片隅の二人

空木葉

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ベース、一人

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リードから口を離し、机のスマホを睨む。
(せっかく考えてくれたのに、1個も読まないのはなー)
反射的にスマホに伸びた手が、けいれんを起こしたように途中で止まる。
(あー)
心の中でうなる。
(でも無理やり読んでも、頭痛くなんだよなー)
伸ばしていた手をオーボエに戻し、リードに口をつける。
メトロノームのテンポに合わせ、譜面の音符をなぞる。
オーボエの伸びやかな音色が渡り廊下に広がる。
「しょぼくれた音っすねー」
その声に角野は楽譜から、視線を上げた。
「星」
およそ二週間ぶりに見たオーボエパートの一年生の姿に、目を丸くする。
肩からベースを下げた星は、近くの机に寄りかかり
「そんなんで、夏の大会に間に合うんすかー」
とベースの弦をいじっている。
「お前の方はどうなんだよ。最近、全然来ねーじゃねえか」
「だって個人練習ばっかりじゃないですか。俺は合奏がしたくて吹奏楽部に入ったのに」
星がちょっとすねたように、角野を見る。
「パート練習だってしないし」
「しょうがないだろ、俺は初心者なんだから」
角野は苦く笑う。
一年の終わりごろからオーボエを始めた角野は、まだ譜面通りに音を出すことで精一杯だ。
中学三年間オーボエを吹いてきた星には、とても届かない。
「集中してない練習なんて、時間の無駄っすよ」
そう言いながら星は机からずり落ちるように、床に座り込んだ。
「ということで、頼れる後輩が悩みを聞いてあげます」
とベースの弦を抑えながら言う。
「お前、暇なだけだろ」
と角野が呆れると、星が素直にうなずく。
「はい、バンドが解散しちゃって」
「解散!マジで⁉」
角野が思わず、星を振り返る。星はまたすねたような顔で、
「なーんか嫌いになっちゃったみたいで」
と呟いた。
「誰が何をだよ」
「さあ」
星が無関心そうにベースを見下ろすので、角野は少し心配になった。
オーボエを机の上に置くと、ケンケン歩きで星に近づき、近くに座る。
近くにあるガラスケースのホルマリンの匂いがした。
「お前はそれでいいのかよ」
「えー」
星がけだるげに角野を見る。
「まあ、嫌は嫌っすけど」
とつまらなそうに、弦をいじる。
「でも、音がバラバラなのに一緒にやってもしょうがないっすから。ほら、堀と大城もそうでしょ」
星がフルートを構えるように、両手を顔の右側に上げた。
その言葉に角野が眉をよせた後、大きくため息をついた。
「合わないやつとも楽しくやれるのが、音楽だと思うんだけどなー」
とオーボエを見つめる。
「どいつもこいつも細かいことを気にしすぎるんすよ。音楽やるときぐらい、頭を空っぽにしないと」
と言うと、星が突然立ち上がった。
「ということで、なんか弾いてきます」
と告げると返事待たずに、さっさと廊下を渡っていく。
遠ざかる背中に、ゆるく手を振る。
「またなー」
その背中が見えなくなってから、角野はゆっくり立ち上がった。
ケンケンでゆっくり椅子へ戻ると、フーと大きく深呼吸をする。
星と話したおかげか、肩が少しほぐれた気がした。
気合を入れなおして、オーボエを構える。
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