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31話 僕は絶対零度の微笑みを浮かべる①
僕はマリアン様に導かれて、生徒会室へとやってきた。クラスメイトであるローザ嬢とテオフィルも一緒だ。
ふたりきりにならずに済んでホッとするが、ローザ嬢が遮音と侵入不可の結界を張ったことに違和感を感じた。そこまでするほどの相談内容に心当たりがない。
側近のお役目はしばらく休んでいいと言われていたが、それでも最低限の情報は入ってくる。
「マリアン様、殿下についての相談とはどのようなことですか?」
「うふふ、ライオネル様。そう焦らないでください。今日の授業は免除するように、先生方には伝えてありますわ」
「……それは、どういうことでしょうか? それほど深刻な相談内容なら、僕ではお役に立てないかもしれません」
ニヤリという表現がふさわしい笑みを浮かべて、マリアン様が口を開く。
「私、ライオネル様には生涯お兄様に仕えていただきたいと思っておりますの」
「もちろん、殿下が望まれるのであればそうするつもりです」
「ですけれど、今は側近の役目はお休みなさっているでしょう?」
「はい、それは——」
「ハーミリア・マルグレンの事件があったから、ですわね?」
「……はい」
ねっとりとした口調で絡めとるように話すマリアン様に、嫌悪感が湧き上がる。僕のリアを引っ張り出してきてなにを企んでいる?
事と次第によっては、このまま黙っていられない。例え相手が誰であろうとリアの敵になるならば全力で抗うつもりだ。
「私は生涯、もれなくお兄様に仕えていただきたいのですわ。つまり現状では、ハーミリアさんがライオネル様のお役目の障害になっておりませんか?」
「そのようなことはございません。休暇は殿下がお決めになられたことです」
「その原因がハーミリアさんにあると言っているのです。ですから私、とてもいいことを思いつきましたの」
うっとりとした瞳で頬を染めてマリアン様は言葉を続ける。
「ライオネル様が私の婚約者になればよろしいのよ」
「……なにを、おっしゃっているのですか?」
「ハーミリアさんと婚約解消をすれば、今のようにそばにいなくても問題はないでしょう? 代わりに私の婚約者となって、将来はふたりでお兄様を支えていきましょう」
「申し訳ないが、なにがあってもハーミリアと婚約解消はいたしません。側近の役目を果たしていないとおっしゃるなら、お役目から外してくださっても結構です」
僕の返答が想定内だったのか、余裕げな表情を浮かべてテオフィルに視線で合図を送った。
テオフィルは、胸ポケットから黒い布に包まれた細長いものを取り出して机上に置く。布の中から姿を表したのは、棒状の漆黒の水晶だ。
「これは?」
「王家が所有する禁断の魔道具ですわ。ある装置につけると魔物を呼び寄せる効果がありますの。石の大きさによって呼び寄せる魔物の強さも変わるものですわ」
「……これをどうするおつもりですか?」
「別にどうもしませんわ。でもうっかりどこかの領地に落としてきてしまうかもしれませんわね。例えば、東の川の向こう側とか」
王都の東を流れる川を渡り、三日ほど馬車を走らせればマルグレン伯爵の治める領地がある。広大な山地が領地の半分を占めるが、鉱山を多く抱えておりタックス公爵家が支援したこともあり宝石の採掘で繁栄していた。
ただ、鉱山には魔物も多く潜んでいて魔物討伐が必須なのだ。ただでさえ魔物が現れて危険なのに、こんな魔道具を置かれたら鉱山を閉めるしかなくなる。
なるほど、リアの生家を潰して婚約自体をなかったことにしたいのか。
「そうですか、ならばその時は僕が即刻回収に向かいましょう」
「ふふ、それは難しいと思うわ。だってこの魔道具は何千個とあるのですもの。危険な山だけでなく街中にばら撒いても余るわね」
「だが、そんなことをすれば多くの民に被害が出てしまいます。それは王家として望まないことではないのですか?」
効果はないだろうが言わずにはいられない。そもそも民を大切に思っていれば、禁忌の魔道具をこんな脅しに使わないだろう。
「ライオネル様が私の婚約者になれば、民に被害が出ることはございませんわ」
醜悪な顔でマリアン様が薄く笑った。
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