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ダンジョン攻略ギルド
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「反省会ですか?」
「はい、反省会です」
熊野君の方を見る。目が合うと彼ははっとした顔をして、それから「遠足は家に帰るまでが遠足って言うっす、冒険は反省会が終わるまでが冒険っすよ」なんてことを言いだした。いや、君にそんな反応は求めてなかったんだけどな。「えー、なんなんすか反省会って?」くらい言ってほしかった。
「申し訳ないんですが、僕にも元々の予定がありまして……」
「昨日、約束を破ったのに?」
「それはすみませんでした。でもそれは今日の約束が時間をオーバーしたこととウサギで帳消しにしてもらえませんか?」
「じゃさ、反省会じゃなくて後で普通に食事会ならどーお?」
「いいっすね! フトウさん、俺ら美味い和食屋さん見つけたんすよ。そこでどうですか?」
「和食ですか?」
「うぃっす」
まだこの世界に来て二日目だから、別に日本食が恋しいとかはないんだけど、一応、どこにあるかくらいは押さえておいた方がいいかな。まあ、この街にいつまでいるか分からないから覚えても使わないかも知れないけど。
「分かりました。その店はちょっと遅めでも大丈夫ですか?」
「っしゃー。はい、確か十時までやってたはずっす」
「やるじゃん真司」
「おすっ」
夜九時に宿の前で待ち合わせることにして、僕は三人と別れた。
彼らはこれから冒険者ギルドにウサギの納品に行く予定だ。山口さんはいらないと言ってたけど、僕が狩った分も彼らに渡してあるので、彼らはクエストとやらの報酬を貰えるはずだ。
これで彼らも脱初心者として扱われることだろう。
めでたしめでたしだ。
でだ。
やっと一人になれた僕は、少しタイミングをずらしてダンジョン攻略ギルドに向かった。
ダンジョン攻略ギルドの造りは冒険者ギルドと全く同じようだ。
違うのは室内の明るさくらいかも知れない。
ここはかなり暗い。各テーブルとカウンターに一つずつ燭台があって、それぞれ一本ずつ小さな火が灯る蝋燭が立っているだけだからだ。
あ、そう言えばカンテラを買おうと思ってたんだった。
ここで買え……ないよな、たぶん。
「お~い、ドア開けっ放しでつっ立ってんじゃねーよ。早く閉めてくれ」
「あ、すみません。暗くてちょっと驚いてました」
「なんだ、あんたここは初めてなのか。素材の依頼かい?」
「いえ、ちょっとダンジョンについて聞きたいことがあって」
「情報はただじゃないぜ?」
「先に値段を教えてもらえたらありがたいです」
「ふっ、入んな」
僕は中に入りカンウターまで進んだ。暗いので足元を見て慎重に歩いたのだが、何かに頭をぶつけ、そして何かを踏んだか蹴ったかしたらしく音が鳴った。
「二回ぶつかったな。今のが罠や魔物なら大怪我するか死ぬかのどっちかだ」
「なるほど。訓練の為に暗くしてるんですか?」
「そんなところだ。で? 何が聞きたい?」
「そうですね。まずはダンジョン攻略ギルドがどんなところなのか知りたいです」
「ここか? ここは自分の意志でダンジョンに入る闘士の為の互助会みたいなもんだ。お前は闘士か?」
「そう言えば、無理矢理召喚された人のことを闘士って言うんでしたね。はい。そういう意味では僕は闘士です」
「いつ来た?」
「昨日です」
「昨日!? 何人来た?」
「皆さん同じことを聞かれるんですね」
「みんな?」
「はい。ギルド案内でも同じことを聞かれました」
「そうか……で?」
「十一人です」
「そうか……もう聞いてるかも知れんが、十一人を一度に召喚したってことは男爵がそれだけの魔石を集めたってことだ」
召喚する為に供物を捧げるとか言ってたけど、それは魔石のことだったのか。話の腰を折らない為に、僕はとりあえず頷いておいた。
「昨日来たばっかのお前さんには分からんだろうが、魔石を集めるってのはなかなか厄介なんだ。ある程度の大物を倒さなきゃ大きな魔石は手に入らんが、大物なんてダンジョンの下層まで行かなきゃ滅多に会えるもんじゃないしな。だから闘士の召喚なんて滅多にできないはずなんだが……昨日か」
話が分かるようで分からない。
この人の話のどの部分に食い付くのが正解なのかも分からない。
困っているとまた彼が話し始めた。
「実はな、一ヶ月くらい前にも十一人来てるんだよ。この男爵領に」
「なるほど」
つまり、滅多にできないはずの十一人召喚をたったの一ヶ月でまたやったということは……
「ああそうだ。前回の召喚でかなり強いスキルを持った奴が現れてたみてーだってことだな」
ふむ……でも、それは個人的には別にどうでもいいことかな。
男爵が力を持ちすぎるのは嫌な感じはするけどね。どちらかと言えば、できれば破滅してほしい相手ではあるから。
「ところで、お聞きしたいのですが」
「お前さん、分かってねえな? そんな奴とダンジョンで出くわしてみろ、魔物なんかより危険度高えぞ」
「え? 人間同士で戦いになる可能性って高いんですか?」
「男爵はダンジョンの最奥にあると言われている聖杯ってのを狙ってるからな。その障害になり得る物には容赦しない方針らしいぜ」
「それは怖い。ところでそのダンジョンですけど、入るのに資格やお金は必要ですか?」
情報を手に入れるには金が必要と言ってた割に、僕の聞きたい話が聞けない勢いで情報をだだ漏れしてくれているこのおじさんに、あまりにも話が進まないので僕はストレートに聞いてみた。
「はい、反省会です」
熊野君の方を見る。目が合うと彼ははっとした顔をして、それから「遠足は家に帰るまでが遠足って言うっす、冒険は反省会が終わるまでが冒険っすよ」なんてことを言いだした。いや、君にそんな反応は求めてなかったんだけどな。「えー、なんなんすか反省会って?」くらい言ってほしかった。
「申し訳ないんですが、僕にも元々の予定がありまして……」
「昨日、約束を破ったのに?」
「それはすみませんでした。でもそれは今日の約束が時間をオーバーしたこととウサギで帳消しにしてもらえませんか?」
「じゃさ、反省会じゃなくて後で普通に食事会ならどーお?」
「いいっすね! フトウさん、俺ら美味い和食屋さん見つけたんすよ。そこでどうですか?」
「和食ですか?」
「うぃっす」
まだこの世界に来て二日目だから、別に日本食が恋しいとかはないんだけど、一応、どこにあるかくらいは押さえておいた方がいいかな。まあ、この街にいつまでいるか分からないから覚えても使わないかも知れないけど。
「分かりました。その店はちょっと遅めでも大丈夫ですか?」
「っしゃー。はい、確か十時までやってたはずっす」
「やるじゃん真司」
「おすっ」
夜九時に宿の前で待ち合わせることにして、僕は三人と別れた。
彼らはこれから冒険者ギルドにウサギの納品に行く予定だ。山口さんはいらないと言ってたけど、僕が狩った分も彼らに渡してあるので、彼らはクエストとやらの報酬を貰えるはずだ。
これで彼らも脱初心者として扱われることだろう。
めでたしめでたしだ。
でだ。
やっと一人になれた僕は、少しタイミングをずらしてダンジョン攻略ギルドに向かった。
ダンジョン攻略ギルドの造りは冒険者ギルドと全く同じようだ。
違うのは室内の明るさくらいかも知れない。
ここはかなり暗い。各テーブルとカウンターに一つずつ燭台があって、それぞれ一本ずつ小さな火が灯る蝋燭が立っているだけだからだ。
あ、そう言えばカンテラを買おうと思ってたんだった。
ここで買え……ないよな、たぶん。
「お~い、ドア開けっ放しでつっ立ってんじゃねーよ。早く閉めてくれ」
「あ、すみません。暗くてちょっと驚いてました」
「なんだ、あんたここは初めてなのか。素材の依頼かい?」
「いえ、ちょっとダンジョンについて聞きたいことがあって」
「情報はただじゃないぜ?」
「先に値段を教えてもらえたらありがたいです」
「ふっ、入んな」
僕は中に入りカンウターまで進んだ。暗いので足元を見て慎重に歩いたのだが、何かに頭をぶつけ、そして何かを踏んだか蹴ったかしたらしく音が鳴った。
「二回ぶつかったな。今のが罠や魔物なら大怪我するか死ぬかのどっちかだ」
「なるほど。訓練の為に暗くしてるんですか?」
「そんなところだ。で? 何が聞きたい?」
「そうですね。まずはダンジョン攻略ギルドがどんなところなのか知りたいです」
「ここか? ここは自分の意志でダンジョンに入る闘士の為の互助会みたいなもんだ。お前は闘士か?」
「そう言えば、無理矢理召喚された人のことを闘士って言うんでしたね。はい。そういう意味では僕は闘士です」
「いつ来た?」
「昨日です」
「昨日!? 何人来た?」
「皆さん同じことを聞かれるんですね」
「みんな?」
「はい。ギルド案内でも同じことを聞かれました」
「そうか……で?」
「十一人です」
「そうか……もう聞いてるかも知れんが、十一人を一度に召喚したってことは男爵がそれだけの魔石を集めたってことだ」
召喚する為に供物を捧げるとか言ってたけど、それは魔石のことだったのか。話の腰を折らない為に、僕はとりあえず頷いておいた。
「昨日来たばっかのお前さんには分からんだろうが、魔石を集めるってのはなかなか厄介なんだ。ある程度の大物を倒さなきゃ大きな魔石は手に入らんが、大物なんてダンジョンの下層まで行かなきゃ滅多に会えるもんじゃないしな。だから闘士の召喚なんて滅多にできないはずなんだが……昨日か」
話が分かるようで分からない。
この人の話のどの部分に食い付くのが正解なのかも分からない。
困っているとまた彼が話し始めた。
「実はな、一ヶ月くらい前にも十一人来てるんだよ。この男爵領に」
「なるほど」
つまり、滅多にできないはずの十一人召喚をたったの一ヶ月でまたやったということは……
「ああそうだ。前回の召喚でかなり強いスキルを持った奴が現れてたみてーだってことだな」
ふむ……でも、それは個人的には別にどうでもいいことかな。
男爵が力を持ちすぎるのは嫌な感じはするけどね。どちらかと言えば、できれば破滅してほしい相手ではあるから。
「ところで、お聞きしたいのですが」
「お前さん、分かってねえな? そんな奴とダンジョンで出くわしてみろ、魔物なんかより危険度高えぞ」
「え? 人間同士で戦いになる可能性って高いんですか?」
「男爵はダンジョンの最奥にあると言われている聖杯ってのを狙ってるからな。その障害になり得る物には容赦しない方針らしいぜ」
「それは怖い。ところでそのダンジョンですけど、入るのに資格やお金は必要ですか?」
情報を手に入れるには金が必要と言ってた割に、僕の聞きたい話が聞けない勢いで情報をだだ漏れしてくれているこのおじさんに、あまりにも話が進まないので僕はストレートに聞いてみた。
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