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34話 ライオネル様がいないと寂しですわ②
「……君の帽子?」
「はい、ありがとうございます。風で飛ばされてしまって」
「ああ、ここはたまに突風が吹き付けるからな」
そう言って帽子を手渡してくれて、爽やかな笑顔を浮かべる。
これは女性に人気のありそうな方ね。わたくしはライル様がいるからまったく興味ないけれど。
そんな風に思っていたのに、耳に届いたのはいつもの陰口だ。
「あら、あの方……ライオネル様の婚約者なのに、違う男性と親しげにしてるなんてありえないわ」
「まあ、なんて身持ちの悪い方なの!? シルビア様もあの様なはしたない格好をして……さすが類友ね」
「そうよねえ、あんなアバズレがライオネル様の婚約者だったなんて。シルビア様もあの方に感化されたから恥ずかしくないのかしら?」
わたくしが悪く言われるだけならなんてことはない。でも友人を貶されるのは我慢ならない。わたくしは優雅に微笑んで、女生徒たちに向き直った。
「ごきげんよう、アグネス様、ジルベルタ様、ヒルダ様。こちらの方は風に飛ばされたわたくしの帽子を拾っていただいただけですわ。それにシルビア様も、わたくしが無理やり海にお誘いしましたの」
「あ、ああ、そうなの?」
「だからなによ」
「いくらなんでも、みっともないわ」
スウッと目を細めて冷徹な視線を投げつける。わたくしの雰囲気が変わったのを察知して、ご令嬢たちは怯んだ様子だ。
「わたくし、恩人や友人を貶されるのは許せませんの。それよりも随分と想像力が豊かなのですね。ほんのひと言ふた言話しただけの男女がいい仲だと勘違いされるなんて。もしかしてご自身がそうだから勘違いされたのかしら?」
「なっ、なんですって!」
「侮辱するつもり!?」
「いいえ、わたくしはライル様一筋ですから、そのような発想すらありませんでしたわ。皆様の想像力が豊かで羨ましいのです。よかったらこの後お茶でも飲みながら聞かせていただけませんか?」
「け、結構ですわ!!」
わたくしの言葉でカッと頬を染めて、ご令嬢たちは逃げるように去っていった。
「くっ、君は面白い追い払い方をするな」
「お騒がせして申し訳ありません。お礼をしたいのですが——」
「ああ、今は時間がないんだ。でも、そうだな。君の制服はこの国の王立学院のものか?」
「はい、ハーミリア・マルグレンと申します。今はキャンピングスクールでこちらに来ております」
「では……」
赤髪の男性はわたくしの手をすくい上げ、手の甲にそっと唇を落とした。
「次に会った時にお礼をしてくれるか?」
そう言って、わたくしの前から立ち去った。
なんとなく手の甲が気持ち悪くて制服で拭いてしまったけど、本人はもういないから問題ないだろう。これがライル様だったら絶対に手を洗わずに保護するところだ。
はあ、ライル様が恋しい……。
「ハーミリアさん、どうされましたの?」
「シルビア様、申し訳ありません。さあ、散歩の続きをしましょう」
その後は何事もなく、キャンピングスクールは楽しく終わった。
だけど学院に戻ってきてから一週間後、なぜかあの時帽子を拾ってくれた赤髪の男性がわたくしのクラスにやってきた。
「今日からこちらに留学することになりました、クリストファー・ジル・サザランドです。よろしくお願いいたします」
「みなさんもご存じかと思いますが、クリストファー殿下はサザランド帝国の第二皇子様でいらっしゃいます。後学のためこの国にやってまいりました。無礼のないようにお願いします」
「ああ、でも堅苦しいのは嫌いだから気楽に接してほしい。特にハーミリア」
突然名指しで、しかも呼び捨てで呼ばれる。クラス中の視線がわたくしに集まり困惑していると、あっという間に隣の席の生徒を退かせて座り爽やかな笑顔を向けられた。
「よろしく頼む」
「は、はい……」
この大陸一の大国であるサザランド帝国の皇子様に、それ以外の返事など許されるわけもなく頷くしかできなかった。
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