63 / 94
出入り禁止
しおりを挟む
「あ、アトリ様、起こしてしまいましたか。申し訳ありません!」
「いったいどうしたのよ」
「いえ、魔石の買取金額が気に入らないと文句をいうお客様がいまして、出入り禁止を言い渡そうかと思っていたところです」
「そんくらいで出入り禁止とか言うもんじゃないわよ。で、その客はどこに?」
「そこで床に散らばった魔石を拾ってる男です。金額が気に入らなかったのか自分で持ってきた石を突然床に叩きつけたんです」
「それが本当なら随分と迷惑な奴だわね、って……ランジャ、本当にこのお客さんがそんなことをしたの?」
「はい。しかも私に殴りかかる真似をして脅されました。それで声が大きくなってしまったんです!」
「そう……それは酷いわね。きみぃ、なんでそんなことしたの?」
「してませんけど、でも僕とその人しかいなかったから証明はできないですね」
「え? その声はフトー?」
「はい。たぶん全部拾えたと思うんですけど……これ、アトリかギフにもう一回見てもらってもいいですか? この人には金貨三枚と言われたんですけど」
「買取金額で文句をつけたのは本当ということ?」
「文句はつけてないです。ただ少ないなとは思ったので、ギフにも見てもらおうと思ってギフを呼ぶようには言いましたけど。そうしたら突然、その人に魔石の入った袋を投げつけられたんですよ」
「あなたが叩きつけたんじゃなくて、この子が投げつけたのね? ランジャ、あなたの査定ではこの一袋で金貨三枚なのね?」
「いえ、金貨四枚です。間違いなく四枚渡しました。それにこの人は嘘を言ってます!」
「おいおい……僕は金貨三枚しか貰ってないんだけど」
そう言って握っていた手を開いて三枚の金貨を見せた。
「この男は嘘をついてます!」
「ノーラ来て! ランジャ、あなたの体を調べさせてもらうわね」
「この男の方を信じるんですか!? ではもうここではやっていけません! 帰らせていただきます!!」
「はいごめんね~」
音もなく現れたノーラが、受付嬢が逃げ出すのを阻止して手首を後ろ手に捻り上げた。
クレアボヤンスの俯瞰画面で見て、ノーラが来たのは分かってたけど、油断したら背後からブスリと刺されるまで気付かないかも知れない。やっぱり、気を付けなければいけないのは盗賊系のスキル持ちだな。
ノーラはぱっぱっぱっと受付嬢の体を叩きまわり、受付嬢の袖口から金貨を一枚取り出した。
「あっ」
「ランジャちゃん、これは良くないね」
「最近帳簿がおかしかったのと、ビッキー達の羽振りが良くなったの気になってたのよねぇ。ちょっと詳しく話を聞かせてもらうわよ。ガロいる?」
「ほいよ」
これは驚いた。室内にガロが居ることにはまったく気付けてなかった。これは真面目にサーチ系の魔法を創造っておかないとな。
「ちょっと街の管理ギルドと狩人ギルド、それと冒険者ギルドから人呼んできてくれる?」
「あいよ」
相変わらずキャラが安定してないガロだけど、アトリの言葉で素早く動く姿は映画にでてくるスパイのように決まってるな。
「フトー、悪いけど時間もらえるかしら」
「いや、面倒なんで帰ります」
「ちょ、自分が関わったんだから最後まで面倒みなさいな」
「いえ、僕はこのギルドの人に詐欺と冤罪食らわされそうになった被害者ですけど、別に被害を届け出たりはしてないですし、するつもりもないので……この件に絡めて色々と解決したいのはアトリ側の方なのでは?」
「きみぃ、意外と見えてんのね」
「ブラックな会社で社会人やってましたからね。まあ、その時は嘆きながらも働き続けることしかできませんでしたけど」
「なるほどねぇ。んで? 買い取りはどうするの?」
「ん~……とりあえず、大丈夫です。あ、そうだ、ゲストカードを返しておきますね」
「ちょっとお。それ受け取ったら、後であたしがギフに怒られるやつじゃない?」
「そこはギルド内でご対応よろしくお願いします」
このギルド、僕にとっては色々なことが起こりすぎる。しかも、僕に迷惑な話が多すぎるのが問題だ。なにか問題が起こっては解決してるから別にいいような気もするけど、そもそも問題なんて起こらない方がいい訳で。
その日の夜。
僕はもう一度ギルドに顔を出した。
朝の話はギフにもちゃんと伝わってたらしく、そのことを謝られるとともに結末を説明された。
朝の受付嬢や、前に僕に絡んできたビッキー、プニルというチャレンジャーは現地人だったそうだ。しかも、現地人の管理ギルドから「交流」の為に派遣されてきた人たちだったそうだ。つまり、現地人のギルドと召喚された闘士のギルド間でのトラブルだったと。
そもそも現地人を受け入れるメリットがなかったのだけど、今回のことで受付嬢とビッキー、プニルは街のギルドにお返しすることになったそうだ。
その話の後、そろそろギルドに正式に入らないかと誘われたけど、やっぱり断らせてもらった。
魔鉱窟が気にならない訳ではないけど、それもまあ、なんとかできそうだし。
ただ、魔石は今後もここに売りに来ることを約束させられた。なので、今朝の魔石を再度見てもらった。金貨五枚と大銀貨二枚になった。
あとは地下四階の魔物について、有料で情報提供して、その後は部屋に戻った。
なんともバタバタした一日だった。
「いったいどうしたのよ」
「いえ、魔石の買取金額が気に入らないと文句をいうお客様がいまして、出入り禁止を言い渡そうかと思っていたところです」
「そんくらいで出入り禁止とか言うもんじゃないわよ。で、その客はどこに?」
「そこで床に散らばった魔石を拾ってる男です。金額が気に入らなかったのか自分で持ってきた石を突然床に叩きつけたんです」
「それが本当なら随分と迷惑な奴だわね、って……ランジャ、本当にこのお客さんがそんなことをしたの?」
「はい。しかも私に殴りかかる真似をして脅されました。それで声が大きくなってしまったんです!」
「そう……それは酷いわね。きみぃ、なんでそんなことしたの?」
「してませんけど、でも僕とその人しかいなかったから証明はできないですね」
「え? その声はフトー?」
「はい。たぶん全部拾えたと思うんですけど……これ、アトリかギフにもう一回見てもらってもいいですか? この人には金貨三枚と言われたんですけど」
「買取金額で文句をつけたのは本当ということ?」
「文句はつけてないです。ただ少ないなとは思ったので、ギフにも見てもらおうと思ってギフを呼ぶようには言いましたけど。そうしたら突然、その人に魔石の入った袋を投げつけられたんですよ」
「あなたが叩きつけたんじゃなくて、この子が投げつけたのね? ランジャ、あなたの査定ではこの一袋で金貨三枚なのね?」
「いえ、金貨四枚です。間違いなく四枚渡しました。それにこの人は嘘を言ってます!」
「おいおい……僕は金貨三枚しか貰ってないんだけど」
そう言って握っていた手を開いて三枚の金貨を見せた。
「この男は嘘をついてます!」
「ノーラ来て! ランジャ、あなたの体を調べさせてもらうわね」
「この男の方を信じるんですか!? ではもうここではやっていけません! 帰らせていただきます!!」
「はいごめんね~」
音もなく現れたノーラが、受付嬢が逃げ出すのを阻止して手首を後ろ手に捻り上げた。
クレアボヤンスの俯瞰画面で見て、ノーラが来たのは分かってたけど、油断したら背後からブスリと刺されるまで気付かないかも知れない。やっぱり、気を付けなければいけないのは盗賊系のスキル持ちだな。
ノーラはぱっぱっぱっと受付嬢の体を叩きまわり、受付嬢の袖口から金貨を一枚取り出した。
「あっ」
「ランジャちゃん、これは良くないね」
「最近帳簿がおかしかったのと、ビッキー達の羽振りが良くなったの気になってたのよねぇ。ちょっと詳しく話を聞かせてもらうわよ。ガロいる?」
「ほいよ」
これは驚いた。室内にガロが居ることにはまったく気付けてなかった。これは真面目にサーチ系の魔法を創造っておかないとな。
「ちょっと街の管理ギルドと狩人ギルド、それと冒険者ギルドから人呼んできてくれる?」
「あいよ」
相変わらずキャラが安定してないガロだけど、アトリの言葉で素早く動く姿は映画にでてくるスパイのように決まってるな。
「フトー、悪いけど時間もらえるかしら」
「いや、面倒なんで帰ります」
「ちょ、自分が関わったんだから最後まで面倒みなさいな」
「いえ、僕はこのギルドの人に詐欺と冤罪食らわされそうになった被害者ですけど、別に被害を届け出たりはしてないですし、するつもりもないので……この件に絡めて色々と解決したいのはアトリ側の方なのでは?」
「きみぃ、意外と見えてんのね」
「ブラックな会社で社会人やってましたからね。まあ、その時は嘆きながらも働き続けることしかできませんでしたけど」
「なるほどねぇ。んで? 買い取りはどうするの?」
「ん~……とりあえず、大丈夫です。あ、そうだ、ゲストカードを返しておきますね」
「ちょっとお。それ受け取ったら、後であたしがギフに怒られるやつじゃない?」
「そこはギルド内でご対応よろしくお願いします」
このギルド、僕にとっては色々なことが起こりすぎる。しかも、僕に迷惑な話が多すぎるのが問題だ。なにか問題が起こっては解決してるから別にいいような気もするけど、そもそも問題なんて起こらない方がいい訳で。
その日の夜。
僕はもう一度ギルドに顔を出した。
朝の話はギフにもちゃんと伝わってたらしく、そのことを謝られるとともに結末を説明された。
朝の受付嬢や、前に僕に絡んできたビッキー、プニルというチャレンジャーは現地人だったそうだ。しかも、現地人の管理ギルドから「交流」の為に派遣されてきた人たちだったそうだ。つまり、現地人のギルドと召喚された闘士のギルド間でのトラブルだったと。
そもそも現地人を受け入れるメリットがなかったのだけど、今回のことで受付嬢とビッキー、プニルは街のギルドにお返しすることになったそうだ。
その話の後、そろそろギルドに正式に入らないかと誘われたけど、やっぱり断らせてもらった。
魔鉱窟が気にならない訳ではないけど、それもまあ、なんとかできそうだし。
ただ、魔石は今後もここに売りに来ることを約束させられた。なので、今朝の魔石を再度見てもらった。金貨五枚と大銀貨二枚になった。
あとは地下四階の魔物について、有料で情報提供して、その後は部屋に戻った。
なんともバタバタした一日だった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる