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余暇
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最近の僕は、一日毎に大根の地下五、六、七階のボスを倒して、オーガファイターやオーガチーフと戦うというルーチンワークをこなしている。
これだけで、金貨六枚から十枚の収入になるし、他にも高値の付きそうな武具や魔道具が手に入っている。
当初はその馬鹿力と意外な俊敏さ、硬さ、そして自動回復のせいで苦戦したオーガも、今ではミスリル三節棍だけで倒すことができるようになっている。
半分は自分自身の努力のおかげだと思うけど、半分は魔鉱窟ダンジョンを踏破した時の報酬である《武芸百般》というスキルのおかげかも知れない。
あまりスキルには頼りたくはないんだけど、スキルが最適な動きを教えてくれる先生的な一面もあるので、日々学びながら戦っている。
ミスリル三節棍の他に、ゲームのような名前が付いた武器も報酬でいくつか手に入れてるので、それらも訓練している。
これにかかる時間が大体一時間ちょっと位なので、寝る前の日課的な感覚になっている。
そう言えば、ハワードさんとネルさんに聞いてみたのだけど、東門の方に店を移転するつもりはないそうだ。
ならば、あの居抜き店舗は自分専用のカフェとして利用することにしようか。
それと、これを期に引っ越しをしようかな。
少し寂しく思う気持ちもあるけど、僕はきっと、いつかはこの街を出ていくのだし。
彼らが僕のことを孫か子供のように想ってくれているのなら、これは巣立ちの第一歩だと思ってほしい。
そうして僕は引っ越しをした。
二階に仕切りをつけて、寝室とシャワールームを造ってみた。
お湯はクリエイトホットウォーターで出せるので、シャワーノズルの上は桶というかなりシンプルな設計だ。下に落ちたお湯は、二階から一階への配管を通って外の下水路に排出される。
寝室に水漏れしないように、防水だけは拘って造ってみた。魔鉱窟ダンジョンで手に入れた色々な物を弾く鉱石(というか粘土)をシャワールームの全体に使ってある。
外への空気穴が小さいので、あまり長くいると疲れてしまうけど、湯船がないので困ることはない。
残念ながらトイレはない。
こればかりは街の共同トイレを使うしかない。
この国の殆どの一般人の建物にはトイレは付いてない。トイレがあるのは貴族の建物くらいだ。
だから、この建物にも元々トイレがなかったのだ。シンクやシャワーの水と一緒に汚水を流す勇気はない。
もう一つの報酬である肩掛けのバッグは、見た目よりも多くの物が入るマジックバッグだ。
今のところ、僕には必要のない物なので異空間収納庫に死蔵してある。
また、ナーグマンの伝手で付き合いができた食料品をメインに取り扱う商人、エイトオーエイトの九良さんから、僕は定期的に米や小麦粉、色々な肉、野菜、果物、それから調味料関係を結構な量をまとめて買っている。
最近はそれにコーヒー豆とお茶っ葉が追加された。
クラさんはその名前が示す通り、元は日本の人だ。だから話が早くて助かる。
彼女ももちろん元闘士だけど、他の街からの移民(?)だそうだ。レア度黄色の白魔道師で、治癒魔法はなかなか優秀なんだと自慢していたけど、もうダンジョンには入りたくないそうだ。
ただ、コーヒー豆をお願いしたところ、今度、僕の新しい家でお茶をしたいと言い出していて少し困っている。
未婚の女性を一人だけ家に呼ぶのは少し怖い。かと言って、他の人に新しい我が家を知られたくもない。どうしようかと悩みながら、東門エリアの大通りを歩いていると、冒険者御用達の高級店、マジックポットから出てくるナーグマン夫妻と出会った。
挨拶をすると、彼の方から奥さんを紹介された。栗色の綺麗に手入れされた長い髪が特徴的な、とても綺麗な人だった。
僕は閃いた。
実はクラさんから、アフタヌーンティー的な時間が作れないかと言われてるんだけどと前置きして、もしよかったら、クラさんを紹介してくれた人でもあるのでナーグマンご夫婦も一緒にいかがですか、と誘ってみた。
「それはいいお話です。是非ご一緒させてください」
「よかったです。いや、相手からの提案とは言っても、独身の女性一人を招くのはちょっとハードルが高くて実は困ってたんです」
「あらまあ、そうでしたの」
「なるほどそういうことでしか。フトー様はなんとも罪作りなことですね」
日程は改めて伝えることにして、僕はナーグマン夫妻と別れた。
別れ際に、奥さんがちょっと企むような、いたずらな目を見せたような気がして、僕は少し身震いした。
いい話の流れになったはずなのにおかしいな。
いくつかの店を回って、僕は縦にスラリとしたティーポットのようなコーヒーポットや、コーヒーカップを始め、食器やカトラリーセット、ケトルやフライパンなどの調理道具を大量に買い集めた。
それ以外にも、家具屋などを回って食器棚と照明器具、魔道コンロも買いに行った。
居抜きで食堂ができると言っても、足りない物は色々とあった。
その買い物の中で、僕は素晴らしいものと出会った。
それは魔道トイレだ。
様式タイプのそれは、用を足して蓋を閉めてから銀色のレバーを四分の一回転ほど回すと、ジャーと流れる音がする。そして蓋をあけると、なんと、そこには何もなくなっているではあーりませんか。
と、普段、あまりふざけない僕がふざけた言葉を使ってしまうくらい、僕が求めていた内容の物が見つかったのだ。
二階への階段下の荷物入れを改装を、さっき食器棚を注文した家具屋さんに依頼しに戻った。
そう、僕は金貨四十枚もする魔道トイレを迷うことなく買ったのだった。
これだけで、金貨六枚から十枚の収入になるし、他にも高値の付きそうな武具や魔道具が手に入っている。
当初はその馬鹿力と意外な俊敏さ、硬さ、そして自動回復のせいで苦戦したオーガも、今ではミスリル三節棍だけで倒すことができるようになっている。
半分は自分自身の努力のおかげだと思うけど、半分は魔鉱窟ダンジョンを踏破した時の報酬である《武芸百般》というスキルのおかげかも知れない。
あまりスキルには頼りたくはないんだけど、スキルが最適な動きを教えてくれる先生的な一面もあるので、日々学びながら戦っている。
ミスリル三節棍の他に、ゲームのような名前が付いた武器も報酬でいくつか手に入れてるので、それらも訓練している。
これにかかる時間が大体一時間ちょっと位なので、寝る前の日課的な感覚になっている。
そう言えば、ハワードさんとネルさんに聞いてみたのだけど、東門の方に店を移転するつもりはないそうだ。
ならば、あの居抜き店舗は自分専用のカフェとして利用することにしようか。
それと、これを期に引っ越しをしようかな。
少し寂しく思う気持ちもあるけど、僕はきっと、いつかはこの街を出ていくのだし。
彼らが僕のことを孫か子供のように想ってくれているのなら、これは巣立ちの第一歩だと思ってほしい。
そうして僕は引っ越しをした。
二階に仕切りをつけて、寝室とシャワールームを造ってみた。
お湯はクリエイトホットウォーターで出せるので、シャワーノズルの上は桶というかなりシンプルな設計だ。下に落ちたお湯は、二階から一階への配管を通って外の下水路に排出される。
寝室に水漏れしないように、防水だけは拘って造ってみた。魔鉱窟ダンジョンで手に入れた色々な物を弾く鉱石(というか粘土)をシャワールームの全体に使ってある。
外への空気穴が小さいので、あまり長くいると疲れてしまうけど、湯船がないので困ることはない。
残念ながらトイレはない。
こればかりは街の共同トイレを使うしかない。
この国の殆どの一般人の建物にはトイレは付いてない。トイレがあるのは貴族の建物くらいだ。
だから、この建物にも元々トイレがなかったのだ。シンクやシャワーの水と一緒に汚水を流す勇気はない。
もう一つの報酬である肩掛けのバッグは、見た目よりも多くの物が入るマジックバッグだ。
今のところ、僕には必要のない物なので異空間収納庫に死蔵してある。
また、ナーグマンの伝手で付き合いができた食料品をメインに取り扱う商人、エイトオーエイトの九良さんから、僕は定期的に米や小麦粉、色々な肉、野菜、果物、それから調味料関係を結構な量をまとめて買っている。
最近はそれにコーヒー豆とお茶っ葉が追加された。
クラさんはその名前が示す通り、元は日本の人だ。だから話が早くて助かる。
彼女ももちろん元闘士だけど、他の街からの移民(?)だそうだ。レア度黄色の白魔道師で、治癒魔法はなかなか優秀なんだと自慢していたけど、もうダンジョンには入りたくないそうだ。
ただ、コーヒー豆をお願いしたところ、今度、僕の新しい家でお茶をしたいと言い出していて少し困っている。
未婚の女性を一人だけ家に呼ぶのは少し怖い。かと言って、他の人に新しい我が家を知られたくもない。どうしようかと悩みながら、東門エリアの大通りを歩いていると、冒険者御用達の高級店、マジックポットから出てくるナーグマン夫妻と出会った。
挨拶をすると、彼の方から奥さんを紹介された。栗色の綺麗に手入れされた長い髪が特徴的な、とても綺麗な人だった。
僕は閃いた。
実はクラさんから、アフタヌーンティー的な時間が作れないかと言われてるんだけどと前置きして、もしよかったら、クラさんを紹介してくれた人でもあるのでナーグマンご夫婦も一緒にいかがですか、と誘ってみた。
「それはいいお話です。是非ご一緒させてください」
「よかったです。いや、相手からの提案とは言っても、独身の女性一人を招くのはちょっとハードルが高くて実は困ってたんです」
「あらまあ、そうでしたの」
「なるほどそういうことでしか。フトー様はなんとも罪作りなことですね」
日程は改めて伝えることにして、僕はナーグマン夫妻と別れた。
別れ際に、奥さんがちょっと企むような、いたずらな目を見せたような気がして、僕は少し身震いした。
いい話の流れになったはずなのにおかしいな。
いくつかの店を回って、僕は縦にスラリとしたティーポットのようなコーヒーポットや、コーヒーカップを始め、食器やカトラリーセット、ケトルやフライパンなどの調理道具を大量に買い集めた。
それ以外にも、家具屋などを回って食器棚と照明器具、魔道コンロも買いに行った。
居抜きで食堂ができると言っても、足りない物は色々とあった。
その買い物の中で、僕は素晴らしいものと出会った。
それは魔道トイレだ。
様式タイプのそれは、用を足して蓋を閉めてから銀色のレバーを四分の一回転ほど回すと、ジャーと流れる音がする。そして蓋をあけると、なんと、そこには何もなくなっているではあーりませんか。
と、普段、あまりふざけない僕がふざけた言葉を使ってしまうくらい、僕が求めていた内容の物が見つかったのだ。
二階への階段下の荷物入れを改装を、さっき食器棚を注文した家具屋さんに依頼しに戻った。
そう、僕は金貨四十枚もする魔道トイレを迷うことなく買ったのだった。
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