秋色のおくりもの

藤谷 郁

文字の大きさ
7 / 8

7

しおりを挟む
今日は桃子の卒業式だ。

お祝いの花束と、二人ぶんの旅行鞄を車に載せて、農業大学の卒業式会場まで迎えに行った。

桃子はきれいに化粧して、シックなスーツを着こなし、すっかり大人の女性である。

花束を手に、彼女は嬉しそうに笑い、そしてはにかむ。

大人になっても相変わらずの仕草に僕は心を和ませ、誰が見ているのも構わず抱き寄せていた。




「今から旅行……って?」

帰り道とは別の方向へ車を走らせる僕に、きょとんとした顔で訊く。内緒にしていたのだから無理もない。

「いわゆる卒業旅行かな。おじさん達にも了解をもらってるよ」

おじさん達というのは、桃子の両親だ。

親同士の仲が良いとはいえ、嫁入り前の娘を勝手に外泊させるわけにはいかない。そう、いくら僕のところに嫁に来るといってもだ。

桃子は目を潤ませて、これまで忙しさにかまけ、ろくにデートもしてやれなかった僕を見上げた。

「卒業おめでとう、桃子」

「ありがとう……嬉しい、透さん!」

これは君へのおくりもの。

だけど、半分は自分のため。

なぜなら、僕も卒業したいから――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

工場夜景

藤谷 郁
恋愛
結婚相談所で出会った彼は、港の製鉄所で働く年下の青年。年齢も年収も関係なく、顔立ちだけで選んだ相手だった――仕事一筋の堅物女、松平未樹。彼女は32歳の冬、初めての恋を経験する。

優しい彼

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の彼は優しい。 ……うん、優しいのだ。 王子様のように優しげな風貌。 社内では王子様で通っている。 風貌だけじゃなく、性格も優しいから。 私にだって、いつも優しい。 男とふたりで飲みに行くっていっても、「行っておいで」だし。 私に怒ったことなんて一度もない。 でもその優しさは。 ……無関心の裏返しじゃないのかな。

least common multiple

優未
恋愛
高校卒業から10年を記念した同窓会に参加した詩織。一緒に参加予定だった友人の欠席により1人で過ごしていると、高校時代の人気者である久田に声をかけられて―――。マイペースな頑固者と本命には及び腰の人気者のお話。

初恋の人

凛子
恋愛
幼い頃から大好きだった彼は、マンションの隣人だった。 年の差十八歳。恋愛対象としては見れませんか?

“熟年恋愛”物語

山田森湖
恋愛
妻を亡くし、独りで過ごす日々に慣れつつあった 圭介(56)。 子育てを終え、長く封じ込めていた“自分の時間”をようやく取り戻した 佳奈美(54)。 どちらも、恋を求めていたわけではない。 ただ——「誰かと話したい」「同じ時間を共有したい」、 そんな小さな願いが胸に生まれた夜。 ふたりは、50代以上限定の交流イベント“シングルナイト”で出会う。 最初の一言は、たった「こんばんは」。 それだけなのに、どこか懐かしいような安心感が、お互いの心に灯った。 週末の夜に交わした小さな会話は、 やがて食事の誘いへ、 そして“誰にも言えない本音”を語り合える関係へと変わっていく。 過去の傷、家族の距離、仕事を終えた後の空虚—— 人生の後半戦だからこそ抱える孤独や不安を共有しながら、 ふたりはゆっくりと心の距離を縮めていく。 恋に臆病になった大人たちが、 無理をせず、飾らず、素のままの自分で惹かれ合う—— そんな“優しい恋”の物語。 もう恋なんてしないと思っていた。 でも、あの夜、確かに何かが始まった。

フローライト

藤谷 郁
恋愛
彩子(さいこ)は恋愛経験のない24歳。 ある日、友人の婚約話をきっかけに自分の未来を考えるようになる。 結婚するのか、それとも独身で過ごすのか? 「……そもそも私に、恋愛なんてできるのかな」 そんな時、伯母が見合い話を持ってきた。 写真を見れば、スーツを着た青年が、穏やかに微笑んでいる。 「趣味はこうぶつ?」 釣書を見ながら迷う彩子だが、不思議と、その青年には会いたいと思うのだった… ※他サイトにも掲載

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

処理中です...