異世界に召喚されたらなぜか呪われていた上にクラスメートにも殺されかけたので好き勝手生きることにしました

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第一章 呪われた男

18. 狂いだす歯車

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 五人が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。昼休みになったら自然と集まり、示し合わせたかのように登下校も一緒だった。授業の一環として行われるグループ作業も、クラスが違うすずを除いた四人でいつも行っており、それを聞いたすずが不機嫌そうに頬を膨らませるのが日常になっていた。

 そんな日々が続いていき、気が付けば颯空達は中学三年生になっていた。

 新学期の初日。いつものように五人で登校すると、クラス分けの表が貼ってある昇降口は人であふれかえっていた。なんとか人垣をかき分け、それぞれの新しいクラスを確認した。

「えぇ!! あたしだけ一人なんて最悪なんだけど!?」
「ボクが味わった孤独を味わうがいい」

 クラス表を見て落ち込む澪をみてすずがにやりと笑みを浮かべる。その態度にむっとした表情を浮かべた澪がすずの両頬をこれでもかと言わんばかりに引っ張った。負けじとすずも対抗する。いつも通りのじゃれあいを前に、颯空が呆れ顔でため息を吐いた。

「付き合ってられねぇな」
「そうだね。行こうか」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」

 二人を無視してさっさと昇降口の中へと入っていく颯空と凪の後を、彩萌が慌てて追いかける。今回のクラス分けでは颯空と彩萌、凪とすずが同じクラスになっていた。しばらく小競り合い続けていたすずと澪だったが、置いていかれたことに気がつき、互いにけん制しながら自分達の教室へと向かう。
 初クラスの顔合わせもそこそこに最低限の連絡事項だけ告げられたホームルームが終わった後、颯空と彩萌が昇降口で残りの三人を待っていた。

「どうやら私達のクラスの先生はあまりホームルームに時間を使わないタイプの先生みたいですね」
「当たりってことだな」

 ホームルームが始まって言われたことは『明日から授業が始まる。遅刻しないように。以上、解散』だけだった。生徒にしてみればこれほどありがたい事はない。

「あっ……」
「ん? どうした?」
「すいません、教室に忘れ物をしたみたいで、ちょっと取ってきます」
「あぁ、わかった」

 そう言うと大急ぎで彩萌が階段を上っていく。程なくして、ホームルームを終えたすずと凪がやってきた。

「彩萌が走っていったけど?」
「忘れ物を取りに戻った」
「澪は?」
「澪はB組だから」
「あぁ、B組の担任は話が長いで有名な先生だからね」

 すずの問いに颯空が答えると、どこか納得したような顔で凪が苦笑いを浮かべる。
 しばらく三人で他愛のない話をしていると、ようやく澪がこちらに走ってくるのが見えた。

「ごめん! 遅くなった! うちの担任本当に無駄な話が多い!」

 三人のもとにたどり着くや否や澪が手を合わせて謝ると、彩萌の姿がそこにないことに気が付く。

「あれ? 彩萌は?」
「忘れ物をとり行ったんだけど……やけに遅いな」
「様子を見てくる」

 すずが彩萌を探しに教室へ行こうとすると、ちょうどこちらに向かって歩いている彩萌の姿が目に入った。

「ずいぶん時間がかかったな」
「ご、ごめんなさい。探すのに手間取ってしまって……」

 彩萌がぎこちない笑みを向けてくる。明らかに様子のおかしい彼女に、颯空達が顔を見合わせた。

「何かあったの?」
「え? な、何もないですよ?」

 すずが心配そうに尋ねるが、彩萌両手をぶんぶんと左右に振って否定する。その態度を見る限り、忘れ物を取りに行った先で何かがあったのは確実だ。だが、本人が話したくない以上、無理に聞き出すような真似をしたくない。その日は、本当に大丈夫だから、という彩萌の言葉を信じて、四人は下校することにした。
 
 この時、無理にでも話を聞いていれば、あの悲劇を回避することができたのかもしれない。

 その日を境に、彩萌の態度は一変した。昼休みになるといそいそとどこかへ行ってしまい、颯空達と一緒にご飯を食べることはなくなった。同じクラスである颯空とは距離をとり、教室内で話しかけてくることもない。颯空が話しかけようとしても、忙しそうな素振りを見せ、どこかへと行ってしまう。登下校も何かと理由をつけて一緒にいる事を拒んだ。すずと澪がそれとなく聞いてもはぐらかすばかりで、彩萌が颯空達を避ける理由はわからなかった。

 そんな中、颯空はとある噂話を耳にする。

『飯島と白雪が昼休みに一緒にいる』

 飯島いいじま美奈みな。颯空と彩萌が出会うきっかけとなったいじめの主犯格。そんな美奈と彩萌が仲良く昼食を一緒にとっているという噂だ。
 流石にこれはおかしいということで、彩萌に真偽のほどを尋ねると「美奈さんとは最近仲良くなって……それでご飯を一緒に食べるようにしてるんです」と笑顔で答えた。
 こんな回答にすずが納得するはずもなく、美奈に直接聞きに行こうとすると彩萌が目に涙を止めながら必死で止めてきたので、これ以上颯空達にはどうすることもできなかった。

 そんなもやもやした状態が二ヵ月ほど続いたある日、ついに事件が起こった。

 授業を終えた颯空が下駄箱に降りていくと、自分の下駄箱の前でぼーっと立っている。教室ではあからさまに避けられ、最近話すこともめっきり少なくなってしまったため、チャンスとばかりに声をかける。

「彩萌、帰りか?」
「っ!!」

 颯空の声に驚いたのか、彩萌が勢いよく自分の靴箱の扉を閉めた。

「あ、さ、颯空君。どうかしたんですか?」

 挙動不審。今の彩萌にはその言葉がぴったりだった。颯空の視線が彩萌から彩萌の靴箱にすーっと移っていく。

「靴箱になんかあるのか?」
「えっ!? い、いやなんでもないですよ!! だ、だから気にしないで……えっ? ちょ、ちょっと!!」

 彩萌の静止に耳を貸さず、颯空は問答無用で靴箱を開ける。目に飛び込んできたのが異常な白さ。すぐにそれが乱暴にぶちまけられた牛乳だと気が付いた。

「こ、これは……違うんです! ド、ドッキリなんですよ! 私が牛乳好きだから、誰かがこっそりいれてくれたのですが、それが何かの手違いで破裂してしまったんだと思います!」

 必死に訴えかける彩萌の言葉は颯空の耳には届かない。聞こえるのは少し離れたところでくすくすと悪意に満ちた笑い声だけだった。颯空は無表情で靴箱を閉めると、その笑い声の主の前に立つ。

「……お前の仕業か? 飯島」

 感情を押し殺した声で颯空が問いかけた。美奈はつまらなさそうに颯空を一瞥すると、腕を組みながらそっぽを向いた。

「お前の仕業かって聞いてんだ。答えろよ」
「何の話をしているのかさっぱりだわ。私はあのド地味女の靴箱がド派手にデコレーションされている事が面白かっただけよ」

 心底馬鹿にしたような口調で美奈が告げる。そんな彼女を、颯空は何も言わずにただただ見つめた。その瞳には一切の光が宿っていない。颯空の少し後ろに立つ彩萌は、どうしたらいいのかわからず、不安げな表情で二人の顔を見る。

「……何よ? 言いたい事があるならはっきり言えばいいじゃない!」

 颯空の無言の圧力に苛立ちを覚えた美奈が言った。颯空はゆっくり息を吐きだすと、美奈の目をまっすぐに見据える。

「彩萌に関わるな」
「は、はぁ? なんであんたにそんな事言われなきゃ」
「関わるな」

 静かに燻る怒りの炎を多分に含んだ颯空の声音に、思わず美奈がたじろいだ。とはいえ、はいわかりました、と素直にいう事を聞くような玉ではない。

「……なにあんた、もしかしてこんな地味な女のことが好きなの? 趣味悪っ! きもいから消えてくんない?」

 美奈が口元に冷たい笑みを作り上げる。それが今の彼女に張る事のできる精一杯の虚勢であった。

「……そうだな」

 美奈の言葉を聞き、少しだけ間を置いた颯空がゆっくりと口を開いた。

「彩萌の事をどう思っているのかなんて答える義理はねぇけど、一つだけ教えておいてやる」
「な、なによ!?」
「お前の事は嫌いだ。吐き気がするほどにな」

 鋭い視線と共に放たれた言葉に、美奈は声を奪われる。

「つ、付き合ってらんないわっ!!」
「み、美奈さんっ!!」

 やっとの思いでそう言った美奈が颯空達に背を向け、どこかへと早足で歩いていった。その後を、彩萌が慌てて追いかける。

「……颯空」

 名前を呼ばれた颯空が振り返ると、いつの間にやら後ろにいた澪達が困惑した顔で自分を見ていた。

「……何があったの?」
「……彩萌の靴箱を見てみりゃわかる」

 少し早口で言うと、颯空は口を閉ざした。要領を得ない澪が言われた通り彩萌の靴箱を開けると、その悲惨な光景に驚き、両手で自分の口を覆う。

「なるほどね」

 その後ろから状況を確認した凪がぽつりと呟いた。すずは怒りに顔を歪めている。

「で? どうすんの?」
「……どうもしねぇよ」
「虫唾が走る思いなのはわかるよ。飯島さんだっけ? 正直な話、彼女の事なんて心底どうでもいい。俺が聞いてるのは彩萌の事さ」
「…………」

 淡々と紡がれる凪の言葉に、颯空は何も答えない。まさか自分にひどい事をした美奈を追いかけるとは思わなかった。彩萌の優しさにチクリと心が痛む。

「……悪い。少し頭を冷やしたいから今日は帰るわ」
「うん。わかったよ」

 引き留めることはせず、自分に時間をくれた親友に心の中で感謝しながら、颯空は曇天の道を重い足取りで歩いていく。頭の中はぐちゃぐちゃだった。どうするのが彩萌にとって最善なのか、考えれば考えるほどドツボにはまっていく感じがした。

 ブーッ! ブーッ!

 ポケットに入れているスマホが震える。面倒くさそうにスマホを取り出した颯空が、見たこともない番号からのショートメールに怪訝な表情を浮かべるも、その内容を見た瞬間大きく目を見開いた。

『今夜二十時。学校の屋上に一人で来なさい』
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