10 / 179
北城家のターミネーター
1
しおりを挟む
午後10時。
ここは、高台の閑静な住宅街に建つ北城家。希美は両親と向き合い、リビングのクラシックソファに座っている。
今夜は銀座の寿司店で協力会社との会食があり、たった今帰宅したばかりだ。
「わははは……なんだお前、営業のナントカ君に振られたのか。それはかわいそうに」
希美からプロポーズの結果を聞き出した社長は、さも楽しそうに笑った。
テーブルの上には土産の太巻き寿司が並んでいる。家政婦の山際武子が運んできたほうじ茶をひと口含むと、希美は寿司にかぶりついた。
(やっぱり言わなきゃよかった。このくそおやじ)
「まあ。お行儀が悪いわよ、希美」
母に注意されてギクッとするが、心の声が漏れたわけではなかった。寿司の食べ方が下品とみなされたらしい。
「ふ、ふひはへん……」
もごもごと寿司を飲み下す。武子が側に来て、口もとを拭うためのおしぼりを渡してくれた。
「あなたも銀座で食べてきたのでしょうに。本当に、大きな胃袋ねえ」
呆れる母に、毎度おなじみの言い訳を述べる。
「だって、すぐにお腹が空く体質なんだもの。仕方ないわよ。ねっ、武子さん」
この家ではただ一人、いついかなる場合も希美の味方となってくれる武子に同意を求めた。
北城家に勤めて28年。今年で55歳になる彼女は、武道で鍛えたがっしりとした身体をぴんとさせ、大きく頷く。
「お嬢様はいくら食べてもお太りになられません。すなわち、お夜食も必要なカロリーなのです」
「そうは言ってもねえ」
食が細い母には、三度の食事の他に間食も夜食もとる希美の食欲がどうしても理解できないようだ。
「……ところで、さっきのお話は本当なの? 南村壮二さんに振られたって」
ふいに問われ、二つめの寿司に伸ばしかけた手を止める。断面もきれいに切り分けられた太巻きの具は、たまごにかんぴょう、椎茸に車海老、そして桜でんぶ。ふわふわのピンクが、社長室の窓から眺めた桜並木を思い出させる。
希美は肯定も否定もせず、肩を竦めてみせた。報告したのは、まだすべてではない。
ここは、高台の閑静な住宅街に建つ北城家。希美は両親と向き合い、リビングのクラシックソファに座っている。
今夜は銀座の寿司店で協力会社との会食があり、たった今帰宅したばかりだ。
「わははは……なんだお前、営業のナントカ君に振られたのか。それはかわいそうに」
希美からプロポーズの結果を聞き出した社長は、さも楽しそうに笑った。
テーブルの上には土産の太巻き寿司が並んでいる。家政婦の山際武子が運んできたほうじ茶をひと口含むと、希美は寿司にかぶりついた。
(やっぱり言わなきゃよかった。このくそおやじ)
「まあ。お行儀が悪いわよ、希美」
母に注意されてギクッとするが、心の声が漏れたわけではなかった。寿司の食べ方が下品とみなされたらしい。
「ふ、ふひはへん……」
もごもごと寿司を飲み下す。武子が側に来て、口もとを拭うためのおしぼりを渡してくれた。
「あなたも銀座で食べてきたのでしょうに。本当に、大きな胃袋ねえ」
呆れる母に、毎度おなじみの言い訳を述べる。
「だって、すぐにお腹が空く体質なんだもの。仕方ないわよ。ねっ、武子さん」
この家ではただ一人、いついかなる場合も希美の味方となってくれる武子に同意を求めた。
北城家に勤めて28年。今年で55歳になる彼女は、武道で鍛えたがっしりとした身体をぴんとさせ、大きく頷く。
「お嬢様はいくら食べてもお太りになられません。すなわち、お夜食も必要なカロリーなのです」
「そうは言ってもねえ」
食が細い母には、三度の食事の他に間食も夜食もとる希美の食欲がどうしても理解できないようだ。
「……ところで、さっきのお話は本当なの? 南村壮二さんに振られたって」
ふいに問われ、二つめの寿司に伸ばしかけた手を止める。断面もきれいに切り分けられた太巻きの具は、たまごにかんぴょう、椎茸に車海老、そして桜でんぶ。ふわふわのピンクが、社長室の窓から眺めた桜並木を思い出させる。
希美は肯定も否定もせず、肩を竦めてみせた。報告したのは、まだすべてではない。
2
あなたにおすすめの小説
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる