存在証明

チョコタロウ

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証明された一日目

肩代わりの意味

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「……ん」
 彼女が目を覚ます。
 後頭部から血を流し、絶命していた彼女の姿を見た直後だったため、ムトは心の奥底から安堵するのを感じた。
「アングは!?」
「アング?」
「あの赤い鎧の男ですよ」
 彼女はまだ警戒を解かない。
 その様子からも、ダメージが残っていることは明らかだった。
 ――あれは、致命傷を塞いだだけだ。
 岩に打ちつけられるまでに負った傷は、まだそのまま残っている。
「……まいたよ」
 ムトはそう言って、嘘をついた。
 事の顛末を伝えてはいけない。直感的に、そう思った。
 自分が一度死んで、不思議な力で生き残った――そんな話を聞かされても、混乱するだけだろう。
「……いえ。まだいます」
 ガサゴソと、目の前の茂みが揺れる。
「見つけた」
 姿を現したのは、見るからに胡散臭い男だった。
 騒ぎを聞きつけ、うまい汁でも吸いに来たのだろう。
 だがこちらは手負いの男女二人。
 制圧するだけなら、下っ端が一人いれば十分だ。
「あれは...噂のお尋ね者じゃないか!?ラッキー!」
 男はナイフを構え、真っ先に彼女へと襲いかかる。
 彼女はその場にあった剣を取り、応戦する。
 だが先ほどとは違い、剣の重みに振り回されていた。
 無理もない。あれほどの戦いを繰り広げた直後だ。
 ――このままでは、また殺される。
 彼女が死んだ光景が、脳裏にフラッシュバックする。
 あんなものを、二度と見るなんてご免だった。
 ――やめろ。
 そう思った瞬間、ムトの身体は勝手に動いていた。
 彼女と男の、その間に割って入る。
 ザクリ――。
 ナイフがムトの胸に突き刺さる。
 刺さりどころが、致命的だった。
「がはッ……!」
 今日二度目の、鋭い痛み。
 だがさっきとは違う。これは命を奪う傷だと、はっきりわかる。
 血が止まらない。
 叫ぼうと口を開くが、出てきたのは声ではなく、赤い血だった。
 ムトはそのまま、地面に力なく倒れ伏す。
 視界が赤く濁る。
 ――臓物が出るってこんなかんじか。
 先ほどまでの鋭い痛みが、ふっと引いていく。
 思考だけが、不自然なほど冷静になっていった。
 ――死ぬときって、こんなに眠くなるんだな。
 意識が遠のく。
 ムトは、命を落とした。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 暖かく、やわらかい感触がする。何かに包まれているような。
「……う」
 重いまぶたを押し上げると、視界にぼんやりとした輪郭が浮かんだ。
 目の前には、彼女の顔があった。
 血にまみれていたはずのその顔は、今ははっきりと動き、こちらを覗き込んでいる。
 ムトは頭を膝の上に載せられ、彼女に抱きかかえられていた
「ここは天国か?」
「何バカなことを言ってるんですか!」
 声が、ちゃんと耳に届く。
 遠くない。歪んでもいない。
 小さく息を吸い込み、胸の奥に空気が入るのを感じた。
 痛みはない。呼吸も乱れていない。
 自分の胸に手を当てる。
 ゆっくりと上下する胸の動きが、確かにそこにある。
 ――生きている。
 その事実を理解した瞬間、張りつめていたものが一気にほどけた。
 横になったまま視線を向けると、あの男が地面に倒れていた。
「運が良かったです。あの男、急に錯乱したのか……自分の胸に剣を突き立てて」
「それと同時に、あなたが急に倒れだして……」
 その言葉を聞いた瞬間、ムトの背筋が凍りついた。
 ――理解してしまった。
 あの赤い鎧の男が言っていたこと、その意味を。
 ムトが死ぬたびに、代わりに誰かが歪んだ形で死ぬ。
 敵か、無関係な第三者かは分からない。
 だが少なくとも――自分が生き返る限り、世界のどこかで帳尻が合わされる。
 喉の奥が、ひくりと鳴った。
 もし、自分の死が、もっと大きな代償を呼んでいたら。
 考えただけで、背筋が冷たくなる。
 喉の奥から、押し殺しきれない声がこぼれる。
「これが...死の肩代わり....」
「大丈夫ですか?」
「うん」
「できればどいていただけると…、ごめんなさい、少しはず……重くて。」
「ごめん!」
 我に返り、彼女の腕の中--膝の上からからムトは飛び起きる。
 地面に足をつけた瞬間、現実に引き戻される。
 彼女は軽く体勢を整えると、彼女は再度真剣な面持ちになって言う。
「行きましょう。ここは危険です。」
「行くってどこに?」
「この森を超えると関原野という、広い平野に出るのは知っていますね」
「うん」
「そこを超えていくと、セキア港という港町があります。そこで船に乗って大陸を渡り、逃げましょう。海を越えれば奴らもおってこれないはずです。」
「なるほど…了解。あとさ」
「はい?」
「その、名前を聞いてもいいかな。」
 その言葉に少し彼女の表情が曇る。
「私の名前は…アミです。よろしくおねがいします。」
 そうして、彼女は手を差し出す。
「オーケイ、こちらこそよろしく!」
 そう言ってムトもその手を握り返す。
 言いながら、ムトはほんの一瞬だけ違和感を覚えた。
 なぜか分からない。
 けれどその言葉は、考えるより先に、自然と口をついて出た。
 アミは少し驚いたように目を瞬かせ、
 それから、安心したように小さく微笑んだ。
「……はい」
 その短い返事とともに、彼女の表情に、確かな光が戻っていた。
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