プレーヤープレイヤー

もずく

文字の大きさ
115 / 118

ない

しおりを挟む
 ソルトくんは依頼通り六階層に向かってくれたという話だ。
 彼一人でどうにかできる話じゃあ無いだろうけど、ギルド側の意を汲んでくれている強者が一人でも先行してくれてるのはありがたい。
 今回の件、勇者マサキがいるブレイカーズを含め、クラン風の剣が原因なのだから、この二つの勢力はギルドに敵対している可能性が非常に高いと考えられるわけだしね。
 ミツキ殿もマルメルくんも、それぞれ事情があったのかも知れないが、ギルドが、そしてメールスフィアの街が決めた方針に逆らったのは間違いないわけで、その結果、心構えが出来ていなかった街の者たちに死傷者が出てしまった。
 私はギルドの長として、彼らを罰さなければならない。

 しかし、下層に向かう途中で名もなきクランのメンバーと出会えたのは良かった。
 おかげで、もしも道中でブレイカーズとクラン風の剣に出くわした時の対応を事前に決める事ができた。
 でもまずは最速で六階層に到達することを目標とする。
 私達にできるか分からないけど、六階層に生まれたという魔獣王を早く倒してしまわなければ。

「なかなかきついな、アージェス」
「だね。鍛錬は続けてきたつもりだけど……」
「私はまだまだ行けるぞ」
「きみは後ろから魔道具使うだけだからね」
「年寄には楽をさせるものだ。若者よ」

  サナム、ダルダロイの二人と愚痴を交わしながら、湧き出る死霊や魔獣を倒しつつ四階層を進む。  
 メンバーは減ってしまったけど、昔の仲間と迷宮を走っていると、何歳か若返ったような気持ちになる。
 いや、実際のところ、同年代の人間に比べたら私達はかなり若い。
 それは迷宮の恩恵であり、または呪いとも言えるもののせいだ。
 迷宮的には「魔竜王討伐の報酬」として我々に与えたプレゼントなのだろうけど。
 ただ、迷宮から出ていたダルダロイは、普通に流れる時間の中で生きている為、その呪いの効果恩恵が薄いらしく、私とサナムよりも歳を取っている。

 そう。魔竜王討伐の報酬は、迷宮一階層の南側の一部を魔物が湧かないエリアにしたことの他に、迷宮内にいる限り歳を取るスピードが遅くなる、と言うものもあったのだ。
 その恩恵を受けているのは、魔竜王討伐を行った私とサナム、そしてミストの三人。
 ダルダロイは迷宮に縛られたくないと言って迷宮を出ていた。
 ヤヨイは自身の国、イースタールの為に迷宮を出た。
 そうは言っても、その二人も、十年はサウススフィアの街を作り上げる為に迷宮内にいたから、同年代に比べれば10歳近く若い見た目ではあるのだけど。

「カザミネの動きはどうなんだ?」
 サナムがダルダロイに確認する。既に確認済みの話題のはずなのに、サナムは相変わらず慎重だくどい
「……さっきも話した通り、私たちが迷宮に入る前までは街にいたはずだ。奴に動きがあればムーディーから連絡が入る手はずになっていたからな。奴の動きより、むしろギルドがカザミネやクラン風の剣を抑えられるかどうかの方が心配だよ」
「ミストも来てくれたから、よっぽどの手練が来ない限りは大丈夫じゃないかな。まあ、相手の数次第ってところはあるけど」
 ダルダロイが律儀に答えたので、私もギルドに関して答えておいた。
 ミストと言うのは精霊弓術士で、二十年前の五階層攻略に参加した美魔女だ。私よりも歳上だったはずだけど、今やその見た目は私よりも若々しい。距離を取って戦わせたら、彼女はかなりの強者だ。いや、近距離で戦っても怖い存在なんだけど。
 ギルドにはサブマス達もいるし、ギルド寄りの高レベルパーティーも何組かいるから、カザミネが総力戦で来ない限りはなんとかなるだろう。
 ……いや、見積もりが甘いのは重々承知だ。それでも魔獣王を討伐することを優先しなければならない状況なんだ。

「カザミネはミズーリと同じだ。私達にはない発想、彼らのいた元の世界・・・・の知識で強力な魔道具を創り出す天才だ。あいつがこれまでに創ってきた魔法の武具や魔道具を持ち出してきたら、私がギルドに置いてきた魔道具では立ち打ちできないだろう」
 ダルダロイが不安を口にする。
 普段、自信家を装ってはいるけど、彼の本質は臆病だ。ただ、これは悪いことじゃない。臆病なのはイコール弱いと言うことじゃないんだから。彼が吹かせる臆病風は、彼に防風林となる新たな魔道具や知略を身に着けさせた。
 単に体が強くて、無謀無策で敵に突っ込んで行くだけの戦士わたしより、数十倍は役に立つ。
「大丈夫だよ、ダルダロイ。きみの創った魔装や魔道具も強力な物ばかりだ。後はそれを使う私達の力次第さ」
「だな。俺もお前の持ってきてくれた魔装と魔槍のおかけで、今回は楽させてもらってる。欲を言えば、もっと前に貰いたかったがな」
「それはあれだ。武具に頼らずに戦い続けることでサナム達自身に強くなってもらう必要があったからな」
「おう、任せてくれ。どこかのギルマスみたいに訓練場には行けてなかったが、何十、何百回とレイドモンスターを倒してきたからな。大型相手なら任せてくれ。どんな奴でも止めてみせる」
「サナム……私だってギルドの仕事がなければ現場で戦っていたかったさ」

 私達はこの時に備えてそれぞれが鍛錬準備をしてきた。
 とは言え、迷宮の階層が深くなるにつれて、現場での戦い経験が不足していることを痛感する。
 サナムもつい数年前まではほぼ一階層でしか戦ってなかったわけだし。まあ、数カ月間とはいえ、四階層のレイドモンスター相手に戦っていたのだから、私よりは全然ましなのだろうけど。

 ダルダロイが創ってくれた魔装や大魔剣は強力な物だ。
 でも、肝心の自分の力が足りていない。

 既に「名もなきクラン」とすれ違ってから二日が経っている。魔物が強くて思ったように先に進めてないのだ。
 ようやっと五階層に入ったのだけど、かつて魔竜王と戦った時よりも、魔物がかなり強くなっているのが原因だ。更に、新たな敵である魔獣が手強い。
 魔獣王と言うのが現れたことによって、迷宮内の魔物が一段階強くなってしまったのだろう。かつて、魔竜王が現れた時にも、竜種の魔物が増えて、すべての階層の魔物が強くなった。たぶん、それと同じなんだ。
 このままでは、六階層に入れた所で魔獣王がいるレイド部屋まで辿り着けないかも知れない。

 ソルトくん、そして勇者マサキ達は無事だろうか。そしてクラン風の剣の者達も……生きててもらわないと罪を償わせる事もできないからな。

 そう考えてから、自嘲気味に笑ってしまった。
 人の心配をしてる場合じゃないだろう。


 かつて、私達は魔竜王を倒した。


 だけど、あれよりも強い魔物が現れたら勝てないと悟ったから、探索者としては第一線から退いた。
 英雄と呼ばれる事から逃げたのは、謙遜なんかじゃなくて、有事の際に先頭に立たされる事を嫌っただけだった。
 私以外のみんながどう思ってたかは知らないけど、少なくとも私はそう思っていた。

 それでも街ができると、様々な所から私達を持ち上げる声が上がった。
 だから、隠れ蓑として探索者ギルドを作り、その長となる事で、体よく裏方仕事に徹する事にした。

 ギルマスになってからも鍛錬は続けていた。
 次の階層の開放と、新たな魔物の出現を恐れつつも、私達こそがサウススフィアを守らなければならないと思っていたからだ。
 でも、努力が足りなかった。
 覚悟が足りなかった。
 そして、単純に、力が足りなかった。

 かつての仲間が、魔竜王に殺された場面を思い出す。
 ミザーリはヤヨイとダルダロイを庇って死んでいった。
 魔竜王の雷の息吹サンダーブレスを背中で受けきった彼の姿が、今、眼前で氷の息吹フリーズブレスを引き受けてくれているサナムに被って見える。

 私は、私達の力は、燃えるように熱い五階層で、身も凍る程の攻撃を受けて、無惨にも……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...