21 / 94
四畳半
しおりを挟む
「すみません、これに書かれてる空き部屋ってなんでしょうか」
「あー、今はもう使ってない部屋が一つあってね。遊ばせておくのももったいないから誰かに貸そうかと思ってね」
「それって一ヶ月とかでおいくらで考えてますか?」
「銀貨五十枚くらいかねぇ」
「えっ」
「高いかい? 小さい部屋だし客の声でうるさいかも知れんけど」
「いえ、そのくらいなら払えます。今日からお世話になってもいいでしょうか」
「おおほんとかい? なら、うちで飯を食うときは銅貨三枚でいいからねぇ」
「凄い、それはありがたいです」
僕はすぐに自己紹介をして、そらから大銀貨五枚を手渡した。それからすぐに部屋に入れさせてもらった。
この店はハワードさん夫婦が二人でやりくりしていて、お子さんが独立して部屋が余ったので借り手を探していたそうだ。
ハワードさん達は二階で暮らしていて、僕があてがわれた空き部屋は一階のお店の奥にある。日本風に言えば四畳半くらいの広さがあるので、特に文句などあろうはずもない。十分な広さだ。
鍵がないのは少し心許ないけど、貴重品はあまり置かないようにして、あとはハワードさん達を信用するしかない。
新たな部屋で、自分の全ての荷物が入っているリュックを枕にして横になった。
ダンジョンの中で休むこともあるし、小説とかでもよく書かれていたように、毛布代わりにできる外套でも買おうかな。
「あ、そうだ」
僕はリュックから、ダンジョンの宝箱から手に入れたスクロールを取り出した。これの検証をすっかり忘れていた。
分厚いA5サイズくらいの紙、おそらくは羊皮紙と呼ばれる物だと思うけど、それに文字が書かれている。その文字は水晶に触った時と同じ系列の文字のようだ。
僕には何故かこの文字が読める。
タイトルと思える大きな文字には『ヒール』と書かれているのだが、その下には『あるべき状態に戻れ』と書かれている。
たぶんだけど、このスクロールに書かれた呪文は、癒やして治すんじゃなくて、元の正しい状態に戻すというものなんだろう。
確認したいことは二つ。
同じ内容の物を別の紙に書いて使えるかどうか。つまり、コピーが可能かどうかの確認。
それと、この文字を読むことができる僕が、呪文の方を口にしたら使えるかどうかの確認。
『ヒール』も『あるべき状態に戻れ』も、僕は正しく発音できそうなので試してみたい。
紙とペンが手元にないので、とりあえずはスクロールに書かれている文字の発音を、頭の中で何度も繰り返えしてみた。すると何度目かの時に何か行ける感じがした。
あまり気は進まなかったけど、ナイフの先っぽで自分の左手をつついて小さな怪我を作った。チクッとした痛みとともに、そこからプクーっと膨らむように血が出てきた。
『あるべき状態に戻れ・ヒール』
すると痛みがスーッと引き、出てきていた血も消えてなくなってしまった。
そして、サイコキネシスで重い物を持ち上げた時のように、軽めではあるけど疲労感が体に襲いかかった。
これはたぶん、ヒールという魔法の発動に成功したということだろう。
僕は、急激にやってきた軽い疲労感を受け入れて、多少の満足感とともに目を瞑った。
コンコン、というノックの音で目が覚めた。
ぼやけた視界に暗い部屋だと何も見えない。
そう言えば部屋を借りたんだっけか。
更にノックの音が聞こえ、「夕飯はどうするかね」と声が聞こえた。
「あ、すみません寝てました。じゃあせっかくなんでいただきます」
僕は起き上がると、壁伝いに音を頼りにドアまで移動すると、ドアを開けてそう答えた。
夕飯として出してくれたのは、やはり硬いパンとシチューだったが、骨付きの鳥のもも肉を塩焼きしたような物も付いてきた。
ハワードさん夫婦も同じ席について食事をした。この店は夜は早目に閉めてしまうそうだ。「お酒を出す時間まで店を開いていると碌なことがないから」というのが理由だそうだ。
一緒に食事をしながら、ここら辺の食事事情について聞いてみた。
どうやらダンジョン産のネズミ肉はあまり食べることはないそうだ。それを聞いて少し安心した。
僕がウサギを狩ることがあると伝えると、ウサギ肉なら買い取りたいと言ってくれた。魔石以外の物はギルドを通さなくても、少量なら売買してもいいらしい。
逆に魔石は少量でも個人間で取引しない方がいいと念を押された。ギルドや警邏隊に見つかるとかなりの面倒事になるそうだ。
「自分で使うのはどうなんですか?」
「火の燃料としてならいいんじゃないかね」
石炭みたいなものか。男爵ならガチャのエネルギーとしても使えるんだろうけど、やはり、僕にとってはそれほど価値がないのだろうか。
とはいえ、見つけた魔石が次の召喚による犠牲者に繋がるのは嫌だなぁ。
「フトウくん、きみはきっと闘士なんだろう? 無謀なことをせずゆっくりやんなさいな。なんだったらうちの手伝いをしてくれたら食ってくには困らんだろうし」
「そうよ。せっかく縁を持った子に何かあったら悲しいものねぇ」
「ああ、お見通しでしたか。はい、実はつい三日くらい前にこの世界に来たばかりなんです」
僕は、何故か素直にハワードさんたちに答えていた。
なんだろう、会ってまだ少ししか経ってないけど、話してみて、この人たちなら大丈夫かなという安心感がある。
途中からは少しだけお酒を飲みながら、この街やこの世界についてのことを教えてもらったりした。追加で焼いてくれたお好み焼きのような物は具も少なくて味も薄かったけど、この世界に来てから食べた物の中で一番旨く感じた。
「あー、今はもう使ってない部屋が一つあってね。遊ばせておくのももったいないから誰かに貸そうかと思ってね」
「それって一ヶ月とかでおいくらで考えてますか?」
「銀貨五十枚くらいかねぇ」
「えっ」
「高いかい? 小さい部屋だし客の声でうるさいかも知れんけど」
「いえ、そのくらいなら払えます。今日からお世話になってもいいでしょうか」
「おおほんとかい? なら、うちで飯を食うときは銅貨三枚でいいからねぇ」
「凄い、それはありがたいです」
僕はすぐに自己紹介をして、そらから大銀貨五枚を手渡した。それからすぐに部屋に入れさせてもらった。
この店はハワードさん夫婦が二人でやりくりしていて、お子さんが独立して部屋が余ったので借り手を探していたそうだ。
ハワードさん達は二階で暮らしていて、僕があてがわれた空き部屋は一階のお店の奥にある。日本風に言えば四畳半くらいの広さがあるので、特に文句などあろうはずもない。十分な広さだ。
鍵がないのは少し心許ないけど、貴重品はあまり置かないようにして、あとはハワードさん達を信用するしかない。
新たな部屋で、自分の全ての荷物が入っているリュックを枕にして横になった。
ダンジョンの中で休むこともあるし、小説とかでもよく書かれていたように、毛布代わりにできる外套でも買おうかな。
「あ、そうだ」
僕はリュックから、ダンジョンの宝箱から手に入れたスクロールを取り出した。これの検証をすっかり忘れていた。
分厚いA5サイズくらいの紙、おそらくは羊皮紙と呼ばれる物だと思うけど、それに文字が書かれている。その文字は水晶に触った時と同じ系列の文字のようだ。
僕には何故かこの文字が読める。
タイトルと思える大きな文字には『ヒール』と書かれているのだが、その下には『あるべき状態に戻れ』と書かれている。
たぶんだけど、このスクロールに書かれた呪文は、癒やして治すんじゃなくて、元の正しい状態に戻すというものなんだろう。
確認したいことは二つ。
同じ内容の物を別の紙に書いて使えるかどうか。つまり、コピーが可能かどうかの確認。
それと、この文字を読むことができる僕が、呪文の方を口にしたら使えるかどうかの確認。
『ヒール』も『あるべき状態に戻れ』も、僕は正しく発音できそうなので試してみたい。
紙とペンが手元にないので、とりあえずはスクロールに書かれている文字の発音を、頭の中で何度も繰り返えしてみた。すると何度目かの時に何か行ける感じがした。
あまり気は進まなかったけど、ナイフの先っぽで自分の左手をつついて小さな怪我を作った。チクッとした痛みとともに、そこからプクーっと膨らむように血が出てきた。
『あるべき状態に戻れ・ヒール』
すると痛みがスーッと引き、出てきていた血も消えてなくなってしまった。
そして、サイコキネシスで重い物を持ち上げた時のように、軽めではあるけど疲労感が体に襲いかかった。
これはたぶん、ヒールという魔法の発動に成功したということだろう。
僕は、急激にやってきた軽い疲労感を受け入れて、多少の満足感とともに目を瞑った。
コンコン、というノックの音で目が覚めた。
ぼやけた視界に暗い部屋だと何も見えない。
そう言えば部屋を借りたんだっけか。
更にノックの音が聞こえ、「夕飯はどうするかね」と声が聞こえた。
「あ、すみません寝てました。じゃあせっかくなんでいただきます」
僕は起き上がると、壁伝いに音を頼りにドアまで移動すると、ドアを開けてそう答えた。
夕飯として出してくれたのは、やはり硬いパンとシチューだったが、骨付きの鳥のもも肉を塩焼きしたような物も付いてきた。
ハワードさん夫婦も同じ席について食事をした。この店は夜は早目に閉めてしまうそうだ。「お酒を出す時間まで店を開いていると碌なことがないから」というのが理由だそうだ。
一緒に食事をしながら、ここら辺の食事事情について聞いてみた。
どうやらダンジョン産のネズミ肉はあまり食べることはないそうだ。それを聞いて少し安心した。
僕がウサギを狩ることがあると伝えると、ウサギ肉なら買い取りたいと言ってくれた。魔石以外の物はギルドを通さなくても、少量なら売買してもいいらしい。
逆に魔石は少量でも個人間で取引しない方がいいと念を押された。ギルドや警邏隊に見つかるとかなりの面倒事になるそうだ。
「自分で使うのはどうなんですか?」
「火の燃料としてならいいんじゃないかね」
石炭みたいなものか。男爵ならガチャのエネルギーとしても使えるんだろうけど、やはり、僕にとってはそれほど価値がないのだろうか。
とはいえ、見つけた魔石が次の召喚による犠牲者に繋がるのは嫌だなぁ。
「フトウくん、きみはきっと闘士なんだろう? 無謀なことをせずゆっくりやんなさいな。なんだったらうちの手伝いをしてくれたら食ってくには困らんだろうし」
「そうよ。せっかく縁を持った子に何かあったら悲しいものねぇ」
「ああ、お見通しでしたか。はい、実はつい三日くらい前にこの世界に来たばかりなんです」
僕は、何故か素直にハワードさんたちに答えていた。
なんだろう、会ってまだ少ししか経ってないけど、話してみて、この人たちなら大丈夫かなという安心感がある。
途中からは少しだけお酒を飲みながら、この街やこの世界についてのことを教えてもらったりした。追加で焼いてくれたお好み焼きのような物は具も少なくて味も薄かったけど、この世界に来てから食べた物の中で一番旨く感じた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる