夫のつとめ

藤谷 郁

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夢と現実

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 その夜、希美は夢を見た。


 自室のベッドで横になり、ようやくウトウトしかけた頃、ふと人の気配を感じた。
 でも眠くて、横になった姿勢で枕を抱き、顔を埋めていた。

 ――希美さん

 壮二の声?
 まさか、そんなはずはない。今は夜中で、ここは北城家である。
 
 ――希美さん

 今度はもっと近くで聞こえた。夢にしては、ずいぶんはっきりと耳に響く。

「壮二?」

 目を閉じたまま返事した。瞼を開けば、夢から覚めてしまいそうだから。夢でもいい、彼の声を聞きたかった。

 ――決めたんですね?

 グラットンのことだ。彼に問われるとしたら、それしかない。

「ええ、決めたわ……」

 涙がこぼれた。
 現実なら我慢するけど、これは夢なのだからしかたない。
 希美は涙をぽろぽろとこぼし、しゃくりあげる。小さな子どものように。

 ――希美さん

 優しい声で呼ぶと、彼はベッドに上がり、後ろからぎゅっと抱きしめてきた。

 涙をそっと拭ってくれる。その仕草が希美をますます切なくさせて、涙がさらにあふれた。

 ――僕は、あなたを守ります

 希美は顔を横に振る。そんなことできっこない。

 ――信じてください

 地味で、普通で、一介の会社員。希美のことを誰よりも愛しているのに、壮二にはどうすることもできない。
 だけど、いつしか希美はうなずいていた。
 彼の想いだけは信じられる。この身が誰のものになろうと、それは変わらず、永遠に寄り添い続けるだろう。

「あ……」

 濡れた頬に、熱い唇が押し付けられた。希美を包んでいた腕が解けて、彼の重みが感じられなくなる。

「重み……?」

 目を開けて、飛び起きた。
 涙でぼやける視界には、誰も存在しない。
 一人きりの部屋には人の気配はなく、暗い闇があるばかり。

「壮二……っ」

 希美は自分を抱きしめ、彼の余韻を求めながら嗚咽した。

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