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年越し

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 あっという間の数ヶ月だった。
 色々なことがあり過ぎて、あっという間だったようにも思えるし、一日一日、もの凄く長い毎日をおくってきたような気もする。

 ただ、今日はこの世界で言うところの一年の終わりの日だ。
 この日を持って、ここまでの忙しかった日々を思い出にして、明日、来年からはもう少し落ち着いた毎日を過ごすようにしたい。
 何事も区切りというものが必要だからね。

 そうそう。例の大通りに面したお店だけど、あの建物を欲しい人が三人いたらしくて、ギルドの方で簡易的なオークション状態になってしまったそうだ。
 最終的に一四五〇枚まで客同士で価格を吊り上げてしまったらしい。
 ヒヤミはギルドからは一三三〇枚だけを貰うことにして、一二〇枚はギルドの取り分ということにしてもらった。その代わり、金貨二六枚の手数料はなしにしてもらったんだけど。

 それから、この間の男爵の件だけど、あの後に一度だけアラートが発動したんだよね。
 何を画策してたのかまでは分からないんだけど、とにかくアラートはなった訳で。
 クレアボヤンスで見てみたら、男爵のそばにメイド姿の女性が何人かいたから、ハニートラップか何かを考えていたのかも知れない。
 その時は自動的に麻痺が解けるまで放置しておいた。
 その後はアラートは鳴ってない。

 そうそう。そういえば、マジックポットやさっきの不動産ギルドに、男爵からヒヤミへ連絡が取れないかという接触があったみたいだ。
 マジックポットには魔石以外の物を色々と売っているし、不動産ギルドでもある程度の金額の売買をしたからね。
 まあ、どちらも遠慮させてもらった。
 マジックポットやギルドで待ち伏せされたら面倒なので、「あまりにしつこいようなら、男爵邸に魔法を打ち込んでしまうかも知れない、とでも伝えておいてくれたまえ」と言っておいた。

 でだ。

「フトーさん、こんな感じなんですけど……どうですか?」
「いいですね。凄く美味しそうです。こうやって作るんですね」

 僕は今、ふわふわホットケーキの作り方をクラさんから教えてもらっている。
 年越しのデザートとして、ハワードさん達の所で作りたいからだ。

「私が作りますよ?」
「ありがとうございます。でも、僕が作ってあげたいんです」

 今夜はハワードさんのお店にお邪魔して、一緒に年越しをする予定だ。
 クラさんはもう一緒に行くつもりでいるようだ。

「メイさんずるい~。フトーさ~ん、わたしにもなんか手伝わせて~」
「エナは料理関係まったくダメですからね。ここは私が得意料理のシチューを作ってあげるのです」

 エナとリンは相変わらずだ。
 ダンジョン攻略ギルドでの活動が休みになる度にうちに来てグダクダしている。二人で一緒に来るものだから、今のところ僕と二人きりのデートというのが実現できてないのが不幸中の幸いか。
 ちなみに、メイさんとはクラさんのことだ。
 ちなみにちなみに、クラさんとは先週、ちょっと大樹の根の先にある湖までデートとやらをしてみた。
 ただ景色を眺めてお弁当を食べただけだけど、何となくいい時間だったかなと思っている。

「こんにちは。本日はお招きいただきありがとうございます」
「フトーさん、調子はいかがですか」
「フトーさん、こんにちは」

 そこにナーグマン一家もやって来た。
 約束の時間よりちょっと早い。
 まだ準備中なことを謝って、席についてもらった。とりあえず用意できているものを出しながら話をする。
 ハイネちゃんはせっかく綺麗なドレスを着てたのに、クラさんの横に来て料理を手伝うつもりのようだ。
 クラさんとハイネちゃんの笑顔のやり取りの中で、一瞬、バチバチとしたものを感じたのは気のせいだと思いたい。

 わいわいガヤガヤとした時間が流れてゆく。
 この世界に来た原因や、起こったことを考えれば笑顔が曇る話もあるけど、ようやっと色々と落ち着いてきた気がする。
 暫くは、この生活を楽しもうかとも思い始めている。
 色々な人と関わって、僕の中で何かが変わってきているのかも知れない。
 今夜はギフ達もハワードさんの所に来る予定だ。
 この世界で初めての年越しは、なんだか楽しそうなものになりそうだと、僕は思った。



おわり
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