自由に自在に

もずく

文字の大きさ
2 / 94

ガチャらしい

しおりを挟む
 あの後、順番に水晶玉に触れていき、自分を含めて十一人全員のスキル判定が完了した。
 なんと十一人中十人が職業スキルというのを持っていて、一人だけが職業スキルを持っていなかった。

 そしてその一人とは僕だ。

 僕が手に入れた(または与えられた)スキルは《自由自在》というものだった。
 他の人が手に入れた職業スキルとは名称が明らかに違っていたし、なんだか強いスキルだということがぱっと理解できたので、ジョルさん、いや爺さんにはとりあえず「武器や防具が装備できるみたいです」と嘘の内容を答えておいた。
 ちなみに、光り方は白と似て見えたけど実は黒い光の文字だった。

 で、今、僕は大部屋の隅で寝そべっている。
 ここは所謂ハズレ・・・部屋なんだそうだ。
 この大部屋には僕の他に、水晶玉を白に光らせた高校生二人と、青に光らせた専門学校に通う女の子が一人いる。
 一応、お互いに自己紹介はしあったけど、彼らは心ここにあらずというか放心状態なので今は何か話し合うこともできそうにない。だから僕はのんびりしている。
 というか他にやることがない。
 だから目を閉じて《自由自在》についての理解を深めてゆく。

 そうして一時間ほどが過ぎた。
 大部屋の扉が静かに開く。

「えー、ハズレの皆様方。大変心苦しく、また申し訳なく思うのでございますがそろそろお時間でございます。ギルドには話を通させていただきましたのですぐにでも働き始められるかと存じます」

 扉から姿を現したのは先程の爺さんだった。
 そして慇懃無礼という言葉を体現したかのような見事な台詞で僕らを追い出しにかかった。
 先に説明されていて分かっていたことなので、僕は起き上がって素直に爺さんの前に行った。
「こちらをどうぞ」
 爺さんが渡してきた袋を受け取ると中身を確認する。中身は十枚の金貨だ。
 僕は頷きもせず、何も言わず、袋を持って大部屋から出た。
「ご武運を」
 にやりとした笑みを湛えながらのその言葉も、僕はさらっと無視することにした。
 他の三人がこれからどうするのかは知らないし僕には関係ない。だから振り返らずに一人で屋敷を出ることにした。

 僕を含めた十一人は、あの爺さんの説明によるとガチャのようなもので召喚されたらしい。
 この世界には神のような存在がいて、その神に供物を捧げることで他の世界から「闘士」を召喚できるのだそうだ。
 そう、まるでゲームのガチャシステムだ。
 そしてゲームのガチャと同じで、召喚された闘士にはランクがある。
 白、青、緑、黄、赤、金の順に強くなっていくそうだ。つまり、水晶玉を触った時の光の色は引いたキャラのレア度を表していたのだ。
 今回は結構当たりだったらしく、十一人中ハズレは四人だけ。半分以上が「使える」ランクの闘士だったので大満足の結果だったそうだ。
 緑が四人、黄色が一人、赤が二人。
 赤はスーツのおじさんと長髪のロッカーみたいな人だった。職業スキルは聖騎士と忍者と言っていたな。確かに強そうなスキルだ。

 でだ。
 そもそも、なんで彼らが召喚なんてことをしているのかと言えば、どうやらこの世界には魔物が住むダンジョンがあり、その奥底には宝物や命の源と呼ばれる物があるらしく、この世界の権力者達はそれを求めてダンジョンを攻略しようとしているのだそうだ。
 僕らを召喚したチャールズ男爵も、ダンジョンを攻略して(攻略させて)力を手に入れ、更なる上級貴族に成り上がろうとしている者の内の一人なのだという。

 でだ。
 何故、ハズレとは言え供物を捧げてまで召喚した闘士を捨てるのかというと、それはこの世界の神らしき者が定めたルールに従ってのことらしい。判明しているルールはざっくりと二つ。

 自身の貴族位によって保有できる戦力には上限があること。
 召喚された者を丁重に扱うこと。

 これらを守らない者には神の鉄槌かと思える程の不幸が訪れる為、貴族達はなるべく余分な闘士を持ちたがらないのだという。
 また、この戦力上限のルールがある為、不要ハズレ闘士は即座に放逐するのが通例なのだそうだが、ここでも「召喚された者を丁重に扱うこと」というルールも適用されるらしく、この世界で生きていく為の職業の斡旋と、暫く生きていけるだけの金銭を渡すのが流れになっているのだという。

 ここまでの内容を説明することも「召喚された者を丁重に扱うこと」というルールに含まれていることなのだそうだ。
 自分が不幸な目に遭わない為の行動だったとしても、見知らぬ世界にぽんと放り出されてしまうよりはマシなのだけど、チャールズ男爵や爺さんに感謝しようとは到底思えなかった。

(ここか……)

 男爵邸を出て、教えてもらった道を進んでいくと大通りに出た。大通りを時計台のある方に進んでいけばギルド通りがあると言われてここまで来たが、その情報に嘘はなかったようだ。
 いくつかの建物の看板や窓には、英語で○○ギルドと書かれている。
 知っているアルファベット文字が見れて少し安心したけど、残念なことに僕は英語が得意ではない。
 が、よく見れば日本語や中国語、それにどこの国かよく分からない文字が小さく併記されているようだ。

 ダンジョン攻略ギルド
 冒険者ギルド
 傭兵ギルド
 魔術師ギルド
 ギルド案内

 普通に・・・読める文字で書かれているギルドは五つもあるようだ。
 現地の文字で書かれているギルドもいくつかあるが、僕の場合、日本語を頼って動いた方が間違いが少ないだろう。
 少し悩んだけど、なんとなく冒険者ギルドと書かれた建物に入ってみることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...