追放された殲滅の祓魔師〜悪魔達が下僕になるというので契約しまくったら、うっかり大魔王に転職する事になったけど、超高待遇なのでもう戻れません〜

里海慧

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ヴェルメリオ編

10、一番と特別

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 グレシルは、過去にかかわった人族や他の種族たちを思い出していた。誰も彼も己の願いを叶えるために、悪魔族である自分と取引をするのだ。
 彼らにとって私はただの道具だった。


『こんなのオレの願いじゃねぇよ! やり直せ!』
『ほらよ、これが報酬だ。……なんだよ、文句あんのか? 契約書通りだろ? ふん、恨むなら、自分の無能さを恨むんだな、ハハハ!』
『まぁ、随分みすぼらしい悪魔族ね。さっさと私の願いを叶えてちょうだい』
『何やってんだよ! ほら、次の客だ! モタモタすんじゃねぇ!!』


 契約書を盾に散々いいように使われて、もう消えてなくなるのを待つだけだった。魔力が切れて、身体が朽ち果てる寸前でベリアルさまが助け出してくれたのだ。
 それからはずっと、ベリアルさまのために生きてきた。これからも、私の一番はベリアルさまだ。


(なのに、コイツはベリアルさまを助けてって言った。しかも契約しなくてもいいって……コイツは何なの? あいつらとは違うの?)

 ベリアルさまに契約書のつくり方を教わって、魔力の扱い方も勉強した。契約書のつくり方が上手くなってからは、前みたいに他の種族に騙まされることもなくなった。
 そんなベリアルさまが、こんな人族の男なんかに騙まされるだろうか?

「……ベリアルさまから契約したって本当……?」

「あぁ、そうだよ。今は城にいるけど、会いに行くか?」

「……うん」

「わかった! じゃぁ、行こう!」

 人族の男がうれしそうにニコッと笑った。一瞬、胸がドクンと大きく跳ねる。

(こんなふうに誰かから笑顔を向けられたの……いつだったかな)

 遥か遠い昔に、まだ、父さんと母さんがいた頃だっただろうか。あの二人もよく他の種族にいいように使われて、魔力をすり減らしていたっけ。
 だけどよく三人で笑って、暖かい日々を過ごしていた。コイツについていったら、またあの時みたいに誰かと笑えるんだろうか……?

(それにしても、コイツ、人族のくせに何でこんな見た目なの? 黒髪にアメジストの瞳なんて……悪魔族にもいないのに! もう、なんかさっきから暑いし、胸の辺りが変な感じ……)

 悪魔族の少女が悶々と悩んでるあいだ、レオンはノンキに鼻歌を歌いながらベリアルの元へと向かっていた。



     ***



「レオン様、おかえりなさい! ……え? グレシル!?」

「ベリアルさま! 私……私、お迎えに……って、そんな格好で何してるんですか?」

 城に戻った二人の前には、メイドの格好をしたベリアルがいた。膝丈のスカートがふわりと揺れる。ホウキを片手に、驚きで固まっていた。

「何って……レオン様のお世話」

「いや、だから何で人族の、ましてや祓魔師エクソシストなんかの世話してるんですか! しかも様づけ!?」

「何でって……レオン様と契約したから」

「本当に……ベリアルさまから、契約するって……言ったんですか?」

「うん、レオン様に負けちゃったからね」

「ウソォォォォ————!」

 グレシルはガックリと膝をつき、床に四つん這いになっている。「そんな……私のしたことは……ムダ……」など、何やらブツブツ言っていた。

「ようやくわかってくれた? だからさ、ベリアルを手伝ってくれない?」

 誤解が解けたようなので、優しく声をかけてみる。
 さっきはすごく怖がらせちゃったみたいだし、気をつけないと。

「…………一晩考えさせてください……」

「うん、わかった。じゃぁ、今日はベリアルの部屋に泊めてくれる?」

「いいよー。ほらグレシル、ついてきて」

 トボトボとベリアルの後をついて行く悪魔族の少女は、可哀想になるくらいショックを受けていた。何とかこの城に残ってくれることを、祈るばかりだった。



 ————その日の夜。
 ベリアルとグレシルは久しぶりの再会で、いろいろな話に花が咲いていた。しかし先程からグレシルの質問が、どうもある方向にばかり向いている。

「ねぇ、グレシル。さっきからレオン様のことばっっっかり聞いてくるけど、まさか……惚れてないよね?」

「エヘヘ、バレちゃいました? レオンさまってすっごく優しいし、あのルックスなんですよ? 好きにならない方が無理ですよ」

 今までのほのぼのした空気はどこに行ったのか、ベリアルとグレシルの間にバチバチと火花が散っている。
 ここから激しい女のバトルが始まった。

「レオン様は私が先に見つけたの! グレシルは手を出さないで!」

「えー、そんなの横暴です! ベリアルさまは『一番』だけど、レオンさまは『特別』なんです! 譲れません!!」

「はっ! 契約も交わしてないくせに何言ってんの?」

「契約なんていつでもしますよ! 私だってレオンさまが好きだって気づいちゃったんだから、絶対負けません!!」

「ふんっ、そんなツルペタでよく言うわ」

「うわっ! ベリアルさまひどい! 私だってもっと魔力の扱い方覚えれば、もうちょっと成長するはずなのに……」

 少し言い過ぎてしまったかと、ベリアルは一瞬後悔する。本当に一瞬だけだったけど。涙目のグレシルが放った言葉が、それはもうグサリと突き刺さった。

「ベリアルさまこそ、レオンさまに女として見られてるんですか?」

「…………そんなの、私が聞きたいわ!!」

 レオンは確かに優しいのだ、誰に対しても。だから自分だけが特別なんだって思えない。お互いにダメージが大きく、女のバトルは一時休止となった。



     ***



「レオンさま! 私も契約します! このグレシル、誠心誠意お使えします!」

「そうか! ありがとう、グレシル!」

 翌朝、グレシルはレオンに契約すると朝一番で伝えた。こういう時のグレシルは抜かりない。ベリアルと同じ条件で契約を結び、願いを叶える対価をモジモジしながらもハッキリと伝える。

「対価は……私がお願いしたら、いい子いい子して下さいっ!!」

(ええぇぇ! いい子いい子!? そんな手もあったなんて! 思いつかなかった!!)

 ベリアルはわずかに反応してしまった。
 グレシルはドヤ顔でベリアルに視線を向ける。ベリアルは悔しさを何とかこらえて、何でもないような顔でレオンの前に朝食を並べていた。

「……そんなんでいいの? 悪魔族の対価ってそんなんでいいの?」

 グレシルにとって何が得なのかわからず、レオンは思わず聞き返してしまう。

「いいんです! それがいいんです!!」

「そうか……わかった。じゃぁ、よろしくな、グレシル」

 嬉しそうなレオンの笑顔に、ベリアルとグレシルが固まってしまう。朝からいいものを見たとほっこりしていると、レオンが最強の一言を放った。

「これからは三人だし、楽しく、仲良くやろうな!」

(楽しく、仲良く……ライバルグレシルと?)
(えぇ、仲良くって……ベリアルさまとレオンさまの事でケンカしちゃダメってこと?)

 思わず二人で見つめ合う。だけど、レオンがそう言っているのだ。答えは決まってる。


「「はい、わかりました……」」


 こうして水面下(?)の女のバトルはほぼ休戦したのだった。
 そしてグレシルが加わったことによって、菜園での自給自足やルージュ・デザライトの緑化計画が大幅に進んでいった。
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