生贄は、神殺しの野獣に神官を騙る

空木葉

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神と生贄

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扉が開く音がして、私の意識は浮上した。
ひんやりと心地よい風が、私の頬をなぞる。
日光が瞼越しでも、眩しい。
瞼を開くと、箱に囲まれた視界から船の天井の骨組みが見える。
船は僅かにしか揺れていない。
もう目的地に着いたのだろうか。
すると私はもうじき食べられるのだろうか。
空気を吸い込むと頭がすっと冷えて、意識が冴えた。
私は敢えて、ゆっくり体を起こした。
箱の中で立ち上がり、箱の外へ足を踏み出す。
小さな船の端に行くと、一面の水面が船の外に広がっていた。
滝があり、川があり、湖がある。
その隙間に小さな島と、水に浮かぶ遺跡が点在している。
白い遺跡は足場と柱しかなく、そこに生活の空気は感じられない。
それどころか日に照らされている空間のどこを探しても、家も家具も道具の一つさえ見つからない。
(人が暮す場所じゃないんだ)
しかし寂しげな印象は全くない。
穏やかな水面には水鳥が浮かび、浅瀬では脚の長い鳥が食べ物を探して足元をつついている。
流れが穏やかな場所では水生植物が繁茂し、カエルが跳ねる。
透き通った水面を覗き込むと、そこには生命がひしめいていた。
巨大な魚の一部が、湖藻の隙間から見え隠れしている。
船の下を小魚の大群が泳ぎ、そのうろこが光った。
(楽園だ)
そんな実感が湧いた。
それと同時に何故聖域の立ち入りが禁止されているか分かった。
ここは人間にふさわしい場所ではない。
私が仕水の当主でも同じことをしただろう。
ぱしゃりと軽い水音がして、そちらの方を見る。
「ようこそ、私の庭へ」
長い髪を泉に浸からせた誰かが、私を見てほほ笑んだ。
「私は玲泉」
この国の神が私に笑いかけている。
幼い頃の想像より、ずっと優しい笑顔で。
「貴方の名前は?」
「私は」
私の声がかすかに震える。
「私は浅葱あさぎです」
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