自由に自在に

もずく

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嫌な話(なので読まないでください)

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「おい! フトー! この野郎、なんで、俺には、手助けを、しねえん、だ!」
「一人くらいギフがやってくださいよ。僕は五人を縛り上げておきますから」
「なんだと!?」

 最後の「なんだと」は敵のファイターだ。まさか仲間が全員やられたとは思ってなかったんだろう。
 僕が奥で吐いてる二人を縛り上げている間に、ノーラとエナとリンも動き出し、ロープを取り出してスカウトと思われる二人を縛り始めた。
 盾の大男はでかいので、これはあとで僕がやるか。

 しかし、ノーラは以前、ガロと一緒に僕に襲いかかって来なかったっけか。
 あれは僕じゃないことにしてあるはずだから改めて聞けないけど、対人戦は経験ありそうなんだけどな。
 まあ、襲う側と襲われる側とでは大きな違いがあるか。

「……■■■■ストーンバレット!」
「がっ!」
「おりゃあ!」
「ぶべっ」

 リンがストーンバレットを戦士の膝裏に撃ち込み、体勢を崩した男の顔面を、ギフが盾で殴りつけた。
 戦士は気絶したようだ。
 もしかしたら死んでるかも知れないけど。
 指先がピクピクしてるから大丈夫か。

「実際問題、こうやって襲ってきた人達ってどうしてるんですか?」
「どうしてるって、ああ、どっか警察みたいなところに突き出すとかそういう話か」
「ええ」
「ダンジョンの中での人間チャレンジャー同士の戦闘はご法度だぜ、当たり前だがなあ?」
「あっ、はいはいはいはいはい。この話、わたし最初の時に聞いたよ。ダンジョンの中はむほー地帯だから、何が起きても自己責任だって。だから、ダンジョンに入るチャレンジャーは、魔物に殺されるのも、人に殺されるのも全部受け入れた人として処理されるって」
「……なるほど。それは魔鉱窟ダンジョンの話なんでしょうけど、たぶん、どのダンジョンにも適用される話ってことですね」
「だな。んで、ここは魔鉱窟よりも酷え状態だな。魔鉱窟の低階層は男爵んとこの警備隊みたいなのが巡回してたからな」
「でもここにはそれがまだいない、と」
「ああ」

 まあ、確かにここは無法地帯だ。
 基本的には各個人のモラル次第ということになる。

 元の世界でも、例えば僕が、人気のない場所で誰かに殺されたとして、その犯人が証拠を残さずに完全犯罪を成功させることができれば、その犯人は犯人にはならない。僕の死体が見つからなければ殺人事件さえ、そもそも起こっていないことになるのだから。
 それは、ダンジョン内で僕らが全員殺されてしまい、身ぐるみ剥がされて魔物に食われた場合と同じことなわけだ。

「ギフはこの人達をどうするんですか?」
「街まで連れてくのもめんどくせえ。半端に放置して生き残られたら復讐しに来るかも知れねえ」
「そう、ですか」
「酷えと思うか?」
「はい。この人達にとっては酷い話なんでしょうね」
「そうだね。なんか、襲ってきた奴らなのに可哀想な気もするけど……ここで終わらせないと次はわたし達がやられちゃうかも知れないってゆうのは分かるよ」
「こいつらみたいな悪党は犠牲者を増やすだけだから」

 リンだけが何も言わなかった。
 多数決で決めていい話ではないんだろうけど、放置して結果的に死なせてしまうという判断は、今、この場面においては、満場一致かどうかに大きな意味はないと感じた。

 まず最初に武器を向けてきたのはこの人達なんだ。
 そう言い聞かせながら、ギフの指示に従った動いた。
 彼らの身ぐるみを剥いで、猿ぐつわと目隠しをして、そして、行き止まりまで引きずっていった。

 自分が生きていくには、自分を殺そうとした相手を許してはいけない。
 それが嫌なら、自分が殺されるしかないのだ。
 何故なら、話が通じる相手なら、そもそも襲ってくる訳がないのだから。

 圧倒的な力で屈伏させるのはどうだろうか。
 その時はきっと謝るだろうし、二度としないと誓うかも知れない。でも、僕らは許した相手の人生を見守ることはできないし、忘れた頃に復讐されるかも知れない。
 その復讐相手が自分ならまだいい。もしも身近な大事な人が、理不尽な復讐に巻き込まれて殺されてしまうことになったら?
 その時はきっと、どうしようもないくらいに悲しくて悔しくて後悔することになるんだろう

 そして、そうなる可能性はゼロではない。

 でも、もしも可能性をゼロに出来るなら……いや、それが可能だったとしても、それは僕だけが救われない方法だ。
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