普段高校生ゲーム実況者として活動している俺だが、最近仲良くなりつつあるVTuberが3人とも幼馴染だった件について。

水鳥川倫理

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第2章

第31話、再集結、ミラクルカルテット。

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そして、一週間後。
今日、その公式大会のチーム編成が発表される日を迎えた。

夕食を済ませ、自室に入った俺は、緊張した面持ちでPCの電源を入れた。
ファンの回転音が響き、モニターが青白く光る。

ブラウザを立ち上げ、大会公式サイトにアクセスする。
マウスを握る手が、微かに汗ばんでいる。

『Official Tournament - Team Announcement』

その文字が画面に踊っていた。
俺は震える指でスクロールし、自分の名前を探した。

Team A……Team B……Team C……。
そして、Team Dの欄で、俺の手が止まった。

【Team D】

Leader: 椎崎(Shiizaki)

Member: 神志名 鈴香(Suzuka_Kamishina)

Member: 神楽坂 遥(Haruka_Kagurazaka)

Member: 雲雀川 美桜(Mio_Hibarigawa)

時が止まった。
俺は何度も目を瞬かせ、画面を凝視した。

「え……?」

声にならない声が漏れる。

「えええええええええええっ!?」

俺は驚愕のあまり、椅子から転げ落ちそうになった。
嘘だろ。何かの間違いじゃないのか。

あの日、風呂の中で「またやりたい」と願ったあの三人と、公式大会でチームを組むだって?
しかも俺がリーダー?

「運営……仕事早すぎだろ……いや、話題性狙いか? どうなってるんだ……」

頭の中が真っ白になる。
しかし、次の瞬間、じわりと熱いものがこみ上げてきた。

嫌な気はしなかった。
むしろ、胸が高鳴り、全身の血が沸騰するような感覚があった。

あの連携を、もう一度味わえる。
あの背中を預け合う感覚を、今度は正式なチームとして、大会という大舞台で体験できるのだ。

「やってやる……!」

俺は拳を握りしめた。
その時だった。

「キャーーーーーーーーッ!!」
「マジーーーーっ!!」
「……ん!!!!」

微かだが、壁越しに、窓越しに、悲鳴のような、歓声のような声が聞こえてきた。
隣の家から、向かいの家から、斜め向かいの家から。

「……ん? 今、なんか聞こえたか?」

俺は耳を澄ませたが、声はすぐに止み、再び静寂が戻った。

「空耳か……。七瀬たちの声に聞こえたけど、あいつらも何か良いことあったのかな」

一週間前のピザパーティーの時のように、今日も楽しんでいるのだろうか。
俺は首を傾げたが、すぐに画面へと意識を戻した。

実はこの時。
七瀬、椎名、美波の三人は、それぞれの部屋でベッドの上を転げ回っていた。
一週間前のメール以来、この発表を今か今かと待ちわびていたのだ。

そして今、正式な発表を見て、歓喜のあまり叫んでしまったのである。

(やった! また椎崎さんとゲームができる! しかもチーム!)
(今度こそ、わたくしの実力をアピールするチャンスですわ!)
(……椎崎、と、一緒。……嬉しい)

ネット上では、既に祭りが始めていた。
Twitterのトレンドには瞬く間に『#椎崎チーム』『#ミラクルカルテット』『#TeamD優勝候補』が浮上。

『うおおおお! ミラクルカルテット再結成!』
『運営有能すぎる! 完全に理解ってる』
『これは優勝候補筆頭だろ!』
『椎崎ハーレムw』
『椎崎そこ代われ』

溢れかえるコメントの嵐。
そして、運営からのメールにはこう書かれていた。

『チーム顔合わせおよび決起集会のため、本日20時より、Discordサーバーにて集合をお願いします』

顔合わせまで、あと1時間。
俺は震える手でTwitter(X)を開き、相互フォローになったばかりの三人にDMを送った。

文章を何度も推敲する。失礼がないか、馴れ馴れしくないか、リーダーとして頼りなさすぎないか。

To: 神志名鈴香、神楽坂遥、雲雀川美桜
『初めまして、椎崎です。
この度はチーム結成、驚きましたがとても光栄です。
今日の顔合わせ、よろしくお願いします!
DiscordのフレンドIDを送りますので、申請をお願いします。
ID: Shiizaki#xxxx
また一緒に戦えることを楽しみにしています』

送信ボタンを押す指が震えた。
ふぅ、と深く息を吐く。

緊張で手汗がすごい。
俺はタオルで手を拭き、深呼吸をして、その時を待った。

夜の8時。
部屋の明かりを少し落とし、俺はデスクに向かって配信を開始していた。
モニターの光だけが、俺の顔を照らしている。

作成したばかりのDiscordサーバー『Team D HQ』。
そのボイスチャンネル『Meeting Room』に入室する。

「……よし」

マイクのミュートを確認し、咳払いをする。
水を用意し、喉を潤す。
心臓の音がうるさい。まるで耳元でドラムを叩かれているようだ。

『ポンッ』

通知音が鳴り、一人目が入室した。
アイコンは、あのアニメ調のピンク髪の少女。神志名鈴香だ。

『ポンッ』

続いて、優雅な縦ロールのお嬢様アイコン。神楽坂遥。

『ポンッ』

最後に、黒いフードを被り、赤い瞳だけを覗かせた暗殺者風アイコン。雲雀川美桜。

全員揃った。
画面に並ぶ四つのアイコン。その緑色のランプが点灯している。
俺は意を決して、マウスカーソルをマイクボタンに合わせ、クリックした。

ミュート解除。

「……あー、テステス。こんばんは、椎崎です。聞こえていますか?」

意識して、声を低くする。
普段の「碧」の、少し気の抜けた声ではない。
冷静沈着で、頼れるリーダー「椎崎」の声。よそ行きの声だ。

一瞬の沈黙。
空気の振動さえ伝わってきそうな緊張感。
そして、それぞれのスピーカーから、次々と声が返ってきた。

「こ、こんばんはっ! 神志名鈴香ですっ! き、聞こえてます! よろしくお願いしますっ!」

鈴を転がしたような、高く愛らしい声。元気いっぱいだが、明らかに緊張で震えているのが分かる。
この声……毎朝聞いているような気もするが、七瀬の声よりはずっと高く、アニメ声だ。いや、七瀬もふざける時はこんな声を出すか?

「ごきげんよう、椎崎様。神楽坂遥ですわ。お招きいただき、光栄です」

続いて、落ち着いたアルトの声。上品で、艶がある。
椎名の声に似ているが、もっと大人びている。お嬢様言葉のイントネーションが完璧だ。

「……ん。……雲雀川、美桜。……よろしく」

最後に、ウィスパーボイス。低く、掠れたような、しかし芯のある声。
美波のボソボソ喋りとは違う、ミステリアスな響きがある。

それぞれの「キャラ」を作った声。
配信で聞き慣れた声たちだ。
だが、俺にはなぜか、その声の端々に、奇妙なほどに聞き覚えがあるような安心感を覚えていた。

耳の奥で、何かが引っかかる。

(……なんか、すごく落ち着くな、この声の並び)

七瀬や椎名たちの声に似ていると言えば似ている。
だが、可愛い声優の声なんて大体似たようなものか、と俺は自分を納得させた。

何より、今は目の前の「三大女神」との会話に集中しなければならない。

「あー、皆さん、初めまして……じゃないですね。先日はありがとうございました。そして、チーム結成おめでとうございます」

俺が言うと、画面の向こうで誰かが息を飲む気配がした。

「は、はいっ! まさかまた椎崎さんと組めるなんて、夢みたいです! 足手まといにならないように頑張りますっ!」

鈴香が早口でまくし立てる。

「ふふ、謙遜なさらないで鈴香さん。わたくしたち、最強のカルテットですもの。椎崎様がいらっしゃれば、百人力ですわ」

遥が優雅に笑う。

「……ん。……勝つ。……絶対」

美桜が短く、強く断言する。

「頼もしいですね。……えっと、僕たちは以前、偶然マッチングしたわけですが、今回は公式大会です。相手も強豪揃いです。連携を深めるためにも、今日は軽く何戦か回してみましょうか」

「はいっ! 是非お願いします!」
「異存はありませんわ。お手並み拝見……いえ、ご指導ご鞭撻のほどを」
「……了解。……背中は、任せて」

こうして、お互いに正体を知らない幼馴染4人は、碧の作ったサーバーでゲームを起動した。

ロビー画面に4人のキャラクターが並ぶ。
装備を整え、マッチングを開始する。

「行きますよ」
「はいっ!」

ロード画面が明け、戦場へと降り立つ。
その瞬間、俺たちは「幼馴染」でも「高校生」でもなく、「戦士」になった。

言葉を交わすたびに、連携が鋭さを増していく。

「右、敵影2!」
「了解、回ります!」
「……上、取った。撃つ」
「ナイス!」

壁一枚隔てた隣の家で、向かいの家で、彼女たちがどんな顔をしてモニターを見つめているのか。
ヘッドセット越しに聞こえる息遣いが、すぐ近くから聞こえているような錯覚。
俺の指示に、彼女たちが即座に反応する快感。

そして、まさかすぐ隣の家で、幼馴染が同じゲーム画面を見て、同じ敵を狙っていることなど知る由もなく。

俺たちの奇妙な二重生活と、頂点を目指す戦いは、まだ始まったばかりだ。
夜は更けていく。
熱狂と秘密を乗せて、俺たちの物語は加速していくのだった。
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