40 / 69
第二章 炎の山
8. 総ギルド長
しおりを挟む
冒険者ギルド。それは魔物に対抗する力を持たざる依頼者の代わりに危険な地域に赴き、依頼を遂行する冒険者を管理する機関。その利便性から王都アレクサンドリアだけでなく、様々な町や村に拠点を構えている。
その中でもガンドラの街の冒険者ギルドは他とは異なった。通常の職務をこなしつつ、全ての冒険者ギルドを統括する心臓部。冒険者ギルドの総本山が、ここガンドラの街にあった。
つまり、ガンドラの冒険者ギルドを取り仕切るギルド長は、冒険者ギルドという組織の中で頂点に君臨する。そんな男が今、颯空の目の前に座っていた。
「いきなり呼び出してしまって済まない。俺が総冒険者ギルド長のサガット・アルンダイトだ」
威厳を漂わせつつ、サガットが丁寧に自己紹介をする。対する颯空は、特にかしこまった様子もなく、値踏みをするようにサガットを観察していた。
「俺を呼んだ理由はなんだ?」
だが、それは媚びへつらう理由にはならない。自分よりも二倍以上は生きている、少し髪の薄い男に、颯空はぶっきらぼうな口調で言った。普段と変わらぬ態度で接する颯空を見て、サガットが口角を上げる。
「なに、そう警戒しなくてもいい。ただ、あの変わり者で有名なコール・インフルエンサーが推薦する者がどういう男なのかこの目で見てみたかっただけだ」
その顔に浮かぶ笑みを見て颯空は確信した。この男もコールと同じように妖怪の類だ。隙を見せたら確実に付け込まれる。
「別に田舎出身の何の変哲もない小市民だ。というわけで、さっさと冒険者登録を認めやがれ」
「ふっ……何の変哲もない小市民をコールが推薦するわけもないし、面と向かって総ギルド長にそんな口をきくくわけがないだろう?」
なんとも楽しげな様子のサガットを見て、颯空が舌打ちをした。どうにもこういう手合いには苦手意識があった。こういう場合は下手に口を開かない方がいい。話したところで、余計な情報を相手に与えるだけだ。
「……ふむ、頭の回転は悪くないと見える」
押し黙った颯空を見て、サガットが軽い口調で言った。
「資料によれば、お前は先ほど冒険者試験を受け、冒険者には適さないという評価を受けたはずだが?」
「おたくの試験内容が悪いだけだ」
「なるほど。今後の参考までに何が悪かったか聞いてもいいか?」
「……練習用の武器じゃ、実力が出せるわけもねぇだろ」
そう言いながら、自らの発言の浅さに思わず顔をしかめる。どう聞いても負け犬の遠吠えにしか聞こえない。とはいえ、'呪い'のせいで他の武器を使う事ができない、などと言えるはずもないので、颯空にはこう言うしかなかった。
「つまり、普段から使っている武器を使えば、そんな結果にはならなかったと?」
「そういう事だな」
いくらみじめな気持ちになろうがそういう方向に話を持っていくしかない。実際、干将莫邪を使えば試験官を圧倒する事など容易い事であった。嘘は言っていない。
「ちなみに、その武器を使えば俺にも勝てるのか?」
「……あんたが俺の前に立ちはだかろうってんなら、全力で排除するだけだ」
勝てる、と言い切れるほど、颯空の神経は図太くなかった。強い。それがサガットに抱いた颯空の感想であった。シフを除き、間違いなくこの世界で出会った誰よりも実力を有している。流石は荒くれ者の冒険者をまとめる冒険者ギルドの総ギルド長といったところか。
「なるほどな」
薄く蓄えられた口髭をジョリっとなぞりながらサガットが小さく笑みを浮かべる。この会話の中で自分が試されているような感覚が颯空は苦手だった。コールといい、サガットといい、この街には食えない男が多すぎる。
「とにかく、さっさと冒険者登録してくれよ」
これ以上会話を続けるとボロを出しそうだ、と判断した颯空が、早めに会話を切り上げようとする。
「そういうわけにもいかないのが、責任ある立場の辛さだな。推薦されたからといって二つ返事で冒険者にした結果、実力が伴わず、あっさりと魔物に殺されるなんて事になれば、お前を冒険者として認めた俺の責任になってしまう」
「そういう責任の所在を明確にするための推薦制度だろ?」
「ルール的には、な。だが、世間はそうは思わない。もし、そういう状況になった時は、推薦した一介の商人よりも、その推薦を受託した俺を責めるだろう」
「…………」
その言葉に反論することができなかった。大衆には実際の責任者など関係ない。分かりやすく責めやすい相手を、自分勝手に誹謗中傷していく。元居た世界でも似たような事が起こっていたので、颯空はサガットの言い分に納得してしまった。
「推薦制度など廃止してしまえばそんなリスクを負わずに済むのだが、そう簡単な話ではない。この巨大な組織が円滑に運用出来ているのは、有権者の支援によるところが大きいのだ」
「……だったらなおの事、変ないちゃもんつけずに俺を冒険者にするべきなんじゃねぇのか?」
「お前を推薦したのが上級貴族であれば、責任云々関係なくそうせざるを得ないのは事実だな。だが、推薦者は名を上げてきているとはいえ、これまで冒険者ギルドに支援などしたこともないような若手の商人だ。どう考えてもリターンが、今さっき正規の冒険者試験に落ちた男を冒険者にするリスクに見合わないだろう」
ぐうの音も出ないほどの正論に、颯空は閉口を余儀なくされてしまう。推薦者が影響力を持っている事で初めて推薦は成り立つものだ。あれだけ自信満々な顔で推薦状を渡してきたのだから当然その点には問題ないと思っていたのだが、どうやらそれは思い違いであったらしい。
「……とはいえ、将来を見越すのであれば、あのコール・インフルエンサーにコネクションを築くのは悪い話ではない。それだけ、商人界隈で麒麟児と呼ばれるあの男の将来性には期待できる。そんな男に推薦されたお前にも、な」
サガットが意味ありげな笑みをこちらに向けてきた。彼の考えている事がわからない颯空が眉を寄せる。
「というわけで、一つ依頼を受けてはくれないか?」
「……依頼?」
「冒険者体験というやつだ。見事それを達成したら、お前の冒険者登録を認めよう」
「…………」
「別に無理難題を吹っ掛けるつもりはない。先ほど飛び込みで入った依頼でな、街の中に魔物が一体紛れ込んだらしい。それを討伐して欲しいのだ」
突然の提案に警戒心を露にする颯空に、サガットは軽い口調で言った。魔物の討伐など、'呪い'に苦しみながら木製の武器を振り回すよりも簡単だ。颯空にとっては願ってもない話だといえる。
「……本当にその魔物を倒したら冒険者として認めてもらえるんだな?」
「冒険者総ギルド長の名においてそれは保証しよう」
少しの間悩んでいた颯空であったが、他に手があるわけもなく、頭をガシガシと掻きながら大きくため息を吐いた。
サガットの申し出を渋々といった様子で受諾した颯空は、依頼の詳しい内容を聞くとさっさとこの部屋から出ていった。一人残ったサガットはある冒険者を部屋に呼び寄せる。
「わざわざすまないな、ゴア」
「いえ。問題ありません」
傷のある強面を一切崩さぬまま、ゴアが答えた。
「ちょっと話を聞きたくてな。お前が担当した冒険者志望の男についてだ」
「サクですか……」
サガットの言葉に、ゴアが微妙な表情を浮かべる。
「なんだ? 気になる事でもあるのか?」
「はい。あの男は……正直なところ、よくわかりません」
「よくわからない?」
「自分を前にしても全く動じない胆力も、戦闘に対する慣れも、普通の冒険者志望の者とは比較にならないほどでした」
「ほぉ? だが、お前はその男を不合格にしたのではないのか?」
「えーっと……まぁ、そうです」
サガットが問いかけると、ゴアがばつの悪そうに頬をかいた。
「Bランクの私ですら反応できないほどのスピードで間合いを詰めてきたのには本当に驚かされましたが……なぜか彼は武器を振れないのです」
「……なに?」
「私の懐にまで入ってくるのですが、剣を振ることなく地面に倒れました。最初は勢い余って転んだだけだと思ったのですが、何度やっても同じ結果になったので止む無く不合格を……武器を振れないのであれば冒険者は務まりませんから」
「ふむ……」
サガットが思案気な表情で顎を撫でる。颯空は自分に、練習用の武器では実力が出せない、と言っていた。どうやらそれは言葉通りの意味だったらしい。どういうわけかわからないが、あの男は練習用の武器を扱う事ができないようだ。
「色々と参考になった。ありがとう」
「いえ、そんな……それより例の依頼なんですが、私が行こうと思います」
これが本題といわんばかりに、ゴアが表情を真剣なものに変えた。
「市民が混乱を招かないよう表立って依頼募集をかけられない以上、知っている中で最もランクの高い私が依頼に当たるべきです」
「いや、お前があの依頼を受ける必要はない」
「なぜですか!? あのような凶悪な魔物が中心街に現れたら大惨事になりますよ!? 至急、対策を講じるべきです!!」
すごい剣幕でゴアが詰め寄るが、サガットは特に焦る素振りも見せず、ただ静かに机の上で指を組む。
「それは俺も重々理解しているつもりだ。だからこそ、もう既に適任を現場に向かわせた」
「え……?」
冷静な口調で告げられたゴアが、予想外の発言に目を丸くした。あの魔物の討伐任務をこなせる人材が、今この冒険者ギルド内で果たして自分以外に存在するのだろうか。
「い、一体誰を行かせたんですか?」
「それに関しては話す事は出来ない。ただ、私の見立てでは問題なく依頼をこなして帰ってくると思う。……もし仮にその者が依頼に失敗した場合は、俺自らが討伐に赴く。それなら問題ないだろう?」
「へ? あ、はい……総ギルド長自ら行かれるのであれば……!!」
サガットの実力を知るゴアはそう答える事しかできなかった。だが、事態が逼迫している事には変わりない。今この瞬間にも、魔物の凶刃が罪もない一般市民に襲い掛かっているかもしれない。それにしても、適任とは一体誰の事なのだろうか? 今この街にいる高ランク冒険者に、一切心当たりがない。
「それでは失礼いたします。何かあればすぐにお呼びください」
なんとも複雑な思いを抱えながら、ゴアが総ギルド長室を後にする。再び一人になったサガットは葉巻を咥え、マッチで火をつけた。
「どれ……お手並み拝見といこうか」
そう小さく呟くと、サガットはたっぷり煙を口に含み、ゆっくりそれを吐き出した。
その中でもガンドラの街の冒険者ギルドは他とは異なった。通常の職務をこなしつつ、全ての冒険者ギルドを統括する心臓部。冒険者ギルドの総本山が、ここガンドラの街にあった。
つまり、ガンドラの冒険者ギルドを取り仕切るギルド長は、冒険者ギルドという組織の中で頂点に君臨する。そんな男が今、颯空の目の前に座っていた。
「いきなり呼び出してしまって済まない。俺が総冒険者ギルド長のサガット・アルンダイトだ」
威厳を漂わせつつ、サガットが丁寧に自己紹介をする。対する颯空は、特にかしこまった様子もなく、値踏みをするようにサガットを観察していた。
「俺を呼んだ理由はなんだ?」
だが、それは媚びへつらう理由にはならない。自分よりも二倍以上は生きている、少し髪の薄い男に、颯空はぶっきらぼうな口調で言った。普段と変わらぬ態度で接する颯空を見て、サガットが口角を上げる。
「なに、そう警戒しなくてもいい。ただ、あの変わり者で有名なコール・インフルエンサーが推薦する者がどういう男なのかこの目で見てみたかっただけだ」
その顔に浮かぶ笑みを見て颯空は確信した。この男もコールと同じように妖怪の類だ。隙を見せたら確実に付け込まれる。
「別に田舎出身の何の変哲もない小市民だ。というわけで、さっさと冒険者登録を認めやがれ」
「ふっ……何の変哲もない小市民をコールが推薦するわけもないし、面と向かって総ギルド長にそんな口をきくくわけがないだろう?」
なんとも楽しげな様子のサガットを見て、颯空が舌打ちをした。どうにもこういう手合いには苦手意識があった。こういう場合は下手に口を開かない方がいい。話したところで、余計な情報を相手に与えるだけだ。
「……ふむ、頭の回転は悪くないと見える」
押し黙った颯空を見て、サガットが軽い口調で言った。
「資料によれば、お前は先ほど冒険者試験を受け、冒険者には適さないという評価を受けたはずだが?」
「おたくの試験内容が悪いだけだ」
「なるほど。今後の参考までに何が悪かったか聞いてもいいか?」
「……練習用の武器じゃ、実力が出せるわけもねぇだろ」
そう言いながら、自らの発言の浅さに思わず顔をしかめる。どう聞いても負け犬の遠吠えにしか聞こえない。とはいえ、'呪い'のせいで他の武器を使う事ができない、などと言えるはずもないので、颯空にはこう言うしかなかった。
「つまり、普段から使っている武器を使えば、そんな結果にはならなかったと?」
「そういう事だな」
いくらみじめな気持ちになろうがそういう方向に話を持っていくしかない。実際、干将莫邪を使えば試験官を圧倒する事など容易い事であった。嘘は言っていない。
「ちなみに、その武器を使えば俺にも勝てるのか?」
「……あんたが俺の前に立ちはだかろうってんなら、全力で排除するだけだ」
勝てる、と言い切れるほど、颯空の神経は図太くなかった。強い。それがサガットに抱いた颯空の感想であった。シフを除き、間違いなくこの世界で出会った誰よりも実力を有している。流石は荒くれ者の冒険者をまとめる冒険者ギルドの総ギルド長といったところか。
「なるほどな」
薄く蓄えられた口髭をジョリっとなぞりながらサガットが小さく笑みを浮かべる。この会話の中で自分が試されているような感覚が颯空は苦手だった。コールといい、サガットといい、この街には食えない男が多すぎる。
「とにかく、さっさと冒険者登録してくれよ」
これ以上会話を続けるとボロを出しそうだ、と判断した颯空が、早めに会話を切り上げようとする。
「そういうわけにもいかないのが、責任ある立場の辛さだな。推薦されたからといって二つ返事で冒険者にした結果、実力が伴わず、あっさりと魔物に殺されるなんて事になれば、お前を冒険者として認めた俺の責任になってしまう」
「そういう責任の所在を明確にするための推薦制度だろ?」
「ルール的には、な。だが、世間はそうは思わない。もし、そういう状況になった時は、推薦した一介の商人よりも、その推薦を受託した俺を責めるだろう」
「…………」
その言葉に反論することができなかった。大衆には実際の責任者など関係ない。分かりやすく責めやすい相手を、自分勝手に誹謗中傷していく。元居た世界でも似たような事が起こっていたので、颯空はサガットの言い分に納得してしまった。
「推薦制度など廃止してしまえばそんなリスクを負わずに済むのだが、そう簡単な話ではない。この巨大な組織が円滑に運用出来ているのは、有権者の支援によるところが大きいのだ」
「……だったらなおの事、変ないちゃもんつけずに俺を冒険者にするべきなんじゃねぇのか?」
「お前を推薦したのが上級貴族であれば、責任云々関係なくそうせざるを得ないのは事実だな。だが、推薦者は名を上げてきているとはいえ、これまで冒険者ギルドに支援などしたこともないような若手の商人だ。どう考えてもリターンが、今さっき正規の冒険者試験に落ちた男を冒険者にするリスクに見合わないだろう」
ぐうの音も出ないほどの正論に、颯空は閉口を余儀なくされてしまう。推薦者が影響力を持っている事で初めて推薦は成り立つものだ。あれだけ自信満々な顔で推薦状を渡してきたのだから当然その点には問題ないと思っていたのだが、どうやらそれは思い違いであったらしい。
「……とはいえ、将来を見越すのであれば、あのコール・インフルエンサーにコネクションを築くのは悪い話ではない。それだけ、商人界隈で麒麟児と呼ばれるあの男の将来性には期待できる。そんな男に推薦されたお前にも、な」
サガットが意味ありげな笑みをこちらに向けてきた。彼の考えている事がわからない颯空が眉を寄せる。
「というわけで、一つ依頼を受けてはくれないか?」
「……依頼?」
「冒険者体験というやつだ。見事それを達成したら、お前の冒険者登録を認めよう」
「…………」
「別に無理難題を吹っ掛けるつもりはない。先ほど飛び込みで入った依頼でな、街の中に魔物が一体紛れ込んだらしい。それを討伐して欲しいのだ」
突然の提案に警戒心を露にする颯空に、サガットは軽い口調で言った。魔物の討伐など、'呪い'に苦しみながら木製の武器を振り回すよりも簡単だ。颯空にとっては願ってもない話だといえる。
「……本当にその魔物を倒したら冒険者として認めてもらえるんだな?」
「冒険者総ギルド長の名においてそれは保証しよう」
少しの間悩んでいた颯空であったが、他に手があるわけもなく、頭をガシガシと掻きながら大きくため息を吐いた。
サガットの申し出を渋々といった様子で受諾した颯空は、依頼の詳しい内容を聞くとさっさとこの部屋から出ていった。一人残ったサガットはある冒険者を部屋に呼び寄せる。
「わざわざすまないな、ゴア」
「いえ。問題ありません」
傷のある強面を一切崩さぬまま、ゴアが答えた。
「ちょっと話を聞きたくてな。お前が担当した冒険者志望の男についてだ」
「サクですか……」
サガットの言葉に、ゴアが微妙な表情を浮かべる。
「なんだ? 気になる事でもあるのか?」
「はい。あの男は……正直なところ、よくわかりません」
「よくわからない?」
「自分を前にしても全く動じない胆力も、戦闘に対する慣れも、普通の冒険者志望の者とは比較にならないほどでした」
「ほぉ? だが、お前はその男を不合格にしたのではないのか?」
「えーっと……まぁ、そうです」
サガットが問いかけると、ゴアがばつの悪そうに頬をかいた。
「Bランクの私ですら反応できないほどのスピードで間合いを詰めてきたのには本当に驚かされましたが……なぜか彼は武器を振れないのです」
「……なに?」
「私の懐にまで入ってくるのですが、剣を振ることなく地面に倒れました。最初は勢い余って転んだだけだと思ったのですが、何度やっても同じ結果になったので止む無く不合格を……武器を振れないのであれば冒険者は務まりませんから」
「ふむ……」
サガットが思案気な表情で顎を撫でる。颯空は自分に、練習用の武器では実力が出せない、と言っていた。どうやらそれは言葉通りの意味だったらしい。どういうわけかわからないが、あの男は練習用の武器を扱う事ができないようだ。
「色々と参考になった。ありがとう」
「いえ、そんな……それより例の依頼なんですが、私が行こうと思います」
これが本題といわんばかりに、ゴアが表情を真剣なものに変えた。
「市民が混乱を招かないよう表立って依頼募集をかけられない以上、知っている中で最もランクの高い私が依頼に当たるべきです」
「いや、お前があの依頼を受ける必要はない」
「なぜですか!? あのような凶悪な魔物が中心街に現れたら大惨事になりますよ!? 至急、対策を講じるべきです!!」
すごい剣幕でゴアが詰め寄るが、サガットは特に焦る素振りも見せず、ただ静かに机の上で指を組む。
「それは俺も重々理解しているつもりだ。だからこそ、もう既に適任を現場に向かわせた」
「え……?」
冷静な口調で告げられたゴアが、予想外の発言に目を丸くした。あの魔物の討伐任務をこなせる人材が、今この冒険者ギルド内で果たして自分以外に存在するのだろうか。
「い、一体誰を行かせたんですか?」
「それに関しては話す事は出来ない。ただ、私の見立てでは問題なく依頼をこなして帰ってくると思う。……もし仮にその者が依頼に失敗した場合は、俺自らが討伐に赴く。それなら問題ないだろう?」
「へ? あ、はい……総ギルド長自ら行かれるのであれば……!!」
サガットの実力を知るゴアはそう答える事しかできなかった。だが、事態が逼迫している事には変わりない。今この瞬間にも、魔物の凶刃が罪もない一般市民に襲い掛かっているかもしれない。それにしても、適任とは一体誰の事なのだろうか? 今この街にいる高ランク冒険者に、一切心当たりがない。
「それでは失礼いたします。何かあればすぐにお呼びください」
なんとも複雑な思いを抱えながら、ゴアが総ギルド長室を後にする。再び一人になったサガットは葉巻を咥え、マッチで火をつけた。
「どれ……お手並み拝見といこうか」
そう小さく呟くと、サガットはたっぷり煙を口に含み、ゆっくりそれを吐き出した。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる