自由に自在に

もずく

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大樹の根

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 朝だ。
 今日でこの世界に召喚させて三日目になる。時間が過ぎるのは早いものだ。

 昨夜はお店が閉まる十時まで熊野君たちと夕飯、いや、夜食を食べながらこれからのことについて話をした。
 熊野君は元からだけど、山口さんと坂上さんまでもが知れっと「明日も同じ時間でいいですか?」などと言ってきたのには驚いた。
「明日からは「元々の話の通り」別行動で頑張りましょう」とお答えさせていただいた。
 坂上さんからはケチ呼ばわりされたけど、元々僕みたいないいかげんで約束を守らない人間なんて不要だと考えていたはずだ。
 僕が思ったよりも戦えたので、「やっぱり仲間に引き込んでおこう」と思ったんだろうけどね。
 そもそも、僕は彼らと組むつもりがなかったし、一緒にやってみて「やっぱり子供の世話みたいになるな」と思ってしまったので、彼らと一緒にやっていくのは無理だ。
 せめてお互いに寄りかかることができる人たちならなぁ。

 一応、一緒に召喚された人と偶然会ったことは話した。魔鉱窟ダンジョンがかなり危険そうだという話も伝えておいた。
 今は彼らと一緒に活動する気はないが、だからと言って大怪我をしてほしい訳じゃないからね。レベルが上がると強くなれるわけだから、それまでは地道にウサギ狩りを頑張ってほしい。

 まあ、夜食会はそんな感じだった。
 でだ。
 今朝は朝から彼らに遭遇することのないように遅めに起床してみた。
 朝食もこの宿ではなく、昨日の喫茶店で食べようと思っている。
 出かける準備を整えて、僕は部屋を出た。

 街の東側は午前中でも人がいて賑わっている。
 この街の主要産業はダンジョン攻略なんだなということが感じとれる。
 確か、ダンジョン内の魔物を倒すと魔石以外もドロップすると言う話だったからね。男爵としては魔石が欲しいんだろうけど、街としてはそれ以外の物の売買の方がありがたいんだろう。いや、魔石もエネルギーとして使ってるんだったっけか。

 道行く人たちを見ながら、僕は昨日の喫茶店に入った。そしてハムカツサンドとコーヒーを頼んでみた。
 どちらかと言えば、昨日の卵サンドの方が好きだな。また今度来たらそっちにしよう。

 食事を終えた僕は、来た道を戻る。
 東西に走る道を西に向かってひたすらに歩く。
 そう、今日の目的地である大きな樹の狩場、大樹の根のダンジョンに向かう為だ。喫茶店とは反対側なので結構な距離がある。
 ……街の西側にも喫茶店とかないかな。今度探してみよう。

 ダンジョン攻略ギルドから借りている仮の身分証ゲストカードを見せることで、あっさりと門番ゾーンは通り抜けることができた。一昨日とは違って、けっこう歳のいった門番さんだった。
「んん」
 門番さんの反応はこれだけだったので、たぶん、今日は帰りが遅くなっても特に何か言われることもないだろうと思う。

 何もない道を西へ西へと歩いていく。
 前回、斜めに入っていった獣道はスルーした。そこから入るよりも、街道を長く進んだ方が遠くなってしまうのだが、かかる時間と疲労度はこちらの方が少なくて済むからだ。やはり、背の高い草で見渡しが良くない獣道は、神経を使うし歩くのも遅くなってしまう。
 ということで、前回の帰り道に使った獣道から大きな樹を目指す。

 到着。
 今日も人は誰もいない。
 コボルト七匹とビッグホッパー一匹だけだ。
 コボルト達はきっと、大樹の根ダンジョンが産み出してる魔物なんだろう。ただ、地上に出てきてしまってるで魔石しか落とさないんじゃないかな。
 僕が今までに読んだ小説とかだと、「スタンピード」といってダンジョンから魔物が溢れ出してしまう現象とかがあったけど、これは大丈夫なんだろうか。
 まあ、僕が心配することでもないか。ここが人気がなくて放置され気味なのは今に始まったことじゃないだろうし、きっと大丈夫なんだろう。

 さて、とりあえずはダンジョンの入口を探そうか。
 僕は《自由自在》のクレアボヤンスを使って視点を樹に近付けていく。実際に視界に見えているものとは別画面に、クレアボヤンスの映像が見えている感じだ。
 ある程度まで樹に近付いたら、樹をぐるっと一周してみる。

 あ、これか。

 樹の根っこが大きく裂けている所があり、そこから根が穴の中に伸びているのが見えた。
 どのくらい深いかをチェックしたくて視点を穴の中に入れてみたところ、根っこがうねって螺旋階段のようになっていた。ちなみに中は薄暗い。
 更に視点を動かしてダンジョン内を見ていくと、途中から土壁が光ってるのか、光源っぽいものも無いのに少し明るくなってきた。
 これなら中に入っても大丈夫そうだ。
 更にダンジョン内を徘徊して行くと、コボルトや一メートルくらいある大きなネズミ(カピバラとは違う)、モグラ(?)、セミの幼虫みたいなのがいた。

 よし、行ってみようか。

 僕はナイフ四本を取り出し、サイコキネシスでコボルトとビッグホッパーに向けて飛ばした。
 そして、ビッグホッパーとコボルト五匹を倒した後、僕自身もコボルトに突っ込んでみる。
 自分も剣で戦いつつ、展開したナイフでも攻撃をするテストだ。
 コボルトは一昨日散々倒した相手だから、どの程度の動きをするかはよく分かっている。
 二匹に二本ずつ剣を差し向けて牽制しつつ、僕は一匹とタイマン勝負に挑む。ナイフへの意識が途切れると他の二匹が近付いてきてしまうし、ナイフの操作にばかり気を取られていると正面の敵からの攻撃を受けてしまうから難しい。
 結局、僕は防御に徹しながらナイフで二匹を先に倒してしまった。
 その後に正面のコボルトを短剣で倒した。
 まだまだ訓練が必要そうだ。
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