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大根掘り大会
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ある日の真夜中。
魔鉱窟ダンジョン内にいた者達が、その出入口のあった東門付近に放り出された。
その数百数十名。
その中には熊野真司やその仲間達の姿もあった。
彼らはダンジョン内で休んでいたり、歩いていたり、戦ったりしていたのだが、突然、ダンジョンの外に追い出されてしまったのだ。
あとで聞き取り調査を行ったところ、どうやら階層の低い方から順に外に出てきたらしいと言うことが分かった。
調査を行ったのは男爵家の執事ドライウッドルーだ。チャールズ男爵からはジョル爺と呼ばれるこの男は、ダンジョンの出入口で受け付けや警備を行っていた者からの連絡を受け、ダンジョンが攻略されたのだと悟った。
また、最後に現れたのが聖騎士アルヴィン達であると聞いて、彼らが攻略したのだと喜んだ。
のだが。
彼らは七階層で新人のレベルアップをしていたというではないか。
別々に取り調べを行ったのだが、全員の回答におかしな点はなく、また、男爵の指示で、男爵の立ち会いの元、スキルの再鑑定を行ったのだが特に変化は見られなかった。
これにより、アルヴィン達が攻略をして報酬を奪ったのではなく、彼らは無罪であると男爵自身が判決を下した。
男爵の目は、大樹の根のダンジョンの攻略に向けられることとなる。
魔鉱窟ダンジョンは、攻略した者の判断一つではあるが、復活する可能性がある。
ただ、復活にはしばらくの時間がかかるし、復活した際にはダンジョンはより強い魔物が現れ、罠や迷宮自体の造りがより難しくなるのだ。
魔鉱窟ダンジョンがなくなってしまったからと言って、闘士達を手放したり、遊ばせて置くわけには行かなかった。
そして、大樹の根のダンジョン攻略には、男爵自身も一緒に入ることにするのだった。
男爵の闘士パーティーに男爵自身が加わった。
この話は、男爵が大樹の根のダンジョンに入った翌日には、街であぶれていたハズレ闘士、現地人チャレンジャーの間ですぐに話題になった。
旨味がないと言われていた大根掘りだが、男爵が入るとなれば話は別だ。何かがあるに違いない。
それに、男爵がいる眼の前で己の活躍を見せつければ、男爵からパーティーへ入れとお声がかかるかも知れない。
その翌日から、大樹の根のダンジョンには多くのチャレンジャーが訪れるようになった。
そして、その管理の為に、やはり男爵の配下の者によって、入口付近の管理が始まったのである。
ただ、大樹の根の周りには定期的にコボルトやビッグホッパーが湧き出す為、その管理には多少と言うにはなかなかの手間がかかってしまうのだった。
「あの優男、うちに来ねえんだがよ。お前さんはあの後会ったか?」
「いえ。そもそも知り合いと言うレベルの間柄でもないですし」
ギフが店にやってきて、夕飯を食べるのに付き合えと言われ同席している。
僕は特に嘘はついてない。
知り合いと言うレベルの間柄ではなく、本人なのだから。
リンとエナが来てないのは、ヒヤミの話をするからなんだろう。静かで助かる。だから僕は席について食事に付き合うことにしたのだ。
「奴が何か手に入れれば、うちに売りに来ると思ってたんだがなあ」
「攻略の時に怪我をしてしまったとかでは?」
「ああ、確かにな。その可能性もあるだろうな。だが、あいつが大怪我をする姿ってえのが何故か想像できねえんだぜ」
「ギフから見ても、そんなに強そうな人でしたか」
「強そうってかよ。何やら裏技を持ってそうな雰囲気がしまくっててな」
ギフは時々鋭いな。
もちろん、近接戦でも魔法戦でも負ける気はしないけど、確かに、僕には他の人にはない《自由自在》っていうスキルの強みはあると思う。
そしてそれは、魔鉱窟ダンジョンを踏破、完全攻略したことでさらに強化された。
はっきり言って、今の僕は強い。
ダンジョン攻略の経験がある人と戦ったらどうなるか分からないけど、ダンジョン未攻略の人にはまず間違いなく負けることはないだろう。
「あんなに空いてて大根掘りとか言われてた大樹によ、今やチャレンジャーがわんさか集まってやがる。その内、あの近くに宿屋や店が出来んじゃねえかって話だぜ」
「行きづらくなりますね……」
「まあ、お前さんにとっては迷惑な話だあな」
「ギフ達はどうするんですか?」
「あ? もちろん俺等も大根掘りに行くぜ。あそこなら今んとこギルドカードはいらねえし、一緒に行くか?」
「そうですね。たまになら」
「あ~分かってたよ。お前さんはいつもそういう……あ? 今なんつった?」
「たまになら、と」
「うおお! マジか! よし、早速ギルドに戻って声かけてくらあ。何人までならいい」
「僕を入れて五人くらいだとありがたいです。あまり人が多いのはちょっと」
「分かった! ハワードの爺さん、金はここに置いとくぜ!」
言うが早いか、ギフは店を飛び出して行った。相変わらず、体が大きい割に動きが素早い。
「あの人は元気をくれるねえ」
「そうですか?」
「ああ。フトウくんも少しは影響を受けとるんだろう?」
「どうでしょうか……」
「まあ、ダンジョンに行くときは気を付けてな」
「そうですよ。安全第一でね」
「はい。ありがとうございます」
ギフが最後の客だったので、僕はハワードさん達と一緒に食器を片付けた。
皿洗いなどは手伝わせてもらえないので、僕はテーブを拭いて、床を掃き掃除した。
こういうのんびりした時間がいい。
僕は、明日の朝からやって来そうなギフ達を想像して、今のゆっくりとした時間を味わって過ごした。
魔鉱窟ダンジョン内にいた者達が、その出入口のあった東門付近に放り出された。
その数百数十名。
その中には熊野真司やその仲間達の姿もあった。
彼らはダンジョン内で休んでいたり、歩いていたり、戦ったりしていたのだが、突然、ダンジョンの外に追い出されてしまったのだ。
あとで聞き取り調査を行ったところ、どうやら階層の低い方から順に外に出てきたらしいと言うことが分かった。
調査を行ったのは男爵家の執事ドライウッドルーだ。チャールズ男爵からはジョル爺と呼ばれるこの男は、ダンジョンの出入口で受け付けや警備を行っていた者からの連絡を受け、ダンジョンが攻略されたのだと悟った。
また、最後に現れたのが聖騎士アルヴィン達であると聞いて、彼らが攻略したのだと喜んだ。
のだが。
彼らは七階層で新人のレベルアップをしていたというではないか。
別々に取り調べを行ったのだが、全員の回答におかしな点はなく、また、男爵の指示で、男爵の立ち会いの元、スキルの再鑑定を行ったのだが特に変化は見られなかった。
これにより、アルヴィン達が攻略をして報酬を奪ったのではなく、彼らは無罪であると男爵自身が判決を下した。
男爵の目は、大樹の根のダンジョンの攻略に向けられることとなる。
魔鉱窟ダンジョンは、攻略した者の判断一つではあるが、復活する可能性がある。
ただ、復活にはしばらくの時間がかかるし、復活した際にはダンジョンはより強い魔物が現れ、罠や迷宮自体の造りがより難しくなるのだ。
魔鉱窟ダンジョンがなくなってしまったからと言って、闘士達を手放したり、遊ばせて置くわけには行かなかった。
そして、大樹の根のダンジョン攻略には、男爵自身も一緒に入ることにするのだった。
男爵の闘士パーティーに男爵自身が加わった。
この話は、男爵が大樹の根のダンジョンに入った翌日には、街であぶれていたハズレ闘士、現地人チャレンジャーの間ですぐに話題になった。
旨味がないと言われていた大根掘りだが、男爵が入るとなれば話は別だ。何かがあるに違いない。
それに、男爵がいる眼の前で己の活躍を見せつければ、男爵からパーティーへ入れとお声がかかるかも知れない。
その翌日から、大樹の根のダンジョンには多くのチャレンジャーが訪れるようになった。
そして、その管理の為に、やはり男爵の配下の者によって、入口付近の管理が始まったのである。
ただ、大樹の根の周りには定期的にコボルトやビッグホッパーが湧き出す為、その管理には多少と言うにはなかなかの手間がかかってしまうのだった。
「あの優男、うちに来ねえんだがよ。お前さんはあの後会ったか?」
「いえ。そもそも知り合いと言うレベルの間柄でもないですし」
ギフが店にやってきて、夕飯を食べるのに付き合えと言われ同席している。
僕は特に嘘はついてない。
知り合いと言うレベルの間柄ではなく、本人なのだから。
リンとエナが来てないのは、ヒヤミの話をするからなんだろう。静かで助かる。だから僕は席について食事に付き合うことにしたのだ。
「奴が何か手に入れれば、うちに売りに来ると思ってたんだがなあ」
「攻略の時に怪我をしてしまったとかでは?」
「ああ、確かにな。その可能性もあるだろうな。だが、あいつが大怪我をする姿ってえのが何故か想像できねえんだぜ」
「ギフから見ても、そんなに強そうな人でしたか」
「強そうってかよ。何やら裏技を持ってそうな雰囲気がしまくっててな」
ギフは時々鋭いな。
もちろん、近接戦でも魔法戦でも負ける気はしないけど、確かに、僕には他の人にはない《自由自在》っていうスキルの強みはあると思う。
そしてそれは、魔鉱窟ダンジョンを踏破、完全攻略したことでさらに強化された。
はっきり言って、今の僕は強い。
ダンジョン攻略の経験がある人と戦ったらどうなるか分からないけど、ダンジョン未攻略の人にはまず間違いなく負けることはないだろう。
「あんなに空いてて大根掘りとか言われてた大樹によ、今やチャレンジャーがわんさか集まってやがる。その内、あの近くに宿屋や店が出来んじゃねえかって話だぜ」
「行きづらくなりますね……」
「まあ、お前さんにとっては迷惑な話だあな」
「ギフ達はどうするんですか?」
「あ? もちろん俺等も大根掘りに行くぜ。あそこなら今んとこギルドカードはいらねえし、一緒に行くか?」
「そうですね。たまになら」
「あ~分かってたよ。お前さんはいつもそういう……あ? 今なんつった?」
「たまになら、と」
「うおお! マジか! よし、早速ギルドに戻って声かけてくらあ。何人までならいい」
「僕を入れて五人くらいだとありがたいです。あまり人が多いのはちょっと」
「分かった! ハワードの爺さん、金はここに置いとくぜ!」
言うが早いか、ギフは店を飛び出して行った。相変わらず、体が大きい割に動きが素早い。
「あの人は元気をくれるねえ」
「そうですか?」
「ああ。フトウくんも少しは影響を受けとるんだろう?」
「どうでしょうか……」
「まあ、ダンジョンに行くときは気を付けてな」
「そうですよ。安全第一でね」
「はい。ありがとうございます」
ギフが最後の客だったので、僕はハワードさん達と一緒に食器を片付けた。
皿洗いなどは手伝わせてもらえないので、僕はテーブを拭いて、床を掃き掃除した。
こういうのんびりした時間がいい。
僕は、明日の朝からやって来そうなギフ達を想像して、今のゆっくりとした時間を味わって過ごした。
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