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55話 収穫祭でデートですわ!!③
大広場に入るとさまざまな出店が並び、大勢の人たちが祭壇へと向かう流れに沿ってゆっくりと足を進めていた。
出店は肉からスイーツまでよりどりみどりだし、他にもくじ引きや弓矢で景品を狙ったり、中には魔法を使って的を射るものもあった。
「いろいろな出店があるのですね。わたくし王都で祭壇に祈祷するのは初めてですわ」
「そうだね、今までは領地の収穫祭に出ていたからね。あちらはあちらで楽しいけれど、ここは賑やかだね」
「ライル様、出店には寄っても大丈夫ですか? ジュリアス様に迷惑はかかりませんか?」
王太子殿下と一緒の行動であれば警備の心配もあるかと、ライル様に尋ねた。
「ああ、広場からは別行動だから問題ない」
振り返ってみると、後ろにいたはずの王太子殿下とシルビア様の姿はなかった。
「ジュリアス様への恩返しで、最初からその予定だったんだ」
「まあ、そうでしたの。それなら心配は不要ですわね。シルビア様もまんざらでもない感じでしたし」
「うん、できるならジュリアス様にも好きな人と結ばれてほしいと思う」
ライル様の瞳に浮かぶのは、友情と敬愛だ。マリアン様の件では王太子殿下が一番力になってくれた。王族として悲しい決断を下して、あるべき姿を見せてくれた。
あの方なら尽くしたいと思える王だと、わたくしも思う。
「そうですわね。陰ながらわたくしも協力いたしますわ。でもシルビア様のお気持ちも大切にしたいので、無理強いはしませんけれど」
「そうだね。ジュリアス様がシルビア様に振られたら、その時は僕が慰める」
「ふふ、ライル様なら適任ですわ」
それからわたくしたちは気になる出店を回って、ゆっくりとふたりの時間を楽しんだ。
ライル様は本当に素敵だから、近くの女性が熱い視線を送ってきたけれど、まったく気にすることなく真っ直ぐにわたくしだけ見つめてくれる。
その一途さに嬉しくなって、わたくしはますますライル様を好きになるのだ。
時々、周囲に冷酷な視線を向けているけれど、これだけ人が多いからなにかあるのかもしれない。
そうこうしているこうちに、わたくしたちは祭壇の前にやってきた。
大広場の中央に収穫祭のために豊穣の女神像が置かれ、その周りに農作物を供えて色とりどりの花が飾られている。その色合いはまるで七色の花畑のように、明るく華やかだ。
ライル様と並んで女神像の前に跪き、胸の前で手を組む。瞳を閉じて心から祈りを捧げた。
今年も豊かな実りをくださりありがとうございます。
来年も民たちが飢えぬよう、恵みがもたらされますように。
願わくは、ひとりでも多くの民が笑顔で過ごせますように。
そしてわたくしのライル様が、幸せに包まれますように。
瞳をひらき女神像を見上げれば、キラキラと光が降り注いだ。これでわたくしの祈りが届いた。きっと来年も豊かな一年になる。
ライル様もちょうど祈り終えたようで、一緒に立ち上がり手を繋いで出口へと向かった。
ところが出口まであと十メートルというところで、道の端で何かに耐えるように俯いている五歳くらいの男の子を見つけた。
周りの大人たちは男の子の様子に気づいていないようで、みんな通り過ぎていく。
「ライル様、少しよろしいですか?」
「どうした?」
「あの男の子の様子がおかしいのです」
わたくしはそっと近づいて、男の子の前に膝をついた。
「ねえ、貴方のお母様とお父様は近くにいるのかしら?」
「…………」
「もしかして困っていないかと思って声をかけたのよ。お父様とお母様がいないなら、ひとりでいるのは危ないわ」
「……いない」
「いない? お母様やお父様がいないのね?」
「さっきから、探してるのに……どこにも、いない。うっ、うわあああああ! お父ちゃんもお母ちゃんもいないよおお!」
とうとう堪えきれなくなった男の子は大粒の涙を流して、泣き叫んだ。
すっと不安だったのに、懸命に堪えていたのだろう。こんな小さな身体でひとりきりになって、心細かったに違いない。
「ひとりでよく頑張ったわね。立派だったわ」
そう言ってそっと抱きしめる。ひとしきり泣いて落ち着いた頃に、ぐしゃぐしゃになった顔をハンカチで拭いてあげた。
小さな声で「ありがとう」と言われれば、わたくしの心はポカポカと温かくなる。
迷子ならわたくしたちでご両親を探すよりも、大広場の警備に当たっている騎士たちに託した方がいいかもしれない。
情報も共有されているから、その方がご両親に早く会えるだろう。
もしかしたら、ご両親もこの子を探してすでに騎士に相談しているかもしれない。
出店は肉からスイーツまでよりどりみどりだし、他にもくじ引きや弓矢で景品を狙ったり、中には魔法を使って的を射るものもあった。
「いろいろな出店があるのですね。わたくし王都で祭壇に祈祷するのは初めてですわ」
「そうだね、今までは領地の収穫祭に出ていたからね。あちらはあちらで楽しいけれど、ここは賑やかだね」
「ライル様、出店には寄っても大丈夫ですか? ジュリアス様に迷惑はかかりませんか?」
王太子殿下と一緒の行動であれば警備の心配もあるかと、ライル様に尋ねた。
「ああ、広場からは別行動だから問題ない」
振り返ってみると、後ろにいたはずの王太子殿下とシルビア様の姿はなかった。
「ジュリアス様への恩返しで、最初からその予定だったんだ」
「まあ、そうでしたの。それなら心配は不要ですわね。シルビア様もまんざらでもない感じでしたし」
「うん、できるならジュリアス様にも好きな人と結ばれてほしいと思う」
ライル様の瞳に浮かぶのは、友情と敬愛だ。マリアン様の件では王太子殿下が一番力になってくれた。王族として悲しい決断を下して、あるべき姿を見せてくれた。
あの方なら尽くしたいと思える王だと、わたくしも思う。
「そうですわね。陰ながらわたくしも協力いたしますわ。でもシルビア様のお気持ちも大切にしたいので、無理強いはしませんけれど」
「そうだね。ジュリアス様がシルビア様に振られたら、その時は僕が慰める」
「ふふ、ライル様なら適任ですわ」
それからわたくしたちは気になる出店を回って、ゆっくりとふたりの時間を楽しんだ。
ライル様は本当に素敵だから、近くの女性が熱い視線を送ってきたけれど、まったく気にすることなく真っ直ぐにわたくしだけ見つめてくれる。
その一途さに嬉しくなって、わたくしはますますライル様を好きになるのだ。
時々、周囲に冷酷な視線を向けているけれど、これだけ人が多いからなにかあるのかもしれない。
そうこうしているこうちに、わたくしたちは祭壇の前にやってきた。
大広場の中央に収穫祭のために豊穣の女神像が置かれ、その周りに農作物を供えて色とりどりの花が飾られている。その色合いはまるで七色の花畑のように、明るく華やかだ。
ライル様と並んで女神像の前に跪き、胸の前で手を組む。瞳を閉じて心から祈りを捧げた。
今年も豊かな実りをくださりありがとうございます。
来年も民たちが飢えぬよう、恵みがもたらされますように。
願わくは、ひとりでも多くの民が笑顔で過ごせますように。
そしてわたくしのライル様が、幸せに包まれますように。
瞳をひらき女神像を見上げれば、キラキラと光が降り注いだ。これでわたくしの祈りが届いた。きっと来年も豊かな一年になる。
ライル様もちょうど祈り終えたようで、一緒に立ち上がり手を繋いで出口へと向かった。
ところが出口まであと十メートルというところで、道の端で何かに耐えるように俯いている五歳くらいの男の子を見つけた。
周りの大人たちは男の子の様子に気づいていないようで、みんな通り過ぎていく。
「ライル様、少しよろしいですか?」
「どうした?」
「あの男の子の様子がおかしいのです」
わたくしはそっと近づいて、男の子の前に膝をついた。
「ねえ、貴方のお母様とお父様は近くにいるのかしら?」
「…………」
「もしかして困っていないかと思って声をかけたのよ。お父様とお母様がいないなら、ひとりでいるのは危ないわ」
「……いない」
「いない? お母様やお父様がいないのね?」
「さっきから、探してるのに……どこにも、いない。うっ、うわあああああ! お父ちゃんもお母ちゃんもいないよおお!」
とうとう堪えきれなくなった男の子は大粒の涙を流して、泣き叫んだ。
すっと不安だったのに、懸命に堪えていたのだろう。こんな小さな身体でひとりきりになって、心細かったに違いない。
「ひとりでよく頑張ったわね。立派だったわ」
そう言ってそっと抱きしめる。ひとしきり泣いて落ち着いた頃に、ぐしゃぐしゃになった顔をハンカチで拭いてあげた。
小さな声で「ありがとう」と言われれば、わたくしの心はポカポカと温かくなる。
迷子ならわたくしたちでご両親を探すよりも、大広場の警備に当たっている騎士たちに託した方がいいかもしれない。
情報も共有されているから、その方がご両親に早く会えるだろう。
もしかしたら、ご両親もこの子を探してすでに騎士に相談しているかもしれない。
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