26 / 62
26話 僕だけが呼べる名②
しおりを挟む私室に戻りソファーに腰を下ろして、目次に目を通すと出会い編から結婚編までの五部構成になっていた。僕とハーミリアはすでに婚約者なので、出会い編は飛ばしてお付き合い初級編のページを開く。
【お付き合い初級編 その①恋人を褒めよう!】
「へえ、これはクリアされてるんじゃないですか?」
「そうだろうか? 僕の気持ちをなるべく言葉にしてるが足りているのだろうか……?」
「うーん、大丈夫じゃないですか? 何事もやりすぎはよくないですよ」
「そうか……では、次だな」
【お付き合い初級編 その②お互いに愛称で呼ぼう!】
「あ、愛称……!!」
「うわー、この本ライオネル様にはちょっと早かったかな」
「いや、そんなことはない! そうだ、学院でも婚約者同士で愛称で呼び合っている者たちもいるのだ。実はずっと羨まし……僕たちもそろそろ頃合いだと思う」
「じゃあ、次のステップはお互いに愛称呼びすることですね」
愛称……ずっと前から決めていた。僕しか口にできない特別な呼び方。
ついに解禁するのか……!!
「ちなみになんてお呼びするんですか?」
「ハーミリアだから……リアと……」
ハーミリアの名を聞いた時からずっと想像していた。てっきり家族になってから親しみを込めて呼ぶものだと我慢していたが、本当は今すぐにでも愛称で呼びたかった。
なんのてらいもなく互いを愛称で呼び合うカップルが羨ましくて仕方なかった。
「いいですね、ハーミリア様にぴったりの愛称です」
「ああ、そうだろう! 可憐で優雅で美しさを表現できる最高の愛称だっ!」
「で、練習しますか?」
「練習?」
ジークの言葉になんのことかと考える。
「ハーミリア様を前にして、いきなり本番で呼べますか?」
「うっ……そ、それは……」
僕のことをよく知るジークの言葉は、グサリと胸に突き刺さる。確かにハーミリアを前にして、愛称で呼べるかと言われたら自信がない。
「ライオネル様、ここはスマートになるまで練習しておいた方がいいですよ。仕方ないから練習に付き合ってあげます」
「ジーク……! 本当に不器用な僕ですまない……!」
仕方ないと言いつつも、その瞳に優しい光が浮かんでいる。ジークはいつもこうやってさりげなく僕を助けてくれるのだ。
「いいですよ、これはこれで面白いですから」
「うん? 面白い?」
「ほら、さっさと練習しましょう。さあ、私をハーミリア様だと思って愛称で呼んでみてください」
「わ、わかった!」
僕は深呼吸して、ずっと胸に秘めていたその愛らしい名を呼ぶ。
「……リ……ア」
「それじゃあ、ハーミリア様が呼ばれたことに気が付きませんよ。もう一度」
「……リ、ァ」
「ライオネル様。照れるのはわかりますが、もう少し頑張ってください」
ジークが容赦なく指摘してくる。だけど言われていることはもっともなので、僕が頑張るしかない。もう顔も耳も、首まで赤くなっているのが鏡を見なくてもわかる。
恥ずかしさのあまり変な汗までかいて、ひとりで火照っている。
「うっ……わかっている。だけど、愛称で呼ぶのがこんなにも羞恥心を刺激するとは思ってもみなかった」
「そうですね、でもライオネル様だけがハーミリア様を愛称で呼べるのです。きっと愛称でハーミリア様をお呼びしたら、周りの男子生徒たちもおふたりの関係が進展していると思うでしょうね」
その言葉に目が覚める思いだった。
あれだけ毎日牽制しても、ハーミリアに対して邪な感情を抱く男子生徒が後を絶たない。それを愛称で呼び合うことで牽制できるなら、使わない手はないのだ。
そしてなによりも僕だけがハーミリアの愛称を呼べるのだという事実に、優越感が湧き上がる。
「僕だけが……! 牽制にもなる……!」
「そうです。だから頑張ってください」
「そうだな、よし! リ、ア。リア。リア! リアーッ!」
「あはは、いい感じですねー!」
僕はしっかりと練習をして翌日に挑むことにした。
18
あなたにおすすめの小説
【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
新聞と涙 それでも恋をする
あなたの照らす道は祝福《コーデリア》
君のため道に灯りを点けておく
話したいことがある 会いたい《クローヴィス》
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
ぱんだ
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる