異世界に召喚されたらなぜか呪われていた上にクラスメートにも殺されかけたので好き勝手生きることにしました

M・K

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第二章 炎の山

7. 推薦

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「……まさにサプラーイズだね」

 目の前にあるソファに不遜な態度で座っている颯空を見ながらコールが言った。

「君みたいな化け物を冒険者にしないなんて……ギルドも見る目が落ちたんじゃない?」
「おい、さらっと人を化け物扱いしてんじゃねぇよ」
「それで? これからどうするつもり? もう一回チャレンジする?」

 颯空の発言を華麗にスルーし、コールが尋ねる。

「あれじゃ、何回やっても俺じゃ受からねぇよ」
「そんなに厳しい試験内容なの?」
「いや、そういうわけじゃねぇけど、俺とは相性がすこぶる悪い」
「へぇ……人間性テストとか?」
「ぶっ殺すぞ。……とにかく冒険者になるのは諦めだ」

 '呪い'の事までは話していないため、どうして試験がダメだったかコールに詳しく言うつもりはない。

「冒険者にならずにやっていけるのかい? 宿に泊まるにも食事をするにもお金が必要なんだよ?」
「そうだな……たんまりため込んでそうな金持ちから、適当に巻き上げるしかねぇか」
「僕の部屋を見回しながらそういう物騒な事を言うのはやめてくれないかな?」

 冗談はさておき、コールの言ったことは無視できない事柄だ。この世界も颯空が元居た世界と同じように貨幣制度をとっている。つまり、お金がなければ何もできない。とにかく、生きるためにはどうにかしてお金を稼ぐ必要があった。
 その手段としてコールが颯空に提案したのが冒険者だ。冒険者ギルドはこの世界に点在しており、それが世界を見て回ろうとしている颯空にとってかなり都合がよかった。お金に困れば旅先の冒険者ギルドでクエストをこなせばいいからだ。
 その手段を呆気なく失った以上、颯空の旅路に早くも暗雲が立ち込め始めた。

「いやぁ……それにしても当てが外れちゃったね。君なら絶対に冒険者として名を上げると思ったから、早々に唾をつけたのに」
「打算が過ぎるな」
「利になる事しかしないのは商人の鉄則だよ。設ける事こそ人生だからね。なのに、まさか冒険者ギルドから門前払いを受けるとは。なんとかしてサクを冒険者にする方法を……」

 そこまで口にして、コールが自分の口元に手を当て押し黙る。

「あぁ? 急に黙りこくってどうした?」
「……そう言えば、試験を受ける以外に冒険者になる方法があるんだった」

 そう言うと、コールは真剣な表情のまま、頭の中で何やら計算し始めた。しばらくして答えが出たのか、コールがぽんっと手槌を打つ。

「うん、そうしよう」
「いや、一人で勝手に結論出してんじゃねぇよ。試験を受ける以外に冒険者になる方法ってなんだよ?」

 颯空が眉をひそめる。受付嬢のパルムからはそんなものがあるとは聞いていない。

「それは推薦だよ」
「推薦?」
「第三者がこの人は冒険者に相応しいから冒険者にしてくれ、と頼む事ができるのさ。僕が推薦すればサクも冒険者になれるはず」
「なに?」

 まさに寝耳に水だった。未だにピンっときていない颯空に、コールが補足の説明を入れる。

「もちろん、誰もが推薦できるわけじゃないよ? 元々この制度はAランク以上の冒険者が弟子をとりやすくするためのものなんだ。高ランクの冒険者が認めた者なら信頼できるし、事務の負担を減らす事ができる上、強力な冒険者が増えやすいからね」
「でも、お前はAランク冒険者じゃないだろ?」
「そうだよ。僕はしがない商人だからね。Aランク冒険者のような凶悪な魔物に対抗しうる腕力なんて持ち合わせちゃいない。ただ、それに見合う力はあるんだよね」
「なんだよ?」
「お金さ」

 コールがどや顔で言い放った。

「要はパトロンだね。冒険者ギルドに資金援助をしてあげれば、得体のしれない男を冒険者にするなんて造作もない事さ」

 コールの話は単純明快だった。パルムが自分に説明しなかったのも頷ける。こんなのは裏口入学もいいとこだ。例外にもほどがある。
 だが、ギルドで決められたルールを捻じ曲げるのはそんな簡単なことなのだろうか。

「当然、莫大なお金が必要になるよね。今の冒険者ギルドは極力死者を出さない、というのがモットーだからこそ、事前に試験をしてその実力を見ているわけで、その方針を無視して冒険者にしようっていうんだから」

 颯空の表情からその考えを察したコールが肩をすくめる。

「でも、僕は払おうと思う。幸い、今は商売が順調で多少の余裕はあるからね」
「……なんでそこまでしてくれるんだよ?」
「命を救ってもらったお礼と、未来への先行投資だよ。君は僕に利を運んでくれる男だって信じてるから」

 コールが満面の笑みで答えた。その笑顔があまりにも胡散臭すぎて、颯空は顔をしかめる。

「……もし、お前のご期待に沿えなくても、文句言うんじゃねぇぞ?」
「そこまで尻の穴が小さい男じゃないよ。僕が勝手に期待してるだけなんだからさ。仮に、君の働きが僕の予想を下回ったとしても、賠償を求めたりしないから安心して」

 てきぱきと紙に何かを書きながらコールが言った。それが書き終わると丁寧に封書し、颯空に差し出す。

「はい、推薦状ね。今すぐにこれをギルドの受付に出したら君は冒険者になれるよ!」
「…………」

 どうにも話が旨すぎる。今日会った自分に対して、高額の投資をする男。物好きなのか裏があるのか……間違いなく後者ではあろうが、それが何なのかは颯空にはわからなかった。
 とはいえ、期待外れだったとしても賠償を求めないとコールは言っている。それならば、目立たずその日暮らしの小銭を稼ぐ程度しか冒険者として活動しなくても問題ないだろう。なにより、収入源ができるのが旅をするうえでこの上なく大きかった。
 なんとも釈然としない気持ちのまま、颯空はコールから推薦状を受け取った。



「あっ、サクさん! 今回は残念でしたね……」

 コールの屋敷を後にし、冒険者ギルドに戻ってきた颯空に、パルムが眉尻を下げながら告げてきた。

「これを頼む」
「へ? なんですかこれは?」

 唐突に渡された封書に、パルムが首をかしげながら目を通す。読み進めていくうちに、わなわなと体が震え始めた。

「ちょ、ちょっと!! なんですかこれぇ!?」
「推薦状だ。今貰ってきた」
「そ、それはわかります!! ですが、コール・インフルエンサーって今若手の商人で一番勢いのある人じゃないですか!! そんな人から推薦されるなんて……!!」

 どうやらコールは自分が思っている以上に大物らしい。確かに、あの男の屋敷は他の貴族のものと遜色ない大きさのものだった。

「すごい! すごいですよ、サクさん!! 今までコールさんはギルドへ依頼をする事はありましたが、専属冒険者を作る事は決してなかったんです!!」
「いや別にすごくは……専属冒険者?」

 何とも嫌な響きの言葉を耳にし、颯空の表情が凍り付く。

「貴族の方がお気に入りの冒険者を大金ははたいて自分のお抱えにする事があるんです! そういう冒険者は普通の依頼をこなす事はできますが、その貴族の方が指名した場合は何を置いてもその方からの依頼を受けなくてはなりません! それが専属冒険者なのです!」

 心の中にあった違和感が今解消された。未来への先行投資とはそういう事だったのか。どうやら自分は見事にあの男に一杯食わされたらしい。

「いやぁ……新進気鋭のやり手商人から推薦されるなんて、サクさんは一体何者なんですか?」
「…………」
「とりあえず、冒険者推薦には上の人の承認がいるので、さっそくこの推薦状を総ギルド長に見せてきますね!」

 苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる颯空を置いて、パルムは大急ぎでどこかへ走っていった。迂闊だった。この世界を旅しようとしている事は話しているので、自分を縛るような真似はしてこないと思っていたが。仮に、世界の裏側にいたとしてもあの男が依頼してきたら駆けつけないという事なのか。なるほど……許さん。
 コールへの怒りを沸々と煮えたぎらせていた颯空のもとに、何とも微妙な表情を浮かべたパルムが戻ってきた。

「あのー……ギルド長が直接会って判断したい、と申しておりますので、一緒に来ていただけますか?」
「……は?」

 とりあえず、冒険者になったらあの男の顔面に一発お見舞いしよう、と画策していた颯空に予想外の事態が告げられる。面倒な気配しか感じられない申し出に、颯空はコールへの怒りをさらに募らせるのであった。
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