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ヒヤミの冒険
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魔鉱窟ダンジョンの中は思っていたよりも明るい。
大樹の根のダンジョンと比べての話となるのだが。
私はヒヤミ。
現在、魔鉱窟ダンジョンの十階層に来ている。
何日かに渡って確認したのだが、今、このダンジョンにはこの階層まで来ることができるチャレンジャーはいないようだった。
七、八、九階層にも人は来ていないようなのだが、念には念を入れてのこの階層だ。
私はこの階層を起点とすることにした。
ダンジョンの出入りについては色々と考えてみたのだが、やはり、ギルドカードなしで一階層を通るのは危険そうだと判断し、テレポートで行き来することにしたのだ。
ということは誰にも会わないということだ。
……誰にも会わないで魔鉱窟を探索できるなら、別にヒヤミとして活動する必要もないわけで。
せっかくヒヤミ用の魔術学校の先生っぽい帽子と眼鏡とローブ、それに錫杖を用意したんだけど、見せる相手がいないなら無用の長物だな。
まあ、もしも咄嗟に何処かに移動することになった時に、この衣装と顔でいれば僕ってことがバレないから、一応、着ておくようにするつもりだけど。勿体ないし。
まあ、ある特定のキャラクターを演じてみるというのは、やってみたらそんなに悪くない気分だ。
いや、悪くないどころか、自分以外の誰かになれたような感じで、なんだか少し開放されたような気がするんだよね。
元の世界でコスプレしてた人の気持ちが少しだけ分かったような気がする。
シュガーやボル、それにリンとかも、こっちに来てからキャラを作ったりしたのかなぁ。
ちなみに僕は、ここ数年は無口に仕事をするだけのロボットのような人間だった。自宅であるアパートと会社を往復するだけのつまらない生活を送っていた。
ここに召喚された時も、驚きはしたけど、あまり感情が動いた気がしなかった。
元々の生活が疲れすぎてたのかも知れない。
だから、忙しい生活から開放されて、人里離れた場所でのんびり暮らしたいとか思ったのかもな。元々、アウトドアとかは好きじゃなかったし、田舎暮らしに憧れてた訳でもないのに。
今となっては、ここに来たときの無感情な自分が、今の僕のベースになっているような気がする。
それが今、ヒヤミとして自由に振る舞えるのだから、開放感を感じてしまうのも仕方ないのかもね。
何をしたとしてもフトウではなく、ヒヤミがしたことなのだ、と考えると気が楽になるし。
自分のことだけど、こういう部分があることに気が付けてなかったのだなと思う。環境が人格を形成するのかもな。
考え事をしながらも、クレアボヤンスで先行調査とバックミラー、FPS的な俯瞰モニタをチェックして、魔物を見つける度にファイアボール、ファイアウォール、アイスアローなどで倒していく。
一応、このヒヤミの設定に従った魔法をつかうようにしているのだ。
アイスアローという魔法がこの世界にあるかは知らないけど、まあいいでしょう。誰かに何かを言われたとしても、やらかしてるのはヒヤミなのだから。
このフロアにはオークが出てきている。
ここは十階層なので、三で割って端数を切り上げれば四だから、大樹の根で言うなら地下四階ということなんだろうな。
うん。出てくる魔物的にも、三倍理論は間違ってないっぽいね。
「あ、これかな」
少し大きめの空洞に入ると、一部の壁面がキラキラと光っていた。
持ってきたハンディサイズのツルハシでその部分を叩くと、十センチくらいの綺麗な石が取れた。
これは宝石の原石だったり、石炭だったり、鉄鉱石だったり、魔石だったり、ミスリルだったりするそうだ。壁から取ってみるまでは同じ色、同じ質感なので、それが何なのかは分からないらしい。
僕が今採取したのは、たぶん宝石の原石だ。
この魔鉱窟では、浅い階層でも石を採取することができて、どんな石でもそれなりの値段で売ることができるみたいだ。
僕はセイクリッドサークルを発動させて、六ヶ所あるキラキラした場所から石を採取した。
一つは取り外した瞬間に三センチくらいの紅い楕円形の宝石になった。ルビーなのかガーネットなのか、それとも別の宝石なのか分からないけど、これはきっと当たりなんだろうな。
大根掘りでは味わえなかった、新しいダンジョンの楽しみ方を経験できて、僕はちょっと嬉しくなっていた。
そして十階層のボスエリアに到着した。
学校の体育館くらい広い空洞に、オークが多く現れた。
……オークがたくさん現れた。
その数、約二十匹。
ファイアボールをオークの集団に満遍なく連続で打ち込む。着弾する度に爆炎があちこちで燃え上がり、数秒間、空洞がサウナのように熱くなった。
空洞の温度が元に戻った時にはオークの姿はなくなっていて、階段の近くには宝箱が現れていた。
カオスファインダーを使ってみると、宝箱の鍵穴の部分が赤く光った。
これは初めての現象だ。
鍵穴から毒針が飛び出してくるのかな。それとも毒ガスか?
鍵穴だけが赤く光るということは、爆発とかではないと思うけど……。
僕は宝箱から五メートル以上離れた所でシールドを張ってから、サイコキネシスで鍵の部分を雑にガチャガチャと動かしてみた。
すると、カシュッ、と音がして針が飛び出して来た。針は僕が居るところまで富んできて、シールドに当たって地面に落ちた。
僕は今、ダンジョンを冒険している!
大根掘りのシンプルでストイックなところも嫌いじゃなかった。
でも、魔鉱窟の3Dダンジョン・ロールプレイング・ゲームのようなギミックが満載なのはもっと面白い。
僕は魔鉱窟と大樹の根を行き来する生活を一ヶ月ほど楽しんだ。
大樹の根のダンジョンと比べての話となるのだが。
私はヒヤミ。
現在、魔鉱窟ダンジョンの十階層に来ている。
何日かに渡って確認したのだが、今、このダンジョンにはこの階層まで来ることができるチャレンジャーはいないようだった。
七、八、九階層にも人は来ていないようなのだが、念には念を入れてのこの階層だ。
私はこの階層を起点とすることにした。
ダンジョンの出入りについては色々と考えてみたのだが、やはり、ギルドカードなしで一階層を通るのは危険そうだと判断し、テレポートで行き来することにしたのだ。
ということは誰にも会わないということだ。
……誰にも会わないで魔鉱窟を探索できるなら、別にヒヤミとして活動する必要もないわけで。
せっかくヒヤミ用の魔術学校の先生っぽい帽子と眼鏡とローブ、それに錫杖を用意したんだけど、見せる相手がいないなら無用の長物だな。
まあ、もしも咄嗟に何処かに移動することになった時に、この衣装と顔でいれば僕ってことがバレないから、一応、着ておくようにするつもりだけど。勿体ないし。
まあ、ある特定のキャラクターを演じてみるというのは、やってみたらそんなに悪くない気分だ。
いや、悪くないどころか、自分以外の誰かになれたような感じで、なんだか少し開放されたような気がするんだよね。
元の世界でコスプレしてた人の気持ちが少しだけ分かったような気がする。
シュガーやボル、それにリンとかも、こっちに来てからキャラを作ったりしたのかなぁ。
ちなみに僕は、ここ数年は無口に仕事をするだけのロボットのような人間だった。自宅であるアパートと会社を往復するだけのつまらない生活を送っていた。
ここに召喚された時も、驚きはしたけど、あまり感情が動いた気がしなかった。
元々の生活が疲れすぎてたのかも知れない。
だから、忙しい生活から開放されて、人里離れた場所でのんびり暮らしたいとか思ったのかもな。元々、アウトドアとかは好きじゃなかったし、田舎暮らしに憧れてた訳でもないのに。
今となっては、ここに来たときの無感情な自分が、今の僕のベースになっているような気がする。
それが今、ヒヤミとして自由に振る舞えるのだから、開放感を感じてしまうのも仕方ないのかもね。
何をしたとしてもフトウではなく、ヒヤミがしたことなのだ、と考えると気が楽になるし。
自分のことだけど、こういう部分があることに気が付けてなかったのだなと思う。環境が人格を形成するのかもな。
考え事をしながらも、クレアボヤンスで先行調査とバックミラー、FPS的な俯瞰モニタをチェックして、魔物を見つける度にファイアボール、ファイアウォール、アイスアローなどで倒していく。
一応、このヒヤミの設定に従った魔法をつかうようにしているのだ。
アイスアローという魔法がこの世界にあるかは知らないけど、まあいいでしょう。誰かに何かを言われたとしても、やらかしてるのはヒヤミなのだから。
このフロアにはオークが出てきている。
ここは十階層なので、三で割って端数を切り上げれば四だから、大樹の根で言うなら地下四階ということなんだろうな。
うん。出てくる魔物的にも、三倍理論は間違ってないっぽいね。
「あ、これかな」
少し大きめの空洞に入ると、一部の壁面がキラキラと光っていた。
持ってきたハンディサイズのツルハシでその部分を叩くと、十センチくらいの綺麗な石が取れた。
これは宝石の原石だったり、石炭だったり、鉄鉱石だったり、魔石だったり、ミスリルだったりするそうだ。壁から取ってみるまでは同じ色、同じ質感なので、それが何なのかは分からないらしい。
僕が今採取したのは、たぶん宝石の原石だ。
この魔鉱窟では、浅い階層でも石を採取することができて、どんな石でもそれなりの値段で売ることができるみたいだ。
僕はセイクリッドサークルを発動させて、六ヶ所あるキラキラした場所から石を採取した。
一つは取り外した瞬間に三センチくらいの紅い楕円形の宝石になった。ルビーなのかガーネットなのか、それとも別の宝石なのか分からないけど、これはきっと当たりなんだろうな。
大根掘りでは味わえなかった、新しいダンジョンの楽しみ方を経験できて、僕はちょっと嬉しくなっていた。
そして十階層のボスエリアに到着した。
学校の体育館くらい広い空洞に、オークが多く現れた。
……オークがたくさん現れた。
その数、約二十匹。
ファイアボールをオークの集団に満遍なく連続で打ち込む。着弾する度に爆炎があちこちで燃え上がり、数秒間、空洞がサウナのように熱くなった。
空洞の温度が元に戻った時にはオークの姿はなくなっていて、階段の近くには宝箱が現れていた。
カオスファインダーを使ってみると、宝箱の鍵穴の部分が赤く光った。
これは初めての現象だ。
鍵穴から毒針が飛び出してくるのかな。それとも毒ガスか?
鍵穴だけが赤く光るということは、爆発とかではないと思うけど……。
僕は宝箱から五メートル以上離れた所でシールドを張ってから、サイコキネシスで鍵の部分を雑にガチャガチャと動かしてみた。
すると、カシュッ、と音がして針が飛び出して来た。針は僕が居るところまで富んできて、シールドに当たって地面に落ちた。
僕は今、ダンジョンを冒険している!
大根掘りのシンプルでストイックなところも嫌いじゃなかった。
でも、魔鉱窟の3Dダンジョン・ロールプレイング・ゲームのようなギミックが満載なのはもっと面白い。
僕は魔鉱窟と大樹の根を行き来する生活を一ヶ月ほど楽しんだ。
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