25 / 62
25話 僕だけが呼べる名①
しおりを挟む今日もハーミリアがかわいかった。
僕の膝の上で一生懸命ランチを頬張る姿が愛しくて、本当に移動の時間すら惜しい。
そうか、移動の時間を短縮すればいいのか?
確か図書室に転移魔法の文献があったはずだ。原理さえわかれば、使えるようになるまで練習すればいい。これで往復の二十分を短縮できる。
あと二十分もハーミリアを堪能できる時間が増えるのか……急を要するな。
「ライオネル様、そんな真面目な顔して、さてはハーミリア様のこと考えてますね?」
「う、なぜわかった」
「いや、昔からそんなに真剣になるのはハーミリア様に対してだけじゃないですか。今度はなにを考えていたんです?」
ジークは机に向かって考え事をしている僕の頭の中を、ズバリと言い当てる。言い返したい気持ちもあるけれど、確かにここまで真剣になれるのはハーミリアに関することだけだ。
「転移魔法を使えるようにしたいと考えていたんだ」
「は!? 転移魔法って、魔法連盟の方でもわずかしか使えない最難高度魔法じゃないですか!?」
「そうなんだが、時間が惜しい。ランチタイムの時間を無駄にしたくない」
「……ランチタイム?」
「とにかく、一日でも早く身につけるために図書室で調べてくる」
「はあ、まあ、頑張ってくださいね。後でお茶持っていきますから」
僕はジークの言葉を背中で受け止めて図書室へ向かった。
侯爵家の図書室には王城の図書室に匹敵するほどの、数万に及ぶさまざまなジャンルの本がある。一般的なものから、秘蔵書と呼ばれるものまで多種多様だ。それは父上が努力しかできない僕のために、集めてくれたものだ。
さすがにすべてに目を通していないが、なにか困難があると図書室にこもって打開策や解決方法を探していた。
ハーミリアもよく図書室に来て一緒に調べ物を手伝ってくれたと思い出し、笑みがこぼれる。
図書室に差し込む日の光を浴びてキラキラと輝く白金色の髪、ふと見上げた時に吸い込まれそうになるアメジストの瞳。真っ直ぐに僕を見つめて、嬉しそうに微笑んでくれるハーミリア。
彼女のためになら、どんなこともできる。彼女こそが僕の生命だ。
図書室へ入り明かりをつけると、ずらりと並んだ蔵書が視界に飛び込んでくる。ジャンルごとにまとめてあるので、僕は魔法関連の棚へと足を進めた。
目当ての本を見つけ、他にも関連のあるものも数冊手に取って図書室の奥に設置されている机に静かに置く。一番上に積まれている本をパラパラとめくっていった。
本には転移魔法は火、水、風、土の四大属性の他に、光属性と闇属性を極めないと使用できないと書かれている。すべての属性をバランスよく操り空間を歪めて移動する魔法だと説明されていた。
「なるほど……そうすると僕の場合は火と光の鍛錬が必要だな」
四大属性の魔法を極めると上級魔法に変化する。火は炎になり、水は氷になり、風は雷になり、土は結界に進化するのだ。炎と雷を極めれば光属性が使えるようになり、氷と結界を極めれば闇属性が使えるようになる。
水属性はもともと得意だったのと、ハーミリアを守りたかったから土属性を極めるのは割と早かった。僕の結界魔法を込めたブレスレットを送るのに必死だったんだ。
「ライオネル様、少し休憩されませんか?」
方向性が決まったところで、ジークがお茶の用意をしてきてくれた。言いたいことをはっきり口にするし、言葉が悪い時もあるけれど優秀なのだ。
「ああ、ちょうどひと休みしようと思っていたんだ」
「読み終えた本は片付けてきますよ」
「ありがとう、助かる。それではこちらに積んであるものを頼めるか」
ジークが淹れてくれたお茶に口をつけて、明日からのスケジュールを頭の中で組み直していく。ハーミリアを送り終わってからが勝負だ。
僕の場合は習得するまでに時間がかかるから、いかに短時間で効率よく魔法の訓練をするか考えてから始めた方が結果的に早く身につく。
「ライオネル様、こんな本を見つけましたよ」
ジークの声に視線を向けると、その手には【恋人の心を繋ぎ止める99の方法】と書かれた本があった。
「恋人の……心を繋ぎ止める……だと!?」
そのタイトルに軽く衝撃を受ける。このような本が屋敷の図書室にあるとは盲点だった。今まで学院で学ぶような書物しか読んでいなかったので、気が付かなかった。
「魔法の本もいいですけど、こういうのもライオネル様には必要じゃないですか?」
「……これは部屋に戻って読む。今日の調べ物はここまでだ」
「承知しました。では私が持っていきますね」
後ろからついてくるジークが笑いを堪えている気配がしたけど、僕はなにも言えずに足速に部屋へと戻ってきた。
15
あなたにおすすめの小説
【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
新聞と涙 それでも恋をする
あなたの照らす道は祝福《コーデリア》
君のため道に灯りを点けておく
話したいことがある 会いたい《クローヴィス》
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる