夫のつとめ

藤谷 郁

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私にできること

1

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 ノルテフーズ経営陣は、我が社がさらなる経営危機に陥っていることを、4時間に及ぶ経営会議でたっぷりと思い知らされた。

 創業以来初めての赤字決済は必至。
 不祥事と子会社の倒産が重なったことで、取引停止を申し出る企業もあった。それも一つや二つではなく、全国区のスーパーも含まれている。
 株主からは、社長解任を求める声が上がっていた。

 会議の後、主な役員が社長室に集まり、今後どうすべきかさらに話し合った。
 会議では意見が分かれたグラットンの子会社化については、特に時間をかけたが答えは出ず、最終的な判断は北城家にゆだねられた。  

 
 希美が帰宅したのは夜中だった。
 帰り際、壮二は何も言わなかった。希美も目を合わせず、彼に背中を向けて会社を後にした。
 孤独で、寂しくて、苦しい夜。
 でも覚悟は決まっている。彼に突き放されて、吹っ切れたのかもしれない。

(私はノルテフーズの後継者。会社のため、従業員のためにできること……)

 自室にこもり、窓辺に置いた椅子に腰かけて、ゆっくりと考える。

「ノルテフーズ……か」

 子どもの頃、父に連れられて椀麺ワンメンの製造工場を見学したことが、ふと頭に浮かんだ。
 希美はまだ入園前で、父に抱っこされて工場を回った。巨大な製造ライン。次々に出来上がる商品。
 そして、工場で働く人たち。
 皆笑顔で、椀麺を試食する希美を見守ってくれた。

(私は子どもの頃から大食漢。何個も食べようとするから、お父様が慌ててたっけ……)

 クスクス笑っていると、ノックの音が聞こえた。希美がリクエストしたものを、武子が運んでくれたのだ。 

「ありがとう、武子さん。こんな時間に頼んじゃってゴメンね」
「いいえ。私も久しぶりに食べたい気分なので、ご一緒させていただきます」

 希美はテーブルに移動して、武子と向き合う。いい匂いが立ち上がってきた。

「うわあ、懐かしいこの香り……美味しそう!」

 武子がテーブルに並べたのは、ノルテフーズの人気商品である冷凍ラーメンだ。子どもの頃から大好物で、小腹がすくと武子にせがんで調理してもらった。
 湯気の立つどんぶりには、チンゲン菜やニンジンなど、野菜もたっぷり盛られている。

「ん? でもこれって……ただの醤油味じゃないわ」

 スープをひと口飲んで、希美は気づいた。

「お嬢様が特にお好きだった、タイ風ラーメンに似ていませんか?」
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