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第一章 呪われた男
8. 訓練場での一幕
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それからの生活に特別なことは何もなかった。異世界で生きていく事自体が特別であることは別にして、生活自体に大きな変化はない。
基礎体力の向上は引き続き行われ、座学としての魔法を一通り学び終えた颯空達が、実際に魔法を使うレベルに移行した。その中で'賢者'のギフトを授かった小鳥遊すずが頭一つ抜き出ており、それに継いで'聖騎士'の藤ヶ谷澪、'聖女'の北村穂乃果、'勇者'の四王天翔がその才能を発揮した。その他はどんぐりの背比べ。とはいえ、自分の適性に合った魔法であれば順当に習得していった。闇属性が適正であるとされた御子柴颯空を除いて。
実技に関しては剣一筋のフリードと異なり、あらゆる武器に精通しているガイアスはクラスメートがそれぞれ持つ特性を見極めていった。そのため訓練場には剣だけではなく、弓や斧の訓練を行うようになった。颯空も他の武器ならば、と様々な武器を試していたが、どれも似たり寄ったりの結果であり、クラスメートたちが訓練用とはいえ本物の武器で訓練する中、一人訓練場の隅っこで木剣による素振りを淡々とこなしていた。
そんな颯空に周りの連中が侮蔑の目を向けるのにそう時間はかからなかった。とはいえ、できる事はなにもない。理不尽な視線を受けながら黙々と木の剣を振り続けることしか颯空にはできなかった。
そんな代わり映えのない日々を過ごしていた颯空達であったが、事態が動き出したのはこちらに来ておよそ三ヶ月。異世界の生活に少しずつ慣れ始めた頃の事だった。
「『恵みの森』への視察?」
「あぁそうだ」
眉をひそめながら尋ねる翔にガイアスははっきりとうなずく。
いつものように午後の実戦訓練を終えた颯空達は、大事な話がある、とガイアスに集められその話を聞いていた。
ガイアスの話はこうだ。
アレクサンドリアが比較的豊かな国である理由は、王都のそばに流れているメチル川の賜物である。
この川は飲み水や生活用水に利用されており、アレクサンドリア国民とは切っても切り離すことができない川であった。そのメチル川の下流に位置する肥沃な土地こそがフェルティリーダの森、通称『恵みの森』と呼ばれる場所だった。
アレクサンドリア王都の南部に位置する広大なこの森もメチル川の恩恵を一身に受けていた。食料が豊富にあり、新鮮な水場もある。更に外敵から身を隠すことができる木々もあることから、野生動物やそれを狙う魔物も数多く生息しているらしい。そんな『恵みの森』に颯空達が視察へ行くことになった理由は、市民の訴えによるものであった。
「どうやら、『恵みの森』で異変が起きているようなのだ」
その訴えは今まで森の奥地にしか生息していないはずだった魔物が、森の入り口付近にまでその姿を現しているというものであった。いくら魔法があるといっても一般市民に魔物を討伐する力はない。通常は冒険者がこなす依頼ではあるのだが、この手のものは身売りが少なく、リスクだけが高いと言う事で冒険者達が二の足を踏むものであった。このままでは『恵みの森』の変調によってアレクサンドリア市民の生活に悪影響を及ぼす可能性が高いため、その訴えを聞き入れ、騎士団が調査に乗り出すことが決定したのだ。
「我々だけでもいいのだが、君達も同行させることになった。君達もこの短期間でかなりの力をつけてきている。そろそろ実際に魔物と戦う段階に移行してもいい頃合いだろう」
ガイアスの言葉を受け、生徒達の間に緊張が走る。ついに訪れる魔物との実践。覚悟はしていたのだが、いざそれをやることが決定すれば、体が強張るのは無理もないことだった。
「市民に危機が迫っているなら断る理由はないよね」
クラスメートを見ながら翔が力強く言い放つ。最近魔法も剣術もめきめきと腕を上げている翔だったが、正義感の方も順調に成長していた。
「でも、ちょっと怖いかもぉ……」
「そうね。一歩間違えれば魔物の餌になりかねないものね」
元気はつらつを絵にかいたような少女、七瀬さくらが不安そうに言うと、親友である冴島玲香が淡々と残酷な現実をつきつける。その言葉にさくらはぶるっとは体を震わせた。
「森に行くなんて嫌に決まってるでしょ! 体は汚れるし、虫だっているだろうし、全力でお断りよ!」
発狂しそうな勢いで茶色い髪を盛りに盛った渡会千里が苦言を呈す。現代のギャル代表である彼女にとって、森に行くことに何のメリットも感じられなかった。
「安心して、チサトさん。君が汚れないように僕がしっかりと守るから」
フリードは白い歯を向けると、千里は顔を高潮させながら「フリード様がいるなら……」とうわ言のように呟く。イケメンにすこぶる弱い学校一のギャルは扱いやすさも学校一である。
「私達には魔物退治はちょっと厳しいかな……」
「確かに……訓練についていくだけでも必至だし」
「魔物と戦える気がしない」
非戦闘系のギフトを授かった面々からは弱気な発言が目立った。それを聞いた翔が、皆を安心させるような笑顔を作る。
「大丈夫だよ! 戦えない人も含めて、女子は僕がしっかり守り抜くからさ!」
「女子限定かよっ!!」
翔のとんでも発言に全力で突っ込みを入れる湊だったが、翔はニコニコと笑っているだけだった。その目は男なら自分で自分の身くらい守れ、と雄弁に語っている。そんな翔におさげ髪の図書委員、小川咲がぽーっとした表情で熱い視線を送っていた。
「あたいは暴れられれば何でもいいし、森に行くの自体には賛成だけど……」
女子の中でも一際ガタイも胸も大きい 月島葵が渋い顔でちらりと颯空の方を見る。それだけで何が言いたいのか、颯空は瞬時に理解できた。
「正直、足手まといを抱えながら上手く立ち回れるって思うほど馬鹿じゃないんだよね、あたいは」
「っ!! それって……!!」
「なよなよしている奴って嫌いなのよ」
あまりの言い草に反論しようとした北村穂乃果に対して、葵がぴしゃりと言い放つ。そんな彼女の言葉を聞いて、小動物という言葉がぴったりな永遠の葵信者、美作優奈が、それまで魔物にびくついていたというのに途端に元気になって話し始めた。
「葵お姉さまの言うとおりです! 足手まといのせいでうちらが怪我したら馬鹿みたいです! 特にそこの男子!」
優奈が葵の後ろに隠れながらビシッと颯空を指差す。
「剣も握れない、魔法も使えない、そんな男子はいらないのです!」
「……確かにあいつが一緒にいるってだけでテンションが下がっちまうな」
「その通りです! 玄田君もたまにはいいこと言います!」
玄田隆人の援護射撃に、優奈がサムズアップで応えた。
「他の非戦闘員は戦えないにしろ自衛くらいはできるからなぁ。それに比べて御子柴ははいるだけで害悪、邪魔でしかないっしょ」
「御子柴はいらない」
「お前の剣術見たら俺達笑い転げて魔物に殺されちまうよ」
ここぞとばかりに颯空をせめる玄田軍団。お調子者の馬淵健司にいたっては、ご丁寧に剣を構えながらふらふらとこける仕草までやってのける。
この場の空気が足手まといの颯空を連れて行くな、というものになりつつあった。何事にも無関心な氷室凪がちらりと颯空を盗み見る。その表情が普段と変わらずの『無』である事を確認すると、興味を失ったかのように視線を外した。
「いっそのこと、この国で一般人として暮らした方がいいんじゃね? 根暗なお前にはぴったりだろ?」
「それナイスアイデアです! 優奈と葵お姉さまの視界に入らないところで生きてくれるなら万々歳です!!」
「まぁ、別に生きてる必要なんてねーけどな」
「誰にも迷惑かからないよう、城の上からでも一人で飛び降りてくれねぇかな?」
「ちょっと! あなた達! いい加減に……!!」
「黙れ、屑ども」
悪口がヒートアップしていく隆人達を止めようと穂乃果が前に出るのと同時に、小さいながらも激しい怒気を孕んだ声が訓練場内に響き渡った。
吹き荒れる魔力の奔流。まさに台風の真っただ中にいるような暴風。
その中心に無表情で立っている小鳥遊すずを見て、それまで絶好調だったは優奈はひぃっ、と小さく悲鳴を上げて縮こまり、隆人達は冷や汗をかきながらその場でたじろぐ。
圧倒的な魔力量。そして、絶対的な怒り。すずの表情は氷のように冷たいが、隆人達に向ける視線はメラメラと燃えているようだった。彼女を見るクラスメートの表情には怯えが浮かび、翔や穂乃果ですら、普段物静かなすずがとった行動に戸惑いを隠せずにいた。
一触即発の状態の中、静かに颯空がすずの前に立つ。
「……小鳥遊が怒る必要なんてない」
小さな、しかしはっきりとした声で颯空が言った。じっと颯空の目を見つめるすず。その目を颯空が真正面から見据える。すると、すずの瞳の内に燃え上がっていた炎が消えていき、発せられた怒気は風船のようにしぼんでいった。
誰も言葉を発することができず、静寂に包まれる訓練場。今起こった事が信じられないといった様子のクラスメート達。そんな中、特に驚いた様子もない藤ヶ谷澪が前に出てきた。
「最初に言ったはずです、無理強いはやめて欲しいと。だから、こういう場合は本人の意思を聞くべきです」
「……自分の身は自分で守ります。足は引っ張りません」
澪に視線を向けられた颯空が、その視線には応えずに、ガイアスの方を見ながら言った。一瞬。寂しげな表情を見せた澪だったが、すぐに気を取り直しガイアスの方へと向き直る。
「御子柴君は行くみたいです。他に行きたくない人がいるようなら後で報告します」
「……あぁ、承知した」
なんとかこの場を丸く収めてくれた澪に感謝をしつつガイアスが答えた。まだ、納得しきれていない生徒の顔がちらほら見受けられるが、これ以上どうこう言おうとする者はいなかった。
「『恵みの森』には明朝日の出とともに発つ。各々必要なものを揃えておくように。それでは解散!」
ガイアスの号令を受け、生徒達がまばらに城へと戻っていく。その視線が自然と颯空とすずの方へと流れていくのは無理からぬことであった。
基礎体力の向上は引き続き行われ、座学としての魔法を一通り学び終えた颯空達が、実際に魔法を使うレベルに移行した。その中で'賢者'のギフトを授かった小鳥遊すずが頭一つ抜き出ており、それに継いで'聖騎士'の藤ヶ谷澪、'聖女'の北村穂乃果、'勇者'の四王天翔がその才能を発揮した。その他はどんぐりの背比べ。とはいえ、自分の適性に合った魔法であれば順当に習得していった。闇属性が適正であるとされた御子柴颯空を除いて。
実技に関しては剣一筋のフリードと異なり、あらゆる武器に精通しているガイアスはクラスメートがそれぞれ持つ特性を見極めていった。そのため訓練場には剣だけではなく、弓や斧の訓練を行うようになった。颯空も他の武器ならば、と様々な武器を試していたが、どれも似たり寄ったりの結果であり、クラスメートたちが訓練用とはいえ本物の武器で訓練する中、一人訓練場の隅っこで木剣による素振りを淡々とこなしていた。
そんな颯空に周りの連中が侮蔑の目を向けるのにそう時間はかからなかった。とはいえ、できる事はなにもない。理不尽な視線を受けながら黙々と木の剣を振り続けることしか颯空にはできなかった。
そんな代わり映えのない日々を過ごしていた颯空達であったが、事態が動き出したのはこちらに来ておよそ三ヶ月。異世界の生活に少しずつ慣れ始めた頃の事だった。
「『恵みの森』への視察?」
「あぁそうだ」
眉をひそめながら尋ねる翔にガイアスははっきりとうなずく。
いつものように午後の実戦訓練を終えた颯空達は、大事な話がある、とガイアスに集められその話を聞いていた。
ガイアスの話はこうだ。
アレクサンドリアが比較的豊かな国である理由は、王都のそばに流れているメチル川の賜物である。
この川は飲み水や生活用水に利用されており、アレクサンドリア国民とは切っても切り離すことができない川であった。そのメチル川の下流に位置する肥沃な土地こそがフェルティリーダの森、通称『恵みの森』と呼ばれる場所だった。
アレクサンドリア王都の南部に位置する広大なこの森もメチル川の恩恵を一身に受けていた。食料が豊富にあり、新鮮な水場もある。更に外敵から身を隠すことができる木々もあることから、野生動物やそれを狙う魔物も数多く生息しているらしい。そんな『恵みの森』に颯空達が視察へ行くことになった理由は、市民の訴えによるものであった。
「どうやら、『恵みの森』で異変が起きているようなのだ」
その訴えは今まで森の奥地にしか生息していないはずだった魔物が、森の入り口付近にまでその姿を現しているというものであった。いくら魔法があるといっても一般市民に魔物を討伐する力はない。通常は冒険者がこなす依頼ではあるのだが、この手のものは身売りが少なく、リスクだけが高いと言う事で冒険者達が二の足を踏むものであった。このままでは『恵みの森』の変調によってアレクサンドリア市民の生活に悪影響を及ぼす可能性が高いため、その訴えを聞き入れ、騎士団が調査に乗り出すことが決定したのだ。
「我々だけでもいいのだが、君達も同行させることになった。君達もこの短期間でかなりの力をつけてきている。そろそろ実際に魔物と戦う段階に移行してもいい頃合いだろう」
ガイアスの言葉を受け、生徒達の間に緊張が走る。ついに訪れる魔物との実践。覚悟はしていたのだが、いざそれをやることが決定すれば、体が強張るのは無理もないことだった。
「市民に危機が迫っているなら断る理由はないよね」
クラスメートを見ながら翔が力強く言い放つ。最近魔法も剣術もめきめきと腕を上げている翔だったが、正義感の方も順調に成長していた。
「でも、ちょっと怖いかもぉ……」
「そうね。一歩間違えれば魔物の餌になりかねないものね」
元気はつらつを絵にかいたような少女、七瀬さくらが不安そうに言うと、親友である冴島玲香が淡々と残酷な現実をつきつける。その言葉にさくらはぶるっとは体を震わせた。
「森に行くなんて嫌に決まってるでしょ! 体は汚れるし、虫だっているだろうし、全力でお断りよ!」
発狂しそうな勢いで茶色い髪を盛りに盛った渡会千里が苦言を呈す。現代のギャル代表である彼女にとって、森に行くことに何のメリットも感じられなかった。
「安心して、チサトさん。君が汚れないように僕がしっかりと守るから」
フリードは白い歯を向けると、千里は顔を高潮させながら「フリード様がいるなら……」とうわ言のように呟く。イケメンにすこぶる弱い学校一のギャルは扱いやすさも学校一である。
「私達には魔物退治はちょっと厳しいかな……」
「確かに……訓練についていくだけでも必至だし」
「魔物と戦える気がしない」
非戦闘系のギフトを授かった面々からは弱気な発言が目立った。それを聞いた翔が、皆を安心させるような笑顔を作る。
「大丈夫だよ! 戦えない人も含めて、女子は僕がしっかり守り抜くからさ!」
「女子限定かよっ!!」
翔のとんでも発言に全力で突っ込みを入れる湊だったが、翔はニコニコと笑っているだけだった。その目は男なら自分で自分の身くらい守れ、と雄弁に語っている。そんな翔におさげ髪の図書委員、小川咲がぽーっとした表情で熱い視線を送っていた。
「あたいは暴れられれば何でもいいし、森に行くの自体には賛成だけど……」
女子の中でも一際ガタイも胸も大きい 月島葵が渋い顔でちらりと颯空の方を見る。それだけで何が言いたいのか、颯空は瞬時に理解できた。
「正直、足手まといを抱えながら上手く立ち回れるって思うほど馬鹿じゃないんだよね、あたいは」
「っ!! それって……!!」
「なよなよしている奴って嫌いなのよ」
あまりの言い草に反論しようとした北村穂乃果に対して、葵がぴしゃりと言い放つ。そんな彼女の言葉を聞いて、小動物という言葉がぴったりな永遠の葵信者、美作優奈が、それまで魔物にびくついていたというのに途端に元気になって話し始めた。
「葵お姉さまの言うとおりです! 足手まといのせいでうちらが怪我したら馬鹿みたいです! 特にそこの男子!」
優奈が葵の後ろに隠れながらビシッと颯空を指差す。
「剣も握れない、魔法も使えない、そんな男子はいらないのです!」
「……確かにあいつが一緒にいるってだけでテンションが下がっちまうな」
「その通りです! 玄田君もたまにはいいこと言います!」
玄田隆人の援護射撃に、優奈がサムズアップで応えた。
「他の非戦闘員は戦えないにしろ自衛くらいはできるからなぁ。それに比べて御子柴ははいるだけで害悪、邪魔でしかないっしょ」
「御子柴はいらない」
「お前の剣術見たら俺達笑い転げて魔物に殺されちまうよ」
ここぞとばかりに颯空をせめる玄田軍団。お調子者の馬淵健司にいたっては、ご丁寧に剣を構えながらふらふらとこける仕草までやってのける。
この場の空気が足手まといの颯空を連れて行くな、というものになりつつあった。何事にも無関心な氷室凪がちらりと颯空を盗み見る。その表情が普段と変わらずの『無』である事を確認すると、興味を失ったかのように視線を外した。
「いっそのこと、この国で一般人として暮らした方がいいんじゃね? 根暗なお前にはぴったりだろ?」
「それナイスアイデアです! 優奈と葵お姉さまの視界に入らないところで生きてくれるなら万々歳です!!」
「まぁ、別に生きてる必要なんてねーけどな」
「誰にも迷惑かからないよう、城の上からでも一人で飛び降りてくれねぇかな?」
「ちょっと! あなた達! いい加減に……!!」
「黙れ、屑ども」
悪口がヒートアップしていく隆人達を止めようと穂乃果が前に出るのと同時に、小さいながらも激しい怒気を孕んだ声が訓練場内に響き渡った。
吹き荒れる魔力の奔流。まさに台風の真っただ中にいるような暴風。
その中心に無表情で立っている小鳥遊すずを見て、それまで絶好調だったは優奈はひぃっ、と小さく悲鳴を上げて縮こまり、隆人達は冷や汗をかきながらその場でたじろぐ。
圧倒的な魔力量。そして、絶対的な怒り。すずの表情は氷のように冷たいが、隆人達に向ける視線はメラメラと燃えているようだった。彼女を見るクラスメートの表情には怯えが浮かび、翔や穂乃果ですら、普段物静かなすずがとった行動に戸惑いを隠せずにいた。
一触即発の状態の中、静かに颯空がすずの前に立つ。
「……小鳥遊が怒る必要なんてない」
小さな、しかしはっきりとした声で颯空が言った。じっと颯空の目を見つめるすず。その目を颯空が真正面から見据える。すると、すずの瞳の内に燃え上がっていた炎が消えていき、発せられた怒気は風船のようにしぼんでいった。
誰も言葉を発することができず、静寂に包まれる訓練場。今起こった事が信じられないといった様子のクラスメート達。そんな中、特に驚いた様子もない藤ヶ谷澪が前に出てきた。
「最初に言ったはずです、無理強いはやめて欲しいと。だから、こういう場合は本人の意思を聞くべきです」
「……自分の身は自分で守ります。足は引っ張りません」
澪に視線を向けられた颯空が、その視線には応えずに、ガイアスの方を見ながら言った。一瞬。寂しげな表情を見せた澪だったが、すぐに気を取り直しガイアスの方へと向き直る。
「御子柴君は行くみたいです。他に行きたくない人がいるようなら後で報告します」
「……あぁ、承知した」
なんとかこの場を丸く収めてくれた澪に感謝をしつつガイアスが答えた。まだ、納得しきれていない生徒の顔がちらほら見受けられるが、これ以上どうこう言おうとする者はいなかった。
「『恵みの森』には明朝日の出とともに発つ。各々必要なものを揃えておくように。それでは解散!」
ガイアスの号令を受け、生徒達がまばらに城へと戻っていく。その視線が自然と颯空とすずの方へと流れていくのは無理からぬことであった。
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