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ミスリルスタッフ
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今、僕の目の前には薄茶色に薄緑を絶妙に混ぜたような色合いの杖が置かれている。
木の枝をうねうねぐるぐると巻き上げたような、いわゆる一つの、魔法使いのおじいさんが持っているような背丈程もある魔法の杖だ。
「申し訳ありません。ご注文の棍の話を職人にしたところ、ミスリルでただの鉄棒なんて造りたくないと言われてしまいまして。剣じゃなくて棒状の物がいいならこれを持っていけと……」
店員が頭を下げながらも、一応見てやってくださいという。
僕はそれを手にとってみる。
それなりにずっしりとした重さがあり、少し太いけど、木の凸凹が握りやすいようにも感じる。
「これを造ったのは元はイギリス人とか言う国の人でして、魔法が使える闘士さんです。今は特技を活かしてミスリル職人をやってるんですが、彼いわく、ちゃんと魔法の杖として魔力をサポートしつつ、ミスリルを染み渡らせて超強硬度にしてあるので折れない武器としても使える、んだそうです」
言われてみれば、確かに何やら不思議な力を感じる気がする。気のせいかも知れないけど。
ただ、ここで魔法を使うことはできない。
だから、とりあえず両手で持って振ってみた。なんとなくだけど、振る度にブォンと衝撃波みたいな物が出てるような気がする。気のせいだと思うけど。
片手でもなんとか振ることができなくはないけど、これは両手武器だな。
できれば片手でも使えるような棍が欲しかった。地下二階の奥にいるスケルトンは数が多いから、重さがあっても取り回しのいい棒状の物をと思っていた。
でも、この杖もなかなかいい。
「これはおいくらですか?」
「金貨五枚頂ければ私も彼も嬉しく思います。こちらは彼が自分の好きなように造った物なので、ミスリルの使用量の割にお安くなっているとのことです。ミスリルを木に染み込ませたと言っておりました」
「この間の鉄棍も一緒で金貨五枚になりませんか?」
「それはちょっと……金貨五枚と大銀貨三枚でいかがでしょうか」
「分かりました。それでお願いします。それと鉄塊の話はどうなりましたか?」
「そちらは別の鍛冶職人に当たってみました。ミスリル加工は無しですが十センチくらいの物で、中を空洞にしない物なら、一つ大銀貨一枚でいいそうです」
「ではそれを四つお願いします」
「とても投げられる重さではないそうですが、サンプルなしで決めてしまって大丈夫ですか?」
「あ、確かに。最初はそういう話でしたね。ん~~、でもなんとかなると思うのでそのまま発注してしまってください」
僕は金貨五枚と、大銀貨七枚を渡した。
思ったよりも全然安く済んでしまった。
「あ、そう言えば短剣も買い替えたくて……これ、研いでもらうのとかは頼めないんですよね?」
そう言って短剣を鞘ごと渡してみる。
「いえ、研ぎ直しは可能ですが……こちらはかなり使い込まれているようなので、もう買い直された方がいいですね」
あれ、研いでもらえるのか。
ライセン堂では、オーダーメイドじゃない店売りの物は普通はメンテしないと言っていたけど。
「では短剣もこちらで購入したいので同じサイズの物を見せてもらえますか?」
ミスリルの杖が金貨五枚でお買い得と思ってたのに、短剣が金貨二枚もするのはちょっと高かったかなと思うけど、前の物よりしっかりし他物のようなので買うことにした。
腰の後ろ側に鞘を付けられる革製の剣帯をおまけしてくれたので、明日からさっそく使ってみようと思う。
鉄塊は来週くらいまで時間をくれと言われたので、それまでに新装備に慣れておくようにしよう。また明日から地下一階だな。
「なんでソードマンが杖なんて持ってんの?」
ナーグマンの店(店の名前を覚えてほしいと店員改め店長に言われた)を出て我が家に戻る道すがら、またもや知ってる顔に声をかけられた。
が、名前が思い出せない。
「あ……どうも、こんばんは」
僕の反応に、彼女は頬をピクっと動かした。
「まさかだけど、わたしの名前、忘れたわけじゃないよねっ?」
「エナ、誰この人」
「最初に一緒にウサギ狩りした人」
熊野君と一緒にいたソードマンの人だ。あと一人、山口さんは覚えてるんだけど、この人の名前が出てこない。下の名前はエナさんというのか、という感じだ。
それにしても、熊野君が東門に走っていったのはかなり前のことだ。ナーグマンの店には一時間以上いたはずだから。
「しばらく前に熊野君と偶然会ったんですが……山口さんも一緒じゃないようですがもしかして別行動になったんですか?」
「そうだよ。っていうかわたしが抜けただけだけど。っていうか名ま」
「あれ、でも熊野君は一人で東門の方に向かってましたよ? あ、待ち合わせ相手が山口さんだったんですかね」
「違うし。杏子さん、ダンジョンで怪我しちゃって休養中。真司が冒険者ギルドの人とパーティー組んで稼いでんだって。わたしは二人のお邪魔になりそうだから、ダンジョン入る前に別パーティーに移籍したってわけ。っていうか」
「なるほど。熊野君、男ですね。となると直接のお見舞いは避けた方が良さそうですね。もしも熊野君がいない時に僕が行ったりしたら有らぬ疑いをかけられてしまうかもしれないですし。エナさんも怪我に気を付けてくださいね。ではまた」
「なっ……下の名前で呼んだことなんて無かったくせに! 絶対名前忘れてたでしょー!」
やはりバレたか。
僕は会釈をしながらさっとその場を立ち去ろうとしたのだけど、後ろからお怒りの言葉を投げかけられてしまったのだった。
彼女、なんて名字だったかなあ。
木の枝をうねうねぐるぐると巻き上げたような、いわゆる一つの、魔法使いのおじいさんが持っているような背丈程もある魔法の杖だ。
「申し訳ありません。ご注文の棍の話を職人にしたところ、ミスリルでただの鉄棒なんて造りたくないと言われてしまいまして。剣じゃなくて棒状の物がいいならこれを持っていけと……」
店員が頭を下げながらも、一応見てやってくださいという。
僕はそれを手にとってみる。
それなりにずっしりとした重さがあり、少し太いけど、木の凸凹が握りやすいようにも感じる。
「これを造ったのは元はイギリス人とか言う国の人でして、魔法が使える闘士さんです。今は特技を活かしてミスリル職人をやってるんですが、彼いわく、ちゃんと魔法の杖として魔力をサポートしつつ、ミスリルを染み渡らせて超強硬度にしてあるので折れない武器としても使える、んだそうです」
言われてみれば、確かに何やら不思議な力を感じる気がする。気のせいかも知れないけど。
ただ、ここで魔法を使うことはできない。
だから、とりあえず両手で持って振ってみた。なんとなくだけど、振る度にブォンと衝撃波みたいな物が出てるような気がする。気のせいだと思うけど。
片手でもなんとか振ることができなくはないけど、これは両手武器だな。
できれば片手でも使えるような棍が欲しかった。地下二階の奥にいるスケルトンは数が多いから、重さがあっても取り回しのいい棒状の物をと思っていた。
でも、この杖もなかなかいい。
「これはおいくらですか?」
「金貨五枚頂ければ私も彼も嬉しく思います。こちらは彼が自分の好きなように造った物なので、ミスリルの使用量の割にお安くなっているとのことです。ミスリルを木に染み込ませたと言っておりました」
「この間の鉄棍も一緒で金貨五枚になりませんか?」
「それはちょっと……金貨五枚と大銀貨三枚でいかがでしょうか」
「分かりました。それでお願いします。それと鉄塊の話はどうなりましたか?」
「そちらは別の鍛冶職人に当たってみました。ミスリル加工は無しですが十センチくらいの物で、中を空洞にしない物なら、一つ大銀貨一枚でいいそうです」
「ではそれを四つお願いします」
「とても投げられる重さではないそうですが、サンプルなしで決めてしまって大丈夫ですか?」
「あ、確かに。最初はそういう話でしたね。ん~~、でもなんとかなると思うのでそのまま発注してしまってください」
僕は金貨五枚と、大銀貨七枚を渡した。
思ったよりも全然安く済んでしまった。
「あ、そう言えば短剣も買い替えたくて……これ、研いでもらうのとかは頼めないんですよね?」
そう言って短剣を鞘ごと渡してみる。
「いえ、研ぎ直しは可能ですが……こちらはかなり使い込まれているようなので、もう買い直された方がいいですね」
あれ、研いでもらえるのか。
ライセン堂では、オーダーメイドじゃない店売りの物は普通はメンテしないと言っていたけど。
「では短剣もこちらで購入したいので同じサイズの物を見せてもらえますか?」
ミスリルの杖が金貨五枚でお買い得と思ってたのに、短剣が金貨二枚もするのはちょっと高かったかなと思うけど、前の物よりしっかりし他物のようなので買うことにした。
腰の後ろ側に鞘を付けられる革製の剣帯をおまけしてくれたので、明日からさっそく使ってみようと思う。
鉄塊は来週くらいまで時間をくれと言われたので、それまでに新装備に慣れておくようにしよう。また明日から地下一階だな。
「なんでソードマンが杖なんて持ってんの?」
ナーグマンの店(店の名前を覚えてほしいと店員改め店長に言われた)を出て我が家に戻る道すがら、またもや知ってる顔に声をかけられた。
が、名前が思い出せない。
「あ……どうも、こんばんは」
僕の反応に、彼女は頬をピクっと動かした。
「まさかだけど、わたしの名前、忘れたわけじゃないよねっ?」
「エナ、誰この人」
「最初に一緒にウサギ狩りした人」
熊野君と一緒にいたソードマンの人だ。あと一人、山口さんは覚えてるんだけど、この人の名前が出てこない。下の名前はエナさんというのか、という感じだ。
それにしても、熊野君が東門に走っていったのはかなり前のことだ。ナーグマンの店には一時間以上いたはずだから。
「しばらく前に熊野君と偶然会ったんですが……山口さんも一緒じゃないようですがもしかして別行動になったんですか?」
「そうだよ。っていうかわたしが抜けただけだけど。っていうか名ま」
「あれ、でも熊野君は一人で東門の方に向かってましたよ? あ、待ち合わせ相手が山口さんだったんですかね」
「違うし。杏子さん、ダンジョンで怪我しちゃって休養中。真司が冒険者ギルドの人とパーティー組んで稼いでんだって。わたしは二人のお邪魔になりそうだから、ダンジョン入る前に別パーティーに移籍したってわけ。っていうか」
「なるほど。熊野君、男ですね。となると直接のお見舞いは避けた方が良さそうですね。もしも熊野君がいない時に僕が行ったりしたら有らぬ疑いをかけられてしまうかもしれないですし。エナさんも怪我に気を付けてくださいね。ではまた」
「なっ……下の名前で呼んだことなんて無かったくせに! 絶対名前忘れてたでしょー!」
やはりバレたか。
僕は会釈をしながらさっとその場を立ち去ろうとしたのだけど、後ろからお怒りの言葉を投げかけられてしまったのだった。
彼女、なんて名字だったかなあ。
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