秋色のおくりもの

藤谷 郁

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裸のままベッドから抜け出すと窓に寄り、遮光カーテンを少しだけ開いて、ホテルの前に悠々と横たわる海を眺めた。

朝がきたとも知らず、夢を見ている恋人に振り返り、「いい天気だよ」と、声をかける。

だけど彼女はぴくりともせず、すやすやと寝息を立てている。

「疲れさせたのは、僕……か」

自分の独り言に照れてしまうが、本当のことだから仕方ない。この身体に余韻となって残るのは愛情の微熱。しばらく消えそうにない。

昨夜、桃子と初めて結ばれた。

保護欲なのか、征服欲なのか、わけのわからない強烈な欲望が僕を支配し、突き動かした。獰猛な雄が目覚めたような、激しい衝動だった。

淡い光に浮かび上がる白い首筋や肩に目を細め、僕はベッドに戻ると彼女の隣に再び潜り込む。

部屋は暖房がきいているが、毛布の温もりにほっとした。

「朝だよ、桃子」

囁きながら彼女の身体に腕を回し、後ろから抱きすくめた。柔らかな素肌はさらりとして、爽やかな香りがする。

「う……ん」

むにゃむにゃと寝言のような呟きをして、すぐにまた眠る。と思ったら、びくんと全身が跳ね上がった。

目が覚めたようだ。

「透、さん?」

「おはよう」

「あ、あの……この、状況って」

かあっと赤くなり、僕の腕の中で縮こまる。そんな恋人の仕草が可愛くて、思わず首筋に口付けた。

ほんの挨拶代わりの、軽い触れ方だったが……

「きゃっ」

ひんやりとしたのか、鋭い反応だった。

「と、透さん!」

「昨夜に比べたら、こんなキスくらい何でもないだろ」

「そ、そういう問題じゃなくて……って、な、何を言って」

僕はまじめに言うのだが、彼女は何を想像したのか、ますます赤くなる。

「桃子?」

「知らない、もう」

朝っぱらからこれほど元気な僕は、人生で初めてではないだろうか。

桃子が卒業するまでは――と、耐え抜いた反動なのかもしれない。

燃え上ったのは、この娘だから。いつの間にかこの娘しか目に入らず、早く会いたいばかりで、故郷が恋しかった。

この温もりが、ずっと欲しかった。

好きなように揺さぶったつもりが、真実揺さぶられたのは僕のほう。

彼女に翻弄される。最初から、こうなのだ。

年の差なんて関係なく、二人はつがいの関係だった。

「とおる、さん」

再びまどろむ彼女。

誰よりも愛しい人を、思いきり抱きしめた。





朝食の後、海辺を散歩した。水平線のきらめきに、僕は目を細める。

「柿畑が気になるんでしょう?」

「ん?」

渚を並んで歩きながら、君はそんなことを訊く。

「まあね」

と素っ気なく返事する僕にクスクスと笑って。まったく、敵わない。

「帰ったら、一緒に見て回ろうね」

「桃子」

君はやっぱり大人の女性だ。

じっと見つめる僕に、照れた顔で俯くけれど、君はもう卒業している。

そして、僕も。

素肌が溶け合うように、熱情を分かち合うように、ひとつになれたのだ。

「普段の仕事もだけど、婚約に結婚準備。これから忙しくなるよ。だから今日は、ゆっくり過ごそうな」

「……透さん」

二人の時間を紡いでいく、大切な日。

かけがえのないひと時を過ごそう。


僕はようやく、『ご近所のお兄さん』を卒業した――









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