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黒と青のゴア
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「ですから私は、ベル様を捜し出して石をお返しするまで、勝手なふるまいをするわけにはいかないのです」
苦しい言いわけに聞こえた。求婚を拒絶する理由は、それだけではないように思える。
手詰まりを感じてラルフは黙るが、ここで諦めるわけにはいかない。
聖なる琥珀と、プライドのために。
「分かった。ではこうしようか。私が、その行方不明のお嬢様を捜すのを手伝ってやる。ただし、私の妻になるという条件付きで」
「ええっ?」
驚くミアに、ラルフは微笑みかける。
「良い案だろう。私と、お前の肩にとまっている妖獣とで捜せば、すぐに見つかるだろう」
ミアはひどく困惑するが、断らない。
沈思黙考し、やがて妥協点を見出したのか、少々自信なさげにだがラルフに答えた。
「私で、良ろしければ」
けたたましく鳴き出したルズを呪文で黙らせると、ラルフはほくそ笑む。
私の勝ちだ。そうこなくては、お話にならない。
「よしよし、決まりだな。ではミア、お前は今から私の妻だ。早速だが、留守を頼むぞ」
「は、はい?」
目を瞬かせるミアに、ラルフは告げた。
「私は仕事に出かける。敷地から外へは出るなよ。行くぞ、ルズ」
口を封じられてかんしゃくを起こすルズをラルフは鷲掴みにし、自分の肩へと移動させた。
「あっ、ラルフ様、お待ちください」
食堂を出て行こうとする夫を、ミアは慌てて追いかけた。
ドアの前でラルフが振り向くと、ミアは頬を赤く染める。さっきとは打って変わって、しおらしい態度である。
(何のかんの言っても、結局この娘も私の魅力に惹かれるのだ。女など皆、同じだ)
実に滑稽だとラルフは思い、どうでもいいという口調で彼女に確認した。
「お前、年はいくつだ」
「17です」
「やはりそんなものか」
「……」
この器量では、言い寄る男もいなかっただろう。
処女であるのは、訊かずとも分かった。
「あの、行ってらっしゃいませ……えっと」
「私の名はラルフ。好きなように呼べ」
「は、はい。ラルフ様、承知いたしました!」
寝室に上がると、ラルフはマントを羽織り、チェストの引き出しからベルの青い琥珀……ゴアを取り出してポケットに仕舞った。
「どうする気さ! あんな純情な子を騙して」
呪文を解かれたルズが怒って、わめき散らした。
「いいから変身しろ。城に飛ぶぞ」
「へ? 城って、何しに行くんだよ!」
「長いこと顔を出してないから、ちょっと挨拶にな。お前も王に頼んで、美味いミネラルでもご馳走してもらったらどうだ」
「ああ、それはいいね……って、いやラルフ、違うでしょ。僕が言ってるのは……!」
騒ぐルズを窓から放り投げると、ラルフも飛んだ。
巻き起こる熱風とともに現れた、紅く巨大な妖獣。その背に軽々と乗り込む森の番人を、ミアが台所の窓から見上げている。
森の番人さま――今は自分の夫であるラルフ。
彼女は黒いゴアをしっかりと握りしめた。
ラルフを見つめる双眸は、緑の炎を燃やすように揺らめいていた。
苦しい言いわけに聞こえた。求婚を拒絶する理由は、それだけではないように思える。
手詰まりを感じてラルフは黙るが、ここで諦めるわけにはいかない。
聖なる琥珀と、プライドのために。
「分かった。ではこうしようか。私が、その行方不明のお嬢様を捜すのを手伝ってやる。ただし、私の妻になるという条件付きで」
「ええっ?」
驚くミアに、ラルフは微笑みかける。
「良い案だろう。私と、お前の肩にとまっている妖獣とで捜せば、すぐに見つかるだろう」
ミアはひどく困惑するが、断らない。
沈思黙考し、やがて妥協点を見出したのか、少々自信なさげにだがラルフに答えた。
「私で、良ろしければ」
けたたましく鳴き出したルズを呪文で黙らせると、ラルフはほくそ笑む。
私の勝ちだ。そうこなくては、お話にならない。
「よしよし、決まりだな。ではミア、お前は今から私の妻だ。早速だが、留守を頼むぞ」
「は、はい?」
目を瞬かせるミアに、ラルフは告げた。
「私は仕事に出かける。敷地から外へは出るなよ。行くぞ、ルズ」
口を封じられてかんしゃくを起こすルズをラルフは鷲掴みにし、自分の肩へと移動させた。
「あっ、ラルフ様、お待ちください」
食堂を出て行こうとする夫を、ミアは慌てて追いかけた。
ドアの前でラルフが振り向くと、ミアは頬を赤く染める。さっきとは打って変わって、しおらしい態度である。
(何のかんの言っても、結局この娘も私の魅力に惹かれるのだ。女など皆、同じだ)
実に滑稽だとラルフは思い、どうでもいいという口調で彼女に確認した。
「お前、年はいくつだ」
「17です」
「やはりそんなものか」
「……」
この器量では、言い寄る男もいなかっただろう。
処女であるのは、訊かずとも分かった。
「あの、行ってらっしゃいませ……えっと」
「私の名はラルフ。好きなように呼べ」
「は、はい。ラルフ様、承知いたしました!」
寝室に上がると、ラルフはマントを羽織り、チェストの引き出しからベルの青い琥珀……ゴアを取り出してポケットに仕舞った。
「どうする気さ! あんな純情な子を騙して」
呪文を解かれたルズが怒って、わめき散らした。
「いいから変身しろ。城に飛ぶぞ」
「へ? 城って、何しに行くんだよ!」
「長いこと顔を出してないから、ちょっと挨拶にな。お前も王に頼んで、美味いミネラルでもご馳走してもらったらどうだ」
「ああ、それはいいね……って、いやラルフ、違うでしょ。僕が言ってるのは……!」
騒ぐルズを窓から放り投げると、ラルフも飛んだ。
巻き起こる熱風とともに現れた、紅く巨大な妖獣。その背に軽々と乗り込む森の番人を、ミアが台所の窓から見上げている。
森の番人さま――今は自分の夫であるラルフ。
彼女は黒いゴアをしっかりと握りしめた。
ラルフを見つめる双眸は、緑の炎を燃やすように揺らめいていた。
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