琥珀色の花嫁

藤谷 郁

文字の大きさ
上 下
13 / 88
黒と青のゴア

しおりを挟む
「ですから私は、ベル様を捜し出して石をお返しするまで、勝手なふるまいをするわけにはいかないのです」
 苦しい言いわけに聞こえた。求婚を拒絶する理由は、それだけではないように思える。
 手詰まりを感じてラルフは黙るが、ここで諦めるわけにはいかない。
 聖なる琥珀と、プライドのために。
「分かった。ではこうしようか。私が、その行方不明のお嬢様を捜すのを手伝ってやる。ただし、私の妻になるという条件付きで」
「ええっ?」
 驚くミアに、ラルフは微笑みかける。
「良い案だろう。私と、お前の肩にとまっている妖獣とで捜せば、すぐに見つかるだろう」

 ミアはひどく困惑するが、断らない。
 沈思黙考し、やがて妥協点を見出したのか、少々自信なさげにだがラルフに答えた。
「私で、良ろしければ」
 けたたましく鳴き出したルズを呪文で黙らせると、ラルフはほくそ笑む。

 私の勝ちだ。そうこなくては、お話にならない。

「よしよし、決まりだな。ではミア、お前は今から私の妻だ。早速だが、留守を頼むぞ」
「は、はい?」
 目を瞬かせるミアに、ラルフは告げた。
「私は仕事に出かける。敷地から外へは出るなよ。行くぞ、ルズ」
 口を封じられてかんしゃくを起こすルズをラルフは鷲掴みにし、自分の肩へと移動させた。

「あっ、ラルフ様、お待ちください」 
 食堂を出て行こうとする夫を、ミアは慌てて追いかけた。
 ドアの前でラルフが振り向くと、ミアは頬を赤く染める。さっきとは打って変わって、しおらしい態度である。
(何のかんの言っても、結局この娘も私の魅力に惹かれるのだ。女など皆、同じだ)
 実に滑稽だとラルフは思い、どうでもいいという口調で彼女に確認した。
「お前、年はいくつだ」
「17です」
「やはりそんなものか」
「……」

 この器量では、言い寄る男もいなかっただろう。
 処女であるのは、訊かずとも分かった。

「あの、行ってらっしゃいませ……えっと」
「私の名はラルフ。好きなように呼べ」
「は、はい。ラルフ様、承知いたしました!」


 寝室に上がると、ラルフはマントを羽織り、チェストの引き出しからベルの青い琥珀……ゴアを取り出してポケットに仕舞った。
「どうする気さ! あんな純情な子を騙して」
 呪文を解かれたルズが怒って、わめき散らした。
「いいから変身しろ。城に飛ぶぞ」
「へ? 城って、何しに行くんだよ!」
「長いこと顔を出してないから、ちょっと挨拶にな。お前も王に頼んで、美味いミネラルでもご馳走してもらったらどうだ」
「ああ、それはいいね……って、いやラルフ、違うでしょ。僕が言ってるのは……!」
 騒ぐルズを窓から放り投げると、ラルフも飛んだ。

 巻き起こる熱風とともに現れた、紅く巨大な妖獣。その背に軽々と乗り込む森の番人を、ミアが台所の窓から見上げている。
 森の番人さま――今は自分の夫であるラルフ。
 彼女は黒いゴアをしっかりと握りしめた。
 ラルフを見つめる双眸は、緑の炎を燃やすように揺らめいていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

うわさ話は恋の種

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:22

毎週金曜日、午後9時にホテルで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,334pt お気に入り:219

社員旅行は、秘密の恋が始まる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:187

お前を必ず落として見せる~俺様御曹司の執着愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:390pt お気に入り:29

【R18】姫初めからのはじめかた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:115

〖完結〗ご存知ないようですが、父ではなく私が侯爵です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:646pt お気に入り:5,877

恋の罠 愛の檻

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:607

体育館倉庫での秘密の恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:724pt お気に入り:147

処理中です...