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もずく

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勇者と風の剣 ゴードン

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 ソルトが率いる名もなきクランは、順調にその実力レベルを上げていってるようだ。
 ソルトに関しては、ハーフドラゴンのミューは「あの男には勝てる気がしない。あちしより弱そうなのに」と言うよく分からない評価をしていた。
 セイムスも「三年前とはまったくの別人と言っていいほど強くなられているようです。あの時に是が非でも仲間になっておいてもらうんでした」と、に対する価値付けが厳しい彼が、ソルトにはかなりの高評価を付けている。

 かく言う俺も、ソルトの成長速度には驚かされている。迷宮巨大魔神像デモンスタチュー五竜ヒュドラと戦った頃でもかなりの攻撃力があったが、今はさらに速く、さらに強くなっているようだ。
 まあ、俺達を警戒してるのか、戦ってる所はほとんど見せてはくれないんだけどな。
 それに、ミューが言うように、ソルトは何か得体の知れない強さを隠し持ってる気がする。周りからも言われているように予言オラクルのスキルを隠し持っているのではないだろうか。
 初見の敵に対しても、対応が的確すぎるのだ。まあ、目に見えない事については情報を得ることはできないようだが。

 ミツキがブレイカーズクラン風の剣に入ると知った時のソルトの落胆ぶりと言ったら……

「セイムス、奴らの装備を視た・・?」
「ええ、あの真っ赤な全身鎧フルプレートアーマーは聞いたことのない魔物の討伐報酬のようですよ」
「アンタ、相変わらずマワリクドイのよ」
「すみませんね。情報の価値を高める事は、情報提供者の価値を上げる事にも繋がりますので」
「それでどうなのよ」
「ええ、彼らはおそらく、五階層のレイドモンスターを倒していますね。モンスターの名はは火竜ファイアドレイクです」
「かざみねが言ってたのとスコシ違う」
「そうね。風峰は火炎竜フレイムドレイクと言っていたはずよ」
「それは同じ個体ではないからでしょうね。魔竜王ではなく、単なる竜だったのではないかと」
「へ~、ソウなのか」
「でも、五階層のレイドモンスターが討伐されたのが最近ならチャンスってことよね」
「ええ。あの真面目なレイドパーティーは、おそらく討伐後にまっすぐ帰ってきてるのでしょう。だとすれば、今ならすぐに六階層に入る事ができます」
「ダな」
「行くわよ。今からは全力で六階層を目指すわ」
 話がまとまったようだ。レイナが出発の号令を口にしつつ、俺に顔を向けて、顎をくいっとマサキ達の方に動かした。
 十五、六にしか見えない小娘に、正に「顎で使われる」状態だが、クラン風の剣の新参者としては従わざるを得ない。そもそも、俺は対勇者、対探索者ギルドの為に声を掛けられたんだからな。



 斥候として大空洞の様子を見に行った俺達は、マサキ達のいる小さな空洞に戻ると、セイムスの宝具鑑定スキルから推測される予想を伝えて彼らを軽く煽る。

「マサキ、どうやらソルト達は五階層の最奥にいるレイドモンスターを討伐したようだ」
「「え?」」
「ソルトが?」
「(ちっ!)」

 勇者マサキとミツキが驚きの声を上げ、賢者マルメルが嬉しそうな声を上げた。
 そして、聖女クリームが密かに舌打ちをした。
 耳がいいのも考えものだな。聞こえなくていいものは聞きたくないんだが。

「重戦者隊の新装備か?」
 頭の回転の早いヨルグがすぐに訪ねてきた。俺ではなくセイムスに。
「ええ、人の持ち物を覗き見るなんて、コソ泥のように思われますか?」
「いや、あんた達からは色々と支援を受けてるからな。こんなことで責めるつもりはねーよ。ただ、情報の出処を知りたかっただけだ。んで、ついでで悪いんだが、わざわざ斥候から帰ってきてからそれを言い出した目的も聞かせてほしい」
 ヨルグは頭の回転が本当に早い。俺達が斥候の最中に「勇者パーティー本体がいない所で」相談してきた点にすぐに気が付いたようだ。
「特に理由はありません。装備が「火竜ファイアドレイクのドロップ」と、少し我々が知る情報と違いましたので、先に風の剣のメンバーだけで話し合っただけです。誤った情報で勇者の皆様を混乱させる訳にはいきませんので」
「……そうか」
「くぅ」
 聖女はぐうの音はでなかったが、「くぅ」と子犬のように唸った。
 以前、セイムス達からの情報で動いたせいで、ソルト達に戦功を譲ることになってしまった事があり、その時に「あまりにも不確定要素の多い話は混乱の元になりますので、勇者様の足を引っ張らないようにお気をつけくださいましね」とのお達しが聖女様からあった。
 まあ、それすらもレイナとセイムスの策略だったんだがな。まんまと、こちらが
 賢者が文句を言ってくるだろうと言う予測だったんだが、聖女から文句が来たことで、セイムスが少しバタついたのがおかしかったっけな。

「それはともかくとして。結局、君は何を進言したいんだい?」
「話が早くて助かります。私達はクランの為に、一刻も早く六階層に入りたいのです」
「なるほど。じゃあ、今から五階層の最奥を探し出して、ギルドからのゴーが出たら一番で六階層に入るってことだね?」
「いえ、勇者マサキ。五階層のレイドモンスターがどの程度の間隔で湧き直すのかが分かりませんので、できれば直ぐにでも入りたいのです」
「それは無理だ。勇者パーティーとして、探索者ギルドが許可していない事を知りながら進む事はできない」
 こちらの願いには賢者が拒否の姿勢を見せる。するとレイナが俺を見る。
 まあ、その為に俺が入った訳だからな。

「賢者マルメル。俺がギルドのサブマスターの権限で許可を取っているから大丈夫だ」
「名もなきクランが街に到着するのは明後日かその次の日くらいでしょう。今から五階層の未確認エリアを探索すれば、彼らが戻ってくるよりも早く勇者マサキが・・・・・・誰よりも早く六階層に入った、と言う栄誉・・を手に入れられることでしょう」

 セイムスが「マサキが」「栄誉」を強調した言葉を、俺に続けて話した。どちらかと言えば、聖女に向けて。

「勇者マサキ様が、大迷宮メールスフィアの到達階層を更新すると言うことですね。素晴らしいことです」

 そして、聖女はまんまとセイムスの振り・・に乗っかってくる。本当、付き合いが長くなれば長くなるほど、聖女様と言うよりも、腹黒くて愚かな貴族のような娘だと言う事がよく分かるな。
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