12 / 12
第十話 会長と元カレ、そして元カレの犯した罪
しおりを挟む
会長にナイフを出して攻撃しようとした、会長の元カレで、従兄弟だという足元で泡を吹いて倒れている男――。
まあ、僕が投げて倒してしまったんだけれども、やりすぎたかなぁ――
でも気になるのが――
「会長、この人が会長を狙ったのって、もしかして会長の立ち位置とか関係してますか?」
と若菜が会長に質問する。
会長の立ち位置かあ――
「関係なくはないと思います――」
なんかハッキリしないなあ――こうなったら――
「起こして聞いてみたほうがハッキリするんじゃないかと――」
「何を言ってんだ!コイツは会長を――」
ぼくが提案すると、副会長が睨んできたので、
「だからですよ」
「暴れたら――」
「そのために、体を縛ってたらいいんじゃないかと――」
「それでも――」
「あ、心配しなくても、ここにいる雪菜さんは元自衛官ですから大丈夫です!」
副会長があまりにしつこいので、とうとう若菜が副会長を睨んで言った。
若菜の目は切れ長なだけあって、普段はタレ目の可愛い目でも睨むと流石に怖い――
「そ、それなら――」
と、副会長も若菜にはタジタジで、すごすごと引き下がった。
雪菜さんがどこから出したのかロープで伸びている会長の元彼を大の字で縛ると、これまたどこから出したのかバケツを渡された若菜が、バケツに海水を汲んで戻ってきた。
「雪菜さん、はい」
「ありがとうございます。では!――」
バシャン!
雪菜さんが伸びてる会長の元カレの顔に思い切り海水をかけた。
「う!ブォホ!ゴホッ!うわ、しょっぱっっ!」
会長の元カレが目を覚まして、海水の塩辛さに悶えて……そして体が動かないことにようやく気づいたようで――
「ちょっ!なんだよコレ!外せよっっ!」
暴れ出す会長の元カレ。
その元カレをただじっと見つめる会長――
「おい由香里、俺にこんなことして許されると思ってるのか?」
元カレが会長を睨みつけて言うけど、会長はただじっと元カレを見つめるだけで何も言わない。
「由香里、お前とんだ女だな。俺と付き合っておきながらあんな奴なんかと婚約しやがってよ――」
パンッ!
元カレを会長がひっぱたいた。会長の目には涙が浮かんでいるようにも見えるけど――
「何しやがんだ!このくそアマッ!」
「ワタクシだって、あなたとそのまま結婚したかったわよっ!でも、あなたがワタクシをお父様を裏切ったんじゃないっ!
ワタクシはあなたと結ばれたとき、どんなに幸せだったか、わかる?
どんなにあなたを信じていたかわかる?
お父様はあれ以来、ずっと病院のベッドの上よ。あなたがあんなことさえしなければ、ワタクシは……ワタクシはあなたと幸せになりたかった!あなたならお父様の跡をしっかり継いでくれる人だと信じてた!
でも、そうね――ワタクシにはあなたという人間の本質を見抜けるだけの目を持ってなかったわ。でも今はあの人がいるから――」
会長が涙を流しながら叫ぶように言った。
この人がどれだけこの男を好きだったか、愛していたかが伝わってきたように感じた。
しかし――
「あ、あれは――おじさんが悪いんだ!おじさんが俺を試すようなことをしなければ、そうすれば――」
元カレが言い訳を始めた。ぶっちゃけ聞くだけ無駄だと思って黙らせようと思ったけど、若菜が腕をつかんで首を横に振って、僕を止めた。
――いまはダメ――
若菜がそんなことを言っているような気がして、僕は若菜に頷いて若菜の手を握った。
「だからって、あなたはお父様の食事にゴマを入れたの?お父様がゴマでアナフィラキシーショックを起こしていることはあなたも知っていることでしょ?
それなのに――そのせいで奇跡的にも命はとりとめたけど、もう話すことも食べることすらもできないのよ!
あなたは、お父様を二度ころしたも同然よ!
お父様はあなたを本当に大切にしていたわ。お父様はあなたの料理が一番好きだった。だからあなたがうちに来て料理を作ってくれることはお父様にとって一番の安らぎでもあったのよ!
それをあなたは――」
さすがにこれは予想していなかった。アレルギーは父さんが持ってるからすごく大変なことはよく知ってる。幸運にも僕もひなもそのアレルギー体質を受け継ぐことはなかったけど――。
しかし、一度アナフィラキシーショックを起こしてる人に対して追い打ちをかけるとは――やっぱり黙っていられない。
――と思っていたら、
「ギャーッ!」
と元カレが泣き叫んでいた。
何が起きているのかというと――
雪菜さんが、元カレの股間をかかとで踏みつぶしていた――
あれは痛そうどころの話じゃない――僕がやられているわけでもないのに、思わず股間を抑えてしまう。たぶん、これは男ならだれでもやってしまう反応だと思う。
「今の話のほかに何か隠していることは?」
雪菜さんがドスの利いた声で元カレに問いかけるけど、男は半分白目をむいていてしゃべれない状況にも見える。あの状態じゃきっと雪菜さんの全体重がかかとに乗ったんだと思う――。
あ、もちろん雪菜さんは女性としても素晴らしいプロポーションの持ち主だということは一応解説しておいた方がいいだろう――。
と、雪菜さんが後ろ手でバケツを差し出してきた。そのバケツはすぐに若菜が受け取って海へ走り、海水を汲んで戻ってくる若菜。
「はい、雪菜さん」
「ありがとうございます、お嬢様――」
バシャッ!
「うわッ!しょっぱい!」
元カレが意識を取り戻す。
そして――
「い、痛いッ!やめてくれッ!つ、つぶれるっっ!」
「他に隠していることは?――」
と雪菜さんが元カレの股間をかかとでぐりぐりと踏みしめながら問いかける。
「言う、言うから――やめてくれ。本当につぶれる――」
元カレが閉じられない脚を何とか閉じようとしながら懇願する――けど、
「嘘を言ったら、本気でつぶすよ!?」
と雪菜さんがさらにドスの利いた声で元カレを脅す。
自衛官ってこんなに怖い人たちばかりなんだろうか――自衛官や元自衛官を敵に回しちゃいけない気がしてきた僕でした――。
「い、今、由香里の婚約者はある場所にいる。今頃はきっと薬漬けだろうけどな――」
と、元カレが自由になった事で強気になったのか会長に不適な笑みを浮かべながらそう言った。
しかし――
「これは、もっとしつけが必要ね――」
と――
「ギャーッ!待って……言ったじゃないかッ!嘘は言ってない!」
雪菜さんが右足を振り上げると、思い切り体重をかけるようにして右足のかかとを元カレの股間に落としていた。
さすがにやばいんじゃないかなあ――
「嘘を言ってないなら、会長さんの婚約者は今どこにいるの?はっきり言えば、やめてあげるわ」
雪野さん、この状況に酔っているのか、目が思い切り座って、そしてその瞳が笑っている。思い切りドSの顔だよ――
「わ、わかった!言う!言うからーっっ!やめてくれー!」
とうとう元カレが泣き叫んだ。
「言うまで続けるからね」
やばい、雪菜さんは本気でヤバイな人だ――
「わかったーっ!言うからーっ!言うからグリグリはやめてくれーっ!」
雪菜さんが「仕方ない……」と右足を元彼の股間からどけると、砂浜にかかとをこすりつけるようにして、「バッチーものさわった」みたいな表情をしている。
「あ、アイツは……今、東町奥にあるゲームセンターの地下倉庫にいる……」
と、ゼエゼエ言いながら元カレが答える。
「東町のゲームセンターってもう潰れたはずじゃ?」
僕が記憶をたどって言うと、元カレが――
「だから集まりやすい場所なんだよ」
と――。
つまりはそういう連中とつるんでいる事を明かしたことになった元カレは、アホなのかそのことに気づいていないばかりか、
「きっと、あいつの事なんか嫌いになるぜ?俺ともう一度やり直さないか、由香里?」
と、会長をゲスた目で見る元カレ――
そして、そんな元カレに嫌気が差したような表情の会長が雪菜さんに軽く頷いてその場を離れた。
会長に頷かれた雪菜さんは――すごく嬉しそうな表情で、どこから出したのか、指が出せるタイプの格闘技の試合でも選手が使ってる手袋をして未だ大の字に縛られている元カレの脇腹のそばに右膝をつくと、元カレにすごく優しく微笑んでから、右腕を元彼の脇腹に落とした。
「グァッ!」
その一発で男は失神した。
その後、あの元カレのロープは解かれ、手だけを縛った状態にしたことを確認した会長がある場所に連絡した。
会長が連絡してから数分後、黒塗りのバンが会長の家――というか、別荘らしいけど――の駐車場につくと、バンの中からどこの海軍人ですか?と言いたくなるような黒ずくめのゴツい男の人たちが降りてきて、元カレを版のトランクに載せてどこかへ運んでいった。
ちょっと心配になったので、会長にどこに連れて行ったのかを聞いてみたら、
「親戚のやってる病院ですわ」
と――。
治療が済み次第、警察に突き出すとのこと。さっきの元カレが話した内容はすでに録音しているらしく、これも警察に出すそうだ。
元カレの件は、これて一応僕たちの手を離れたので、次は会長の婚約者を救出する作戦を練らなきゃならない。
でも、それには僕たち高校生だけの手では無理そうだし、どうするかと考えていたら――
「差し出がましいようですが、私の方から手を回しておきました」
と、若菜が会長に話した。
「ありがとうございます、吉川さんのところなら安心ですわ」
と若菜に礼を言う会長。その目はかなり沈んでいた。
そりゃ信用していたはずの元カレに、大切な父親を病院のベッドから離れられない体にされ、しかも会長自身の命も狙ってきたのだから――。
「若菜、僕たちに何かできることはない?」
吉川家が動くということは、婚約者の僕としても何かしらしなくてはいけないような気がした。
でも――
「義人さんのそのお気持ちだけで。出てくるのはその道の専門の方々ですので――」
と若菜はにっこり笑ってそう言う。
でもそれって、逆に『僕は足手まとい』と言われているようで――
「義人様は、お嬢様をお守りください。それは義人様にしかできないことですよ」
と雪菜さんがフォローしてくれるけど――
雪菜さん、その専門の人たちに加わりたいって思い切り顔に書いてるんですが――
とりあえず、僕たちの出る幕はなくなったようだけど――でも会長は何とか自分の手で婚約者を救い出したいと思っているに違いないと思う。
その会長の思いを何とか果たしてあげられないものだろうか?――
僕は、会長のことを若菜に伝えてみると、
「大丈夫です。会長さんには一番最後に大事なお仕事がありますので――」
と若菜が返してくる。
いったいどんな仕事が待っているのか――。
まあ、僕が投げて倒してしまったんだけれども、やりすぎたかなぁ――
でも気になるのが――
「会長、この人が会長を狙ったのって、もしかして会長の立ち位置とか関係してますか?」
と若菜が会長に質問する。
会長の立ち位置かあ――
「関係なくはないと思います――」
なんかハッキリしないなあ――こうなったら――
「起こして聞いてみたほうがハッキリするんじゃないかと――」
「何を言ってんだ!コイツは会長を――」
ぼくが提案すると、副会長が睨んできたので、
「だからですよ」
「暴れたら――」
「そのために、体を縛ってたらいいんじゃないかと――」
「それでも――」
「あ、心配しなくても、ここにいる雪菜さんは元自衛官ですから大丈夫です!」
副会長があまりにしつこいので、とうとう若菜が副会長を睨んで言った。
若菜の目は切れ長なだけあって、普段はタレ目の可愛い目でも睨むと流石に怖い――
「そ、それなら――」
と、副会長も若菜にはタジタジで、すごすごと引き下がった。
雪菜さんがどこから出したのかロープで伸びている会長の元彼を大の字で縛ると、これまたどこから出したのかバケツを渡された若菜が、バケツに海水を汲んで戻ってきた。
「雪菜さん、はい」
「ありがとうございます。では!――」
バシャン!
雪菜さんが伸びてる会長の元カレの顔に思い切り海水をかけた。
「う!ブォホ!ゴホッ!うわ、しょっぱっっ!」
会長の元カレが目を覚まして、海水の塩辛さに悶えて……そして体が動かないことにようやく気づいたようで――
「ちょっ!なんだよコレ!外せよっっ!」
暴れ出す会長の元カレ。
その元カレをただじっと見つめる会長――
「おい由香里、俺にこんなことして許されると思ってるのか?」
元カレが会長を睨みつけて言うけど、会長はただじっと元カレを見つめるだけで何も言わない。
「由香里、お前とんだ女だな。俺と付き合っておきながらあんな奴なんかと婚約しやがってよ――」
パンッ!
元カレを会長がひっぱたいた。会長の目には涙が浮かんでいるようにも見えるけど――
「何しやがんだ!このくそアマッ!」
「ワタクシだって、あなたとそのまま結婚したかったわよっ!でも、あなたがワタクシをお父様を裏切ったんじゃないっ!
ワタクシはあなたと結ばれたとき、どんなに幸せだったか、わかる?
どんなにあなたを信じていたかわかる?
お父様はあれ以来、ずっと病院のベッドの上よ。あなたがあんなことさえしなければ、ワタクシは……ワタクシはあなたと幸せになりたかった!あなたならお父様の跡をしっかり継いでくれる人だと信じてた!
でも、そうね――ワタクシにはあなたという人間の本質を見抜けるだけの目を持ってなかったわ。でも今はあの人がいるから――」
会長が涙を流しながら叫ぶように言った。
この人がどれだけこの男を好きだったか、愛していたかが伝わってきたように感じた。
しかし――
「あ、あれは――おじさんが悪いんだ!おじさんが俺を試すようなことをしなければ、そうすれば――」
元カレが言い訳を始めた。ぶっちゃけ聞くだけ無駄だと思って黙らせようと思ったけど、若菜が腕をつかんで首を横に振って、僕を止めた。
――いまはダメ――
若菜がそんなことを言っているような気がして、僕は若菜に頷いて若菜の手を握った。
「だからって、あなたはお父様の食事にゴマを入れたの?お父様がゴマでアナフィラキシーショックを起こしていることはあなたも知っていることでしょ?
それなのに――そのせいで奇跡的にも命はとりとめたけど、もう話すことも食べることすらもできないのよ!
あなたは、お父様を二度ころしたも同然よ!
お父様はあなたを本当に大切にしていたわ。お父様はあなたの料理が一番好きだった。だからあなたがうちに来て料理を作ってくれることはお父様にとって一番の安らぎでもあったのよ!
それをあなたは――」
さすがにこれは予想していなかった。アレルギーは父さんが持ってるからすごく大変なことはよく知ってる。幸運にも僕もひなもそのアレルギー体質を受け継ぐことはなかったけど――。
しかし、一度アナフィラキシーショックを起こしてる人に対して追い打ちをかけるとは――やっぱり黙っていられない。
――と思っていたら、
「ギャーッ!」
と元カレが泣き叫んでいた。
何が起きているのかというと――
雪菜さんが、元カレの股間をかかとで踏みつぶしていた――
あれは痛そうどころの話じゃない――僕がやられているわけでもないのに、思わず股間を抑えてしまう。たぶん、これは男ならだれでもやってしまう反応だと思う。
「今の話のほかに何か隠していることは?」
雪菜さんがドスの利いた声で元カレに問いかけるけど、男は半分白目をむいていてしゃべれない状況にも見える。あの状態じゃきっと雪菜さんの全体重がかかとに乗ったんだと思う――。
あ、もちろん雪菜さんは女性としても素晴らしいプロポーションの持ち主だということは一応解説しておいた方がいいだろう――。
と、雪菜さんが後ろ手でバケツを差し出してきた。そのバケツはすぐに若菜が受け取って海へ走り、海水を汲んで戻ってくる若菜。
「はい、雪菜さん」
「ありがとうございます、お嬢様――」
バシャッ!
「うわッ!しょっぱい!」
元カレが意識を取り戻す。
そして――
「い、痛いッ!やめてくれッ!つ、つぶれるっっ!」
「他に隠していることは?――」
と雪菜さんが元カレの股間をかかとでぐりぐりと踏みしめながら問いかける。
「言う、言うから――やめてくれ。本当につぶれる――」
元カレが閉じられない脚を何とか閉じようとしながら懇願する――けど、
「嘘を言ったら、本気でつぶすよ!?」
と雪菜さんがさらにドスの利いた声で元カレを脅す。
自衛官ってこんなに怖い人たちばかりなんだろうか――自衛官や元自衛官を敵に回しちゃいけない気がしてきた僕でした――。
「い、今、由香里の婚約者はある場所にいる。今頃はきっと薬漬けだろうけどな――」
と、元カレが自由になった事で強気になったのか会長に不適な笑みを浮かべながらそう言った。
しかし――
「これは、もっとしつけが必要ね――」
と――
「ギャーッ!待って……言ったじゃないかッ!嘘は言ってない!」
雪菜さんが右足を振り上げると、思い切り体重をかけるようにして右足のかかとを元カレの股間に落としていた。
さすがにやばいんじゃないかなあ――
「嘘を言ってないなら、会長さんの婚約者は今どこにいるの?はっきり言えば、やめてあげるわ」
雪野さん、この状況に酔っているのか、目が思い切り座って、そしてその瞳が笑っている。思い切りドSの顔だよ――
「わ、わかった!言う!言うからーっっ!やめてくれー!」
とうとう元カレが泣き叫んだ。
「言うまで続けるからね」
やばい、雪菜さんは本気でヤバイな人だ――
「わかったーっ!言うからーっ!言うからグリグリはやめてくれーっ!」
雪菜さんが「仕方ない……」と右足を元彼の股間からどけると、砂浜にかかとをこすりつけるようにして、「バッチーものさわった」みたいな表情をしている。
「あ、アイツは……今、東町奥にあるゲームセンターの地下倉庫にいる……」
と、ゼエゼエ言いながら元カレが答える。
「東町のゲームセンターってもう潰れたはずじゃ?」
僕が記憶をたどって言うと、元カレが――
「だから集まりやすい場所なんだよ」
と――。
つまりはそういう連中とつるんでいる事を明かしたことになった元カレは、アホなのかそのことに気づいていないばかりか、
「きっと、あいつの事なんか嫌いになるぜ?俺ともう一度やり直さないか、由香里?」
と、会長をゲスた目で見る元カレ――
そして、そんな元カレに嫌気が差したような表情の会長が雪菜さんに軽く頷いてその場を離れた。
会長に頷かれた雪菜さんは――すごく嬉しそうな表情で、どこから出したのか、指が出せるタイプの格闘技の試合でも選手が使ってる手袋をして未だ大の字に縛られている元カレの脇腹のそばに右膝をつくと、元カレにすごく優しく微笑んでから、右腕を元彼の脇腹に落とした。
「グァッ!」
その一発で男は失神した。
その後、あの元カレのロープは解かれ、手だけを縛った状態にしたことを確認した会長がある場所に連絡した。
会長が連絡してから数分後、黒塗りのバンが会長の家――というか、別荘らしいけど――の駐車場につくと、バンの中からどこの海軍人ですか?と言いたくなるような黒ずくめのゴツい男の人たちが降りてきて、元カレを版のトランクに載せてどこかへ運んでいった。
ちょっと心配になったので、会長にどこに連れて行ったのかを聞いてみたら、
「親戚のやってる病院ですわ」
と――。
治療が済み次第、警察に突き出すとのこと。さっきの元カレが話した内容はすでに録音しているらしく、これも警察に出すそうだ。
元カレの件は、これて一応僕たちの手を離れたので、次は会長の婚約者を救出する作戦を練らなきゃならない。
でも、それには僕たち高校生だけの手では無理そうだし、どうするかと考えていたら――
「差し出がましいようですが、私の方から手を回しておきました」
と、若菜が会長に話した。
「ありがとうございます、吉川さんのところなら安心ですわ」
と若菜に礼を言う会長。その目はかなり沈んでいた。
そりゃ信用していたはずの元カレに、大切な父親を病院のベッドから離れられない体にされ、しかも会長自身の命も狙ってきたのだから――。
「若菜、僕たちに何かできることはない?」
吉川家が動くということは、婚約者の僕としても何かしらしなくてはいけないような気がした。
でも――
「義人さんのそのお気持ちだけで。出てくるのはその道の専門の方々ですので――」
と若菜はにっこり笑ってそう言う。
でもそれって、逆に『僕は足手まとい』と言われているようで――
「義人様は、お嬢様をお守りください。それは義人様にしかできないことですよ」
と雪菜さんがフォローしてくれるけど――
雪菜さん、その専門の人たちに加わりたいって思い切り顔に書いてるんですが――
とりあえず、僕たちの出る幕はなくなったようだけど――でも会長は何とか自分の手で婚約者を救い出したいと思っているに違いないと思う。
その会長の思いを何とか果たしてあげられないものだろうか?――
僕は、会長のことを若菜に伝えてみると、
「大丈夫です。会長さんには一番最後に大事なお仕事がありますので――」
と若菜が返してくる。
いったいどんな仕事が待っているのか――。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる