追放された殲滅の祓魔師〜悪魔達が下僕になるというので契約しまくったら、うっかり大魔王に転職する事になったけど、超高待遇なのでもう戻れません〜

里海慧

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ヴェルメリオ編

21、超高待遇なのでもう戻れません

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「とりあえず、お前たち殺気を放つな! ノエル、まずはヴェルメリオで何があったか教えてくれないか?」


 城をぶっ壊されてはたまらないので、話題を変えることにした。よし、作戦成功したようだ。少しだけマシになった。

「……わかったよ。そうだね、そもそも僕が毒矢を受けたのは、シュナイクの計画に乗っかっただけなんだよね。それで、あえてシュナイクを総帥代理して、泳がしてたんだ————」


 ノエルに意図があることはわかっていた。ただ、その後の展開が……容赦なかった。だってノエルのことだから二ヶ月もあれば、十分な証拠はそろえていたはずだ。
 残りの一ヶ月は多分、逆恨みすらさせない為の追い込みだ。

 昔から俺たちに敵意を持つ奴らを、ノエルは徹底的に叩きのめしてきた。
 前に、もういいからと止めたことがあったけど、「何言ってるの? レオンの敵は僕の敵だよ? だから黙っててくれる?」と天使の微笑みで返された。

 それから、なるべくノエルに無茶をさせないように必死に頑張ったんだ。

 シュナイクについては、ノエルがここまでやったなら、もういいかと思ってしまった。
 俺は今すごく幸せだし、もし国外追放されていなかったら、ベリアルたちに、こんな風に出会えてなかったかもしれない。
 それだけは感謝できる。


「はぁぁ!? 何なのそれ! レオン様にそんなことしたの、アイツ! 今すぐ息の根止めてやるから!」

「待ってください! 息の根止めるは同意だけど、サクッとっちゃうのもったいなくないですか?」

「そうねぇ、もう少し死ぬ直前くらいで存分に苦しめてからの方がいいんじゃないかしら?」

「では、死後は我の傀儡にしてこき使ってやろう。フフフ……」

 あれ! お前らそっちに食い付いたの!? でも、シュナイクを追い詰めたから、ノエルの評価は若干上がったようだ。

「お前ら物騒すぎるから! ていうか、ノエル、俺ヴェルメリオには帰らないぞ」

「………………は? 何で?」

 ノエルの本気でおどろいた表情かおなんて珍しい。

「大魔王に転職したから、祓魔師エクソシストは副業なんだよ。それにな、正直、超高待遇すぎて、もう戻れない」

「…………大魔王に……転職?」

「うん、大魔王ルシフェルって役職名になるのかな?」

「ルシフェルって……大天使の名前を何に使ってんの!? 特級祓魔師エクソシストが大魔王ってなんなの!?!?」

 ノエルが絶叫してる。おお、これは本当に珍しい。いつもの余裕げな笑顔が消え去ってる。

「だって本名で大魔王レオン様とか、呼ばれたくなかったんだよ」

「呪われてるとか言われても気にしない奴が、何でそこで嫌がるのか、さっぱりわからないね!!」

「言われてみれば確かに……」

「確かに……じゃないよ! このバカ兄貴!!」


 四人の下僕たちは、二人のやりとりを聞いていて、何ともいえない気持ちになっていた。

(なんて言うか……ちょっとだけノエルの気持ちがわかる)
(レオンさまって大天使の祓魔師エクソシストだったんだ! それなのに大魔王って……ハハハ)
(あらあら、ずいぶん仲のいい兄弟ね。けれどレオン様はノエルの努力を、きっとわかってないわねぇ)
(ふむ、これは主人殿と総帥のためにも、今夜は泊まってもらわねばならんの)

 下僕たちのノエルに対しての態度が柔らかくなった瞬間だった。



     ***



 その日の夜は曇り空で、湿った風が吹いていた。月明かりもないので、城のいたる所でロウソクの火が灯されている。
 シュナイクがいる地下牢も、いつもより多くのロウソクの炎が揺れていた。

 レオンは今頃、ノエルと色々な話をしているのだろう。夕食の時も楽しそうに会話していたと、ベリアルはふふっと笑いをこぼす。
 ベリアルは地下牢にいるシュナイクに、夕食を運んでいた。もちろん、自分たちが食べたものと同じメニューだ。
 正直いって、レオン様を苦しめた者だから、苦々しい気持ちもある。

 でも当の本人が、シュナイクの食事の手配をしているのを見てしまった。だから、食事を持っていくのは私がやると、役目を譲ってもらったのだ。

 そんなレオンだから好きなのだと、改めて実感する。
 ここ最近は忙しいのと、下僕の悪魔族がふえたことで、レオンと過ごす時間が減っていた。

 本当は誰かに取られそうで、すごく不安だった。今すぐ私だけのものになって欲しい。もっと私を見て欲しい。
 私のものにならないのなら、全て消えてなくなればいい。

 そこまで考えて、ハッとする。
 悪魔族は大切なものへの執着が非常に強いのだ。相思相愛なら問題ないけれど、一方通行の場合、相手によっては悲惨な結果をむかえるケースもある。

 気がづけばシュナイクの牢の前だった。


「はい、夕食。レオン様が用意してくれたんだよ」

『うぅ……す、すまない。手枷を……』

「鍵を預かってるから、外してあげる。こっちに来て」

 壁にあるロウソクの炎が、ベリアルの影を牢屋の中へと伸ばしていた。その影にシュナイクの影が重なる。


 その瞬間、ベリアルの瞳から光が消えた。



     ***



 ノエルはレオンの部屋に防音の結界を張って、今回の最大の目的を果たそうとしていた。

「ねぇ、レオン」

「うん?」

「僕のせいで、こんな事になって……ごめん」

 総帥としての判断を後悔はしていない。それにレオンはこんな復讐みたいなこと望んでなかったかもしれない。
 でも、僕は許せなかった。そして、動けない状況だったとはいえ、レオンを助けられなかった自分を————もっと許せない。

 ポンとレオンの手がノエルの肩に乗せられた。

「いいよ。ノエルもよく考えて決めたんだろ? それに俺もこっちで大切なものができたしな」

「そっか……」

 母の胎内からレオンと一緒だった。ずっと側にいるのが当たり前だと思っていた。いずれお互い結婚とかしても、近くにいるんだと勝手に信じていたんだ。


 こんなにも簡単に離れてしまうなんて、思わなかった。


 レオンが幼い頃のようにそっとハグをして、なだめるように背中をポンポンする。昔と変わらない温もりに、心のどこかで安堵した。

「でも、俺の双子の弟は世界中でノエルだけだよ。それにな、もう悪魔族はヴェルメリオを襲わないから、結界もいらないだろ?」

「あぁ、そうだね。まぁ、全部は無くさないけど、行き来くらいはできるかな?」

 レオンは勢いよく離れて、目をキラキラさせている。これから先、ヴェルメリオは悪魔族の襲撃から解放されるのだ。
 それは、アルブスの在り方も変わることを意味していた。

「そうだろ! じゃぁ、今度は俺が会いに行くよ。またノエルの屋敷の飯食わせてくれない? 美味かったんだよなー!」

「うん、いつでも来てよ」

 レオンにつられて、僕も笑っていた。
 ほんと、レオンってズルいよね。僕が努力して身につけた対人スキルも、何も考えないで使ってるんだから。僕が敵わないのはレオンだけだよ。



「あぁ、それと、もう一つあるんだ」

 今度は執務用の顔に切りかえて、話を続ける。レオンも変化を感じとって、窓際のミニテーブルへと僕を促した。

「シュナイクだけど、悪魔族に取り憑かれている可能性がある」

「は? いや、それ俺が言われたんだけど……シュナイクが?」

「うん、様々な情報をまとめると、答えがそこに行き着くんだ。おそらく二年前から異変が起きてる」

 レオンは何かを考え込んでいた。やがて納得したように、強い視線を向けてくる。

「それなら、は今ここにいるんだな?」

「間違いなく。そっちの処分はレオンに任せるよ、大魔王様だしね」

 ニヤリと意地悪く笑ってみせると、嫌そうな顔をしながら「わかった」と答えた。僕が内密に調べたから、ここに持ってこれたと言うのに……感謝してもおかしくないと思うよ?

「ただ、最初に取り憑かれていた隊員は別人なんだ。シュナイクと接触した際に移動したようなんだけど、方法がわからない」

「それなら、ベルゼブブなら何か知ってるかもしれない。下僕の中で一番知識量があるから、明日一緒に聞いてみよう」

「助かるよ、レオン。このままシュナイクを放っておくこともできないし、困ってたんだ。……他にこの事で頼れる所もなくて」

 最後の方は尻すぼみになっていく。やっぱり二一歳にもなって、兄貴に頼るという状況に悔しさが込み上げた。
 いつもいつも僕がフォローしてきたのに、いざと言うときに頼るなんて……!!

 案の定レオンは、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしている。裏で駆けずり回っている、こっちの気も知らないで頼られると暴走するのがレオンなんだ。ほんと、この後が大変だ。

「言っとくけど、くれぐれも暴————」


 突如、大きな爆発音が城中に響きわたった。

 レオンとノエルはすぐに気配感知をする。爆発音が聞こえた城門に予想外の気配を感じて、お互いに顔を見合わせた。

「なんで……ベリアルが……?」

 レオンは城門から立ち上がる煙を、窓から眺めている。
 ノエルはある可能性が浮かんで、チッと舌打ちした。ベリアルとシュナイクが接触したかもしれない。

 レオンが下級悪魔にシュナイクの世話を指示していたので、接触によってもし乗り移っても被害が少ないと油断していたのだ。
 まさか、上位悪魔と接触するとは……接触禁止にしておかなかった自分の落ち度だ。

「レオン、状況から考えるとベリアルに取り憑いたのかもしれない」

「そうか……わかった。それなら、俺がやる」

 部屋の結界を解除して、レオンとノエルは窓から飛び立った。
 ノエルは少し驚いた。レオンのこんなに殺気に満ちた様子は、今までなかったのだ。余程ここでの仲間が大切らしい。
 寂しさと少しの嫉妬と、そんな仲間ができたレオンを嬉しく思った。



 二度目の爆発が城の正門で起きていた。暴れているのは、虚な目をしたベリアルだ。
 美しいウェーブのある銀髪は、彼女が発する炎になびいている。自らも発火しながら、城を破壊していた。

『……消えろ……キエロ……全て、消えてなくなれ!』
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