琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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黒と青のゴア

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「ミア、私はお前を一目で気に入ったのだ。どうしても妻にしたい。ミアのような優しく可憐な女に、私は初めて出会ったのだよ」
 容姿を褒めては嘘になるので、そんなぼやかした麗句を使った。
「いい思いをさせてやる。なんでも望みを叶えてやろう。けちな小国の貴族のご主人様など、棄ててしまえ」
 ラルフは真の目当てである琥珀を忘れ、本格的に口説きにかかった。真剣な口調と眼差しは、彼の白く端整な顔立ちを、いっそう美しく見せている。

 だがミアは、懸命にかぶりを振る。

「……私の妻になれ。あらゆるものから守ってやるし、大切にしてやるぞ」
 それでも彼女は頭を振り続ける。
 ラルフは不思議だった。何か強力な暗示でもかけられているのか――娘の頑なな態度が解せず、心からの疑問を感じ、訊いてみる。
「プラド―とかいう貴族に、義理を立てているのか。まだほんの子どもの、弱々しいお前を死の旅に放り出すような奴らに、なんの遠慮がある」

 緑の瞳が、ラルフの目を見返す。そして、震える声で彼女は答えるのだった。
「おっしゃるとおり、プラドー家のご主人様も奥様も、私を物のように扱われました。だけど、お嬢様だけは違いました。まるで……ああ、もったいない。あの方だけは、まるで本当の妹のように、私を大事にして下さったのです」
「ベル……お嬢様が?」
 ラルフはハッと口を押える。つい馴れ馴れしく名前を呼ぶところだった。
 ミアはしかし、何も勘付いていない。

「この石は、ベル様がお屋敷を出る時に私に残してゆかれた、宝物なのです。誰にも気付かれぬよう、私の枕の下にこっそりと入れておいてくださったのです」
「お前に残した?」
「はい。ベル様がいなくなった後の、私の身を案じてくださったのです。代々プラドー家の長子に受け継がれる、黒と青のゴア。聖なる魔よけのお守りです」
 ミアは握りしめていた手をそっと開く。つやつやとした黒い表面が、彼女の汗で濡れて光っていた。

「黒と青のゴア……ゴアとはなんだ。琥珀とは違うのか」
 ラルフは、艶めく石に見とれながら問う。一瞬、ミアが息を止めるのが分かった。
「やはり琥珀だろう?」
 不穏な気配に気付かぬふりで、質問を重ねる。
「わ、私は……よく分かりません。ご主人様もお嬢様も、ゴアと言われましたが」
「ふん」

 ミアは何かを隠している。
 ラルフはそれを悟ったが、なぜか追及できなかった。
 緑の瞳に見つめられると、どういうわけかためらってしまうのだ。
 実に謎めいた現象である。


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