秋色のおくりもの

藤谷 郁

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「嘘じゃないよ」

「でも」

透さんは首を横に振り、かたくなに否定する私を遮る。

「いや、本当だ。僕はあの時、もしよかったら家でお茶でも飲まないかと、誘おうとしたんだ。でも君は逃げた。僕はもちろん下心なんて持っちゃいなかったけど、君に嫌らしい男だと警戒されたのかもしれないって、あの後、かなり恥ずかしかったな」

愕然としながらも、記憶をけんめいに手繰り寄せる。確かに、そんなようなことをこの人は言いかけて、私は、私はその時――


――失礼しまッス!


透さんは困ったように頭を掻いた。私もかなり、恥ずかしい。

「帰省するたびに君を見て、どんどん女性らしくなっていく姿を追いかけながら、いつかもう一度誘ってみようとしたよ。でも、君はいつも柿畑の前を足早に通り過ぎていく。柿の実をひとつ手渡すのがせいいっぱいで、僕はそれ以上何もできなかった。10歳も年上のおじさんは、恋愛の対象にはならないんだなと」

「うっ、ごめんなさい」

辺り一面秋色に染まり、彼と私の頬も同様に真っ赤である。

恋愛――なんて、この人からそんな言葉を聞こうとは。

「あきらめて、見合いでもしようと思った。僕の職場には素朴な故郷を思わせるような、理想の女性は一人もいない。地元の女性なら見つかるんじゃないかと。それが3年前」

そうだったのか。そうだったのか。

私は、知らなかった。ちっともそんなこと考えず、彼のことを何もわかっていなかった。表面だけを見ていた。

彼のこと、そして自分のことも。

「だから、君のプロポーズは本当に突然で驚いたけど、嬉しかったんだ。でも、そのまま受け入れるのは違う。大人らしく分別をきかせて、待つことにしたんだ。ようやく萌芽したばかりの君が一人前になり、実をつけるまで」 

「透……さん」

「大人になったね」

私は首を横に振る。

(まだ全然、青柿だ。だって、あと5年はかかるでしょう、桃じゃなくて、柿だったなら)

そんな理屈をこねる心を知ってか知らずか、朗らかに彼は笑う。18歳の彼が重なり、涙が滲む。そうだ、私はこの人を好きになったのだ。

こんな透さんだから、好きになったのだ。

イケメンだからとか、優しいからとか、それだけの理由ではなく、この人だから。

「では、あらためて返事をするよ」

透さんはポケットからそれを取り出すと、ぽんと、私の手の平に渡した。  

秋色の宝物。3年ぶりに受け取る、おくりものだった。

「一緒に収穫してほしい。これからずっと、僕のそばで」

温かな想いに包まれ、私の初恋はみのりの秋を迎える。

だけど、まだ始まったばかり。まだ3年、まだ5年、これからもどんどん枝を広げ、たくさんの実をつける大樹になりたい。

「さてと、それでは再挑戦」

「えっ?」

透さんはにこっと笑う。

「僕の家で、お茶でも飲みませんか」

いたずらっぽく言うけれど、熱っぽい眼差しはあの頃と違う。対等な存在として見てくれるのだ。

どきどきしながら、遠慮のない視線を受け止める。

この人は意識している。私を、異性として。

「はい、いただきます!」 

素直に頷き、差し出された手にそっとつかまる。

8歳、13歳、19歳、すべての私を愛しく思えることが嬉しくて、この温もりが幸せで―― 

宝物を胸に抱き、大好きな彼に寄り添った。
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