自由に自在に

もずく

文字の大きさ
80 / 94

大根掘り大会

しおりを挟む
 ある日の真夜中。
 魔鉱窟ダンジョン内にいた者達が、その出入口のあった東門付近に放り出された。
 その数百数十名。
 その中には熊野真司やその仲間達の姿もあった。
 彼らはダンジョン内で休んでいたり、歩いていたり、戦ったりしていたのだが、突然、ダンジョンの外に追い出されてしまったのだ。
 あとで聞き取り調査を行ったところ、どうやら階層の低い方から順に外に出てきたらしいと言うことが分かった。
 調査を行ったのは男爵家の執事ドライウッドルーだ。チャールズ男爵からはジョル爺と呼ばれるこの男は、ダンジョンの出入口で受け付けや警備を行っていた者からの連絡を受け、ダンジョンが攻略されたのだと悟った。
 また、最後に現れたのが聖騎士アルヴィン達であると聞いて、彼らが攻略したのだと喜んだ。

 のだが。

 彼らは七階層で新人のレベルアップをしていたというではないか。
 別々に取り調べを行ったのだが、全員の回答におかしな点はなく、また、男爵の指示で、男爵の立ち会いの元、スキルの再鑑定を行ったのだが特に変化は見られなかった。
 これにより、アルヴィン達が攻略をして報酬を奪ったのではなく、彼らは無罪であると男爵自身が判決を下した。

 男爵の目は、大樹の根のダンジョンの攻略に向けられることとなる。
 魔鉱窟ダンジョンは、攻略した者の判断一つではあるが、復活する可能性がある。
 ただ、復活にはしばらくの時間がかかるし、復活した際にはダンジョンはより強い魔物が現れ、罠や迷宮自体の造りがより難しくなるのだ。
 魔鉱窟ダンジョンがなくなってしまったからと言って、闘士達を手放したり、遊ばせて置くわけには行かなかった。
 そして、大樹の根のダンジョン攻略には、男爵自身も一緒に入ることにするのだった。

 男爵の闘士パーティーに男爵自身が加わった。
 この話は、男爵が大樹の根のダンジョンに入った翌日には、街であぶれていたハズレ闘士、現地人チャレンジャーの間ですぐに話題になった。
 旨味がないと言われていた大根掘りだが、男爵が入るとなれば話は別だ。何かがあるに違いない。
 それに、男爵がいる眼の前で己の活躍を見せつければ、男爵からパーティーへ入れとお声がかかるかも知れない。
 その翌日から、大樹の根のダンジョンには多くのチャレンジャーが訪れるようになった。
 そして、その管理の為に、やはり男爵の配下の者によって、入口付近の管理が始まったのである。
 ただ、大樹の根の周りには定期的にコボルトやビッグホッパーが湧き出す為、その管理には多少と言うにはなかなかの手間がかかってしまうのだった。

「あの優男、うちに来ねえんだがよ。お前さんはあの後会ったか?」
「いえ。そもそも知り合いと言うレベルの間柄でもないですし」

 ギフが店にやってきて、夕飯を食べるのに付き合えと言われ同席している。
 僕は特に嘘はついてない。
 知り合いと言うレベルの間柄ではなく、本人なのだから。
 リンとエナが来てないのは、ヒヤミの話をするからなんだろう。静かで助かる。だから僕は席について食事に付き合うことにしたのだ。

「奴が何か手に入れれば、うちに売りに来ると思ってたんだがなあ」
「攻略の時に怪我をしてしまったとかでは?」
「ああ、確かにな。その可能性もあるだろうな。だが、あいつが大怪我をする姿ってえのが何故か想像できねえんだぜ」
「ギフから見ても、そんなに強そうな人でしたか」
「強そうってかよ。何やら裏技を持ってそうな雰囲気がしまくっててな」

 ギフは時々鋭いな。
 もちろん、近接戦でも魔法戦でも負ける気はしないけど、確かに、ヒヤミには他の人にはない《自由自在》っていうスキルの強みはあると思う。
 そしてそれは、魔鉱窟ダンジョンを踏破、完全攻略したことでさらに強化された。
 はっきり言って、今の僕は強い。
 ダンジョン攻略の経験がある人と戦ったらどうなるか分からないけど、ダンジョン未攻略の人にはまず間違いなく負けることはないだろう。

「あんなに空いてて大根掘りとか言われてた大樹によ、今やチャレンジャーがわんさか集まってやがる。その内、あの近くに宿屋や店が出来んじゃねえかって話だぜ」
「行きづらくなりますね……」
「まあ、お前さんにとっては迷惑な話だあな」
「ギフ達はどうするんですか?」
「あ? もちろん俺等も大根掘りに行くぜ。あそこなら今んとこギルドカードはいらねえし、一緒に行くか?」
「そうですね。たまになら」
「あ~分かってたよ。お前さんはいつもそういう……あ? 今なんつった?」
「たまになら、と」
「うおお! マジか! よし、早速ギルドに戻って声かけてくらあ。何人までならいい」
「僕を入れて五人くらいだとありがたいです。あまり人が多いのはちょっと」
「分かった! ハワードの爺さん、金はここに置いとくぜ!」

 言うが早いか、ギフは店を飛び出して行った。相変わらず、体が大きい割に動きが素早い。

「あの人は元気をくれるねえ」
「そうですか?」
「ああ。フトウくんも少しは影響を受けとるんだろう?」
「どうでしょうか……」
「まあ、ダンジョンに行くときは気を付けてな」
「そうですよ。安全第一でね」
「はい。ありがとうございます」

 ギフが最後の客だったので、僕はハワードさん達と一緒に食器を片付けた。
 皿洗いなどは手伝わせてもらえないので、僕はテーブを拭いて、床を掃き掃除した。
 こういうのんびりした時間がいい。
 僕は、明日の朝からやって来そうなギフ達を想像して、今のゆっくりとした時間を味わって過ごした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...