異世界に召喚されたらなぜか呪われていた上にクラスメートにも殺されかけたので好き勝手生きることにしました

M・K

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第二章 炎の山

8. 総ギルド長

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 冒険者ギルド。それは魔物に対抗する力を持たざる依頼者の代わりに危険な地域に赴き、依頼を遂行する冒険者を管理する機関。その利便性から王都アレクサンドリアだけでなく、様々な町や村に拠点を構えている。
 その中でもガンドラの街の冒険者ギルドは他とは異なった。通常の職務をこなしつつ、全ての冒険者ギルドを統括する心臓部。冒険者ギルドの総本山が、ここガンドラの街にあった。
 つまり、ガンドラの冒険者ギルドを取り仕切るギルド長は、冒険者ギルドという組織の中で頂点に君臨する。そんな男が今、颯空の目の前に座っていた。

「いきなり呼び出してしまって済まない。俺が総冒険者ギルド長のサガット・アルンダイトだ」

 威厳を漂わせつつ、サガットが丁寧に自己紹介をする。対する颯空は、特にかしこまった様子もなく、値踏みをするようにサガットを観察していた。

「俺を呼んだ理由はなんだ?」

 だが、それは媚びへつらう理由にはならない。自分よりも二倍以上は生きている、少し髪の薄い男に、颯空はぶっきらぼうな口調で言った。普段と変わらぬ態度で接する颯空を見て、サガットが口角を上げる。

「なに、そう警戒しなくてもいい。ただ、変わり者で有名なコール・インフルエンサーが推薦する者がどういう男なのかこの目で見てみたかっただけだ」

 その顔に浮かぶ笑みを見て颯空は確信した。この男もコールと同じように妖怪の類だ。隙を見せたら確実に付け込まれる。

「別に田舎出身の何の変哲もない小市民だ。というわけで、さっさと冒険者登録を認めやがれ」
「ふっ……何の変哲もない小市民をコールが推薦するわけもないし、面と向かって総ギルド長にそんな口をきくくわけがないだろう?」

 なんとも楽しげな様子のサガットを見て、颯空が舌打ちをした。どうにもこういう手合いには苦手意識があった。こういう場合は下手に口を開かない方がいい。話したところで、余計な情報を相手に与えるだけだ。

「……ふむ、頭の回転は悪くないと見える」

 押し黙った颯空を見て、サガットが軽い口調で言った。

「資料によれば、お前は先ほど冒険者試験を受け、冒険者には適さないという評価を受けたはずだが?」
「おたくの試験内容が悪いだけだ」
「なるほど。今後の参考までに何が悪かったか聞いてもいいか?」
「……練習用の武器じゃ、実力が出せるわけもねぇだろ」

 そう言いながら、自らの発言の浅さに思わず顔をしかめる。どう聞いても負け犬の遠吠えにしか聞こえない。とはいえ、'呪い'のせいで他の武器を使う事ができない、などと言えるはずもないので、颯空にはこう言うしかなかった。

「つまり、普段から使っている武器を使えば、そんな結果にはならなかったと?」
「そういう事だな」

 いくらみじめな気持ちになろうがそういう方向に話を持っていくしかない。実際、干将莫邪を使えば試験官を圧倒する事など容易い事であった。嘘は言っていない。

「ちなみに、その武器を使えば俺にも勝てるのか?」
「……あんたが俺の前に立ちはだかろうってんなら、全力で排除するだけだ」

 勝てる、と言い切れるほど、颯空の神経は図太くなかった。強い。それがサガットに抱いた颯空の感想であった。シフを除き、間違いなくこの世界で出会った誰よりも実力を有している。流石は荒くれ者の冒険者をまとめる冒険者ギルドの総ギルド長といったところか。

「なるほどな」

 薄く蓄えられた口髭をジョリっとなぞりながらサガットが小さく笑みを浮かべる。この会話の中で自分が試されているような感覚が颯空は苦手だった。コールといい、サガットといい、この街には食えない男が多すぎる。

「とにかく、さっさと冒険者登録してくれよ」

 これ以上会話を続けるとボロを出しそうだ、と判断した颯空が、早めに会話を切り上げようとする。

「そういうわけにもいかないのが、責任ある立場の辛さだな。推薦されたからといって二つ返事で冒険者にした結果、実力が伴わず、あっさりと魔物に殺されるなんて事になれば、お前を冒険者として認めた俺の責任になってしまう」
「そういう責任の所在を明確にするための推薦制度だろ?」
「ルール的には、な。だが、世間はそうは思わない。もし、そういう状況になった時は、推薦した一介の商人よりも、その推薦を受託した俺を責めるだろう」
「…………」

 その言葉に反論することができなかった。大衆には実際の責任者など関係ない。分かりやすく責めやすい相手を、自分勝手に誹謗中傷していく。元居た世界でも似たような事が起こっていたので、颯空はサガットの言い分に納得してしまった。

「推薦制度など廃止してしまえばそんなリスクを負わずに済むのだが、そう簡単な話ではない。この巨大な組織が円滑に運用出来ているのは、有権者の支援によるところが大きいのだ」
「……だったらなおの事、変ないちゃもんつけずに俺を冒険者にするべきなんじゃねぇのか?」
「お前を推薦したのが上級貴族であれば、責任云々関係なくそうせざるを得ないのは事実だな。だが、推薦者は名を上げてきているとはいえ、これまで冒険者ギルドに支援などしたこともないような若手の商人だ。どう考えてもリターンが、今さっき正規の冒険者試験に落ちた男を冒険者にするリスクに見合わないだろう」

 ぐうの音も出ないほどの正論に、颯空は閉口を余儀なくされてしまう。推薦者が影響力を持っている事で初めて推薦は成り立つものだ。あれだけ自信満々な顔で推薦状を渡してきたのだから当然その点には問題ないと思っていたのだが、どうやらそれは思い違いであったらしい。

「……とはいえ、将来さきを見越すのであれば、あのコール・インフルエンサーにコネクションを築くのは悪い話ではない。それだけ、商人界隈で麒麟児と呼ばれるあの男の将来性には期待できる。そんな男に推薦されたお前にも、な」

 サガットが意味ありげな笑みをこちらに向けてきた。彼の考えている事がわからない颯空が眉を寄せる。

「というわけで、一つ依頼を受けてはくれないか?」
「……依頼?」
「冒険者体験というやつだ。見事それを達成したら、お前の冒険者登録を認めよう」
「…………」
「別に無理難題を吹っ掛けるつもりはない。先ほど飛び込みで入った依頼でな、街の中に魔物が一体紛れ込んだらしい。それを討伐して欲しいのだ」

 突然の提案に警戒心を露にする颯空に、サガットは軽い口調で言った。魔物の討伐など、'呪い'に苦しみながら木製の武器を振り回すよりも簡単だ。颯空にとっては願ってもない話だといえる。

「……本当にその魔物を倒したら冒険者として認めてもらえるんだな?」
「冒険者総ギルド長の名においてそれは保証しよう」

 少しの間悩んでいた颯空であったが、他に手があるわけもなく、頭をガシガシと掻きながら大きくため息を吐いた。
 サガットの申し出を渋々といった様子で受諾した颯空は、依頼の詳しい内容を聞くとさっさとこの部屋から出ていった。一人残ったサガットはある冒険者を部屋に呼び寄せる。

「わざわざすまないな、ゴア」
「いえ。問題ありません」

 傷のある強面を一切崩さぬまま、ゴアが答えた。

「ちょっと話を聞きたくてな。お前が担当した冒険者志望の男についてだ」
「サクですか……」

 サガットの言葉に、ゴアが微妙な表情を浮かべる。

「なんだ? 気になる事でもあるのか?」
「はい。あの男は……正直なところ、よくわかりません」
「よくわからない?」
「自分を前にしても全く動じない胆力も、戦闘に対する慣れも、普通の冒険者志望の者とは比較にならないほどでした」
「ほぉ? だが、お前はその男を不合格にしたのではないのか?」
「えーっと……まぁ、そうです」

 サガットが問いかけると、ゴアがばつの悪そうに頬をかいた。

「Bランクの私ですら反応できないほどのスピードで間合いを詰めてきたのには本当に驚かされましたが……なぜか彼は武器を振れないのです」
「……なに?」
「私の懐にまで入ってくるのですが、剣を振ることなく地面に倒れました。最初は勢い余って転んだだけだと思ったのですが、何度やっても同じ結果になったので止む無く不合格を……武器を振れないのであれば冒険者は務まりませんから」
「ふむ……」

 サガットが思案気な表情で顎を撫でる。颯空は自分に、練習用の武器では実力が出せない、と言っていた。どうやらそれは言葉通りの意味だったらしい。どういうわけかわからないが、あの男は練習用の武器を扱う事ができないようだ。

「色々と参考になった。ありがとう」
「いえ、そんな……それより例の依頼なんですが、私が行こうと思います」

 これが本題といわんばかりに、ゴアが表情を真剣なものに変えた。

「市民が混乱を招かないよう表立って依頼募集をかけられない以上、知っている中で最もランクの高い私が依頼に当たるべきです」
「いや、お前があの依頼を受ける必要はない」
「なぜですか!? あのような凶悪な魔物が中心街に現れたら大惨事になりますよ!? 至急、対策を講じるべきです!!」

 すごい剣幕でゴアが詰め寄るが、サガットは特に焦る素振りも見せず、ただ静かに机の上で指を組む。

「それは俺も重々理解しているつもりだ。だからこそ、もう既に適任を現場に向かわせた」
「え……?」

 冷静な口調で告げられたゴアが、予想外の発言に目を丸くした。あの魔物の討伐任務をこなせる人材が、今この冒険者ギルド内で果たして自分以外に存在するのだろうか。

「い、一体誰を行かせたんですか?」
「それに関しては話す事は出来ない。ただ、私の見立てでは問題なく依頼をこなして帰ってくると思う。……もし仮にその者が依頼に失敗した場合は、俺自らが討伐に赴く。それなら問題ないだろう?」
「へ? あ、はい……総ギルド長自ら行かれるのであれば……!!」

 サガットの実力を知るゴアはそう答える事しかできなかった。だが、事態が逼迫ひっぱくしている事には変わりない。今この瞬間にも、魔物の凶刃が罪もない一般市民に襲い掛かっているかもしれない。それにしても、適任とは一体誰の事なのだろうか? 今この街にいる高ランク冒険者に、一切心当たりがない。

「それでは失礼いたします。何かあればすぐにお呼びください」

 なんとも複雑な思いを抱えながら、ゴアが総ギルド長室を後にする。再び一人になったサガットは葉巻を咥え、マッチで火をつけた。

「どれ……お手並み拝見といこうか」

 そう小さく呟くと、サガットはたっぷり煙を口に含み、ゆっくりそれを吐き出した。
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