タロットダイバー

夏沢誠

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ゾウの腹と背

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 聞こえる……、この声…。大勢の人々が。憎しみ、怨嗟……。そんなものがこもっている。
 なんだかとても恐ろしいことが起こりそうな気がする。身体が小刻みに震えてくる。それを手を握りしめて、なんとか押さえ、小乙女は周りの下女の顔を盗み見た。
 みんなにはこの声は聞こえていないのかしら。
 どの下女もお妃の広い裳裾を握っていることだけで精一杯のようだった。小乙女は隣のテロワーニュの横顔を窺った。テロワーニュも裳裾が床をすらないようにただ懸命だ。
「ねえ」と小乙女はテロワーニュにソッと話かけた。
「何?」とテロワーニュはこちらを見向きもせず、小声でぶっきらぼうに答えた。
「この声……、聞こえない? あれ、何て言ってるのかしら」と小乙女は周囲をソッと見回し、耳をすましながら言った。
「パンと自由を……」とテロワーニュが押し殺した声で答えた。
「えっ? 何と自由を? パ…ン?」
「そう、パンと自由を」
「どういう意味?」
「食べるパンがないから寄こせってこと」
「お腹が減ってるなら、パンでなくパスタでも食べれば。そう、ジャガイモもいいわ」
「あなた、貧民出身なのにお妃様みたいなこと言うのね。お妃様はケーキを食べればいいのにって言ったのよ」とテロワーニュは目顔でお妃のことを指した。
「財務総監なんて干草を食えっていったのよ。いつかあいつに絶対に干草を食わしてやる。みんな、そう思ってるんだから」
 さっきより饒舌になったせいか、テロワーニュのお腹が鳴った。
「今はあたしたち第三身分の人間はものを言う家畜だけども、そのうちパンも自由も手に入るわ。街灯に吊るせって歌、聞こえない?」
「どういうこと? この声と関係があるの?」と、テロワーニュの言葉に剣呑なものを感じた小乙女は訊き返した。
「この声はね。この宮殿を囲んでいる暴徒の声なの。もうすぐ革命が起きるわ」
 革命! と思わず大きな声を出しそうになるのを小乙女はなんとか呑み込んだ。
「そう、革命。聞こえるでしょう。もうすぐあの連中が宮殿になだれこんでくる。栄華のかぎりをつくした王朝が倒れるわ。貧しい人々からお金を奪う戦争好きなこの王侯貴族がいなくなったら、みんな豊かで、平和で、平等になれるの」
 そう言ったテロワーニュは夢見るような目付きになった。
 小乙女は、ふと、このカード世界には『革命』、そして、その続きに『恐怖政治』があることを思い出した。さらにその先には『冬将軍』があった。そして、そこに描かれていた絵も。小乙女はテロワーニュにソッとさとすように言った。
「あのね、テロワーニュ、革命って恐ろしいものなの。あなたが思うようないい世界はそう簡単には訪れてこない。生き残れる自信ある? 鉄騎兵や山岳派革命政府みたいな連中が暴れまくる。無垢な少年兵がとても残虐だったりするの。ゾウのお腹が血まみれになったら、ゾウの背中までも血まみれになる。絶対に」と小乙女は震える声で言った。
「何? それ?」
「今はまだ何も知らない方がいいかも」
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