自由に自在に

もずく

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四畳半

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「すみません、これに書かれてる空き部屋ってなんでしょうか」
「あー、今はもう使ってない部屋が一つあってね。遊ばせておくのももったいないから誰かに貸そうかと思ってね」
「それって一ヶ月とかでおいくらで考えてますか?」
「銀貨五十枚くらいかねぇ」
「えっ」
「高いかい? 小さい部屋だし客の声でうるさいかも知れんけど」
「いえ、そのくらいなら払えます。今日からお世話になってもいいでしょうか」
「おおほんとかい? なら、うちで飯を食うときは銅貨三枚でいいからねぇ」
「凄い、それはありがたいです」

 僕はすぐに自己紹介をして、そらから大銀貨五枚を手渡した。それからすぐに部屋に入れさせてもらった。
 この店はハワードさん夫婦が二人でやりくりしていて、お子さんが独立して部屋が余ったので借り手を探していたそうだ。
 ハワードさん達は二階で暮らしていて、僕があてがわれた空き部屋は一階のお店の奥にある。日本風に言えば四畳半くらいの広さがあるので、特に文句などあろうはずもない。十分な広さだ。
 鍵がないのは少し心許ないけど、貴重品はあまり置かないようにして、あとはハワードさん達を信用するしかない。

 新たな部屋で、自分の全ての荷物が入っているリュックを枕にして横になった。
 ダンジョンの中で休むこともあるし、小説とかでもよく書かれていたように、毛布代わりにできる外套マントでも買おうかな。
「あ、そうだ」
 僕はリュックから、ダンジョンの宝箱から手に入れたスクロールを取り出した。これの検証をすっかり忘れていた。
 分厚いA5サイズくらいの紙、おそらくは羊皮紙と呼ばれる物だと思うけど、それに文字が書かれている。その文字は水晶に触った時と同じ系列の文字のようだ。
 僕には何故かこの文字が読める。
 タイトルと思える大きな文字には『ヒール』と書かれているのだが、その下には『あるべき状態に戻れ』と書かれている。
 たぶんだけど、このスクロールに書かれた呪文は、癒やして治すんじゃなくて、元の正しい状態に戻すというものなんだろう。
 確認したいことは二つ。
 同じ内容の物を別の紙に書いて使えるかどうか。つまり、コピーが可能かどうかの確認。
 それと、この文字を読むことができる僕が、呪文の方を口にしたら使えるかどうかの確認。
『ヒール』も『あるべき状態に戻れ』も、僕は正しく発音できそうなので試してみたい。
 紙とペンが手元にないので、とりあえずはスクロールに書かれている文字の発音を、頭の中で何度も繰り返えしてみた。すると何度目かの時に何か行ける感じがした。
 あまり気は進まなかったけど、ナイフの先っぽで自分の左手をつついて小さな怪我を作った。チクッとした痛みとともに、そこからプクーっと膨らむように血が出てきた。
『あるべき状態に戻れ・ヒール』
 すると痛みがスーッと引き、出てきていた血も消えてなくなってしまった。
 そして、サイコキネシスで重い物を持ち上げた時のように、軽めではあるけど疲労感が体に襲いかかった。
 これはたぶん、ヒールという魔法の発動に成功したということだろう。
 僕は、急激にやってきた軽い疲労感を受け入れて、多少の満足感とともに目を瞑った。

 コンコン、というノックの音で目が覚めた。
 ぼやけた視界に暗い部屋だと何も見えない。
 そう言えば部屋を借りたんだっけか。
 更にノックの音が聞こえ、「夕飯はどうするかね」と声が聞こえた。
「あ、すみません寝てました。じゃあせっかくなんでいただきます」
 僕は起き上がると、壁伝いに音を頼りにドアまで移動すると、ドアを開けてそう答えた。
 夕飯として出してくれたのは、やはり硬いパンとシチューだったが、骨付きの鳥のもも肉を塩焼きしたような物も付いてきた。
 ハワードさん夫婦も同じ席について食事をした。この店は夜は早目に閉めてしまうそうだ。「お酒を出す時間まで店を開いていると碌なことがないから」というのが理由だそうだ。
 一緒に食事をしながら、ここら辺の食事事情について聞いてみた。
 どうやらダンジョン産のネズミ肉はあまり食べることはないそうだ。それを聞いて少し安心した。
 僕がウサギを狩ることがあると伝えると、ウサギ肉なら買い取りたいと言ってくれた。魔石以外の物はギルドを通さなくても、少量なら売買してもいいらしい。
 逆に魔石は少量でも個人間で取引しない方がいいと念を押された。ギルドや警邏隊に見つかるとかなりの面倒事になるそうだ。
「自分で使うのはどうなんですか?」
「火の燃料としてならいいんじゃないかね」
 石炭みたいなものか。男爵ならガチャのエネルギーとしても使えるんだろうけど、やはり、僕にとってはそれほど価値がないのだろうか。
 とはいえ、見つけた魔石が次の召喚による犠牲者に繋がるのは嫌だなぁ。
「フトウくん、きみはきっと闘士なんだろう? 無謀なことをせずゆっくりやんなさいな。なんだったらうちの手伝いをしてくれたら食ってくには困らんだろうし」
「そうよ。せっかく縁を持った子に何かあったら悲しいものねぇ」
「ああ、お見通しでしたか。はい、実はつい三日くらい前にこの世界に来たばかりなんです」

 僕は、何故か素直にハワードさんたちに答えていた。
 なんだろう、会ってまだ少ししか経ってないけど、話してみて、この人たちなら大丈夫かなという安心感がある。
 途中からは少しだけお酒を飲みながら、この街やこの世界についてのことを教えてもらったりした。追加で焼いてくれたお好み焼きのような物は具も少なくて味も薄かったけど、この世界に来てから食べた物の中で一番旨く感じた。
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