追放された殲滅の祓魔師〜悪魔達が下僕になるというので契約しまくったら、うっかり大魔王に転職する事になったけど、超高待遇なのでもう戻れません〜

里海慧

文字の大きさ
8 / 59
ヴェルメリオ編

8、破滅へのカウントダウン(2)

しおりを挟む
 レオンを国外追放してから、三週間近くがたった。


 シュナイクはこの日、溜まりに溜まった書類を片付けていた。
 結界が破られたあとも、悪魔族は何度か襲来している。その度にギリギリでしのいでいた。

 なぜかレオンがいなくなってから、上位悪魔の襲来頻度が格段に上がっている。
 総帥ノエルの容体はなかなか回復せず、支援も期待できない状況だ。隊員たちの疲労も溜まる一方だった。

 悪魔族の襲来によって、隊員たちの治療にともなう経費の書類や、砦が破壊されたときの修繕に関する書類、また、四番隊の諜報活動の報告書など、多岐にわたる書類と格闘していた。


 このような書類仕事など、私がする必要があるのか? まったくこんな手間のかかるシステムは、私が総帥になったら改善しなければならんな。

 そもそも以前より、かなり書類が増えているではないか。これは……私に対する嫌がらせか!?


 そんなことを考えていると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。

「誰だ! 今は忙しいのだ!」

「申し訳ありません……五番隊のエレナ・テイラーです」

「えっ! エレナ隊長ですか!? 失礼いたしました! どうぞお入りください」

 組織運用のもろもろの雑務を引きうけ、アクの強い祓魔師エクソシストたちの潤滑油となる五番隊。
 その隊長を務めるエレナ・テイラーは、大天使ラグエルの加護を受けている。物腰の柔らかいおだやかな笑みをいつも浮かべていて、二二歳だが落ち着いて見える。
 そのサラサラの黒髪とアクアマリンのような瞳は、見る者の目を奪っていた。

「お忙しいところ申し訳ありません……シュナイク副隊長にお願いしたいことがござまして……」

「は、はい! なんでしょうか?」

「午前中に提出された書類に不備がございまして、訂正していただけないでしょうか?」

「それは申し訳ありませんでした。どの書類でしょうか?」

 その程度の用件でわざわざ隊長が来るのかと疑問に感じながらも、おだやかな態度は崩さなかった。
 エレナはうっすらと微笑みをうかべたまま、「ニコラスさん、お願いします」と扉のむこうの補佐官に声をかける。

 ニコラスが二箱分の書類を運びこんでくる。
 シュナイクは貼り付けた笑顔のまま固まっていた。

「本当に恐縮なのですが、不備の箇所にはフセンも貼ってありますので、あしたの午後六時までに再提出お願いします。あと、一緒に追加の書類もお持ちしましたわ」

「……こ、これを全て……ですか?」

「こちらで処理できるものはしたのですが、総帥代理でないと決済できない書類ばかりなのです。でも、シュナイク様でしたら、きっとすぐに処理できるものばかりですわ」

「いや、でも……多すぎ……ませんか?」

「そうですね。砦の修復や隊員の治療に関する書類は、いつもこの十分の一ほどですから。他の隊長様も仕事量が増えております。ですがシュナイク様も、精一杯頑張っておられますでしょう? 私もできることは、お手伝いさせていただきますわね」

 くそっ! 隊員たちが役立たずなせいで、こんな書類仕事に追われる羽目になったではないか! しかも総帥代理の決裁書類では、ほかの者に任せることもできないではないか!!



「では、よろしくお願いします」

 最後に花が咲くような笑顔をシュナイクに向けて、エレナは執務室を後にした。扉を閉める直前、チラリと室内に目をむけたが、シュナイクは石像のように固まったままだった。

(さて、これであのポンコツも少しはまともな仕事をするかしら。五番隊も二四時間体制にしてるから、そろそろあの子たちの負担を軽くしてあげないとね)

 こんな毒舌を吐いているとは、想像もできない笑顔を浮かべて、エレナは自分の執務室へ向かって歩き出した。

 五番隊の入隊条件は人の本質を見抜く力と、高度な対人スキルがあるかどうかである。そんな部隊の隊長がエレナだ。腹黒さでは総帥に引けを取らない。

「あら、また来たのね。はぁ、ますます書類が溜まってしまうわね」

 エレナが呟いた。それと同時に、けたたましく鐘の音が鳴りひびく。
 悪魔族の襲来だ————



     ***



 何故だ……何故、毎回こんなにも苦戦するのだ!

 鐘が鳴りひびいてから、どれくらいたっただろうか。シュナイクは思い通りにいかない、悪魔族との戦闘に苛立っていた。

「一番隊! 悪魔の数が減っていないぞ! 何をやっている! 二番隊! 援護が足りない!!」

 シュナイクの背後で、援護をしているのは魔術攻撃部隊の二番隊だった。だが彼らもまた、ギリギリの状態で魔術の攻撃をしているのだ。副隊長のヨークが悲鳴をあげる。

「シュナイク様! 二番隊はこれ以上の援護はムリです!! レオンがいた時は、一番隊がもっと悪魔族の数を減らしてましたよ!!」

「一人くらい居なくなったからと言って、何故こんなにも苦戦するのだ! いいから何とかしろ!! ニコラス! タイタラス! バーンズ! お前らもしっかり働け!!」

「うるせぇ! やってるよ! お前こそ後ろにいないで出てこいよ!!」

 頬から血を流したタイタラスが悪魔族を倒して、シュナイクに怒鳴り返す。だが、またすぐに別の悪魔族が襲いかかってきて、言葉を続けられなかった。

「何を言うんだ、指揮官がやられたらどうにもならないだろう! いいからお前たちは指示通りに動いてろ!」

 ニコラスとバーンズはさらに前線にいて、何とか悪魔族を倒していた。
 そこへふわりと四番隊隊長テオが舞いおりる。彼の愛剣、アルスの双剣がその軌跡に紅蓮の炎をまきちらした。炎に触れた悪魔族が、次々と消えてゆく。

 隊員たちのあいだを器用にすり抜けながら、高速で飛びまわっている。ほんの三十分ほどで悪魔族を半分にまで削っていた。
 ここで一気に悪魔族を追い返そうと、隊員たちは最後の力をふり絞る。

「遅れて悪かった。東の砦にちょっと強いやつがいてな」

 掃討戦に切り替わったのを確認したテオがシュナイクの隣に降りたった。今回は東と南の砦に同時に襲撃を受けていた。そのため戦力もさかれて、より苦戦していたのだ。

「いえ、テオ隊長、助かりました」

「俺のは強力だけど攻撃範囲が狭いからな。時間がかかっちまうんだ。レオンなら、十五分もあれば殲滅してたんだろうけどな」

「え……? あの男はいつも一人ではらってましたけど、さすがにそんな短時間では……」

「いや、レオンは攻撃範囲が広いのもいけるから、一人でやった方が効率いいんだよ。あれは圧巻だったな」

(それに、レオンが相方じゃ、俺ですら足手まといになるんだよなぁ……ほんと反則だよ)

 シュナイクは息苦しさを感じていた。
 いや、悪魔族の襲撃には勝ったのだ。きっと、気のせいだ。
 そもそも、押し寄せる悪魔族をたったひとりではらうことなどできるのか? そんなのは、人間業ではないだろう。大魔王でもあるまいし、きっと大袈裟に話しているのだ。

「あ、そうか、シュナイクはレオンより後の入隊だったか。それなら、レオンがいつもひとりではらってた理由なんて知らないか」

「……もう、ここにはいない人間の話なので、興味ありません」

「ふーん、そっか。まぁ、お疲れさん。じゃ、俺は先に戻るわ」

 テオ隊長はヒラヒラと手を振りながら去っていった。
 もう、レオンの話など聞きたくない。なぜ他の奴らはレオンの話などするのだ! 私の言う通りにして、悪魔族たちを追い払えているではないか!!
 私は大天使サリエルの守護を受けているのだ! 私の実力ならば、何も問題はないのだ!!

 シュナイクはまるで自分に言い聞かせるように、心の中でつぶやいていた。



 ーーーーカウントダウン、3
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

処理中です...