15 / 17
ゾウの腹と背
しおりを挟む
聞こえる……、この声…。大勢の人々が。憎しみ、怨嗟……。そんなものがこもっている。
なんだかとても恐ろしいことが起こりそうな気がする。身体が小刻みに震えてくる。それを手を握りしめて、なんとか押さえ、小乙女は周りの下女の顔を盗み見た。
みんなにはこの声は聞こえていないのかしら。
どの下女もお妃の広い裳裾を握っていることだけで精一杯のようだった。小乙女は隣のテロワーニュの横顔を窺った。テロワーニュも裳裾が床をすらないようにただ懸命だ。
「ねえ」と小乙女はテロワーニュにソッと話かけた。
「何?」とテロワーニュはこちらを見向きもせず、小声でぶっきらぼうに答えた。
「この声……、聞こえない? あれ、何て言ってるのかしら」と小乙女は周囲をソッと見回し、耳をすましながら言った。
「パンと自由を……」とテロワーニュが押し殺した声で答えた。
「えっ? 何と自由を? パ…ン?」
「そう、パンと自由を」
「どういう意味?」
「食べるパンがないから寄こせってこと」
「お腹が減ってるなら、パンでなくパスタでも食べれば。そう、ジャガイモもいいわ」
「あなた、貧民出身なのにお妃様みたいなこと言うのね。お妃様はケーキを食べればいいのにって言ったのよ」とテロワーニュは目顔でお妃のことを指した。
「財務総監なんて干草を食えっていったのよ。いつかあいつに絶対に干草を食わしてやる。みんな、そう思ってるんだから」
さっきより饒舌になったせいか、テロワーニュのお腹が鳴った。
「今はあたしたち第三身分の人間はものを言う家畜だけども、そのうちパンも自由も手に入るわ。街灯に吊るせって歌、聞こえない?」
「どういうこと? この声と関係があるの?」と、テロワーニュの言葉に剣呑なものを感じた小乙女は訊き返した。
「この声はね。この宮殿を囲んでいる暴徒の声なの。もうすぐ革命が起きるわ」
革命! と思わず大きな声を出しそうになるのを小乙女はなんとか呑み込んだ。
「そう、革命。聞こえるでしょう。もうすぐあの連中が宮殿になだれこんでくる。栄華のかぎりをつくした王朝が倒れるわ。貧しい人々からお金を奪う戦争好きなこの王侯貴族がいなくなったら、みんな豊かで、平和で、平等になれるの」
そう言ったテロワーニュは夢見るような目付きになった。
小乙女は、ふと、このカード世界には『革命』、そして、その続きに『恐怖政治』があることを思い出した。さらにその先には『冬将軍』があった。そして、そこに描かれていた絵も。小乙女はテロワーニュにソッとさとすように言った。
「あのね、テロワーニュ、革命って恐ろしいものなの。あなたが思うようないい世界はそう簡単には訪れてこない。生き残れる自信ある? 鉄騎兵や山岳派革命政府みたいな連中が暴れまくる。無垢な少年兵がとても残虐だったりするの。ゾウのお腹が血まみれになったら、ゾウの背中までも血まみれになる。絶対に」と小乙女は震える声で言った。
「何? それ?」
「今はまだ何も知らない方がいいかも」
なんだかとても恐ろしいことが起こりそうな気がする。身体が小刻みに震えてくる。それを手を握りしめて、なんとか押さえ、小乙女は周りの下女の顔を盗み見た。
みんなにはこの声は聞こえていないのかしら。
どの下女もお妃の広い裳裾を握っていることだけで精一杯のようだった。小乙女は隣のテロワーニュの横顔を窺った。テロワーニュも裳裾が床をすらないようにただ懸命だ。
「ねえ」と小乙女はテロワーニュにソッと話かけた。
「何?」とテロワーニュはこちらを見向きもせず、小声でぶっきらぼうに答えた。
「この声……、聞こえない? あれ、何て言ってるのかしら」と小乙女は周囲をソッと見回し、耳をすましながら言った。
「パンと自由を……」とテロワーニュが押し殺した声で答えた。
「えっ? 何と自由を? パ…ン?」
「そう、パンと自由を」
「どういう意味?」
「食べるパンがないから寄こせってこと」
「お腹が減ってるなら、パンでなくパスタでも食べれば。そう、ジャガイモもいいわ」
「あなた、貧民出身なのにお妃様みたいなこと言うのね。お妃様はケーキを食べればいいのにって言ったのよ」とテロワーニュは目顔でお妃のことを指した。
「財務総監なんて干草を食えっていったのよ。いつかあいつに絶対に干草を食わしてやる。みんな、そう思ってるんだから」
さっきより饒舌になったせいか、テロワーニュのお腹が鳴った。
「今はあたしたち第三身分の人間はものを言う家畜だけども、そのうちパンも自由も手に入るわ。街灯に吊るせって歌、聞こえない?」
「どういうこと? この声と関係があるの?」と、テロワーニュの言葉に剣呑なものを感じた小乙女は訊き返した。
「この声はね。この宮殿を囲んでいる暴徒の声なの。もうすぐ革命が起きるわ」
革命! と思わず大きな声を出しそうになるのを小乙女はなんとか呑み込んだ。
「そう、革命。聞こえるでしょう。もうすぐあの連中が宮殿になだれこんでくる。栄華のかぎりをつくした王朝が倒れるわ。貧しい人々からお金を奪う戦争好きなこの王侯貴族がいなくなったら、みんな豊かで、平和で、平等になれるの」
そう言ったテロワーニュは夢見るような目付きになった。
小乙女は、ふと、このカード世界には『革命』、そして、その続きに『恐怖政治』があることを思い出した。さらにその先には『冬将軍』があった。そして、そこに描かれていた絵も。小乙女はテロワーニュにソッとさとすように言った。
「あのね、テロワーニュ、革命って恐ろしいものなの。あなたが思うようないい世界はそう簡単には訪れてこない。生き残れる自信ある? 鉄騎兵や山岳派革命政府みたいな連中が暴れまくる。無垢な少年兵がとても残虐だったりするの。ゾウのお腹が血まみれになったら、ゾウの背中までも血まみれになる。絶対に」と小乙女は震える声で言った。
「何? それ?」
「今はまだ何も知らない方がいいかも」
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる