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10話 ライオネル様の様子がおかしいですわ②
さらに三日後はプリンを持ってきてくれた。
「このプリンはハーミリアが食べやすいように、柔らかくなめらかに作らせたんだ。十分な栄養も摂れるように材料も厳選してある。口に合うといいのだが」
当然、今日のプリンも美味しさに打ちひしがれた。ライオネル様が氷魔法を活用して冷たいままわたくしのもとまで持ってきてくれるのだ。不安げに見つめてくるライオネル様にしっかりと頷いてみせると、ほんのりと笑みを浮かべる。
「気に入ったなら、また持ってくるよ。食べ物ばかりでは飽きるだろうから、今花も手配している」
わたくしはうっかり表情筋が動かないようにアルカイックスマイルを貼りつけている。頭の中が毎日お祭り状態なのは言うまでもない。でも、ひとつどうしても気になることがあった。
毎日手紙を書いてお渡ししているけど、どうも読んでいる気配がない。というか、会話の内容からして確実に読んでない。受け取る時も気が進まない様子で手を出してくる。
だって昨日の手紙でお土産はいらないと書いたのだ。
とても嬉しいけれど、一度侯爵家に戻ってからこの屋敷に来るのだから時間がかかってしまう。ライオネル様の貴重なお時間を無駄にするのは忍びなかった。
それよりも、少しずつだけれどライオネル様が話してくださるようになって、わたくしはもっとライオネル様の美声を聞きたいと思っていた。
愛されていないのはわかっているけど、真面目なライオネル様は律儀にわたくしのもとに日参してくれる。
今だけはライオネル様の優しさを独り占めしたかった。
その翌日もライオネル様は、オレンジ色の程よく冷えたゼリーを持ってきた。
「ハーミリア、君の好きなメロンを使ったゼリーを持ってきた」
わたくしがこくりと頷くと、ライオネル様はメイドに手土産を渡して準備させる。ライオネル様の得意な氷魔法で程よく冷えたメロンゼリーは格別だった。
一瞬だけ痛みを忘れて幸せな気持ちに浸る。
「……うん、よかった。今日はハーミリアのクラスの授業で、進んだ部分のノートを用意した。もし体調がよければ使ってくれ」
それからまた無言になって、わたくしがゼリーを食べる様子を眺めていた。わたくしが食べ終わっても石のように固まって動かないライオネル様に手紙を渡すと、いつものようにビクッと震える。
神妙な顔で手紙を受け取って静かに帰っていった。
わたくしがなにも話せないから、手紙も読むのも嫌なくらい嫌われてしまったのかしら……でもそれならどうして毎日手土産まで用意して、お見舞いに来てくださるの?
どうしましょう、ライオネル様の考えていることが、ぜんっぜんわからないわ。
次に来てくださったら筆談でもしてみようかしら?
さらに翌日、ライオネル様がやってきて、やっぱり今日も手土産を用意してくれていた。
「今日は鎮痛効果の香りを放つ花を持ってきた。これで少し落ち着くといいんだが」
その紫色の小ぶりな花がついた花束を、メイドが花瓶に生けてくれた。ふわりと漂うほんのり甘くて爽やかな香りに心まで落ち着いていく。
そこでわたくしは用意しておいた紙とペンを取り、ライオネル様の目の前でわたくしの気持ちを書きしるした。
【いつもわたくしのために手土産を用意してくださって、ありがとうございます】
「問題ない」
わたくしが書いた文字を読んで、ライオネル様が返事を聞かせてくれる。少し強張っていた表情が和らいだように感じた。
【でも、もう手土産は不要ですわ】
「な……なぜだ?」
一転してライオネル様は青ざめた表情で震えはじめる。
【わざわざ侯爵家に戻られるのは大変でございましょう?】
「そんなことはない」
【でも——】
もっとライオネル様と話す時間がほしいと書こうとした時だ。突然ライオネル様が、膝をついて頭を下げた。
「ハーミリア、すまない! 僕が臆病で無神経で気が回らないために君に不快な思いをさせてしまったのだろう!?」
突然の出来事に歯の痛みも忘れて、わたくしはライオネル様を見下ろした。
青を通り越して真っ白な顔でわたくしに縋るように抱きついてくる。
なんとか【手紙】とだけ書いてライオネル様に見せると、悲しそうに麗しい顔を歪ませた。
「実は手紙は受け取ったまま読んでいなかったのだ……もし、僕を拒絶する言葉が書かれていたらと思うと、怖くて開封すらできなかった……」
確かに手紙は読まれていないと思っていたけれど。
でもその理由が、わたくしの想像していたものとかけ離れていて思考が追いつかない。
「お願いだ、ハーミリア! 僕を捨てないでくれ! どんなことでもするから嫌いにならないでくれ!!」
いえ、ライオネル様はなにをおっしゃってますの?
ちょっと、まったく、理解できませんわ……そもそもわたくしは、ライオネル様に嫌われていたのではなくて!?
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