異世界に召喚されたらなぜか呪われていた上にクラスメートにも殺されかけたので好き勝手生きることにしました

M・K

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第二章 炎の山

9. バジリスク

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 カツーンカツーンカツーン。
 地面を蹴る音が反響する。サガットから殆ど強制的に受けた依頼をこなすために颯空がやってきたのは、じめじめと薄暗いガンドラの街の地下水道だった。どうやらここに魔物が紛れ込んだらしい。

「くそっ……なんで、俺はこんなとこにいんだよ……」

 ヘドロのような臭いが鼻をつき、思わず悪態がこぼれる。本来であれば自由気ままに旅を楽しんでいるはずが、なぜかこんな陰気臭い場所で害獣退治をする事になった。どこでどう間違えたというのか。

「……あの腹黒商人に会ったのが運の尽きか。あのまま狼の餌になっていた方がよかったかもな」

 とはいえ、旅をする以上お金は必要であり、それを稼ぐ手段が冒険者以外に自分にはないのは明らかだ。そうなると、推薦状をもらってこうして違う方法で冒険者になるチャンスを与えられたのは、ある意味運がよかったのかもしれない。

「ここでぐちぐち言ってても仕方がねぇ。さっさと済ませるか」

 どうにも気が乗らないながらも魔力を練り上げ、殆ど視界の効かない空間に向かって右手を出す。

「"漆黒の監視者レイヴン・アイズ"」

 その右手から闇より命を得た無数のカラスが召喚され、地下水道内を隈なく飛び回り始めた。僅か数分で、広大なガンドラの街を支える地下水道を鴉達が網羅する。

「……見つけた」

 視覚をリンクさせている颯空が敵の姿をとらえた。

「来い、干将莫邪」

 干将莫邪を呼び出し、全速力でターゲットの元まで移動する。手を伸ばした程度の範囲しか見えないほどの暗闇の中を、颯空は何の迷いもなく駆け抜けていた。『恵みの森』におけるシフとの修行で、目の効かない場所での行動も体に叩き込まれている。多少は動きを制限されるものの、さほど問題にはならない。
 突然、颯空がピタリと足を止めた。そして、徐に後ろへと飛びのく。それと同時に、今颯空がいた場所に丸太のような尻尾が叩きつけられた。

「思ったよりもでけぇな」

 亀裂模様が入っている干将の峰で自分の肩をとんとんと叩きながら、目の前に現れた魔物を見上げる。暗闇の中でも怪しく光る銀の鱗に、血のように赤い瞳。空気中の匂いを感じ取るためにチロチロと動かしている舌の横には騎士団の使う剣のように、長く鋭い牙を持っていた。

「あのおっさんが言ってた魔物の特徴と一致するな。お前がバジリスクか?」

 元の世界では恐らく存在しないであろう大きさの大蛇を前にしながらも、颯空に動揺は一切ない。

「聞いたところで答えるわけもねぇか」
「フシュルルル……シャー!!」

 こちらに向かって一直線に襲い掛かってきたバシリスクにため息を吐きつつ、瞬時に横へと身をかわす。そのまま壁に突っ込んだバジリスクは、その強靭な牙で石造りの壁をかみ砕く。ジューっと何かが溶けるような音が聞こえ、颯空は思わず顔をしかめた。

「毒持ちか。服に飛ばしたらマジで許さねぇぞ」

 その巨躯に見合わぬスピードで再びこちらに突っ込んできたバジリスクを見据えつつ、颯空が干将莫邪を構える。そして、滑るようにバジリスクの下へと入り込むと、一気に干将莫邪を振りぬいた。
 冒険者ギルドが独自に定めた七段階の危険度を示すランクでは、バジリスクは上から三つ目のランクBに位置している。それは小規模な村であれば壊滅させるだけの力を持つことを表していた。
 その理由として、強力な毒を持つ事ももちろんあるのだが、最大の理由はその鱗にあった。バジリスクの鱗は非常に強靭でしなやかだ。水を吸った布が銃弾を受け止めるように、バジリスクもそのしなやかな鱗であらゆる攻撃を受け流す。つまり、並の武器ではダメージを与える事すら叶わないのだ。
 そう、並の武器ならば、だ。当然、'呪い'の武器である干将莫邪がその枠に収まるわけがない。
 颯空の放った一撃は、無慈悲に銀色の体を一刀両断する。

「シャ……ガ……!!」

 いとも容易く斬られたことに驚きを隠せないバジリスク。だが、頭と胴体が切り離されても、その闘争心は消えてはいなかった。最後の力を振りしぼり、怨敵に向かって牙を突き立てる。

「頭だけになっても襲い掛かってくるとは、見上げた根性だな」

 そう呟くと、颯空は向かってくる頭を容赦なく斬り伏せた。しばらくピクピクと痙攣したのち、バジリスクは動かなくなる。それを確認した颯空は干将莫邪を戻して大きく息を吐きだした。



 ドンドンドン。
 総ギルド長室の扉が乱暴にノックされる。そのような無礼な振る舞いをする者に心当たりがなかったサガットが一瞬眉をひそめるが、扉を開けて入ってきた男を見て納得した顔になる。

「返事を待たないのであればノックをする意味はないぞ、サク」
「さっさと返事をしない奴が悪い」

 仏頂面でそう言い放つと、颯空はドカッとソファに腰を下ろした。サガットが顔をしかめる。颯空の態度にではなく、鼻を突いた異臭に対してだ。

「……臭いな」
「あんたが俺に投げた依頼のせいだ」
「なるほど……さっそく調査に赴いたという事か。だが、今回の依頼はそう悠長に構えられるものではない。途中経過の報告は不要だ」
「途中経過じゃねぇよ。依頼完了の報告だ」
「…………なに?」

 予想外の言葉に、サガットの眉がピクッと動く。

「……お前がこの部屋を出てから一時間も経ってないんだぞ? 冗談のつもりならまったく面白くない」
「"無限の闇ダークホール"」

 サガットの言葉を遮るように颯空が魔法を唱えた。空中に現れた黒い渦に手を突っ込むと、巨大な蛇の頭を引きずり出し、その場に放り投げる。

「なっ……!?」
「依頼完了だって言ってんだろ」

 目を見開くサガットに、颯空が面倒臭げな様子で告げた。床に転がったバジリスクだったものを凝視していたサガットが、静かに颯空へと視線を移す。

「……今のは闇魔法か?」
「あぁ」
「初めて見たぞ。まさか人族でその魔法に適性のある者がいようとは」
「そりゃ珍しいもんが見られてよかったな、おっさん」

 探るような目を向けてくるサガットの言葉を、颯空が軽く受け流した。この世界において闇魔法の適性があるのは魔族だ。城で話を聞いた限り、人間が闇魔法を使えるのは極めて珍しい。つまり、颯空は魔法を使うだけで目立ってしまうのだ。だからといって、魔法を使わないわけにもいかないので、こうやって怪しまれた時は白を切り通すと決めていた。

「……まぁ、いい。依頼を達成したのは確かだ。報奨金とお前が冒険者になる事を認めよう」
「なんだよ? 金もくれんのか?」
「依頼を達成したから当然だろう。その頭をこちらに引き渡してくれるのであれば、報奨金にプラスして金を支払おう。素材の買い取り、というやつだ」
「そうなのか? 一応、胴体の方も持ってきてるんだけど、それも引き取ってもらえるのか?」
「もちろんだ。バジリスクの素材は中々に貴重だからいい値で買い取るぞ」
「俺には必要のねぇもんだからな。じゃあ、早速……」
「ここで出さんでいい!!」

 魔法を唱えようとした颯空をサガットが全力で止める。自分の部屋に体長二十メートルを優に超える蛇の化け物の死骸など出されたらたまったものではなかった。

「冒険者ギルドには素材の買い取り口がある。今、お前の担当を呼ぶからその者に場所を聞いてくれ。……担当者に希望などはあるか?」
「別に誰でもいい」
「ならば、最初に受付で対応したパルムにしよう」

 そう言うと、サガットが机にある小さな蓄音機のような形をしている物に話しかける。あれは魔道具か。この世界では電気の代わりに魔力を使う多種多様な便利な道具があると城で習った。おかげで、宿舎にあるシャワーを使うのには苦労したものだ。あの頃は'呪い'を克服しておらず、自分の魔力を使うのもままならなかったから。
 サガットが呼び出してから一分も経たないうちに部屋の扉がノックされた。

「入っていいぞ」
「失礼します! 受付嬢のパルム、ただいま参上しまし……!!」

 元気よく入ってきたパルムがバジリスクの頭を見て、銅像のように動かなくなる。そのまま白目をむき、ゆっくりと仰向けに倒れた。

「後の事はパルムに聞くといい。ガンドラの冒険者ギルドにおけるお前の担当だ。色々と教えてもらえ」
「いや、気絶してんじゃねぇか」

 もう自分の仕事は終わったといわんばかりに、サガットが手元にある書類に目を通し始める。颯空はバジリスクの頭と同じように無様に転がる自分の担当を見て、深々とため息を吐いた。
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