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戦争
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ミツキと共に迷宮を北西に進む。
西部地区を経由するから、石人形に挑む人の数をその目で確認してもらった。
西部地区に着いたのは真夜中過ぎだったけど、いくつものパーティーが起きていて、ゴーレムが現れるのを待っているのを見てもらう事ができた。
昼の方がもっと人が多い事を教えると、ギルマスも僕も嘘をついてなかったのだな、とようやっと信じてもらえたようだった。
その二時間後、僕とミツキは北西エリアに到着した。
前回、一緒にトラ退治をした人達がいて、僕はなんだかホッとした。
そこにはランドルさんたちもいて、僕がミツキと行動してるのを見てがっかりしていた。
ギルマス命令……ギルマスからの依頼である事は言えない(という約束がある)ので、「先に誘ってもらったのにすみません」と謝っておくことにした。
「せめて次のレイドでは一緒に戦って、楽に勝たせてくれよな」
と、なんとも他力本願な事を軽く返してきたので、「その時はよろしくお願いします。一緒に頑張りましょう」と、僕にしてはかなり大人で前向きな返事をしておいた。
そして、ソロ探索者の方々と挨拶をしつつ水を販売し、サナムさんに挨拶をしに行った。
「暫くはどっちも出てこないと思うんだがな。アージェスから伝達が来たから俺も戻ってきたんだ」
どうやらサナムさんもギルマスの犠牲者らしい。
「サナムさんがいてくれると心強いです」
「そっちが例の?」
「ああ、挨拶が遅れたの。わしはミツキという。侍は分かるかの?」
「もちろんだ。俺もヤヨイ殿にはお世話になったからな」
「おお、話が早くて助かる。魔物が出ればわしも前で戦うことができるからの。よろしく頼む」
「ああ、こちらこそ」
「さて、ソルトよ。お主は何故、わし以外の者をさん付けで呼び、わしのことをミツキと呼び捨てるのじゃ?」
他の探索者達から少し離れてから地面に座ると、ミツキは座らずに上から見下ろすようにして、そう尋ねてきた。
無意識にやってた事なので、何故と聞かれてもよく分からない。
僕は面倒事になるのが嫌なので、「あー、ごめん。次からは気をつけるよミツキさん」と返事をした。
そうしたら、もっと面倒な事になった。
「い、いや、そういう事ではないのじゃ」
「えっ? っと、じゃあミツキ殿?」
そう言えば、ギルマスもサナムさんもヤヨイ殿、って呼んでたもんなぁ。イースタールの人には、殿と付けて呼ぶのが正しいのかも知れない。
「違う。違うのじゃ。ミツキのままでよいのじゃ。そうでなくて、何故、わしのことだけ名を呼び捨てるのかを聞きたかっただけなのじゃ」
「ん~、分かんないんだよね」
「そ、そうか。ま、まあ、分からぬのなら詮無いことじゃの」
よく分からないけど、別に名前だけで呼んでもいいらしい。ならそうさせてもらおうかな。
少し休んだあと、僕とミツキはレイドモンスターが出る北西エリアを出て、迷宮の北西部一帯を探索することにした。
レイドモンスターの守護神と言うか、ベテランのサナムさんが「暫くは湧かない」と言ってるんだから、数日は離れても大丈夫だろう。トラが出たのも、前回ワニが出てから、一ヶ月以上経ってからの事だったそうだし。
小鬼、迷宮狼、迷宮大ミミズなどと戦い、対魔物でのミツキの動きを確認していった。
レベル的に言えば、ミツキが苦戦するような相手はここら辺にはいないはずなんだけど、同時に出てくる数が多い場合には多少苦戦するようだった。
戦いつつ、場所を移動しながら、僕はミツキから、まだ聞けてなかった話を聞いていた。
実は、彼女が迷宮に入るのは、今回のメールスフィアが初めてのことなんだだそうだ。随分と戦いなれているから、イースタールと言う国にも迷宮があるのかと思っていたんだけど、そうじゃないらしい。
東の国イースタールには迷宮がないから、イースタールの人間の多くは迷宮に関わることがない。
その代わりにと言うにはあれだけど、イースタールの更に東の森、隣国である獣人国ズーラズーとの戦争が終わらないんだそうだ。だから、イースタールの国の人々は、迷宮に入らなくても強くなれるのだと。
僕はイースタールも、獣人国ズーラズーも詳しく知らないから、なんで戦争が戦争してるのかは知らない。
「奴らは獣人ではなく魔人じゃ。我々は奴らを魔族と呼んでおる。わしらは人の国と争ってるのではなく、魔族から人族の領地を守っておるのじゃ」
国同士の戦争だからね。お互いに言い分があるんだろうけど。
獣人国側の所見も聞いてみたい気もするけど、僕は何も聞かず、「そうなんだ。戦争とか大変だね」と言っておいた。
僕の言い方が少し軽かったせいか、ミツキは少し微妙な顔をしたけど、「ああ、なかなか大変なんじゃよ」とだけ返事をしただけだった。
それで戦争の話は終わった。
それにしても戦争か。
人と魔物が戦うのは理解できるんだよね。だって、言葉が通じないから。魔物は人間を襲うために迷宮内に湧くと言うし、迷宮内の魔物が飽和状態になれば外に出て人を襲い出すしね。事実、過去に迷宮から魔物が出てきた事が何度かあって、それを抑える為に迷宮内の出口付近を、魔物と戦える者が住む街にしたんだし。
だから、これは戦争じゃなくて、人側からしたら「防衛」なんだよね。
獣人と人間は言葉が通じるのかな。
ミツキは「戦争」だと言ってるから、きっと言葉は通じるんだろうな。その上で仲良くできないから、戦い続けてるんだろう。
お互いに欲しい物があるのか、それともどちらかが戦いを仕掛けてきてるのか、それとも人種の違いが原因なのか……
僕はかるく首を横に振って、この話を頭から弾き飛ばした。
ここは迷宮。
余計な事で頭をいっぱいにしてたら危険だ。
僕は《索敵》をして、次の通路の奥に意識を向けた。
西部地区を経由するから、石人形に挑む人の数をその目で確認してもらった。
西部地区に着いたのは真夜中過ぎだったけど、いくつものパーティーが起きていて、ゴーレムが現れるのを待っているのを見てもらう事ができた。
昼の方がもっと人が多い事を教えると、ギルマスも僕も嘘をついてなかったのだな、とようやっと信じてもらえたようだった。
その二時間後、僕とミツキは北西エリアに到着した。
前回、一緒にトラ退治をした人達がいて、僕はなんだかホッとした。
そこにはランドルさんたちもいて、僕がミツキと行動してるのを見てがっかりしていた。
ギルマス命令……ギルマスからの依頼である事は言えない(という約束がある)ので、「先に誘ってもらったのにすみません」と謝っておくことにした。
「せめて次のレイドでは一緒に戦って、楽に勝たせてくれよな」
と、なんとも他力本願な事を軽く返してきたので、「その時はよろしくお願いします。一緒に頑張りましょう」と、僕にしてはかなり大人で前向きな返事をしておいた。
そして、ソロ探索者の方々と挨拶をしつつ水を販売し、サナムさんに挨拶をしに行った。
「暫くはどっちも出てこないと思うんだがな。アージェスから伝達が来たから俺も戻ってきたんだ」
どうやらサナムさんもギルマスの犠牲者らしい。
「サナムさんがいてくれると心強いです」
「そっちが例の?」
「ああ、挨拶が遅れたの。わしはミツキという。侍は分かるかの?」
「もちろんだ。俺もヤヨイ殿にはお世話になったからな」
「おお、話が早くて助かる。魔物が出ればわしも前で戦うことができるからの。よろしく頼む」
「ああ、こちらこそ」
「さて、ソルトよ。お主は何故、わし以外の者をさん付けで呼び、わしのことをミツキと呼び捨てるのじゃ?」
他の探索者達から少し離れてから地面に座ると、ミツキは座らずに上から見下ろすようにして、そう尋ねてきた。
無意識にやってた事なので、何故と聞かれてもよく分からない。
僕は面倒事になるのが嫌なので、「あー、ごめん。次からは気をつけるよミツキさん」と返事をした。
そうしたら、もっと面倒な事になった。
「い、いや、そういう事ではないのじゃ」
「えっ? っと、じゃあミツキ殿?」
そう言えば、ギルマスもサナムさんもヤヨイ殿、って呼んでたもんなぁ。イースタールの人には、殿と付けて呼ぶのが正しいのかも知れない。
「違う。違うのじゃ。ミツキのままでよいのじゃ。そうでなくて、何故、わしのことだけ名を呼び捨てるのかを聞きたかっただけなのじゃ」
「ん~、分かんないんだよね」
「そ、そうか。ま、まあ、分からぬのなら詮無いことじゃの」
よく分からないけど、別に名前だけで呼んでもいいらしい。ならそうさせてもらおうかな。
少し休んだあと、僕とミツキはレイドモンスターが出る北西エリアを出て、迷宮の北西部一帯を探索することにした。
レイドモンスターの守護神と言うか、ベテランのサナムさんが「暫くは湧かない」と言ってるんだから、数日は離れても大丈夫だろう。トラが出たのも、前回ワニが出てから、一ヶ月以上経ってからの事だったそうだし。
小鬼、迷宮狼、迷宮大ミミズなどと戦い、対魔物でのミツキの動きを確認していった。
レベル的に言えば、ミツキが苦戦するような相手はここら辺にはいないはずなんだけど、同時に出てくる数が多い場合には多少苦戦するようだった。
戦いつつ、場所を移動しながら、僕はミツキから、まだ聞けてなかった話を聞いていた。
実は、彼女が迷宮に入るのは、今回のメールスフィアが初めてのことなんだだそうだ。随分と戦いなれているから、イースタールと言う国にも迷宮があるのかと思っていたんだけど、そうじゃないらしい。
東の国イースタールには迷宮がないから、イースタールの人間の多くは迷宮に関わることがない。
その代わりにと言うにはあれだけど、イースタールの更に東の森、隣国である獣人国ズーラズーとの戦争が終わらないんだそうだ。だから、イースタールの国の人々は、迷宮に入らなくても強くなれるのだと。
僕はイースタールも、獣人国ズーラズーも詳しく知らないから、なんで戦争が戦争してるのかは知らない。
「奴らは獣人ではなく魔人じゃ。我々は奴らを魔族と呼んでおる。わしらは人の国と争ってるのではなく、魔族から人族の領地を守っておるのじゃ」
国同士の戦争だからね。お互いに言い分があるんだろうけど。
獣人国側の所見も聞いてみたい気もするけど、僕は何も聞かず、「そうなんだ。戦争とか大変だね」と言っておいた。
僕の言い方が少し軽かったせいか、ミツキは少し微妙な顔をしたけど、「ああ、なかなか大変なんじゃよ」とだけ返事をしただけだった。
それで戦争の話は終わった。
それにしても戦争か。
人と魔物が戦うのは理解できるんだよね。だって、言葉が通じないから。魔物は人間を襲うために迷宮内に湧くと言うし、迷宮内の魔物が飽和状態になれば外に出て人を襲い出すしね。事実、過去に迷宮から魔物が出てきた事が何度かあって、それを抑える為に迷宮内の出口付近を、魔物と戦える者が住む街にしたんだし。
だから、これは戦争じゃなくて、人側からしたら「防衛」なんだよね。
獣人と人間は言葉が通じるのかな。
ミツキは「戦争」だと言ってるから、きっと言葉は通じるんだろうな。その上で仲良くできないから、戦い続けてるんだろう。
お互いに欲しい物があるのか、それともどちらかが戦いを仕掛けてきてるのか、それとも人種の違いが原因なのか……
僕はかるく首を横に振って、この話を頭から弾き飛ばした。
ここは迷宮。
余計な事で頭をいっぱいにしてたら危険だ。
僕は《索敵》をして、次の通路の奥に意識を向けた。
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