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ブルトカール編

33、見つけた手掛かり

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 俺とベリアルはサクッと国境を越えて、途中の街に立ち寄りながらブルトカールの王都を目指していた。

 最初に立ち寄った街で、いろいろな種族の獣人たちが暮らしていた。うさぎの耳や猫の耳、他にも爬虫類のようなウロコが腕に付いている種族もいた。

 あまり目立ってはいけないのと、気配感知で祓魔師エクソシストだとバレては面倒なので、聖神力を抑えながら移動している。近くの街で安めの宿を取って、翌日に備えていた。
 明日にはブルトカールの王都、メイリルに着く予定だ。


「思ったより早くここまで来れたな。今のところ城も問題ないみたいだ」

「もっとゆっくりでもよかったけど……」

 モジモジしながら言ったベリアルの言葉が、うまく聞き取れなかった。

「うん? もっと余裕なくてもよかった? あ、ごめんな、ロシエルのこと心配だよな」

「ううん、大丈夫! 連れてきてもらっただけでありがたいから」

「明日には王都に入って、情報収集しよう」


 ベリアルはほぅっと短くため息を吐いて、窓の外に視線をむけていた。ロシエルが気になって仕方ない様子だ。

「ロシエルってどんな子なんだ?」

「ロシエル? うーん、とにかく好きなことに没頭する子でね、よく失敗してたかな。いつもフォローしてあげて、本当に手のかかる妹だった。紅い髪と翡翠色の瞳が特徴でね——」

 手のかかるといいながらも、その顔は慈しむように微笑んでいる。ロシエルの失敗談を、笑いながら話すベリアルはしっかりしたお姉さんだった。

「いつからロシエルを探してたんだ?」

「あれは……五十年くらい前だったかな。あの頃のロシエルは、すごく好きな小説作家がいて、会いに行って来るって出かけたまま……帰ってこなかった」

「そっか……そんなに長い間、探してたんだな」

「きっとどこかで騙されて、ムリヤリ閉じ込められてるんだと思う。悪魔族は契約に縛られるから」

 今にも泣きそうなベリアルは俯いて、拳を硬く握っている。
 なんとか慰めたくて、手を伸ばした、その時だった。



「やっと追いついた——!! ベリアルさまっ! 抜けがけなしですよ——!!」

 バ————ンといきなり開かれた扉にいたのは、

「「グレシル!?」」

「ほんっっと、油断ならないんだから! はー、魔力追跡の魔術かけといてよかったぁぁ!!」

「はああ!? そんなの私にかけてたの!?」

「当たり前じゃないですかっ! だからレオンさまの湯殿にも駆けつけられたし、今回も追いかけてこれたんですよ!!」

「いつのまに……!!」

「うふふ、それは秘密でーす☆」

「本当にムカつくわー! そろそろ決着つけ」


「ちょっとお客さんっっ!! 他の人の迷惑になるから、もう少し静かにしてもらえませんかね!?」

 宿の女主人に思いっきり叱られた。

「「「すみません……」」」

 何で俺まで……チクショウ、次は命令してでも止めてやる!



     ***



 翌朝、うるさくした詫び代も含めて、銅貨六枚のところを銀貨一枚で払ったら、女主人はニッコニコで送り出してくれた。なんていうか、獣人族は現金なヤツが多いな。

 こうして、ついに王都メイリルに着いた。王都の周りはぐるりと城壁に囲まれていて、入り口には検問所が設けられている。

「レオン様、ここは悪魔族のふりした方がいいと思う」

「え、なんで?」

「人族って、島国の住人って認識だから、変に目立っちゃうんですよ」

 昨夜のうちにグレシルにも事情を話して、協力してくれることになっている。なるべく密かに行動して、情報収集する予定だ。

「あ、そっか。ルージュで違和感なさすぎて、抜けてたな」

 ルージュ・デザライトでは人族の俺でも、ごく普通に接してくれるので、失念してしまった。持ってきていた悪魔族の角と仮面をつける。顔バレしないに越したことはない。

 呪いの仮面が外れないとか言っとけば、大丈夫だろ。触った途端に紫雷を流せばバッチリだ。

 検問所では、案の定、仮面を外せと絡まれた。外せるなら外して欲しいと頼むふりして、兵士が触った瞬間にごく微弱な紫雷を流してやる。
 ビックリした兵士には悪いが、ちょっと楽しんでしまった。大げさに悲しみながら、問題なく検問所を通過できた。



「ここがメイリルかぁ、大きな街だな」

「レオンさま、ここの串焼き美味しいんですよ! 後で食べましょうね!」

「おお、いいな! 昼飯はそれにしよう」

 そう話しながら、軽く気配察知をかけてみた。種族の違いくらいはわかる。悪魔族は……二十人ほどいるみたいだ。一人ずつ当たってみるか。
 悪魔族なら口止めは簡単だからな。

「ベリアル、この街に二十人の悪魔族がいる。ひとりずつ当たってみよう」

「はい、レオン様!」



 俺たちは外套のフードをかぶって、街の中を歩き回った。一度話せば、次からは気配感知で誰かわかるので、外すことができる。
 大きな店の中や、アパートの一室、それから路地裏など悪魔族の元へ足を運んだ。


 八人目の悪魔族は、飲食店の店員らしく、裏口の通路で休憩中だった。

「へっ!? 大まフガフガフガ!?」

「そうなんだけど、大声出すな。隠密行動中だから」


 コクコク頷いたので、口から手を離す。最初の一人目からこの調子だ。次は大魔王の『だ』で止めてみせる!

「あ、すんません。あんまり驚いてつい……」

「いや、まぁ、仕方ないよな。それより、紅い髪に翡翠色ののロシエルっていう悪魔族は知らないか?」

「うーん、オイラの知ってる中にはいないですね。でも、奴隷になってる悪魔族もいるって、聞いたことあります」

「ねぇ、そういう悪魔族はどこにいるの?」

 ベリアルが身を乗り出してくる。この街に来て、初めて有益な情報だから仕方ない。

「聞いた話では、貴族の屋敷で捕まってるらしいです。逃げられないように契約されていて、灰になるまで使われるって……だから、貴族とは絶対に契約するなって教わりました」

 ベリアルの顔色が一気に悪くなる。グレシルに目配せして、少し離れた場所で休ませた。



「その貴族の名前わかるか?」

「いやぁ、そこまでは……かなりお偉いさんらしいってのしか」

「そうか……もうひとつ、奴隷の首輪の外し方知ってるか?」

「隷属の首輪ですか? オイラはわからないですけど、奴隷商人ならわかるんじゃないですか?」

「やっぱりそうだよなー、そっちから当たるしかないか。でもなぁ、どうやったら会えるのか……」

 前の七人にも同じ質問をして、やっぱり奴隷商人が知っていると言っている。ただ、まったくコネも何もない街で、そんな裏社会の商人に会えるのか、そこが問題だ。

「あの、ここのお客さんに、この辺じゃ有名な奴隷商人がいるんです。毎日来る人だから、今夜も来ると思うんですけど……」

「え……マジで? その商人が来たら、教えてくれる?」

「オイラはホールの担当なんで、食事しててくれたら教えられますよ」

「わかった。早めに来て、ガンガン食べてやるよ」

 奴隷商人が来る大体の時間と人相だけ聞いて、ほかの悪魔族にも引きつづき話を聞いて歩いた。
 念のため一時間前から、食事を始めて奴隷商人を待つことにした。




「……ていうか、グレシル食べすぎじゃない?」

「うん、さすがに俺もう食えない」

「えぇー! だってこんなに美味しい料理だったら、いくらでも食べられますよー!」

 目の前につみ上がった皿は軽く十枚を超えている。グレシル一人で、これだけ平らげていた。この細い体のどこに収納されているのか、不思議だ。
 そこへ、昼間に話をした悪魔族がやってきた。

「お水のお代わりはいかがですか?」

「ああ、頼むよ」

 これが奴隷商人が来た合図だった。

「レオン様の右斜め後ろです。茶色のスーツ着てます」

 ポソポソと席と特徴を教えてくれる。すかさず気配感知で奴隷商人の魔力を覚えた。これで、いつでも追える。絶対に逃さないからな。

「ああ、そうだ、これチップだ」

「えっ! あ、ありがとうございます!」

 金貨三枚渡したら、ものすごく驚いてた。でも、それくらい俺たちには価値のある情報だ。

「あと最後に——」

 他の者には聞き取れないくらいの声で、絶対の指示を告げる。


。今回のことは誰にも言うな」


 涙目になって高速でうなずき、足早に去っていく。なんだよ、この命令ってそんなに怖いのか?
 そんな滅多に使わないけど……もう少し控えようかな。
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