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キーン
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「帰るか……」
憎っくきザッツバーグとミントのパーティーが迷宮に入っていくのを見送って、それからいくつかのパーティーが入っていくのを見てから、僕は公園広場を後にした。
宿に帰る前にギルドに寄って、今回の収穫を買い取ってもらう。
買取価格はほぼ予想通りで、二万四千円だった。
特に買いたい物も無いので、四千円だけ受け取って、後はギルドバンクに預け入れることにした。
それから、念の為、何か伝言がないか確認して、やっぱりな結果にがっかりしながら、ギルドを出て、朝からやっている馴染みの喫茶店に移動した。
「はいおはよーございますいっしゃぃせー」
僕は空いてる二人用の小さなテーブルの椅子に荷物を下ろし、反対側の椅子に座って「モーニング、目玉焼きとトーストでお願いします」と注文した。
「はいよー」
喫茶店の雰囲気を壊し続けるその声は、朝から聞くにはちょっと暑苦しい。
でも、たったの四百円でコーヒーと目玉焼きとトースト、それから気まぐれでサラダやスパゲティが食べられる店はなかなかないから、貧乏性な僕は、結局いつもここに来るんだ。
案の定、ポテトサラダとサラスパが一緒に出てきた。サラダ&サラダだ。
最初の頃は
「頼んでないですよ」
「サービスだから」
「いいんですか?」
「おう、遠慮しないで食え食え」
というやり取りがあったけど、今では
「ありがたくいただきます」
「おう、食ってくれ」
と、ほんの少しだけど簡略化されている。
まあ、だいたい僕はコーヒーをお代わりするんだけど、その度にクッキーやらフレンチトーストやら唐揚げやら、訳のわからない物まで出してくれるので、いつの頃からか、帰る時には千円を出してお釣りをもらわないようになった。
これが、ここ二ヶ月の、朝に摂る夕飯の一部始終だ。
さて。いつもならお代わりのコーヒーを飲み終えて終わりなんだけど、今日はちょっと違った。
「ちょっといいか?」
そう言って、マスターがとんっ、とアイスコーヒーを僕のテーブルに置いて来たのだ。
そして僕の荷物を取って店のカウンターの裏に置き、誰かを手招きした。
呼ばれてやって来たのは、僕と同い年くらいの青年だった。
彼は椅子には座らずに、僕に軽く会釈をしてから自己紹介をしてきた。
「俺はキーンっていいます。グーメシュさんから君のことを聞いて、もし良かったら一緒にやれないかな、と思って声を掛けさせてもらいました」
いきなりの話に、僕が返せたのは純粋な疑問だけだった。
「えっと……グーメシュさんって、誰?」
「はーはっはっはっ。朝の件は悪かったな、キーン、それからソルト」
その日の夜、僕らは喫茶店ファットキャットバイトのマスターのグーメシュさんと、ほぼ新人探索者のキーンさん、それに僕ソルトの三人で、グーメシュさんのお店を貸し切って食事をする事になった。
いや、ファットキャットバイトは夜は営業してないから、貸し切りって言い方はちょっと違うのかもしれないけど。
「ホントだよ。全然話が通ってないどころか、おじさんのことさえ知らないとか焦ったよ!」
「僕もですよ。グーメシュって誰だとか言っちゃいましたよ。いきなり何の話だ、って混乱しましたし」
今は事情を説明してもらって、状況が分かってるから和やかに過ごせているんだけど。
朝はモヤモヤと二ヶ月前の事を思い出してたし、帰ろうと思ったら唐突に荷物を取り上げられて、知らない人から自己紹介されて、と急な展開で頭がついていかなかった。
どうやら、グーメシュさんは僕の事を前々から知っていたらしい。と言うのも、この喫茶店はマヨのお気に入りの店で、グーメシュさんとはカウンターで食事をしながら会話をする常連なんだそうだ。
パーティーを解散した後、僕がたまにこの店に来ている所を見たマヨは、グーメシュさんに自分のパーティーが解散したことについて相談していたらしい。
「で、どうかな。お試しでもいいから、俺と一緒に、一回迷宮に入ってもらえないかな」
しばらく話した後、キーンは本題に入ってきた。
「僕としても一緒にやってくれる人を探してたからありがたい話なんだけど……」
僕が躊躇している理由は一つ。
キーンはまだ六レベルなんだけど、既にスキルを持ってるって事だった。
「マヨに聞いたんなら知ってると思うけど、僕はまだスキルを持ってないんだ」
「うん、知ってる。おじさんから聞いたよ。でも、スキルなしでも二刀流なんだろ?」
「そんなことまで知ってるんだ。ん~~、二刀流って言っても我流だけどね。剣を二本持ったからって強いってわけじゃないよ」
「でも、俺には剣二本を持ちあげるだけでもキツそうなことだから、振り回せるだけでも凄いと思うよ。それに、パーティーを解散してもソロでやってるってのも凄いと思う。一緒にやってみて無理そうなら断ってくれていいから、まずは一回、一緒に入ってくれないかな」
ここまで言われたら、とりあえず一回は一緒にやってみるしかないかな。
僕としてはありがたい話だし、そもそも仲間を探してる最中なんだから受けるべき話なんだし。
ただ、多少なりとも探索の経験がある人と組むのは難しいかな、って思ってたからなぁ。特にスキル持ってる人が相手だと、無能の自分はパーティーメンバーとして力不足に見えるだろうし。
「じゃあ、まずは一回、行ってみようか。ダメならダメって言ってくれたらいいから」
「いやいや、それはこっちのセリフだって。俺のがレベル低いんだから」
そう言いながら、僕らはお互いに手を差し出して、握手をしたのだった。
憎っくきザッツバーグとミントのパーティーが迷宮に入っていくのを見送って、それからいくつかのパーティーが入っていくのを見てから、僕は公園広場を後にした。
宿に帰る前にギルドに寄って、今回の収穫を買い取ってもらう。
買取価格はほぼ予想通りで、二万四千円だった。
特に買いたい物も無いので、四千円だけ受け取って、後はギルドバンクに預け入れることにした。
それから、念の為、何か伝言がないか確認して、やっぱりな結果にがっかりしながら、ギルドを出て、朝からやっている馴染みの喫茶店に移動した。
「はいおはよーございますいっしゃぃせー」
僕は空いてる二人用の小さなテーブルの椅子に荷物を下ろし、反対側の椅子に座って「モーニング、目玉焼きとトーストでお願いします」と注文した。
「はいよー」
喫茶店の雰囲気を壊し続けるその声は、朝から聞くにはちょっと暑苦しい。
でも、たったの四百円でコーヒーと目玉焼きとトースト、それから気まぐれでサラダやスパゲティが食べられる店はなかなかないから、貧乏性な僕は、結局いつもここに来るんだ。
案の定、ポテトサラダとサラスパが一緒に出てきた。サラダ&サラダだ。
最初の頃は
「頼んでないですよ」
「サービスだから」
「いいんですか?」
「おう、遠慮しないで食え食え」
というやり取りがあったけど、今では
「ありがたくいただきます」
「おう、食ってくれ」
と、ほんの少しだけど簡略化されている。
まあ、だいたい僕はコーヒーをお代わりするんだけど、その度にクッキーやらフレンチトーストやら唐揚げやら、訳のわからない物まで出してくれるので、いつの頃からか、帰る時には千円を出してお釣りをもらわないようになった。
これが、ここ二ヶ月の、朝に摂る夕飯の一部始終だ。
さて。いつもならお代わりのコーヒーを飲み終えて終わりなんだけど、今日はちょっと違った。
「ちょっといいか?」
そう言って、マスターがとんっ、とアイスコーヒーを僕のテーブルに置いて来たのだ。
そして僕の荷物を取って店のカウンターの裏に置き、誰かを手招きした。
呼ばれてやって来たのは、僕と同い年くらいの青年だった。
彼は椅子には座らずに、僕に軽く会釈をしてから自己紹介をしてきた。
「俺はキーンっていいます。グーメシュさんから君のことを聞いて、もし良かったら一緒にやれないかな、と思って声を掛けさせてもらいました」
いきなりの話に、僕が返せたのは純粋な疑問だけだった。
「えっと……グーメシュさんって、誰?」
「はーはっはっはっ。朝の件は悪かったな、キーン、それからソルト」
その日の夜、僕らは喫茶店ファットキャットバイトのマスターのグーメシュさんと、ほぼ新人探索者のキーンさん、それに僕ソルトの三人で、グーメシュさんのお店を貸し切って食事をする事になった。
いや、ファットキャットバイトは夜は営業してないから、貸し切りって言い方はちょっと違うのかもしれないけど。
「ホントだよ。全然話が通ってないどころか、おじさんのことさえ知らないとか焦ったよ!」
「僕もですよ。グーメシュって誰だとか言っちゃいましたよ。いきなり何の話だ、って混乱しましたし」
今は事情を説明してもらって、状況が分かってるから和やかに過ごせているんだけど。
朝はモヤモヤと二ヶ月前の事を思い出してたし、帰ろうと思ったら唐突に荷物を取り上げられて、知らない人から自己紹介されて、と急な展開で頭がついていかなかった。
どうやら、グーメシュさんは僕の事を前々から知っていたらしい。と言うのも、この喫茶店はマヨのお気に入りの店で、グーメシュさんとはカウンターで食事をしながら会話をする常連なんだそうだ。
パーティーを解散した後、僕がたまにこの店に来ている所を見たマヨは、グーメシュさんに自分のパーティーが解散したことについて相談していたらしい。
「で、どうかな。お試しでもいいから、俺と一緒に、一回迷宮に入ってもらえないかな」
しばらく話した後、キーンは本題に入ってきた。
「僕としても一緒にやってくれる人を探してたからありがたい話なんだけど……」
僕が躊躇している理由は一つ。
キーンはまだ六レベルなんだけど、既にスキルを持ってるって事だった。
「マヨに聞いたんなら知ってると思うけど、僕はまだスキルを持ってないんだ」
「うん、知ってる。おじさんから聞いたよ。でも、スキルなしでも二刀流なんだろ?」
「そんなことまで知ってるんだ。ん~~、二刀流って言っても我流だけどね。剣を二本持ったからって強いってわけじゃないよ」
「でも、俺には剣二本を持ちあげるだけでもキツそうなことだから、振り回せるだけでも凄いと思うよ。それに、パーティーを解散してもソロでやってるってのも凄いと思う。一緒にやってみて無理そうなら断ってくれていいから、まずは一回、一緒に入ってくれないかな」
ここまで言われたら、とりあえず一回は一緒にやってみるしかないかな。
僕としてはありがたい話だし、そもそも仲間を探してる最中なんだから受けるべき話なんだし。
ただ、多少なりとも探索の経験がある人と組むのは難しいかな、って思ってたからなぁ。特にスキル持ってる人が相手だと、無能の自分はパーティーメンバーとして力不足に見えるだろうし。
「じゃあ、まずは一回、行ってみようか。ダメならダメって言ってくれたらいいから」
「いやいや、それはこっちのセリフだって。俺のがレベル低いんだから」
そう言いながら、僕らはお互いに手を差し出して、握手をしたのだった。
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