはすぐ着いた。深好は添花の髪が元通り短いと気付いたが、話題にのぼせる前に別れることになる。
看人達はこれから蓮橋に多い病や治療法を学び、竜鱗で行われる飛竜の診療なども説明する。到着日は日没まであと少しだったので、日程の確認やそれぞれの自己紹介でお開きとなった。
解散の流れに乗って宿泊場所に行こうとしたら、深好は蓮橋の医師に呼び止められる。
「君は、添花と既知の仲なのかな」
「あ、はい。彼女は何度か竜鱗に来ていますので、その時に」
「そうか、そうか。いやぁ、よかった。あの子が歳近い友人と話している姿が珍しいものでね……」
目を細める表情は、祖父か父かという慈しみと切なげな色を見せた。町の医療を引き受けているからには、住人の様々な事情に詳しいのだろう。
「少々、真っ直ぐ過ぎるというか。誤解されることもあって、女性同士の付き合いが苦手なようだ。時々的外れなことを言うかもしれないが、良い子なんだよ。どうかこれからも仲良くしておくれ」
「ええ、もちろん。食いしん坊で可愛いお友達です」
添花は真っ直ぐで失敗することもあるのだろうが、あれは間違いなく彼女の魅力だ。医師にも沢山の感謝を伝えてきたし、伝わっている。愛されている。やっぱり素敵な人だ。
医師と別れ宿泊場所へと歩きながら、この前まであった「ずるい」という感情が薄れていることに気付く。添花の可愛い所をもっと知る紅龍を、羨ましいとさえ思う。
(困るような、嬉しいような。私は添花を好きになる程、紅龍くんへの気持ちを忘れていくの? 忘れたかったんだから……いいはずなのに。少し寂しい)
行き場のなくなる感情は、どこに収まるのだろう。学びの合間にふと気が抜けると、胸の内に木枯らしが吹いた。
「ようこそ、蓮橋へ」
両道場に繋がりのある紅龍や、顔の知れている添花が皆を迎えて道案内する。前に立って歩くだけなので、雄人は早速ちょっかいを出しに行く。
「どうだよ紅龍、こっちではモテてるのかよ~」
「紅蓮の方がモテてるよ、この辺は地走り竜しかいないから……あ、見えてきた。竜舎あそこな」
木製の竜舎は道場のそばに作ってある。池のほとりにあって地面が広いし、竜使いが泊まるのも道場だからだ。
看人達は道場と隣接する病院で情報交換をするので、荷物を置いたら案内は一旦分かれる。
「怪我をしたって聞いたわ、もうすっかり良いの?」
引っ込み思案な深好でも、こういうことになると積極的に話しかける。添花は少し左のあばらをさすってから頷いた。
「うん。もう大声出しても響かないし、何よりしっかり食べられるから快適。ちょっと体は鈍っちゃったけどね」
勉強会に参加するのも、近場の小さな依頼を受け持つのも勘を戻すためのことだ。春頃には遠い白緑龍道場に門下生を連れて行く役割がある。
添花は忙しそうだし、病院にはすぐ着いた。深好は添花の髪が元通り短いと気付いたが、話題にのぼせる前に別れることになる。
看人達はこれから蓮橋に多い病や治療法を学び、竜鱗で行われる飛竜の診療なども説明する。到着日は日没まであと少しだったので、日程の確認やそれぞれの自己紹介でお開きとなった。
解散の流れに乗って宿泊場所に行こうとしたら、深好は蓮橋の医師に呼び止められる。
「君は、添花と既知の仲なのかな」
「あ、はい。彼女は何度か竜鱗に来ていますので、その時に」
「そうか、そうか。いやぁ、よかった。あの子が歳近い友人と話している姿が珍しいものでね……」
目を細める表情は、祖父か父かという慈しみと切なげな色を見せた。町の医療を引き受けているからには、住人の様々な事情に詳しいのだろう。
「少々、真っ直ぐ過ぎるというか。誤解されることもあって、女性同士の付き合いが苦手なようだ。時々的外れなことを言うかもしれないが、良い子なんだよ。どうかこれからも仲良くしておくれ」
「ええ、もちろん。食いしん坊で可愛いお友達です」
添花は真っ直ぐで失敗することもあるのだろうが、あれは間違いなく彼女の魅力だ。医師にも沢山の感謝を伝えてきたし、伝わっている。愛されている。やっぱり素敵な人だ。
医師と別れ宿泊場所へと歩きながら、この前まであった「ずるい」という感情が薄れていることに気付く。添花の可愛い所をもっと知る紅龍を、羨ましいとさえ思う。
(困るような、嬉しいような。私は添花を好きになる程、紅龍くんへの気持ちを忘れていくの? 忘れたかったんだから……いいはずなのに。少し寂しい)
行き場のなくなる感情は、どこに収まるのだろう。学びの合間にふと気が抜けると、胸の内に木枯らしが吹いた。
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