プレーヤープレイヤー

もずく

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グリフォンレイス・アークリッチ

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 ミレニアの野性的勘のおかげで、ほぼノータイムでアークリッチ戦を回避できた僕は、最短ルートを全力で駆け抜けて、まだ立って戦っているミツキの姿をようやっと見る事ができた。
 まだ後ろ姿だけだけどね。

 火魔法の炎を白金の白竜の長剣に纏わせて、《全力全開》《瞬歩》《怪力》の同時に発動することでグリフォンレイスの目の前に一瞬で移動する。そしてブレスを吐く寸前のグリフォンレイスに対して、《必中》《剛剣》《連撃》を重ね掛して、その鷲の頭と首を弾き飛ばした。
 見た目は薄青色の半透明のグリフォンだけど、こいつはレイスだ。だから、頭を弾き飛ばしたように見えても、実は霧散しただけで、生命力が無くならない限り何度でも復活する。
 ……幽霊レイスなのに生命力ってのも変な話なんだけどさ。
 ま、いいか。ともかく、こいつは頭が無い状態でも大きな翼を羽ばたかせて風魔法の《暴風》や《風壁》のような攻撃をしてきたり、ライオンのような前足で殴りかかってきたりするようなヤツだから、油断は禁物ってことだ。
 ただ、僕の場合は既に何度か戦った場面を観ているからね。それらのことを知っている僕にとってはそれ程の強敵ではない。と思う。

「少し離れてて」

 僕は超高級傷薬の小瓶を、ミツキとマルメルの足元に何個か叩きつけて二人を回復させる。
 そして、驚いた顔でこっちを振り返ったミツキに、更に二個の小瓶を投げ渡した。
《再生》以外で見る、久々の生の初二人の顔に、少し込み上げてくるものが無いではなかったけど、平然(を装いつつ)と次のターンをこなしていく。

「《風壁》」

 予想通り、翼で《暴風》を使ってきたグリフォンレイスに対して、僕は《魔力強化》を重ねた《風壁》で相手の起こした風を霧散させた。

「《五竜火柱》」

 そして、ミレニアの特技であるヒュドラピラーで、五本の極太火柱をグリフォンレイスを囲むように創り出し、更に即座に《竜巻》を発動した。

 実は、頭を吹き飛ばす所まではマルメルも成功してるんだよね。
 羽のある敵には風魔法。相手も強い風魔法を使ってくるけど、同じ属性の魔法が効果抜群というのが不思議な感じがして面白い。この情報はマルメルが教えてくれたことで、だから彼女が風魔法で戦っていたのは当たり前のことなんだ。
 そして、この《竜巻》は今回の再生でマルメルから学習した魔法だったりする。そう。これは《五竜火柱》と同じで、マルメルの独自魔法ユニークスペルなんだよね。
「なんでキミがその魔法を」って声が後ろから聞こえてきた。
 僕はその声を無視して、《魔物鑑定》でグリフォンレイスのステータスを見続ける。
 暴れるグリフォンレイスの前足を剣で受け流しながら、羽が巻き起こす《暴風》が後ろにいる二人に届かないように《魔法盾》で受け止めた。
 数十秒後、グリフォンレイスのステータスが見れなくなったことで、完全討伐を達成した事を確認した。



 話したい事は沢山あった。
 それはお互い様だったと思う。
 でも僕は、マルメルに「魔法で結界を張って待ってて」とだけお願いして、彼女達と別れて来た道を戻った。

 ミレニア達は大丈夫だろうか。
 アークリッチは倒せているだろうか。
 カインとザイアン達は無事に進んでいるだろうか。
 ミツキとマルメルの二人のことも大事ではあるけど、僕の無茶な提案に乗ってクランを組んでくれて、一緒に探索をしてきた彼らも同じくらい大事な仲間だ。彼らが無事であることは大円団の第一条件だから……
 帰りの道のりも、僕は全力で、行きと同じスピードで走った。



「戻って来い!」
「《中位回復》……まだ死なせないわ。カイン様が呼んでいるのよ、戻って来なさい!」

「《暴風》!」
「《雹雨》!」
「《旋風》!」

「こっちを向けい!」
「我はここにあり、である!」

 アークリッチとの遭遇地点よりも、超巨大空洞に近い場所に地獄があった。
 空洞の至る所には黒い炎が燃え続けている。その中で、クランのみんなは満身創痍の状態で戦い続けていた。
 ほんの少し前にスマッシャーズと重戦者隊が着いたようだ。
 そして、ドルムの《挑発》と、ザイアンの《絶対防御》でアークリッチの引き付けにちょうど成功した所みたいだった。

 もうすぐ二時間が経ってしまう。
 みんなの状態によっては、すぐにでも《再生機プレーヤー》を使わないといけない。
 僕はアークリッチを倒すのと同時に状況の確認をする為に、《怪力》と《大跳躍》を使って空洞の天井まで一気にジャンプした。

 カインの声からして最悪な事態も予想してたけど、どうやらミレニアには四肢欠損は無いようだ。ただ、左半身が青紫色になっていて、火傷なのか凍傷なのか分からない事にはなっている。
《中位回復》と超高級傷薬で治せるだろうか。
 ヴァイオレットレインの他のみんなは、スーが壁際で座り込んでいるけど、それ以外の三人は大丈夫そうだ。
 スマッシャーズも重戦者隊も全員いる。
 ミレニアの回復ができるかどうかが気になるけど、大体の流れとしては大きな問題はなさそうに見える。

 僕は天井の岩を掴んでいた両手を離して天井を蹴る。加速しつつ落ちていく体に力を入れ、火魔法を纏わせた長剣と短剣で、グリフォンレイスの時と同じように全力の《連撃》をアークリッチに叩き込んだ。
 既にミレニア達が削ってくれていたからか、僕のその十連撃がとどめになった。
 断末魔が響く中、勝利の余韻に浸る間もなく、僕はミレニアに駆け寄った。
 まだ戦いは終わってない。

 ミレニアの左半身の酷い火傷は、アークリッチが放った《絶対零度》と言う超級の魔法が原因だった事が後になって分かった。
 スーを助けようとして《火柱》を自分に発動しながら突っ込んで行ったのに、《絶対零度》を受けた側の半身のみがダメージを受けたのは、アークリッチの魔力が高かった事の証拠なんだろう。
 最終的に、ミレニアの傷はちゃんと治せたし、スーも全快した。

 そして、ミツキとマルメルも救出できたんだけど……
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