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マヨ
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「や、やあ、久しぶり」
少しおどおどしながら話し掛けて来たのは、パーティーを解散して以来、数ヶ月ぶりに見る顔だった。
「やあ、元気だった?」
どうせミントの差し金なんだろうな。そう思いつつも、僕はマヨと久し振りに会った事で、少し嬉しい気持ちになってしまった。
言葉数は少ないものの、お互いに少しずつ、あれからの事を話した。
その流れで、マヨが「僕が開いた店に食べに来てほしい」と言い出した。少し嫌な予感はしたけど、僕は素直に頷いて、彼の店に移動した。
迷宮内で人が安全に過ごせる場所、つまり、魔物がまったく現れないエリアは、広いようでいて狭い。
そんな中で、小さいとは言え、自分の店を出すことができたマヨは、実は凄い。
マヨの後ろについて路地を奥に進むと、そこには所狭しと何件もの店があった。
ここら辺には来たことがなかったので、黒うさぎ亭がある辺りとの違いに、少し気圧されてしまう。
「こ、ここだよ」
そう言いながら、マヨが鍵を回し、少し細い扉を開けると、中はカウンターテーブルがあり、それが奥の壁まで続いている。マヨは店に入ると、その大きな体を小さく屈めて、カウンターの下をくぐってキッチン側に入った。
「ど、どうぞ」
僕は店の一番奥に誘導された。店の中にはミントはおらず、少しほっとした。ミントがいるんじゃないかと思ってたんだけど、そんなことはないようだった。
ちなみに、店内には椅子はないようだ。
テーブルに肘を置けるのは六人くらいまでだろう。
マヨは内側から鍵を掛けて、「ま、まだ、店が始まる時間じゃ、ないから。ゆっくり、ふ、二人で飲もう」と言った。
店の一番奥は、外の喧騒が少し遠くなる分だけ静かだ。
僕達は、マヨが作ってくれたつまみを食べながら色々と話した。
この店は買ったわけじゃなくてレンタルなんだそうだ。ゆくゆくは買いたいらしいんだけど、まだまだお金が足りないらしい。
毎月のレンタル代も結構高いらしくて、買い取る為の貯金まではできないのが現状だそうだ。
でも、店の売上自体はそれなりにあるんだそうだ。ただ、それでも足りないってことは、本当に「それなり」なんだろう。
一度に店に入れる人数を考えたら、それは仕方ない事なのかも知れない。
「だ、だからさ。また迷宮に入ろうかと、思ってるん、だ」
マヨが、週に一日くらい、迷宮に入って稼ぎたい、と言い出した。でも、僕らがパーティーを組んでいた頃の稼ぎは、一回で一人当たり十万もなかったはずだ。
ソロだと二万くらいしか稼げないから、人数が増えた方が効率的ではあるけど……まあ、そう言う話じゃないんだろうな。
「ソルト、強くなったって聞いたし、ミ、ミントにも声掛けて、さ。も、もちろん、僕の取り分は少なめでいい、から。どうか、な」
「僕が強くなったって、ミントから聞いたの?」
「ん? 違う、よ。お客さんが、尻尾落としって、言ってた。ス、スキルがなかったのに、いきなり強くなった、って言って、たから。くわ、詳しく聞いたら、ソルトの事だって、分かったん、だ」
「その話してたの、誰か聞いてもいい?」
「……ミントじゃ、ない。けど、あんまり、ソルトが嬉しくない人か、も」
それはキーンだった。
そう言えば、マヨはグーメシュさんと知り合いだったんだっけ。すっかり忘れてたよ。
話を聞くと、グーメシュさん繋がりで、キーンはマヨの店に通うようになったんだそうだ。
ちなみに、キーンは今、グーメシュさんの店に入店禁止らしい。それは、僕に対して酷い事をしたのが原因なんだそうだ。
グーメシュさんも元は迷宮で探索者をやってたそうだ。それで、「キーンがやった事は間違ってる」と説教をしてくれたそうだ。
でも、キーンは「あいつが悪い。俺が切り捨てられる理由なんてなかったはずだ」の一点張りだったらしい。
尚且、最近になって僕が水魔法を使えるようになったから「また仲間に入れてやろうとしたのに断られた。あいつは人として駄目だ」などと愚痴ってきたらしく、それで「まだ分かんねーのかお前は」と言う事でグーメシュさんがキレて入店禁止になったんだとか。
……この店もキーンを入店禁止にしてほしいものだ。そうじゃないと、今後、この店に来ることができない。まあ、ここはマヨの店だし、収入源は減らしたくないだろうから、そんな事はできないんだろうけど。
まあ、そう言う裏話があった上で、既にキーンを受け入れてる訳だし、しれっとミントの話も出てきたからなぁ。
パーティーが解散した件について、今はマヨには何も思っていない。まあ、マヨが探索者を辞めると言ったのが解散の原因だったけどね。それは仕方ない部分があるから。
ある程度のお金を手に入れた探索者が、命の危険がある迷宮に入るのを辞めると言うのは、よくある普通の話だし。
迷宮に入る目的の違いだ。
「僕はまたレイド戦に参加したいと思ってるし、二階層やそれよりももっと深い所にも行ってみたいと思ってるんだ」
そう言うと、マヨはもう分かってくれたようだった。
「だから、一階層でちょっと稼ごうか、って話には付き合えない、かな。せっかく声掛けてくれたのに悪いんだけどさ」
「そう、かぁ。うん、ソルトは本当に強くなったんだ、ね。ちょ、ちょっと残念、だけど、でもなんか、少し嬉しい、かな」
それから僕らは、他愛のない話をしたり、迷宮牛の肉や、何か迷宮産の食材が手に入ったら安く譲る、なんて事を話してからお開きにした。
意外にちゃんと商売人になっているマヨを見て、僕も前を向いて頑張ろうと思ったのだった。
少しおどおどしながら話し掛けて来たのは、パーティーを解散して以来、数ヶ月ぶりに見る顔だった。
「やあ、元気だった?」
どうせミントの差し金なんだろうな。そう思いつつも、僕はマヨと久し振りに会った事で、少し嬉しい気持ちになってしまった。
言葉数は少ないものの、お互いに少しずつ、あれからの事を話した。
その流れで、マヨが「僕が開いた店に食べに来てほしい」と言い出した。少し嫌な予感はしたけど、僕は素直に頷いて、彼の店に移動した。
迷宮内で人が安全に過ごせる場所、つまり、魔物がまったく現れないエリアは、広いようでいて狭い。
そんな中で、小さいとは言え、自分の店を出すことができたマヨは、実は凄い。
マヨの後ろについて路地を奥に進むと、そこには所狭しと何件もの店があった。
ここら辺には来たことがなかったので、黒うさぎ亭がある辺りとの違いに、少し気圧されてしまう。
「こ、ここだよ」
そう言いながら、マヨが鍵を回し、少し細い扉を開けると、中はカウンターテーブルがあり、それが奥の壁まで続いている。マヨは店に入ると、その大きな体を小さく屈めて、カウンターの下をくぐってキッチン側に入った。
「ど、どうぞ」
僕は店の一番奥に誘導された。店の中にはミントはおらず、少しほっとした。ミントがいるんじゃないかと思ってたんだけど、そんなことはないようだった。
ちなみに、店内には椅子はないようだ。
テーブルに肘を置けるのは六人くらいまでだろう。
マヨは内側から鍵を掛けて、「ま、まだ、店が始まる時間じゃ、ないから。ゆっくり、ふ、二人で飲もう」と言った。
店の一番奥は、外の喧騒が少し遠くなる分だけ静かだ。
僕達は、マヨが作ってくれたつまみを食べながら色々と話した。
この店は買ったわけじゃなくてレンタルなんだそうだ。ゆくゆくは買いたいらしいんだけど、まだまだお金が足りないらしい。
毎月のレンタル代も結構高いらしくて、買い取る為の貯金まではできないのが現状だそうだ。
でも、店の売上自体はそれなりにあるんだそうだ。ただ、それでも足りないってことは、本当に「それなり」なんだろう。
一度に店に入れる人数を考えたら、それは仕方ない事なのかも知れない。
「だ、だからさ。また迷宮に入ろうかと、思ってるん、だ」
マヨが、週に一日くらい、迷宮に入って稼ぎたい、と言い出した。でも、僕らがパーティーを組んでいた頃の稼ぎは、一回で一人当たり十万もなかったはずだ。
ソロだと二万くらいしか稼げないから、人数が増えた方が効率的ではあるけど……まあ、そう言う話じゃないんだろうな。
「ソルト、強くなったって聞いたし、ミ、ミントにも声掛けて、さ。も、もちろん、僕の取り分は少なめでいい、から。どうか、な」
「僕が強くなったって、ミントから聞いたの?」
「ん? 違う、よ。お客さんが、尻尾落としって、言ってた。ス、スキルがなかったのに、いきなり強くなった、って言って、たから。くわ、詳しく聞いたら、ソルトの事だって、分かったん、だ」
「その話してたの、誰か聞いてもいい?」
「……ミントじゃ、ない。けど、あんまり、ソルトが嬉しくない人か、も」
それはキーンだった。
そう言えば、マヨはグーメシュさんと知り合いだったんだっけ。すっかり忘れてたよ。
話を聞くと、グーメシュさん繋がりで、キーンはマヨの店に通うようになったんだそうだ。
ちなみに、キーンは今、グーメシュさんの店に入店禁止らしい。それは、僕に対して酷い事をしたのが原因なんだそうだ。
グーメシュさんも元は迷宮で探索者をやってたそうだ。それで、「キーンがやった事は間違ってる」と説教をしてくれたそうだ。
でも、キーンは「あいつが悪い。俺が切り捨てられる理由なんてなかったはずだ」の一点張りだったらしい。
尚且、最近になって僕が水魔法を使えるようになったから「また仲間に入れてやろうとしたのに断られた。あいつは人として駄目だ」などと愚痴ってきたらしく、それで「まだ分かんねーのかお前は」と言う事でグーメシュさんがキレて入店禁止になったんだとか。
……この店もキーンを入店禁止にしてほしいものだ。そうじゃないと、今後、この店に来ることができない。まあ、ここはマヨの店だし、収入源は減らしたくないだろうから、そんな事はできないんだろうけど。
まあ、そう言う裏話があった上で、既にキーンを受け入れてる訳だし、しれっとミントの話も出てきたからなぁ。
パーティーが解散した件について、今はマヨには何も思っていない。まあ、マヨが探索者を辞めると言ったのが解散の原因だったけどね。それは仕方ない部分があるから。
ある程度のお金を手に入れた探索者が、命の危険がある迷宮に入るのを辞めると言うのは、よくある普通の話だし。
迷宮に入る目的の違いだ。
「僕はまたレイド戦に参加したいと思ってるし、二階層やそれよりももっと深い所にも行ってみたいと思ってるんだ」
そう言うと、マヨはもう分かってくれたようだった。
「だから、一階層でちょっと稼ごうか、って話には付き合えない、かな。せっかく声掛けてくれたのに悪いんだけどさ」
「そう、かぁ。うん、ソルトは本当に強くなったんだ、ね。ちょ、ちょっと残念、だけど、でもなんか、少し嬉しい、かな」
それから僕らは、他愛のない話をしたり、迷宮牛の肉や、何か迷宮産の食材が手に入ったら安く譲る、なんて事を話してからお開きにした。
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