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男爵
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「最近、魔石の収集率が随分と下がってるみたいだな」
「はい。申し訳ございません」
「前回の召喚から既に三ヶ月が過ぎているにも関わらず、魔晶石には召喚ニ回分しか溜まっていないのだが」
「はい。誠に申し訳ございません」
「弁明はなしか……ジョル爺、ただ頭を下げ続けるだけでいつまでも許されると思わないことだ」
「は……」
「やることは分かっているな?」
「はい。既に闘士を一人動かしております」
「ジョル爺、何故お前自身が動かないのだ? お前の目利きで追放した者達の中から人を募るのだそ?」
「は……はい。本日から私めも街に出たく思います」
「責務を果たせよ?」
「はっ」
アバンシアの街を治めているチャールズ男爵は、十五人までの闘士を保有することができる。
だが、現状は手元に六人しかいない。
その理由は簡単で、つい最近、十人の闘士がダンジョン内で死んでしまったのだ。
原因は、ジョル爺の指示による無謀な階層へのチャレンジであることは明白だ。
ジョル爺は自分の為によく働いてきてくれたが、もう暇を出す頃合いなのかも知れない。
人を見る目と、人を育てる力が足りていない。
以前に、十二階層まで行くことのできる闘士パーティーを作れたのは、単純にその時にやって来た全員の闘士のスキルが強かっただけなのだろう。
結局、調子に乗ってレベル上げをしっかりやらせずに、強引に十二階層のボスに突撃させたことで、メインパーティー八人中の六人を死なせてしまった。
また、新たに召喚した者達もそうだ。先を急がせ過ぎた為、せっかくの赤レアを失うことになってしまった。
チャールズが男爵を叙爵してから、既に二年と三ヶ月が過ぎている。
この世界では爵位はすべて、一代限りのものだ。それは別に構わない。自分が死ぬまでこの地位にいられるのであれば。
ただ、この世界の男爵位は、叙爵から五年以内になんらかの功績を立てなければならない。チャールズに求められている功績とは、魔鉱窟ダンジョンの最奥の踏破である。
既に半分近い日数を消化した所で、ふりだし近くまで戻されてしまった状況に多少の焦りを覚えていた。
実は、チャールズ男爵も元は闘士だった。
彼は黃レアの重騎士だったが、彼を召喚したミウラ子爵にとっては不要な駒だったらしく、追放されてしまった。
そこで彼は、ミウラ子爵の治める街から少し離れた所にあった小さなダンジョンを、同じく追放されていた四人の仲間と共に踏破することで男爵位を手に入れた。
ダンジョンを踏破することで手に入れられる報酬には幾つかの選択肢があった。
その中で、彼は男爵位を選んだのだ。つまり、誰かに叙爵されたのではなく、ダンジョンに、というよりもこの世界の仕組みそのものに叙爵されたのである。そもそも、この世界(またはこの大陸)には国という概念がないのだから、爵位を与えられる者なんていないのだ。
つまり、この爵位というのはスキルのようなものだ。
手に入れた時に、このアバンシアの街が自分のモノになったことを理解できたので、彼は街主代理の者と交代して街主になった。
チャールズが踏破したダンジョンの、最後のボス戦では仲間が三人死んでしまった。ダンジョンは恐ろしいところだ。できればもう入りたくない。
チャールズの他に生き残ったもう一人、ランディは、今はチャールズの街でミスリル銀細工師、または鍛冶師として生きている。彼はダンジョン踏破の報酬として《鍛冶師》という新たなスキルを手に入れたのだ。彼はきっと、もう二度とダンジョンに入るつもりはないことだろう。
チャールズは今もランディとの交流がある。たまに街主邸に呼んで一緒に食事を楽しむ仲だ。最近、ランディとの会話の中で、面白い闘士がいるみたいだ、という話を聞いていた。
商人のナーグマンを通して、ミスリルの角石やら、棍棒やらを造れと言ってくるらしい。そんなシンプルな物を造るのは面白くないから全部断って、ちょっと違った物を卸してるのだが、それらをことごとく買っていっているらしい。
チャールズは、そいつはもしかしたら、何か人と違ったスキルでも持ってるのかも知れないなと思った。次に何か注文があったらそいつと引き合わせてほしいとランディに頼んだ。
ハズレという言い方で(ゴミカスということで)ここから追い出した者達の方が、男爵お抱えの闘士よりも生存率が高いようだ。
まあ、自分自身が不要と言われて追放されたのだ。追放された方が自由にやれるから、人によっては結果を出しやすいだろうということはよく分かる。
追放された者達は、別に戦いを強制されることもないので、普通に街の住人として生きていくことができるのだし。
また、もしも自身が希望してダンジョンに入る場合でも、自分の判断で安全な所で力を付けて、無理をせずに、安全な階層で稼ぎ続けていれば、食っていくことには困らないはずだ。
そうしているうちに、ある程度強くなった者も出てくる。そういった、魔法が使える者や、レベルが高くなった白、青レアを呼び戻すことが、今のジョル爺に課した急務だ。
だが……そろそろ自分自身が動かなければ駄目かもしれない。
このニ年間、この街には駄目な所が多すぎて、直接対処しなければならないことが山積みで時間がなかった。
ダンジョンにはできれば入りたくなかったが、最後には自分が出張って踏破すればいいと思っていた。召喚して手元に残した闘士達には、その時のパーティーメンバーになってもらえればと考えていた。
だから、悪い印象を与えないようにあまり顔を出さず、召喚された者達とはあえて距離をおいた。
……もちろんこれが、召喚などして申し訳ないという、罪悪感から逃れる為の行動であることは、自分でも分かっている。
今までは闘士の応対はジョル爺に任せてきてしまったが、そろそろ自分が前に出るか。
まだレベルの低い者達とダンジョンに入ってみるのもいいかも知れない。
魔鉱窟ダンジョンを踏破して、男爵から子爵に上がる報酬を得ることができなければ、チャールズはまた平民、いや、ただの闘士に戻ってしまう。
実は、それは望むところではあるのだが、爵位を持っていなければ成し得ないことがある為、まだこの位にしがみつく必要がある。
そう。自分の爵位を上げて、このふざけた世界に召喚しやがったミウラ子爵を倒すまでは、チャールズ男爵の戦いは終わらないのである。
「はい。申し訳ございません」
「前回の召喚から既に三ヶ月が過ぎているにも関わらず、魔晶石には召喚ニ回分しか溜まっていないのだが」
「はい。誠に申し訳ございません」
「弁明はなしか……ジョル爺、ただ頭を下げ続けるだけでいつまでも許されると思わないことだ」
「は……」
「やることは分かっているな?」
「はい。既に闘士を一人動かしております」
「ジョル爺、何故お前自身が動かないのだ? お前の目利きで追放した者達の中から人を募るのだそ?」
「は……はい。本日から私めも街に出たく思います」
「責務を果たせよ?」
「はっ」
アバンシアの街を治めているチャールズ男爵は、十五人までの闘士を保有することができる。
だが、現状は手元に六人しかいない。
その理由は簡単で、つい最近、十人の闘士がダンジョン内で死んでしまったのだ。
原因は、ジョル爺の指示による無謀な階層へのチャレンジであることは明白だ。
ジョル爺は自分の為によく働いてきてくれたが、もう暇を出す頃合いなのかも知れない。
人を見る目と、人を育てる力が足りていない。
以前に、十二階層まで行くことのできる闘士パーティーを作れたのは、単純にその時にやって来た全員の闘士のスキルが強かっただけなのだろう。
結局、調子に乗ってレベル上げをしっかりやらせずに、強引に十二階層のボスに突撃させたことで、メインパーティー八人中の六人を死なせてしまった。
また、新たに召喚した者達もそうだ。先を急がせ過ぎた為、せっかくの赤レアを失うことになってしまった。
チャールズが男爵を叙爵してから、既に二年と三ヶ月が過ぎている。
この世界では爵位はすべて、一代限りのものだ。それは別に構わない。自分が死ぬまでこの地位にいられるのであれば。
ただ、この世界の男爵位は、叙爵から五年以内になんらかの功績を立てなければならない。チャールズに求められている功績とは、魔鉱窟ダンジョンの最奥の踏破である。
既に半分近い日数を消化した所で、ふりだし近くまで戻されてしまった状況に多少の焦りを覚えていた。
実は、チャールズ男爵も元は闘士だった。
彼は黃レアの重騎士だったが、彼を召喚したミウラ子爵にとっては不要な駒だったらしく、追放されてしまった。
そこで彼は、ミウラ子爵の治める街から少し離れた所にあった小さなダンジョンを、同じく追放されていた四人の仲間と共に踏破することで男爵位を手に入れた。
ダンジョンを踏破することで手に入れられる報酬には幾つかの選択肢があった。
その中で、彼は男爵位を選んだのだ。つまり、誰かに叙爵されたのではなく、ダンジョンに、というよりもこの世界の仕組みそのものに叙爵されたのである。そもそも、この世界(またはこの大陸)には国という概念がないのだから、爵位を与えられる者なんていないのだ。
つまり、この爵位というのはスキルのようなものだ。
手に入れた時に、このアバンシアの街が自分のモノになったことを理解できたので、彼は街主代理の者と交代して街主になった。
チャールズが踏破したダンジョンの、最後のボス戦では仲間が三人死んでしまった。ダンジョンは恐ろしいところだ。できればもう入りたくない。
チャールズの他に生き残ったもう一人、ランディは、今はチャールズの街でミスリル銀細工師、または鍛冶師として生きている。彼はダンジョン踏破の報酬として《鍛冶師》という新たなスキルを手に入れたのだ。彼はきっと、もう二度とダンジョンに入るつもりはないことだろう。
チャールズは今もランディとの交流がある。たまに街主邸に呼んで一緒に食事を楽しむ仲だ。最近、ランディとの会話の中で、面白い闘士がいるみたいだ、という話を聞いていた。
商人のナーグマンを通して、ミスリルの角石やら、棍棒やらを造れと言ってくるらしい。そんなシンプルな物を造るのは面白くないから全部断って、ちょっと違った物を卸してるのだが、それらをことごとく買っていっているらしい。
チャールズは、そいつはもしかしたら、何か人と違ったスキルでも持ってるのかも知れないなと思った。次に何か注文があったらそいつと引き合わせてほしいとランディに頼んだ。
ハズレという言い方で(ゴミカスということで)ここから追い出した者達の方が、男爵お抱えの闘士よりも生存率が高いようだ。
まあ、自分自身が不要と言われて追放されたのだ。追放された方が自由にやれるから、人によっては結果を出しやすいだろうということはよく分かる。
追放された者達は、別に戦いを強制されることもないので、普通に街の住人として生きていくことができるのだし。
また、もしも自身が希望してダンジョンに入る場合でも、自分の判断で安全な所で力を付けて、無理をせずに、安全な階層で稼ぎ続けていれば、食っていくことには困らないはずだ。
そうしているうちに、ある程度強くなった者も出てくる。そういった、魔法が使える者や、レベルが高くなった白、青レアを呼び戻すことが、今のジョル爺に課した急務だ。
だが……そろそろ自分自身が動かなければ駄目かもしれない。
このニ年間、この街には駄目な所が多すぎて、直接対処しなければならないことが山積みで時間がなかった。
ダンジョンにはできれば入りたくなかったが、最後には自分が出張って踏破すればいいと思っていた。召喚して手元に残した闘士達には、その時のパーティーメンバーになってもらえればと考えていた。
だから、悪い印象を与えないようにあまり顔を出さず、召喚された者達とはあえて距離をおいた。
……もちろんこれが、召喚などして申し訳ないという、罪悪感から逃れる為の行動であることは、自分でも分かっている。
今までは闘士の応対はジョル爺に任せてきてしまったが、そろそろ自分が前に出るか。
まだレベルの低い者達とダンジョンに入ってみるのもいいかも知れない。
魔鉱窟ダンジョンを踏破して、男爵から子爵に上がる報酬を得ることができなければ、チャールズはまた平民、いや、ただの闘士に戻ってしまう。
実は、それは望むところではあるのだが、爵位を持っていなければ成し得ないことがある為、まだこの位にしがみつく必要がある。
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